魔女なの?聖女なの?いいえ、私が選ぶのは悪役令嬢です!

NO*NO(ののはな)

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魔女なの?聖女なの?いいえ、私が選ぶのは悪役令嬢です!

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「行こうか、マリアンナ」

「ええ。お兄様」

今日は建国記念日。
その祝賀パーティーの会場となっている王宮のメインホールへと、筆頭公爵家の公子公女である私たち兄妹は入っていった。
本来ならば婚約者である私、公爵令嬢マリアンナをエスコートするはずのアレン王太子殿下が待つ場所へと。

共にプラチナブロンドに翡翠の瞳を持つ美しい容姿の私たちへの感嘆のため息が漏れる中、ひそやかな陰口も聞こえてくる。

「いつ見ても美しいこと…でもマリアンナ様のあの冷たい眼差しを向けられたらと思っただけで震えてしまうわね」

「公子様はお優しいのにねえ。お聞きになりまして?泣かされた男爵令嬢のこと」

「シャーロット様ね。王太子殿下のお気に入りの」

「愛らしい方ですもの。マリアンナ様のお小言でお疲れになられた殿下が夢中になられてもしょうがないことですわ」

ざわざわ…ざわざわ…鬱陶しいわね。

微かに伏せそうになる私の瞼に気付いたお兄様が、エスコートする手に力を込める。

「大丈夫よ、お兄様。…慣れているわ」

「慣れる必要は無いよ。第一あんなのはマリアンナの話じゃないだろう?気にしなくていい」

「殿下も…そう思っていてくださればいいのだけれど…」

壇上に揃って座っているロイヤルファミリーにご挨拶するために階段に足を掛けた私たちに気付いた王太子殿下が、立ち上がって階段を下りてきた。
流石にこの場で婚約者をエスコートしない訳にはいかないものね、と思った私の横をピンクブロンドの髪がすり抜けていった。

「アレン様!アレン様のプレゼントしてくれたドレス、すごくステキ!どうですか?」

飛びつくように王太子殿下の左腕に自分の両手を絡ませたシャーロット男爵令嬢は、ウルウルした目で殿下を見上げた。

「プレゼント…されたのですか?なぜ?!私という婚約者がいながらなんということを…」

私の言葉を遮って、シャーロット様は高らかに叫んだ。

「私が新しい婚約者になるからよ!私を散々虐めたマリアンナ様はもうお役御免なのよ!分かったら下がりなさいよ!」

「私はあなたを虐めてなどいないわ!殿下!私は…」

「そうですわ!マリアンナ様はシャーロット様を虐めてなどいません!嘘つきのシャーロット様を婚約者にしてはいけないわ!」

突然現れてシャーロット様を断罪したのは、聖女として名高い銀髪の美女、エスメラルダ侯爵令嬢だった。

「エスメラルダ様…ありがとうござ…」

お礼を申し上げようとする私をチラッと見たエスメラルダ様は、私を押し退けながら身を乗り出して、殿下に訴えた。

「マリアンナ様に虐められていたのはこの私でございます!聖女である私に嫉妬されたマリアンナ様はそれはもうひどく私を…。アレン様!こんな悪意に満ちたマリアンナ様よりも、嘘つきのシャーロット様よりも、私を婚約者にしてくださいませ!この国のために尽くしますから!」

はあ?…え?どういうこと?

呆然とする私の目の端で、イライラした様子のシャーロット様がドレスの布の合わせ目から小瓶を取り出し、地面に叩きつけたらピンク色の魔法の煙が沸き起こり、その煙に包まれた殿下はポッと頬を染めてシャーロット様を見た。

いや!やめて!そんな目で私じゃない女性を見ないで!

声にならない叫びが頭の中を駆け巡っていると、聖女エスメラルダ様が両手を広げて光を放った。

「アレン様!惑わされてはいけません!この聖なる光で正気を取り戻してくださいませ!」

その光を浴びた殿下は、まぶしいものを見るように瞼を震わせてエスメラルダ様を見てひざまずいた。

いやあ~!どうして?どうして?…こうなったら!

「殿下!殿下の婚約者は私です!他の女性にうつつを抜かすなど許しません!シャーロット様もエスメラルダ様もお引き取りください!」

「きゃあ!怖い!アレン様、あの悪役令嬢からシャーロットを助けて!」

「アレン様、私、マリアンナ様に怒鳴られると涙が溢れて…足が震えて…怖いわ…」

「何が悪役令嬢よ!私を悪役に仕立てているのはあなたたちでしょう!」

「3人とも、そこまでじゃ!」

国王陛下の威厳のある低い声がホール中に響き渡った。

「さて、アレンよ。どう始末を着ける?」

陛下に尋ねられた殿下は階段を駆け上がり、壇上に戻った。

「資源豊かなこの国が近隣諸国から狙われるのは毎度のことですが、西隣の国のハニートラップ要員は魔女で、東隣の国のスパイは聖女ですか。だけど、私が選ぶのは悪役令嬢の婚約者、マリアンナですよ。陛下」

「悪役令嬢なのに?!私に魅了されてたんじゃなかったの?!ドレスまで贈ってくれたのに!」

目をつり上げたシャーロット様が叫んだ。
それを醒めた目で見やった殿下は面倒くさそうに言った。

「魅了、ね。されるのが分かっていて対処しない訳無いだろう?私も他の子息ももう解除済みで、魅了されているフリをしていたんだ。さっきのもね。あと、そのドレスは不意の事故が起こった時のための王宮所有のレンタルドレスだからきれいにして返してくれ。パーティーに着ていくドレスが無いと言っていたから便宜を図らせてもらった。レンタルだってことを言い忘れていたよ」

しれっとした顔でおっしゃってますが、殿下、絶対ワザと言いませんでしたね?
でも…良かった。プレゼントじゃなくて。

「それと、悪役令嬢なのに、って言っていたけれど、悪役令嬢だから私の婚約者なんだよ。先ほども言ったように、適齢期の王子がいると君たちみたいな良からぬ虫が湧くからね。スケープゴートに耐えられる、悪役にされても矜持を保てるマリアンナでなければ私の妃にはなれない。試した訳ではなかったが、辛い思いをさせたね、マリアンナ」

「いいえ、分かっていましたわ。影を付けてくださっていたから、いくらでも私の無実を証明出来ることも」

「影ですって?」

エスメラルダ様が狼狽えて後ずさった。
その様子を見据えて、殿下は断罪した。

「そう。だから君の自作自演パフォーマンスもお見通しだ。手の者を使って怪我をさせた人を癒して、洗脳して信者にしていたね。こちらも洗脳は解除済みだ。魔法による魅了も洗脳も犯罪だから覚悟していろ。仲間はもう捕らえてあるし、さっき引っかかったフリをした私の姿に反応した貴族も押さえてある」

ぎゃあぎゃあ言いながら衛兵に引き立てられていく魔女と聖女を見送った殿下は、私に向かって手招きをした。
お兄様にエスコートされて階段を上った私は、殿下の隣に立った。

会場からの暖かい拍手を受けている私たちの背後から、陛下がそっと声を掛けた。

「漁夫の利、かのう?」

それに殿下が応えた。

「形としてはそう見えますが、私の心には最初からマリアンナしかいませんでしたから。あの2人が潰し合ってくれたおかげでうるさい両隣の国を片付けられて、やっとマリアンナを婚約者として大事に出来ます」

私の手を取って優しい目線を寄越した殿下は、少し恥ずかしそうに言った。

「手始めにドレスを贈ろうと思うんだが、受け取ってくれる?」

「ええ、喜んで!」

悪役を下りた私の穏やかな微笑みは会場中の人々を魅了して癒していた、と後でお兄様が教えてくれた。
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