お茶会は終わらない

NO*NO(ののはな)

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正しいバレンタインとは

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徹くんも、大学のある岐阜県のアパートに帰るので、途中の駅まで一緒に帰った。

私の方が下りる駅が早いので、一瞬だけキュッとハグしてから別れて、電車を下りた。

発車したので、見えなくなるまで手を振っていたら、トントン、と肩を叩かれた。

「え…あっ!礼子先輩?!」

え?…ええっ?!見られちゃってたの~?!

「うん。ずっと見てた」

「え、声に出てました?」

「顔に書いてあった」

「ああ、もう、全然ごまかせる気がしない…」

「彼氏でしょ~?年上っぽかったけど?」

「成人式で実家に帰って来てたんです」

「おう!二十歳はたちなんだ!」

「いや、まだ19ですけど」

「で?で?話聞かせてよ~。私にしか惚気のろけられないわよ?私も出来なかったもの。彼氏持ちどうしの恋バナしようよ」

「あ、それは確かに。でも礼子先輩とはレベルが違う気がします~」

「いつから?どこまでしてるの?」

「直球!あの…ずっと友だちで、昨日から付き合うことになったんです」

「あらあら、そうだったの。じゃあ、何もかもこれからね」

「………」

「ってこともない訳ね?」

「キス…はしました…」

「ふうん、ふうん。さち、可愛いもんね~、我慢出来ないよね~」

「れ、礼子先輩は!…どこまで、ですか?」

「お泊まりはしてないの。外泊取ってても実家に帰ってるからね。う~ん、まだギリギリ、かな」

そこまで言うと、礼子先輩は小さく手招きして私の耳元で囁いた。

(パンツは脱いでない)

「あ!…はい、了解です」

「さちは?」

(まだ何も脱いでないです)

私も囁き返した。

「なるほどね。と、なると、あと1ヶ月ぐらいよね?もう決まってるの?」

「え?決まってるって、何がですか?」

「やだ、さち。一大イベントがあるじゃないの!バレンタインよ」

「……ああっ!そ、そうか。彼氏にチョコレートあげないといけないのか!」

「そうよ~。買うの?作るの?」

「全くノープランでした!え~、礼子先輩はどうするんですか?」

「去年買ったのを渡したらちょっと寂しそうだったから作ろうかなと思ってるの。一緒に練習しよ?」

「はい!お願いします!」


寮に着くなり礼子先輩がバラしたので、私に彼氏が出来たことはあっという間に寮中に広まった。

「こういうのは一気に広めちゃうのが一番楽なのよ!」

「礼子先輩~!でもかなり恥ずかしいです!」

「今1回恥ずかしいだけでしょ。はい、みんな!質問は1人1つよ~!」

「礼子先輩~!」

しばらくワチャワチャと質問攻めにされたけど、結局それで済んだので、まあ良かった。

真由の、「その人のためならトイレ掃除出来るの?」という質問にはみんなキョトンとしていておかしかった。
「今、あ、出来るかもって思ってビックリした」って答えたら真由は一瞬だけブーイングするみたいに唇を尖らせたけど、すぐに笑い出した。

恵も美希もようちゃんも文化祭で会ってて知ってる人だったし、「付き合い始めたのは昨日から」ということで深くは追求されなくてラッキーだった。

買ってきていた夕飯代わりのパンを部屋で食べようとしたら、夕ご飯のシチューがまだ少し残ってるということで、恵と一緒に食堂に行った。

途中で千夏と真由と美希とようちゃんも合流したけど、もう1回シチューを食べたのは恵とようちゃんだけだった。
食堂には礼子先輩と、マグカップ片手に付き合いで来ていた優華先輩もいた。

「あ、さち~。遅い夕ご飯食べるんでしょ?一緒に食べよ?」

「はい。もう、礼子先輩、ひどい目に会いましたよ~。でも結果助かりました。ありがとうございました」

「でしょ?で、こうしといたらバレンタインのチョコ作りもしやすいし」

「え、チョコレート作るの?」

優華先輩がマグカップから一口飲んで言った。

「うん、優華、何か良いの知ってる?」

「最近動画多いよ。材料3つとかオーブン使わないとか。そういうの見るのは好きだけど1人で作ってもな~と思ってたんだよね。いろいろ試してみようよ。こんだけ頭数いれば消化出来るでしょ」

「「「「「え…?」」」」」

目をキラキラさせている優華先輩と、嬉しそうに笑う礼子先輩と、お祈りポーズでウンウン肯いている私の前で、5人は固まった。

(あげる相手もいないのに付き合わされるの?)
(でもスイーツは魅力的)

そんなコショコショ声が聞こえたけど、私と礼子先輩の正しいバレンタインのための特訓が始まった。

チョコを刻む。
チョコを溶かす。
滑らかになるまで混ぜる。

言葉にすれば簡単なのに、なんでこんなに上手くいかないんだろう…。

でもその度に、誰かが打開策を見付けてくれた。

常温にするといいみたい!
レンジより湯煎だって!
お玉の水滴拭かないと!

そうこうするうちに滑らか~な生チョコタルトが作れるようになった。

何箱のマリーを、何枚の板チョコを消費したことか…。

可愛い容器に、砕いて溶かしバターで固めたマリーを敷き詰めて、刻んだチョコと温めた生クリームを混ぜたものを乗せて冷やしたバレンタインチョコを持って、みんなに暖かく送り出された私は、バレンタイン当日の土曜日、徹くんがいる隣県への電車に乗った。
礼子先輩は一足先に前夜からいなかったけど。


~~~


さち
『駅に着いたよ』

初めて来た駅は、観光案内のパンフレットがたくさん置いてあって、結構賑わっていた。


『後ろ見て』

あ!

「徹くん!」

「さち、久しぶり」

地元じゃない安心感で、すぐに手を繋いだ私たちは徹くんのアパートに向かった。

「外泊は?」

「取ってないよ。家からの電話が無いと外泊届け取れないし。それに美希、今日が誕生日で、明日は美希のお誕生日友だちパーティーするの」

「良かった」

「え?」

「泊まられたら流石に我慢出来ないから」

「あ…」

そういうことをサラッと言われると本気なのかリップサービスなのか分からない。
戸惑いが伝わったみたいで、徹くんが私を握る手に力を入れた。

「困らせてごめん。アパートじゃなくて、どこか店に入ろうか?」

「違うの。困ってないし、アパートに行きたい。…今みたいなこと、言い慣れてるのかなって…」

「慣れてないよ。俺、何人か付き合った子はいたけどずっと優子ちゃん引きずってたし、基本受け身だった。軽口たたくから誤解されやすいけど。さちは違う。全然違う。俺、ホントに本気だから」

「うん。ヘンに気にしちゃってごめん。気持ちは伝わってたのに。もう大丈夫。…信じてるから」

「さち…」

「なんだろ…さちなんてみんなから呼ばれてるのに…徹くんにそう呼ばれると…なんだかおかしくなる」

「…!…そういうことはアパートん中入ってから言って。歩けなくなるから」

「ん?」

「あ、忘れて。着いたよ」

「ん?うん、おじゃまします」

アパートに入って鍵を掛けるなり、靴も脱がずに抱きすくめられた。
荷物をそっと取られて床に置かれて、空いた手を徹くんのコートの背に回した。

「さち」

耳元で囁かれて体がビクンと跳ねた。

そのまま耳元から頬へとキスされて、唇に届く前にもう立っていられなくなった。

玄関の段差に座り込んだ私の靴を丁寧に脱がせると、徹くんは私を抱き上げて自分の靴を脱ぎ捨てて部屋の中に入った。

部屋の中は暖められていたけど、コートも脱がずに何度もキスをした。



生チョコタルトは大好評で、私の初めての正しいバレンタインは無事?終了した。






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