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ex.新婚さんごっこ
しおりを挟む撫子と付き合ってから早4カ月。
撫子は甘えん坊で寂しがりでとにかくくっつきたがる。
俺が我慢しなくていいよと言ったからなのだが、それまでどれだけ我慢していたのやら。
起きている時も寝ている時も、まるで磁石で吸い寄せられるかのようにくっついている。
座るのも俺の上が定位置となっているので、せっかく買った座椅子が少しかわいそうだ。
そしてこのたび、俺たちは同棲することにした。
俺が「今更だけど、ほぼ同棲してるようなもんだよなぁ」と言ったら撫子がすっかりその気になってしまったのだ。
ただ、春は新生活を始める人が多くていい物件が空いておらず、また色々と準備もあるためにお盆休みに合わせて引っ越しすることに決めた。
お互いの希望条件を出し合ってそれを元に物件を探したり、新調する家具を見に行ったりもした。
普段からお金を使わず、4月に無事に昇進したおかげもあって蓄えは十分にあるから、これを機に1人用を2人用に、ボロボロだったものも買い替えることにした。
一番緊張したのはなんといっても、撫子の両親への挨拶だろう。
撫子は別にいいと言っていたが、大事な娘さんを預かる以上黙っているわけにはいかない。
正直、殴られる覚悟で行ったのだが、思いのほかあっさりと承諾された。
お母さんは撫子がさらに大人っぽくなっておっとりしたような感じで「あらあらまあまあ」と口にしていた。
小さいころから友達すら家に連れてきたことが無く、いきなり彼氏で同棲でとビックリしたものの微笑みながら祝福してくれた。
お父さんは気難しそうな顔をしていたが、どうやら緊張していただけだったみたいで最後には「娘をよろしく頼む」と頭を下げられた。
まるで結婚の挨拶に来た気分だ。
その日は東雲母娘の手料理をご馳走になり、酔っぱらったお父さんがアルバムを持ちだして撫子がいかに小さいころから可愛かったかを熱く語っていた。
良い人たちだし、将来は俺の家族にもなるであろう人たちだ。この繋がりを大切にしようと思った。
——ガチャ
「おかえりなさい、あなた。今日もお疲れ様」
「ただいま、撫子」
仕事から帰宅すると、新居のやや広めの玄関で撫子が出迎える。ハグとキスがセットで言わずともついてくる。とてもお得だ。
「ごはんにする?お風呂にする?それとも......わ、わた......」
最後まで言えずに顔が真っ赤である。なにこの可愛い生き物。俺の彼女の可愛さが留まることを知らない件。
呼び方もあなたにランクアップしてるし、新婚さんごっこかな?理性が吹き飛ぶからやめてほしい。
「じゃあ、全部貰おうかな」
仕返しとばかりに撫子をお姫様抱っこしてリビングへ連れていく。撫子はこれ以上ないくらいに顔を紅潮させてされるがままになっている。
まずは用意してくれていたお風呂をいただくことにする。
「一緒に入る?」とからかってみると、「うぅ......もう少し待って......」と抱き着いてきた。可愛い。
前のマンションとは違って2人でも入れるくらいのスペースはあるのだが、あとは撫子の心の準備次第だ。
一緒に入れるようになったら温泉旅行も行きたいなぁ。旅館に泊まって、お風呂上りの浴衣をぜひとも見てみたい。いかん、想像するだけでにやけてしまう。
お風呂から出ると交代で撫子が入り、戻ってきたら髪を乾かしてあげる。
しっとりと濡れた髪を丁寧に乾かしていく。
以前は肩上くらいだった髪が、今は肩甲骨辺りまで伸びている。本人曰く、実際に短いのと長いのを俺に見せてどっちが好みか知りたいらしい。
そう言われてもどっちも似合ってしまうのだから困る。撫子の髪は長いとそのサラサラ感が増すしアレンジもしやすいがその分手入れも大変である。
だがやっぱり撫子といえば、出会ったころのボブの印象が強い。あまえんぼうでたまに子供っぽいところを見せる撫子にはそっちのが似合うのかもしれない。
それから2人でキッチンに立って料理をする。残業が無い日にはこうして料理を手伝って教わっている。
今後撫子が忙しくなった時にサポートするためと、そうでなくてもたまには撫子が何もしなくていい日を作りたいからだ。
普段は天然なところを見せる彼女も、料理に関してはミスがなく教えるのもとても真剣だ。その甲斐あってか俺の料理スキルも上達してる......ような気もする。
食後はゲームをしたり映画を見たり、次のデートでどこへ行くか相談したり日によって違うのだが、毎日欠かさない時間がある。
それは——「ご奉仕タイム」だ。
お互いに日替わりで相手に甘えるというものだ。昨日は俺がマッサージをしてもらったから今日は撫子を甘やかす日である。
膝枕をする日、ひたすらハグし続ける日、撫子の椅子になる日 (これはいつもだが)と色々あるのだが、今日は俺の上に向かい合わせで座ってきた。
何をするのかと思いきや、抱き着いて首元に顔をうずめてクンカクンカとにおいを嗅ぎ始めた。
においを嗅がれるというのは何故かめちゃくちゃ恥ずかしいのだが、これは一応ご奉仕なので断るわけにはいかない。
そういえば初めて会った日も俺のコートのにおい嗅いでたっけ。においフェチなのかな。
プレゼントしたアロマライトもハンドクリームもお気に入りのようでずっと使ってるし、今度好きなにおい調べてなにかプレゼントしようかな。石けんなんかいいかもしれない。
......ちょ、首元で深呼吸されるとくすぐったい。
そんなに気にいるにおいなのかね?自分じゃ全然分からない。撫子のほうがずっといいにおいなんだが、それも本人じゃ分からないのか。
たっぷり時間をかけて俺のにおいを堪能した撫子はご満悦の表情だ。ホントに可愛いなぁ。
「撫子」
「ん-?」
「好きだよ」
そう言って目の前にあった可愛らしい小さな唇を唇で塞ぐ。
撫子は突然で驚いたのかビクッとしてから、俺に抱き着きながらさらに唇を押し当ててくる。
「......もう、急にそんなずるいよ」
「こういうのは思ったときに言ったほうがいいだろ?」
「そしたら私ずっと言い続けるもん!好き好き。優太さん大好き」
今度は撫子からキスの雨が降り注ぐ。
俺はそのまま撫子を抱え上げて、寝室へと向かうのだった——
_______________
以上で完結となります!
お付き合いいただきありがとうございました┏○ペコッ
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