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おい阿久津

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「おい阿久津! 何故お前は騎士団の鎧を着ずにその特攻服とか言う服を着て来るんだ!」
「おい阿久津!! 何故お前はいつも組手相手を目で殺すんだ!」
「おい阿久津!!!! お前素手だと超強いな!」
「おい阿久津!!!!!! お前って意外と身長低いな!」
「おい阿久津!!!!!!!! 飯の時間だ!」
「うるせぇぇぇぇぇぇ!!お前がおい阿久津! って呼ぶ度に喧嘩売られてると思って殴っちまいそうになるだろうがぁぁ!」

 ひょんな事から始まった異世界での騎士として生活。最初は剣の稽古でもするのかと思っていたが剣術の稽古をする事は少なく、まずは体を作ったり、戦闘の基礎を教えてもらったりしていた。
 メアリーの家から騎士団の本部である建物に出勤する時に服装で怒鳴られ、朝の組手で怒鳴られ、喧嘩慣れしてて素手では強いな、と褒められ、身長がメアリーより少し低いのを弄られ、昼時になると飯を一緒に食う、そんな毎日が続いていた。
 そしてメアリーと俺の言い争いはこの数日でどうやら騎士団内の恒例として扱われているのか俺達二人が口論を始めると周りの団員達はケラケラと笑い始めるのだった。なんだか、暴走族をやっていた時と似たような事をしているな、俺。
「ふぁぁ……」
 昼飯を食べるとやはり眠くなるのはもはや人間として仕方のない事だ、と誰かに言い訳するわけでもなく内心で誰かにそう訴えかけ、騎士団本部にある庭の端で木陰の下で寝転んでウトウトしていた。
 喧嘩に明け暮れていた時より遥かに健康的な生活をしている、たまにある剣術の稽古は中々面白いし、騎士団のメンバーも数人を覗けば面白い奴らばっかりだ。だがしかし──
「おい阿久津!」
 メアリーの声は大きくて、そして良く通る声だ。何が言いたいかと言うと煩い。人が気持ちよく寝ようとしているのにそれを邪魔するかのような声に、内心イライラしながらむくりと起き上がり声の主の方に振り向いた。
「……んだよ……」
「どうだ、雰囲気には慣れたか?」
「……まぁ……多少はな」
「そうか。それは良かった。早速で悪いのだが明日の昼、私と共に巡回に出てもらう」
「拒否権は?」
「隊長である私に意見するか?」
「へーへー……やりますよーっと」
 騎士団は毎日、朝昼晩と巡回をしており、ローテーションで各隊がそれを行う事になっているらしく、どうやら明日はメアリーが率いる隊の番、という事だ。
 馬に乗れない俺はメアリーと二ケツする事になっている。愛車で行かせてくれ、と頼んでみたが煩すぎて却下されてしまった。
 騎士団が巡回していると言っても犯罪などは多く、窃盗、暴行、殺人等、好き勝手にやっている奴等が多いようだ。やはりどこでもクソ野郎と呼ぶに値する奴はいるみたいだ。俺は確かに暴走行為で人に迷惑をかけていただろう、だが盗みや理不尽な暴力は絶対にしていないと胸を張って言える。張れる事ではないけどな。
 隊の人数は小隊程度、30人から40人で編成されておりそれが五つに分かれている。広いこの王国では人手が足りていない現状だ。その為巡回を行う場所は路地など人目が少ない場所を対象に行うそうだ。
 そして翌日、朝からメアリーに叩き起こされて今日ぐらいは鎧を身につけろと、かなり煩いので鎧を身に着けてみたが重たい。これを今日一日着ろと言うのはバイクを押して数キロ移動しろ、というぐらい不可能だ。
「その鎧は騎士の証で、その剣は騎士の命だ。それだけは覚えていてくれ」
 珍しく真面目な顔でそう言われた。まぁ、真面目なんだろうな。鎧は特攻服で、剣はバイク、と言った所だな。
「さて、皆も知っている通り、今日は我々の巡回する日だが……如何せん人数が少ない! 先日入隊した阿久津はまだまだ分からない事も多い! 皆でフォローしてやってくれ! では行くぞ!」

 一斉に馬に乗り始める騎士達を横目にメアリーが乗っている馬の後ろに乗ると東側へと向かい始めた。どうやら隊長であるメアリーは犯罪の多い地域に向かうようで数人の部下と共に移動した。
「阿久津、私達が巡回する場所はここから離れているが大丈夫か?」
「別に構わねぇよ」
 町から三十分ほど離れた所にかなり廃れた地域が存在しており、まるで隔離でもされているみたいだ。だが建物はボロボロでも通りは意外と清潔で毎、日掃除でもしているかのようにゴミ一つ落ちていなかった。
 こういう場所に住む人間は自然と心が歪んでくるものだがここの住人にはそれが見られない。
「ここは貧しいモノ達が暮らす場所でな。こうやって巡回の度に我々騎士団が住人の為に掃除をしたり色々手伝ってるんだ。お金がなくても彼らは逞しく生きているぞ」
「ふぅん……」
 どうやったらこんな明るく生きることが出来るんだろうな。お金が無ければ病院に行く事も、ご飯だってまともにありつけない。
 そして限界が来た奴は犯罪を犯す。生きる為に。死なない為に。
 あまりにも素っ気ない態度だったのかメアリーは顔を見ながら首を傾げていた。俺はすぐにケロッとし、これから何をするのかを聞いた。
「んで、何すんの?」
「お掃除だ! あと食事を作る!」
 どうやらこの区域が綺麗なのは騎士団が色々としているからだ。聞くと数年前にメアリーが始めた活動で初めは彼女の部隊だけだったが次第に騎士団の皆が行うようになったのだとか。
 掃除も料理も不得手な俺は端っこから賑やかになっていく通りを眺めていた。今頃チームのあいつらは何をしているだろうか、いつものように暴走をしているかもしれないし、俺が死んだと思って悲しんでいるかもしれない。
「まっ、こっちはこっちで気楽でいいか……ん?」
 ふと、横から視線を感じてぱっ、と隣を見ると目を輝かせて一人の女がこちらを見ていた。俺と同じぐらいだろうか。
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ! 騎士のアナタはなんでこんな端っこにいるのですか!?  新入りの肩ですよね! あっ、私はラニウスって言います! アナタの名前は!? でも騎士って顔じゃなくて悪党って顔してますよねっ!」
 なんだ、この女は。耳元でまるで不自然な敬語で、マシンガンのようなトークをしながら身振り手振りと体を動かして、たまに俺の事をバカにしてくるこの女はなんだ。
「落ちつけぃ!」
「あだっ!」
 ゴリュ、とおよそデコピンの音とは思えない音を鳴らすと今度は大げさに悶え始めた。なんだ、この女。面白い女だ。
「あかん……こりゃぁあかんで…………ぃぃぃ痛いやろうがボケェ!」
 敬語で方言を隠していたのかあまりの痛さに本性を現したらしい。
 関西弁を使う女には良い思い出が無い。美人局されたり、ヤクザの娘だったり、基本的に温厚な女は一人も居なかった。そして目の前のラニウス、と名乗った女もまたその関西弁を使う温厚では無い女だった。
「いや、お前が……」
「知るかアホ、先に手出したんはそっちやねんからこっちも一発、ええよな? なぁ?」
 こちらの言葉を言い切る前に相手は口を開けて、ズンズン、とこちらににじり寄って来ていた。方言ってあるだけで全然違うよな。いや、ホント。
「うちなぁ、こう見えてこの区域じゃ喧嘩で一番強いねんでぇ?」
「ほう……」
 その言葉につい興味が湧いた。こんなほっそい腕とひょろい体で一番強いとか、負ける気が一切しないな。
「やってやるよ!痛い目見てもしらねぇぞおらぁ!」
「お、おい阿久津、あまり手荒な事は……」

「メアリーさん! うちがこの騎士に似合わない屑を何とかするからなぁ!」
「いや……こいつはこういう……」
「んだと!? 女だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「もう知らん……」
 トボトボと歩き去るメアリーを横目に見ているといきなり首元に衝撃が走りその場に膝をついてしまった。息苦しさを我慢しながら衝撃を与えてきたであろう相手を睨みつけた。
 自分がやりました、とでも言いたげなニヤニヤしているのラニウスの鬱陶しい顔を見ていると、とてつもなくイラついている自分が居る。よし殴ろう。
「いてぇじゃねぇかこの野郎!!!」
 鎧を脱ぎ捨てて中に着ていた特攻服姿になり思い切り殴りかかった。それはもう女に使う力じゃないだろう、ってくらいの強さで、顔面を、容赦なく、殴りました。
「ぐぇ!」
 何処から出しているのだろうとツッコミたくなる声を出して蹲るラニウスを見下ろしながらふふん、と自分でも珍しいと思えるほどの勝ち誇った顔をしていた。
 顔を押さえながら蹲り一向に立ち上がろうとしないラニウスを見ていると肩を揺らしていた。少し不安だったが顔を覗き込んでみると案の定顔を押さえながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「うわっ!? お前泣き顔ぶっさいくだな!」

「じゃあかしい!! 女の顔本気で殴りよってからに……ぅぅ……」
「いや、その、なんだ、うん、すまん、顔は……やりすぎだよな」
「うちかて……こんなんでも女やねんぞ……」
 まるで親の仇を見るような目で睨んできた相手が少し面白く感じ口元を緩ませていた。すると何処から取り出したのか光り物を手に取っていた。それを見て流石に冗談とは思えなくなり、こちらも指をポキポキと鳴らしているとラニウスと俺の間にメアリーが割って入ってきた。
「流石にそれは見過ごせないぞ? 阿久津、ラニウスやり過ぎだ」
「ケッ、初めから女と殺し合う趣味はねぇっての」
「うちも本気やないし……ちょっと驚かしたろかなぁ、って思っただけやさかい、そんな本気にならんといてぇな……」
「そうか。それならばいいんだ! よし阿久津! 今日は先にほかの皆と共に帰ってくれ! 私はやる事があるんだ!」
 そういってメアリーは手を振りながら街の奥の方に歩いて行ってしまった。先に帰れと言われても、俺は馬が乗れないんだが。
「おう阿久津、乗ってくか?」
「あぁ、どもっす。じゃぁ失礼するっす」
 隊員である一人の厳つい騎士の馬の後ろに乗せてもらい返る事となった。
 そして、翌日、メアリーが新しい家を用意していたのかそこに移ってくれと言われた。昨日は少しやり過ぎたか、と思いながらメアリーに案内されたのは中々大きい一軒家で騎士団の本部からも近く、駅から徒歩十分、と言った感じだ。
「少し紹介したい奴が居てな、当分は一緒の家で過ごしてもらう事になるが大丈夫か?」
「別に構わねぇよ。相手が気に食わねぇ相手じゃなきゃな」
「はは、一緒の時間を過ごすとお前も気に入るさ」
「どうだかなぁ……」
 その家に案内されて扉を開けると一人の騎士の鎧を着た女がお辞儀をしながら出迎えをしてくれていた。
「本日から騎士団の一員として精一杯務めさせていただくラニウスと……」
「……は?」
 想像もしていなかった相手がそこに立っておりお互い目が合うと、気に食わない相手と道端で出会ったような目つきになり勢いよく額同士をぶつけていた。
「てめぇがなんでここにいやがる」
「こっちのセリフじゃ。おどれと一緒なんてけったくそわるいわ」
「もう一発顔面にかますぞ」
「おどれいちびっとったらいてまうぞ」
「まぁ、幸いな事に二人共今日と明日は休日だ。ゆっくり仲良くなればいい」
 最悪だ。寝ている間に首を掻き切って殺されてしまうぞ。こんな事なら口うるさくてもメアリーの所の方が数十倍、数百倍マシだ。だがこれからこいつと過ごさなくてはならないのだろう。
 血管が切れてしまうかもしれないな。
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