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プロローグ
黒
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昔から独りだった。独りでありたかった。独りである事が何よりも心地よかった。誰も己の世界には踏み込ませるつもりはなかった、誰も入ってくるな。
その男は孤独だった。何年、何十年、何百年と孤独だった。いくら友が出来ようとも、いくら家族が出来ようとも、男は拒絶した。何人たりとも、己の中には踏み込ませなかった。
だからこそ、全てを許容する彼女と出会ってしまったのは神様が決めた運命だったのかもしれないし、彼への運命なのかもしれない。
男が立っているのは戦場のど真ん中、杖を持ち黒いローブを身にまとった魔法使いと銃火器を持ち、全身が装甲に覆われた戦闘服を身につけた機甲兵が睨み合うど真ん中だった。
「黒だ、黒が出やがった……総員構えっ!」
両軍が一斉構えた。男に対してだ。
魔法使いの数はおよそ二千、対する機甲兵の数もおよそ二千、合計約四千人の武力を持つ大の大人が一人の男に杖と銃口を向けている異様な光景だった。
だが、その男は怯むことも、恐れることもなかった。まるでこの時を待っていた、と言わんばかりの表情だった。
「おいおい、銃口や杖先を人に向けてはいけません、って習わなかったのか? 俺を文字通り蜂の巣にするつもりか? ローヤルゼリーなんて採取出来ねぇぞ?」
その場にいるもので、笑っているのは男だけだった。それ以外の人間は彼の軽口を聞いても笑わなかった。それもそのはずだ。
目の前にいるのは黒なのだから。
「撃て!!」
「撃て!!」
その場にある全ての武力が男に集中した。辺り一帯は土煙が巻き起こり目の前が見えなくなるほどの視界の悪さだった。
「…………ほんっとに蜂の巣にしやがったよ! 俺の一張羅が台無しだ!」
土煙の中から現れたのは黒い革のジャケット、そして黒のパンツに穴や焦げが出来てもケロッとしている男だった。
彼の名は黒、文字通りの黒、名前通りの黒。名は体を表すとはよく言ったもので、名前の通り、異名の通り、彼は真っ黒だった。髪も瞳も黒く、黒の服装を好み、醸し出すオーラも黒い。
そして何よりも黒は激昴していた。撃たれたからではない。そんな事では怒る気も起きないだろう。しかし、彼が唯一怒るとすれば、彼自身が先程、口にした通りの事だ。
「よし、お前ら全員皆殺しな」
黒は変わっていた。変わり者だが、力のある変わり者は厄介でしかない。それが四千人の敵を相手にして、負けないほどの力だ。デタラメだ。黒だ。
一瞬、その言葉がドンピシャ過ぎるほどの時間だった。
黒が瞬きの一動作を終える頃には約四千人の魔法使いと機甲兵の中に生存者は居なかった。
再び同じ位置に立った黒は服に付いたホコリを叩き落とした。そして歩き出した。アテもなく、広い荒野を歩き始めた。
黒が住む世界は魔法と科学が両方存在する世界だ。箒が空を浮かび、その隣ではプロペラ機が空を飛び、炎の玉が放たれると、銃弾も放たれる。そんな世界だ。そんな世界では銃列を並べる軍隊があれば、杖を並べる軍隊もある。
大きな国、所謂帝国やら王国などといった巨大な国は無く、それぞれが町ほどの大きさで独立している。勿論、隣国同士で小競り合いはあった。
だが、それも世界を巻き込む、みたいな事ではなく、民族間同士の争いみたいなものだ。それが先程の魔法使いと機甲兵だ。魔法を使う事に長けた人間と、機械を使う事に長けた人間だ。
そんな世界の事なぞ微塵も関係の無いバケモノはただ、荒野を歩き続けた。
その男は孤独だった。何年、何十年、何百年と孤独だった。いくら友が出来ようとも、いくら家族が出来ようとも、男は拒絶した。何人たりとも、己の中には踏み込ませなかった。
だからこそ、全てを許容する彼女と出会ってしまったのは神様が決めた運命だったのかもしれないし、彼への運命なのかもしれない。
男が立っているのは戦場のど真ん中、杖を持ち黒いローブを身にまとった魔法使いと銃火器を持ち、全身が装甲に覆われた戦闘服を身につけた機甲兵が睨み合うど真ん中だった。
「黒だ、黒が出やがった……総員構えっ!」
両軍が一斉構えた。男に対してだ。
魔法使いの数はおよそ二千、対する機甲兵の数もおよそ二千、合計約四千人の武力を持つ大の大人が一人の男に杖と銃口を向けている異様な光景だった。
だが、その男は怯むことも、恐れることもなかった。まるでこの時を待っていた、と言わんばかりの表情だった。
「おいおい、銃口や杖先を人に向けてはいけません、って習わなかったのか? 俺を文字通り蜂の巣にするつもりか? ローヤルゼリーなんて採取出来ねぇぞ?」
その場にいるもので、笑っているのは男だけだった。それ以外の人間は彼の軽口を聞いても笑わなかった。それもそのはずだ。
目の前にいるのは黒なのだから。
「撃て!!」
「撃て!!」
その場にある全ての武力が男に集中した。辺り一帯は土煙が巻き起こり目の前が見えなくなるほどの視界の悪さだった。
「…………ほんっとに蜂の巣にしやがったよ! 俺の一張羅が台無しだ!」
土煙の中から現れたのは黒い革のジャケット、そして黒のパンツに穴や焦げが出来てもケロッとしている男だった。
彼の名は黒、文字通りの黒、名前通りの黒。名は体を表すとはよく言ったもので、名前の通り、異名の通り、彼は真っ黒だった。髪も瞳も黒く、黒の服装を好み、醸し出すオーラも黒い。
そして何よりも黒は激昴していた。撃たれたからではない。そんな事では怒る気も起きないだろう。しかし、彼が唯一怒るとすれば、彼自身が先程、口にした通りの事だ。
「よし、お前ら全員皆殺しな」
黒は変わっていた。変わり者だが、力のある変わり者は厄介でしかない。それが四千人の敵を相手にして、負けないほどの力だ。デタラメだ。黒だ。
一瞬、その言葉がドンピシャ過ぎるほどの時間だった。
黒が瞬きの一動作を終える頃には約四千人の魔法使いと機甲兵の中に生存者は居なかった。
再び同じ位置に立った黒は服に付いたホコリを叩き落とした。そして歩き出した。アテもなく、広い荒野を歩き始めた。
黒が住む世界は魔法と科学が両方存在する世界だ。箒が空を浮かび、その隣ではプロペラ機が空を飛び、炎の玉が放たれると、銃弾も放たれる。そんな世界だ。そんな世界では銃列を並べる軍隊があれば、杖を並べる軍隊もある。
大きな国、所謂帝国やら王国などといった巨大な国は無く、それぞれが町ほどの大きさで独立している。勿論、隣国同士で小競り合いはあった。
だが、それも世界を巻き込む、みたいな事ではなく、民族間同士の争いみたいなものだ。それが先程の魔法使いと機甲兵だ。魔法を使う事に長けた人間と、機械を使う事に長けた人間だ。
そんな世界の事なぞ微塵も関係の無いバケモノはただ、荒野を歩き続けた。
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