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異世界ヴラギトル
第二話
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全く、女ってのはちょろいもんだ。少し優しい顔をすれば、すぐに堕ちてくれる。目の前で寝る女だってそうだ。普通初対面の男と二人っきりになるか? 俺が女ならそんな事はしないな。
まぁ、こっちは楽しむ事が出来ればそれでいい、後はモンスターの餌食になろうが知ったことではない。さぁて、頭に行くはずの栄養が体に行ってしまった女を楽しむとするか。
「まぁ、そうするわよねぇ」
誰もいないはずの背後から声が聞こえた。声から女だとは分かるが、振り向く事が出来ない。何故だ? 恐ろしいからだ。今まで殺してきた女の亡霊か? 馬鹿馬鹿しい。
「でもその子を傷物にされるのは困るのよね。ショーティなの、分かる? 理解出来ている? OK?」
「さぁね、何のことだろう。俺はただ」
「返事ははい、しか受け付けていないわ」
あれ、なんで俺の体が見えてるんだ? 地面が近い。どうなっている。俺は一体────
「選択肢を間違える男は嫌いよ。そのまま死んでいくといいわ。でも、素敵な姿になったじゃない。そっちの方が好きよ」
目を覚ますと、そこには変わらぬ明るくなった空。服が乱れた形跡はない。うーん、本当にただの優男だったんだ。疑ってごめんね。
ぱっ、と優男の方を見るとそこに彼はいなかった。代わりに何かを貪る昨日のモンスターと一人の女性がいた。
「……えっと? 寝起き早々まだ寝てるのかな?」
「この風景を見て叫ばないのは正しいわ」
綺麗な人だけど、何処か人間離れした雰囲気に私は身構えてしまった。多分、この人は人間じゃない。そこのモンスターと同じ、いやそれ以上の何かを感じる。
「私はアリス、かつて魔王とか呼ばれていたけれど、今はただのアリス」
魔王? アリス? なんだか物騒だけど優男にやられそうになっていた所を助けてくれて、見張っていてくれたって感じかな? とりあえずお礼を言わなきゃ。
「とりあえず、ありがとう」
「え? あぁ、いえ、いいのよ。えーっと、それで私の名前はアリス、そうアリスよ」
「へぇ、私と同じ名前だね。偶然だね」
「そうなのね。でもそうじゃないのよ。もっとこう……はぁ、アリスって名前を聞いてアナタは不愉快にならないの?」
首を傾げた。自分と同じ名前なのに不愉快になるわけがない。そういえば、武器屋の店主が名前を出すな、と言っていたのを思い出した。この世界ではアリス、という名前は不謹慎なのかな?
それでも、名前を聞いて不愉快になるなんて事は滅多にない。何をしたのかは知らないしね。
「だってアリスさんの事、私知らないし」
「そう、けどアナタの事は見てきたわ。そのマスケット銃の中からね」
マスケット銃の中、という事は彼女が武器屋の言っていた悪魔になるのかな。しかし、悪魔じゃなくて魔王だったけどね。
私は寝起きの一本を吸い始めた。やはりこれを吸わなくては一日は始まらない。少し煙たそうにしている魔王だった。
「それで、私はどうなっちゃうの? 死んじゃうの?」
「あら、アナタは私と契約したじゃない。だから殺さないわ」
契約? 何のことだろう。規約も見ずに契約なんてしたくないんだけど。
首を傾げていると、昨日の戦闘の際私がマスケット銃を使った事が原因だと説明してくれた。どうやら、今まで長い眠りに付いていたらしいが、久々に自身を使いこなせる使用者が現れたかもしれない、という事でこうして姿を表したようだ。
「アナタは私の力を得る代わりに、私を封印から解いてほしいの。分かるわよね?」
「……勇者じゃなくて魔王と一緒かぁ……何だか楽しそうだね!」
「話聞いてる?」
私はどちらかと言うと悪役が好きだった。身勝手な正義を振りかざす勇者より、悪を貫くその姿に尊敬の念さえ抱いている。
マジョリティが正義となる世の中に嫌気をさしていた。そう、昔から反社会的なのかもしれない。そう考えると、私は勇者には向いていないね。
「アリスさんを封印した本人をぶっ殺したらいいんでしょ?」
「私を封印した本人は既に死んでいるわ。今は子孫が維持しているみたいだけれど」
「ふぅん、なら一族郎党皆殺しだね」
「アナタ物騒ね。嫌いじゃないわ。それでもって小動物的な何か……アナタ……自分の人生を、自分で決めて歩んだ事、ある?」
その言葉にピクっと反応してしまった。自分の人生? そんなものは産まれた時から歩んでいるはず、何を思ってそんなことを言うのかな。
気付けば私はアリスさんを睨み付けていた。タバコの火は未だに燃え進んでおり、灰が長くなり今にも落ちそうだった。
「ふふ、青くて可愛いわね」
頭や顎を撫でてきた。その撫で方が妙に上手くて寄った眉間も元に戻ってしまった。
どうやら彼女の方が一枚か二枚ほど上手のようだった。
タバコを二本吸い終わる頃には、次にするべき事をアリスから聞き終わっていた。どうやらその子孫とやらは周辺諸国の王子様のようだ。
まぁ、勿論そんなに簡単な事じゃないかもしれないけど、面白そうだしやる。面白ければそれでいい。よし、俄然やる気になってきた。
「それじゃぁ早く行こう」
「待ちなさい」
マスケット銃を片手に歩きだそうとするが襟元を猫のように掴まれ、持ち上げられた。
彼女はとりあえず契約がちゃんと行われているかを試しましょうと言い、私を離した。それもその通りだね。
「私の力は創造、あらゆる魔法を作り出すことが出来るのよ。まぁ、その為には自分の大事なものを生贄にしなければならないのよ」
え、何その諸刃の剣、メチャクチャ嫌なんですけど。私にとっての大事なものなんて決まっている。
マジョリティが嫌うこのタバコしかない。それ以外に大事なものなんて思い付かない。そう彼女に伝えた。
「これ子供のお小遣いでも買える代物よ?」
吸殻をマスケット銃の銃口から奥へと詰め込んだ。まぁ、見ててよね。これが私の大事なものだと証明してあげよう。
くるりと腕で回しながら、優男だった死体を貪り食うモンスターをアイアンサイトに捉えた。少し見づらいけど、ゲームでもこんな感じだったし慣れている。
「BANG!!」
引き金を引くと、ほぼ無反動で発砲出来た。しかもアンチマテリアルライフルでも撃ったのかと、勘違いするほどの威力だった。花の化け物は粉々になり、地面にあった優男の死体にも被弾したのか、肉片が飛び散ってしまった。
若干呆れられたが、笑顔で頷くとため息混じりに肩を竦めた。
「契約の代償となるものには魔力が付加されるわ。形も変化させられるしらマジックアイテムとしても使えるわ」
その説明を聞いて、私は携帯灰皿の中にある吸殻を取り出した。そして元に戻るように握り締めた。
手を開けると、そこには吸う前の状態に戻ったタバコの姿があった。
「……お金がいらずにタバコが吸える! すごっ!」
「そういうのじゃなくてねぇ……ちょっと貸してみなさい」
目を閉じて眉をピクピクとさせるアリスさんにタバコを奪い取られてしまった。彼女は私から奪ったタバコを指で持ち私から少し離れた。
マスケット銃で撃つように指示された。本当にいいのかと問いかけたけどいいから早く、と急かされてしまった。再び吸殻を装填し、アリスさんの頭を捉えた。
躊躇いなくトリガーを引き発砲した。先程みたいになると思った。しかし、彼女に当たる事は無かった。
「リフレクション」
そう呟いた彼女は指に持つタバコを弾いた。その瞬間、私の背後にいつ間にか現れていたモンスターを飛散させた。
何が起きたのかな? リフレクション、反射? 分からない。これが魔法かな? 凄いけど危なかったよ。今の私に当たってたら挽き肉じゃ済まなかったよ。素敵なミンチシャワーのサプライズだなんてお断りだよ。
「今のが代償物に魔力を供給して発動する、魔導を研鑽し、魔術を熟考し、魔法を作り上げた私がそれを編み出したの」
「難しい話は嫌い」
「……OK」
これで契約が成されている事は確認出来たみたいだね。優男には悪いけど、帰らせてもらおうかな。死体はまぁ、塵となってしまってどうする事も出来ないし、まぁ日本人らしく黙祷だけは捧げておこう。
さて、とりあえず目標も出来た事だし町に戻って準備でもしなくてはならないね。アリスさんは魔王、って言っても数百年前の人だし知ってる人は居ないと思うけど、ていうか勇者の子孫ってどんな感じなんだろ。やっぱり悲惨な末路を辿るのかな? いや、辿ってなければ小国の王なんかになっていないだろうね。
「私は一旦銃の中に戻って寝るけど、何が起きたらすぐに私の名前を呼びなさいよ」
はーいと返事をすると、マスケット銃に吸い込まれるようにアリスさんはその場から姿を消し、若干マスケット銃が重くなった。
その後、私は町に戻り必要なもの、食料やら地図やらを買い、リュックに無理やり詰めた。おかげでリュックは今にでもはち切れそうだった。
明日の朝にでも出る為、武器屋の店主には挨拶をしておこう。
「おじさんいる?」
「おうアイリス、中々様になってるじゃねぇか」
ふふん、と胸を張りながら明日町を出ることを伝えた。すると意外そうな顔をした。
どうやらもう少し居ると思って、私にくれる武器を作っていたらしい。まぁ、不良品だからね。
──不良品とは失礼ね。最高の品だと思うのだけれど。
私の心の声を聞いていたアリスさんに怒られてしまった。寝てたんじゃないの?
「アイリス、もしアシュタドラって町に寄る事があればそこの、ヴラジールっつう武器屋に寄ってくれ。そこに新しい相棒を送っておくからよ」
「いいの!? じゃあおじさん、これはちょっとしたお礼かな」
二十枚の金貨を武器屋の店主に渡した。このマスケット銃の代金だ。何でもかんでもタダで貰うほど、私も欲しがりじゃないしね。
こんなもんいいのによ、とため息混じりに受け取る店主は気をつけていってこいと渋い笑みを浮かべた。やっぱ良い人だ。
「じゃぁおじさん、またどこかで会えたら会おうね」
私はそう店主に再開を約束する言葉をかけて、店を後にした。
──随分と気にかけられているのね? それにしても、あのおじ様、こんな所で武器屋を開いているなんてね。
ふふ、と懐かしそうに笑うアリスさんに彼を知っているのかと問いかけたが、昔の顔見知りよ、とそれ以上は何も答えてはくれなかった。ていうか寝てないんだ。
私も今日は疲れたし、宿で寝る事にしようかな。そんな事を考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。女性の声だった。
「あの、ロイは?」
ロイ? 何やら人を探しているようだったが、ロイとは一体誰だろうか。
聞くと、あの優男くんの恋人だそうで、まだ帰っていないのをかなり心配している様子だった。おっとこれはまずい。流石に風に乗って世界中に飛び散りました、なんて正直に言えないしここは嘘をついておこう。
「あぁ、あの方なら明日の朝には帰るはずですよ。先に帰っておいてくれ、と言われましたので……まぁ、あの方なら大丈夫だと思いますよ。お強い方なので、信じて待っていてください」
そう伝えるとわかりました、と納得したように頷き安心したような顔で自身の家にへと戻ったのだろう。
──よくもまぁ、そこまで嘘がペラペラと出てくるものねぇ。おっそろしいわ。
正直、自分でもここまで嘘がすぐに出てくるなんて思いもよらなかったよ。
「さぁて、明日の朝になる前に出るために、今日はもう寝よう。女の執念は洒落にならないほど恐ろしいからね」
私はスキップをしながら宿へと向かい部屋を借りた。明日は朝早く出なければいけなくなったから、今日はもう寝ることにしよう。
私はそう思い、ベッドに倒れるようにして寝転んだ。フカフカのベッドで寝るのは久しぶりな気がするよ。まだこっちに来て二日ぐらいしか経っていないのに、不思議だ。
「……アリスさん起きてる?」
──起きてるわよ。子守唄でも聞きたくなったかしら?
「そうじゃないけど、おやすみなさい」
────おやすみなさい。今日はゆっくりと寝なさいな。
「うん、そうするよ」
誰かに寝る前のおやすみの挨拶をしたのは何年ぶりだろう。私はその言葉を交わしただけで気持ちよく、眠りにつく事が出来た。
翌日、目を覚ました私は窓を開けた。まだ薄暗く、外には誰も居ない。その景色を眺めながら、私はタバコに火をつけた。
ふぅ、と息を吐くと白い煙が出る。何十年この煙を見てきたかな。もう覚えてないや。だけど、この煙は私にとっての一番鶏だ。何年経ってもこの煙を見ない朝はない。
「さぁて、伝説の勇者様の末裔様を倒しに行く旅に出るとしよっかな!」
携帯灰皿へとタバコを押し込み、魔王が眠るマスケット銃と、張り裂けそうなリュックを背負い、私は壮大な旅路の一歩を踏み出した。
まぁ、こっちは楽しむ事が出来ればそれでいい、後はモンスターの餌食になろうが知ったことではない。さぁて、頭に行くはずの栄養が体に行ってしまった女を楽しむとするか。
「まぁ、そうするわよねぇ」
誰もいないはずの背後から声が聞こえた。声から女だとは分かるが、振り向く事が出来ない。何故だ? 恐ろしいからだ。今まで殺してきた女の亡霊か? 馬鹿馬鹿しい。
「でもその子を傷物にされるのは困るのよね。ショーティなの、分かる? 理解出来ている? OK?」
「さぁね、何のことだろう。俺はただ」
「返事ははい、しか受け付けていないわ」
あれ、なんで俺の体が見えてるんだ? 地面が近い。どうなっている。俺は一体────
「選択肢を間違える男は嫌いよ。そのまま死んでいくといいわ。でも、素敵な姿になったじゃない。そっちの方が好きよ」
目を覚ますと、そこには変わらぬ明るくなった空。服が乱れた形跡はない。うーん、本当にただの優男だったんだ。疑ってごめんね。
ぱっ、と優男の方を見るとそこに彼はいなかった。代わりに何かを貪る昨日のモンスターと一人の女性がいた。
「……えっと? 寝起き早々まだ寝てるのかな?」
「この風景を見て叫ばないのは正しいわ」
綺麗な人だけど、何処か人間離れした雰囲気に私は身構えてしまった。多分、この人は人間じゃない。そこのモンスターと同じ、いやそれ以上の何かを感じる。
「私はアリス、かつて魔王とか呼ばれていたけれど、今はただのアリス」
魔王? アリス? なんだか物騒だけど優男にやられそうになっていた所を助けてくれて、見張っていてくれたって感じかな? とりあえずお礼を言わなきゃ。
「とりあえず、ありがとう」
「え? あぁ、いえ、いいのよ。えーっと、それで私の名前はアリス、そうアリスよ」
「へぇ、私と同じ名前だね。偶然だね」
「そうなのね。でもそうじゃないのよ。もっとこう……はぁ、アリスって名前を聞いてアナタは不愉快にならないの?」
首を傾げた。自分と同じ名前なのに不愉快になるわけがない。そういえば、武器屋の店主が名前を出すな、と言っていたのを思い出した。この世界ではアリス、という名前は不謹慎なのかな?
それでも、名前を聞いて不愉快になるなんて事は滅多にない。何をしたのかは知らないしね。
「だってアリスさんの事、私知らないし」
「そう、けどアナタの事は見てきたわ。そのマスケット銃の中からね」
マスケット銃の中、という事は彼女が武器屋の言っていた悪魔になるのかな。しかし、悪魔じゃなくて魔王だったけどね。
私は寝起きの一本を吸い始めた。やはりこれを吸わなくては一日は始まらない。少し煙たそうにしている魔王だった。
「それで、私はどうなっちゃうの? 死んじゃうの?」
「あら、アナタは私と契約したじゃない。だから殺さないわ」
契約? 何のことだろう。規約も見ずに契約なんてしたくないんだけど。
首を傾げていると、昨日の戦闘の際私がマスケット銃を使った事が原因だと説明してくれた。どうやら、今まで長い眠りに付いていたらしいが、久々に自身を使いこなせる使用者が現れたかもしれない、という事でこうして姿を表したようだ。
「アナタは私の力を得る代わりに、私を封印から解いてほしいの。分かるわよね?」
「……勇者じゃなくて魔王と一緒かぁ……何だか楽しそうだね!」
「話聞いてる?」
私はどちらかと言うと悪役が好きだった。身勝手な正義を振りかざす勇者より、悪を貫くその姿に尊敬の念さえ抱いている。
マジョリティが正義となる世の中に嫌気をさしていた。そう、昔から反社会的なのかもしれない。そう考えると、私は勇者には向いていないね。
「アリスさんを封印した本人をぶっ殺したらいいんでしょ?」
「私を封印した本人は既に死んでいるわ。今は子孫が維持しているみたいだけれど」
「ふぅん、なら一族郎党皆殺しだね」
「アナタ物騒ね。嫌いじゃないわ。それでもって小動物的な何か……アナタ……自分の人生を、自分で決めて歩んだ事、ある?」
その言葉にピクっと反応してしまった。自分の人生? そんなものは産まれた時から歩んでいるはず、何を思ってそんなことを言うのかな。
気付けば私はアリスさんを睨み付けていた。タバコの火は未だに燃え進んでおり、灰が長くなり今にも落ちそうだった。
「ふふ、青くて可愛いわね」
頭や顎を撫でてきた。その撫で方が妙に上手くて寄った眉間も元に戻ってしまった。
どうやら彼女の方が一枚か二枚ほど上手のようだった。
タバコを二本吸い終わる頃には、次にするべき事をアリスから聞き終わっていた。どうやらその子孫とやらは周辺諸国の王子様のようだ。
まぁ、勿論そんなに簡単な事じゃないかもしれないけど、面白そうだしやる。面白ければそれでいい。よし、俄然やる気になってきた。
「それじゃぁ早く行こう」
「待ちなさい」
マスケット銃を片手に歩きだそうとするが襟元を猫のように掴まれ、持ち上げられた。
彼女はとりあえず契約がちゃんと行われているかを試しましょうと言い、私を離した。それもその通りだね。
「私の力は創造、あらゆる魔法を作り出すことが出来るのよ。まぁ、その為には自分の大事なものを生贄にしなければならないのよ」
え、何その諸刃の剣、メチャクチャ嫌なんですけど。私にとっての大事なものなんて決まっている。
マジョリティが嫌うこのタバコしかない。それ以外に大事なものなんて思い付かない。そう彼女に伝えた。
「これ子供のお小遣いでも買える代物よ?」
吸殻をマスケット銃の銃口から奥へと詰め込んだ。まぁ、見ててよね。これが私の大事なものだと証明してあげよう。
くるりと腕で回しながら、優男だった死体を貪り食うモンスターをアイアンサイトに捉えた。少し見づらいけど、ゲームでもこんな感じだったし慣れている。
「BANG!!」
引き金を引くと、ほぼ無反動で発砲出来た。しかもアンチマテリアルライフルでも撃ったのかと、勘違いするほどの威力だった。花の化け物は粉々になり、地面にあった優男の死体にも被弾したのか、肉片が飛び散ってしまった。
若干呆れられたが、笑顔で頷くとため息混じりに肩を竦めた。
「契約の代償となるものには魔力が付加されるわ。形も変化させられるしらマジックアイテムとしても使えるわ」
その説明を聞いて、私は携帯灰皿の中にある吸殻を取り出した。そして元に戻るように握り締めた。
手を開けると、そこには吸う前の状態に戻ったタバコの姿があった。
「……お金がいらずにタバコが吸える! すごっ!」
「そういうのじゃなくてねぇ……ちょっと貸してみなさい」
目を閉じて眉をピクピクとさせるアリスさんにタバコを奪い取られてしまった。彼女は私から奪ったタバコを指で持ち私から少し離れた。
マスケット銃で撃つように指示された。本当にいいのかと問いかけたけどいいから早く、と急かされてしまった。再び吸殻を装填し、アリスさんの頭を捉えた。
躊躇いなくトリガーを引き発砲した。先程みたいになると思った。しかし、彼女に当たる事は無かった。
「リフレクション」
そう呟いた彼女は指に持つタバコを弾いた。その瞬間、私の背後にいつ間にか現れていたモンスターを飛散させた。
何が起きたのかな? リフレクション、反射? 分からない。これが魔法かな? 凄いけど危なかったよ。今の私に当たってたら挽き肉じゃ済まなかったよ。素敵なミンチシャワーのサプライズだなんてお断りだよ。
「今のが代償物に魔力を供給して発動する、魔導を研鑽し、魔術を熟考し、魔法を作り上げた私がそれを編み出したの」
「難しい話は嫌い」
「……OK」
これで契約が成されている事は確認出来たみたいだね。優男には悪いけど、帰らせてもらおうかな。死体はまぁ、塵となってしまってどうする事も出来ないし、まぁ日本人らしく黙祷だけは捧げておこう。
さて、とりあえず目標も出来た事だし町に戻って準備でもしなくてはならないね。アリスさんは魔王、って言っても数百年前の人だし知ってる人は居ないと思うけど、ていうか勇者の子孫ってどんな感じなんだろ。やっぱり悲惨な末路を辿るのかな? いや、辿ってなければ小国の王なんかになっていないだろうね。
「私は一旦銃の中に戻って寝るけど、何が起きたらすぐに私の名前を呼びなさいよ」
はーいと返事をすると、マスケット銃に吸い込まれるようにアリスさんはその場から姿を消し、若干マスケット銃が重くなった。
その後、私は町に戻り必要なもの、食料やら地図やらを買い、リュックに無理やり詰めた。おかげでリュックは今にでもはち切れそうだった。
明日の朝にでも出る為、武器屋の店主には挨拶をしておこう。
「おじさんいる?」
「おうアイリス、中々様になってるじゃねぇか」
ふふん、と胸を張りながら明日町を出ることを伝えた。すると意外そうな顔をした。
どうやらもう少し居ると思って、私にくれる武器を作っていたらしい。まぁ、不良品だからね。
──不良品とは失礼ね。最高の品だと思うのだけれど。
私の心の声を聞いていたアリスさんに怒られてしまった。寝てたんじゃないの?
「アイリス、もしアシュタドラって町に寄る事があればそこの、ヴラジールっつう武器屋に寄ってくれ。そこに新しい相棒を送っておくからよ」
「いいの!? じゃあおじさん、これはちょっとしたお礼かな」
二十枚の金貨を武器屋の店主に渡した。このマスケット銃の代金だ。何でもかんでもタダで貰うほど、私も欲しがりじゃないしね。
こんなもんいいのによ、とため息混じりに受け取る店主は気をつけていってこいと渋い笑みを浮かべた。やっぱ良い人だ。
「じゃぁおじさん、またどこかで会えたら会おうね」
私はそう店主に再開を約束する言葉をかけて、店を後にした。
──随分と気にかけられているのね? それにしても、あのおじ様、こんな所で武器屋を開いているなんてね。
ふふ、と懐かしそうに笑うアリスさんに彼を知っているのかと問いかけたが、昔の顔見知りよ、とそれ以上は何も答えてはくれなかった。ていうか寝てないんだ。
私も今日は疲れたし、宿で寝る事にしようかな。そんな事を考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。女性の声だった。
「あの、ロイは?」
ロイ? 何やら人を探しているようだったが、ロイとは一体誰だろうか。
聞くと、あの優男くんの恋人だそうで、まだ帰っていないのをかなり心配している様子だった。おっとこれはまずい。流石に風に乗って世界中に飛び散りました、なんて正直に言えないしここは嘘をついておこう。
「あぁ、あの方なら明日の朝には帰るはずですよ。先に帰っておいてくれ、と言われましたので……まぁ、あの方なら大丈夫だと思いますよ。お強い方なので、信じて待っていてください」
そう伝えるとわかりました、と納得したように頷き安心したような顔で自身の家にへと戻ったのだろう。
──よくもまぁ、そこまで嘘がペラペラと出てくるものねぇ。おっそろしいわ。
正直、自分でもここまで嘘がすぐに出てくるなんて思いもよらなかったよ。
「さぁて、明日の朝になる前に出るために、今日はもう寝よう。女の執念は洒落にならないほど恐ろしいからね」
私はスキップをしながら宿へと向かい部屋を借りた。明日は朝早く出なければいけなくなったから、今日はもう寝ることにしよう。
私はそう思い、ベッドに倒れるようにして寝転んだ。フカフカのベッドで寝るのは久しぶりな気がするよ。まだこっちに来て二日ぐらいしか経っていないのに、不思議だ。
「……アリスさん起きてる?」
──起きてるわよ。子守唄でも聞きたくなったかしら?
「そうじゃないけど、おやすみなさい」
────おやすみなさい。今日はゆっくりと寝なさいな。
「うん、そうするよ」
誰かに寝る前のおやすみの挨拶をしたのは何年ぶりだろう。私はその言葉を交わしただけで気持ちよく、眠りにつく事が出来た。
翌日、目を覚ました私は窓を開けた。まだ薄暗く、外には誰も居ない。その景色を眺めながら、私はタバコに火をつけた。
ふぅ、と息を吐くと白い煙が出る。何十年この煙を見てきたかな。もう覚えてないや。だけど、この煙は私にとっての一番鶏だ。何年経ってもこの煙を見ない朝はない。
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