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約束の地
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季明が一龍と朱里ちゃんを連れ去ったのは、宇然を引っ張り出すためだろうが、その目的は何だろう。
万里の存在が悪意を持って広められていることを考えると、嫌な予感しかしない。
人質にして退位を迫る?
引っ張り出して諸共に始末する?
何にしても季明よりも早く塔に行かなくては!
私の方が身軽だし、開発した最短ルートもある。
間に合うか?
先を急いでいた私は、塔が見えてきたところで突然兵士たちに囲まれてしまった。
待ち伏せされていたのか?
持っていた目眩ましを爆発させた隙に逃げた私は、自身に結界を張って身を隠した。
連絡…は、結界を張ってしまったので俊英とは出来ない。
彼との通信手段は使い魔の一種だから結界で遮断されてしまっている。
危険と引き換えにしてでも連絡を…いや、祖父になら連絡出来る。
居場所を知らせる機能だけにしてあった通信機材を立ち上げた私は祖父に現状を伝えるための言葉を探した。
「もしもし、じいちゃん。今魔界にいて…えっと、超ピンチなんだけど…」
「そのようだな」
「はあっ?!!」
「しっ!静かにしなさい」
雲嵐の祖父は自然な様子で手頃な岩に腰掛けると、背後に隠した雲嵐に口元を隠して話し掛けた。
「な、なんでここに?」
「別ルートでここに来たが説明している時間は無い。そっちの事情は分かってる。お前を追っている兵士たちは多分半魔だろう。俊英さんは半魔の動きを探ると言っていたから合流することになりそうだな」
「俊英は無事なんだな?心配はしてなかったけれど敵は手練れだと言っていたから万が一があるかと…」
「万が一どころか、その手練れはこっちに付いたぞ。しかもそいつは雲嵐の異母兄弟だ」
「???何が何だかなんだけど?」
「それは後だ。お前は何がしたいんだ?」
「一龍に何かあったらこの羽根を塔の結界に刺してくれと頼まれていたんだ。でも兵士たちに囲まれて近寄れなかった」
「あの兵士たちは施設長の手先だな。ということはほとんどがお前の異母兄弟かもしれん」
「ああ…そういうことか。クズが…!」
「おいおい、クズに失礼だろう」
雲嵐の背後から俊英の声がした。
「早かったですね、俊英さん」
「俺の息子たちにも動いてもらっているからな」
「息子?!」
「なんなら孫とかもいるぞ。俺を何歳だと思ってるんだ?」
「いや…見た目が若いから、つい。ああ、そうか、じいちゃんが“さん”付けで呼んでるもんな…ですもんね」
「急に気を回すな。今まで通りで構わん。その羽根を塔の結界に刺すと宇然が出てくるのか?」
「多分そう、なると思う」
「ちょっと待った方がいいかもしれん。季明たちが行方不明なんだ」
「え?一龍と朱里ちゃんも…?」
「そうだ。その羽根は俺の息子に任せてくれないか。白英と師匠が施設長の方に向かってるのと合流したい」
「師匠?」
「雲嵐の曾祖父だ」
「え?そうだったのか?」
「あの人が剣豪だったのはかなり昔だからな。お前の母親がお前を身籠もった時に引退したんだ」
「じいちゃんが住み慣れた土地を離れて母さんを匿っていた時か…あの最低最悪の父のせいで…!」
「まあ、定期的に居場所は変えていたからそれはいい。父さんは孫娘を心配していたからなあ。女の子の身内は特別だから」
雲嵐の祖父がしみじみと呟くと、俊英がハッとして言った。
「いや、待て。…魔族の血が入った女性ってのは他に知らない。朱里は別として、代が下がっても男ばかりのはずだが…」
「「え…?」」
「それは後だ。考えて分かることでもないし、羽根を貸してくれ。谷底に向かうぞ」
俊英は黒い羽根を、同じ耳を持つよく似た男に渡し、三人は泡の湧き立つ谷底へと向かった。
万里の存在が悪意を持って広められていることを考えると、嫌な予感しかしない。
人質にして退位を迫る?
引っ張り出して諸共に始末する?
何にしても季明よりも早く塔に行かなくては!
私の方が身軽だし、開発した最短ルートもある。
間に合うか?
先を急いでいた私は、塔が見えてきたところで突然兵士たちに囲まれてしまった。
待ち伏せされていたのか?
持っていた目眩ましを爆発させた隙に逃げた私は、自身に結界を張って身を隠した。
連絡…は、結界を張ってしまったので俊英とは出来ない。
彼との通信手段は使い魔の一種だから結界で遮断されてしまっている。
危険と引き換えにしてでも連絡を…いや、祖父になら連絡出来る。
居場所を知らせる機能だけにしてあった通信機材を立ち上げた私は祖父に現状を伝えるための言葉を探した。
「もしもし、じいちゃん。今魔界にいて…えっと、超ピンチなんだけど…」
「そのようだな」
「はあっ?!!」
「しっ!静かにしなさい」
雲嵐の祖父は自然な様子で手頃な岩に腰掛けると、背後に隠した雲嵐に口元を隠して話し掛けた。
「な、なんでここに?」
「別ルートでここに来たが説明している時間は無い。そっちの事情は分かってる。お前を追っている兵士たちは多分半魔だろう。俊英さんは半魔の動きを探ると言っていたから合流することになりそうだな」
「俊英は無事なんだな?心配はしてなかったけれど敵は手練れだと言っていたから万が一があるかと…」
「万が一どころか、その手練れはこっちに付いたぞ。しかもそいつは雲嵐の異母兄弟だ」
「???何が何だかなんだけど?」
「それは後だ。お前は何がしたいんだ?」
「一龍に何かあったらこの羽根を塔の結界に刺してくれと頼まれていたんだ。でも兵士たちに囲まれて近寄れなかった」
「あの兵士たちは施設長の手先だな。ということはほとんどがお前の異母兄弟かもしれん」
「ああ…そういうことか。クズが…!」
「おいおい、クズに失礼だろう」
雲嵐の背後から俊英の声がした。
「早かったですね、俊英さん」
「俺の息子たちにも動いてもらっているからな」
「息子?!」
「なんなら孫とかもいるぞ。俺を何歳だと思ってるんだ?」
「いや…見た目が若いから、つい。ああ、そうか、じいちゃんが“さん”付けで呼んでるもんな…ですもんね」
「急に気を回すな。今まで通りで構わん。その羽根を塔の結界に刺すと宇然が出てくるのか?」
「多分そう、なると思う」
「ちょっと待った方がいいかもしれん。季明たちが行方不明なんだ」
「え?一龍と朱里ちゃんも…?」
「そうだ。その羽根は俺の息子に任せてくれないか。白英と師匠が施設長の方に向かってるのと合流したい」
「師匠?」
「雲嵐の曾祖父だ」
「え?そうだったのか?」
「あの人が剣豪だったのはかなり昔だからな。お前の母親がお前を身籠もった時に引退したんだ」
「じいちゃんが住み慣れた土地を離れて母さんを匿っていた時か…あの最低最悪の父のせいで…!」
「まあ、定期的に居場所は変えていたからそれはいい。父さんは孫娘を心配していたからなあ。女の子の身内は特別だから」
雲嵐の祖父がしみじみと呟くと、俊英がハッとして言った。
「いや、待て。…魔族の血が入った女性ってのは他に知らない。朱里は別として、代が下がっても男ばかりのはずだが…」
「「え…?」」
「それは後だ。考えて分かることでもないし、羽根を貸してくれ。谷底に向かうぞ」
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