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0日目 奇妙な放送
しおりを挟むチク…チク…チク…
時計が毎秒1秒の速さで針が動く。
そして、長針が10の刻を差したとき…。
【8時10分】
「2の4組の皆様こんにちは…今から皆様には【異界 モルビア】に転移して頂きます…それでは良い旅を…ブチッ。」
教室の黒板の上に設置されているスピーカーから、気味の悪い震えた声が響いた。けして、スピーカーの調子が悪いわけでもない。
いきなりの出来事に、誰かの悪ふざけなのか?と腹を抱えて笑う者も、怖いと震える者もいた。
担任の先生は、「だ、だれだ!こんな悪戯をしたやつは!!今すぐ、放送室に!!」と放送にかなり驚いたみたいで、顔を真っ青にして、2分前に入ってきたばかりの扉を開けようとする。けれど、その扉は鍵が掛かっている訳でもないのに、ビクリとも動かない。
暫くして、
「転移まで、3、2、1」
と、不気味な音声なカウントが始まる。
流石にこのカウントが開始されると、笑っていた生徒も、いきなり静かになって、慌てている。
教室の中は今にも壊れてしまいそうな、ヒビの入ったガラスの中のようだ。
「幸あれ」
最後にこの言葉だけが脳内に残った。
そして、この言葉がガラスを一気にバラバラに破壊した。
一体なにが起こったのか、私はその日。変な放送が入るまでの1日を振り返ってみた。
たしか、この日はいつも通りの朝だった。
朝、6時半。
私はいつも通りに目を覚まして、 バターの良い香りが漂う食パンを咥えながら、着替えて、家を出る。
今日の天気は嵐が去った後の様な、雲ひとつない快晴。太陽が肌をさすように私を照らしてくる。
「おう、恋翼」
「なによ。蒼汰」
この爽やかな朝をぶち壊して来たのは、幼稚園の時に隣に引っ越してきた幼馴染。比日谷 蒼汰。彼はスポーツ万能しか取り柄が無い。もちろん、彼にもいい所はあるけれど、褒めると無駄に調子に乗ってしまうから本人には秘密にしている。
「そんなに、ツンツンするなよ。俺達の仲だろ?」
軽いノリで彼は私の肩に腕を乗せる。
「さぁ、私にはどんな仲だったか分からないなぁ」
「あと、重いからその手どけてっ」
「あ、悪い悪い」
蒼汰は笑いながら手を退ける。
「それにしても、どんな仲って酷くないか?」
「酷くないよ。だって、私と蒼汰は幼馴染でしょ?」
私の斜め後ろを歩いていた蒼汰を振り返って、意地悪っぽく言う。
「そうだな…俺達は幼馴染だもんな!」
蒼汰は少し暗そうな顔をした後、いつもの元気いっぱいな表情に戻った。
こんな、たわいも無い話を毎朝交わして学校に行くと、男子から「おはよう」と笑顔で声を掛けられる。女子からは…うん。冷たい目線が私目掛けて飛んでくるね。理由は多分、私が女子と話すのが苦手で男子とよく話してるからだと思う。
けれど、そんな私にも唯一の友達がいる。
「ことはっー!おっはー!」
後から飛びついて来たのは、高校に入ってから出来た親友。星海。彼女はショートカットが良く似合う。ちょっとボーイッシュで天然が入っていて、可愛い一面もある。
「星海おはよー」
「おやおや~、今日もお2人さんは、お熱いですなぁ~」
ニヤニヤしながら、私の腕をつついてくる。
「「お熱くない!(ねぇーわ!」」
珍しく、私と蒼汰の息が揃う。その様子をみて星海は口を手で抑えてププと笑う。
そして、【8時8分】
この時間は担任の先生が教室に入って来る時間。
【8時10分】
普段だったら、担任の先生が教団に立ち、学級委員が起立の号令を掛かる。
けれど、この時間は、あの奇妙な出来事の始まりの時刻だった。
「2の4組の皆様こんにちは…」
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