The Gang Stars

鮫島さそり

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chapter5〜東欧四重奏〜

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【サンクトペテルブルク郊外、 シベリアンアーミー社 本部オフィス】

「ジジイ、連れてきたぜ」

「ご苦労。」

「社長、お初にお目にかかります、それでたかが工場勤務の我々下っ端ガンスミスにどんなご要件で…」

「特殊任務だ、内容は後々説明する。まぁ、君たちの腕を見込んでの話だ」

「腕を見込んでって…だって、ホント大した功績もなんも無いんですけど…」

「ははぁ、覚えていないかね?レノーチカ、アレを」

「へいへい、これな。」


ディーがポケットから拳銃を取り出す。


「うおぁっ銃?!ま、まさか」

「そんなつもりは無い。驚かせてしまって悪かったね」

「あ、それまさか私が考えたやつ…ですかね?」

「そうだ。BN1デリンジャー、ウチの売れ筋商品。社内コンペ最優秀賞作品だ」

「BN1…あー、Bellned 1の略か。けっ、承認欲求ダダ漏れじゃねーかよ」

「あんたの考えたやつよりかはマシ」

「これを作れる実力があるということは、完全新規の主力兵器を作れるだろう」

「ちょ待ってくださいよボス!!し、主力兵器??何すか、戦争かなんか始めようって思ってンスか??」

「まぁ…フフ、端的に言えばそうだな」

「すいません一瞬だけ弟と話し合っても?」

「よかろう」


(ケイ!!どうすんのこれ!!CEOが顔出さなくてどんな人かわかんなかったのはしゃーないけどよ、アタシらこれ完全に犯罪に加担させられそうになってね?!やばいよね?!)

(アネキ声でけーんだよ!!まぁ確かにやべーけどさ!えっでもフツーに反社じゃね?拒否ったら物理的首って感じじゃね?)

(ヤダーッ死にたくないーッ!!やだやだやだやだやだやだアタシまだ24なんですけどーッ!!)

(それを言うなら俺もだよッ!!やだやだやだやだやだやだッ!!)

「「死にたくなーいッ!!」」

「おやおや一体どうしたんだ」

「全部”解っちまった”って奴じゃねーの?逃げられるべ??」

「アハハーッペテルブルクの夜景が綺麗だなー!!こんなの見られて嬉しいなーッ!!」

「アネキが壊れたーッ!!」

「え?壊れた?えぐくね??」

「坊ちゃんマジでもうアタシ破滅ッスよ~!!わざわざ引き抜きに来てくれてありゃあとうごぜーっしたぁーっ!でもボスにぶっ殺されそうだからこれで終わりかー!!しょぼーい人生だったわ!!HAHA!」

「だめだベルネッドが壊れた」

「ボス固まってるんですけど状況カオスで!!」

「一体何が起きているのだ…」

「えーと…ベルネッドが自分殺されるかもー!!ヤダー!!ってなってパニック起こして錯乱状態になってる…感じッス」

「殺しはせんわこんな優秀な人材を!!アホを言うでないわ戯け共!!」

「え、マジッスか」

「本気かそんな……私は使える人材を捨てるような愚か者では無いわ!!信用も堕ちたもんだな…」

「さすがですボスぅぅぅ!!お優しい!!我らがボス!!東欧一の経営者!!」

「騒がしいわ全く…」

「はいはい話聞こうかマカロフツインズ、一旦ストップ」

「ゴホン…ではお前たち2人に特別任務を言い渡す。ベルギーに行け」

「ベルギー?あのワッフルとチョコのイメージんとこで合ってます??」

「だけどガンスミスとベルギーになんの関係があるのさ」

「お前たちの本職は武器職人ガンスミスなのは分かりきった話だが、なにぶん組織の人手が足りていなくてな。あそこは2012年以来西諸国において薬物取引の玄関口…いずれ潰しておきたい所だ。そこでお前たちを送り込み、内情を探らせる。流通品目、ついでにその知識を活かして西の連中が使う武器も調べて来て欲しい。コソコソ隠れて物作りをするのが得意なマカロフスキーなら、調べ物もカンタンだろう?」

「げ、全部バレてたんすか??」

「情報は全部こちらに流すように言ってあるからな。各工場に1人は見張りの…言わば本部のスパイを付けている。だからケイリッド…だったか?お前が設計したプロトタイプが情報漏洩によってライバル企業にパクられ製品化されたのも知っているぞ、全て伝わってくるからな」

「え、パクられてたんすか?!やけに似てるな~と思えば」

「ロシェット社、製品番号3872通称”Rahonavisラホナヴィス”。お前の案のコピー商品だ。癪に触ることに設計は完璧なのに再現性が低く低クオリティ、性能もピーキーで使いづらくプロモーションも下手くそ、量産までしていて5分の1が不良品でモデルガン行き、目がチカチカするような色違いマイナーチェンジまで製造されている」

「げー!!マジかよ最悪!!どこの会社っすかロシェット社って!!」

「ベルギーだ。ついでに思う存分抗議して暴れ回ってくるがいい」

「んじゃそうさせて頂きますよ、設計担当ついでにぶん殴ってきます!!」

「えーとボス、話大幅に変わりますし僭越ながらご質問させていただきますけど、渡航費はもちろん出るんですよね??経費で落とせますよね??」

「もちろんだ、いち市民には払えないだろう費用がかかるからな。後で秘書のイリューシャから小切手を受け取れ。レノーチカ、お前もついていけ。こいつらだけだと戦闘面が不安だからな」

「はいはい…」

「イリューシャ??って誰っすか??」

「CEOの秘書のイリヤさんだよ!!あのくたびれオッサン!!」

「あ~あの年中死にかけのオッサンね、なるほど。工場にも視察で何度か来てたなぁ」

「話が終わったら退室して構わないが」

「あっ、すいません」




☆☆☆☆




社長室から退室した後、やはり落ち着かない様子でコソコソ話し合うベルネッドとケイリッド。


「言っとくけどよ、ジジイが居ねぇときのボスは俺だかんな!!」


2人の会話を遮るようにディーが突然そう言った。

「んだコソコソコソコソ二人で話し合って…お前らニコイチか?カップルか?」

「いやフツーに双子ですけど」

「あのなぁ、ベルギー行ったら一時的にボスは俺になんだからな!!解っとけよ!!序列大事!!」

「序列とかめんどくさいっす」

「てか年功序列ならウチらが上なんだけど」

「そそ、未成年は大人の保護下にあるもんなんスよ」

「あのなぁ…てめぇら立場分かってんのか??お前らの前に居るのは未成年とはいえ反社だぞ?こう見えても抗争参加してきたしフツーに人撃つこともあるやつだぞ?一応聞くけどなんで俺が着いてくことになったか知ってっか??」


顔を見合せ、心底どうでも良さそうに「知らねーっす」と答える2人に、ディーはイライラが治まらずいつものヒステリック気味を発動し、わしゃわしゃ頭を掻きむしるわ貧乏ゆすりをするわで、余計騒がしくなってしまった。
すると社長室から、

「ああ伝え忘れていたが…レノーチカは時々そうやって癇癪を起こす。そういう時はほっといてやれ」

とサーシャが一言。

「いやほっとけって…」

「言われてもねぇ…」

「「困るんだわァ…」」

「はいはい坊ちゃん、さっさと行きましょ!明日には渡航準備終わらせて出発しますからね!!」

「うっせ俺に指図すんな!!」


そう言うとどこからともなく取り出した瓶を開けて急に一気飲みし始める。何かをやけ飲みし始めた。


「坊ちゃんヤケ酒はダメっすよ!!てか未成年っしょ?!」

「酒じゃねーわこれ!!」

「じゃなんスかその真っ赤な…あーなんか目が痛くなってきた」

「メガサドンデス・マーダージョロキア」

「え、それめちゃくちゃ辛いやつ…てかデスソース?!」

「直飲み?!」

「もーなんスかこの会社…上部変な人しかいねーんだけど!!」

「絶対このなんつーか…非合法プロジェクト終わったらアタシら退職しますからね!!」

「好きにすればー」

「デスソースで機嫌治す坊ちゃんアタオカだよ…」

「もう何が何だかわかんねーよ…」


もはや収集がつかずクタクタのマカロフスキー姉弟は、これから大抗争に巻き込まれるとも知らず、とりあえず今日のうちは帰路に着いたのだった…。





☆☆☆



騒がしい面々が居なくなった後で、しんと静かになった社長室にサーシャは1人残っていた。ロシアの短い夏が近付く6月の空気は、少し冷たいようで生ぬるい。ゴタゴタで飲めずに冷えきった紅茶を飲み干すと、どすんといつものオフィスチェアに腰掛けた。


(レノーチカとマカロフスキーたちのベルギー行きの成功の有無は一度置いておいて…これから先が不安だな。…なんせ今の所西側が不穏だ。下手に大暴れすれば諸国政府から目をつけられかねん…。やはり裏の人間は肩身が狭いものだな)


引き出しから何かを取り出して眺める。古びた軍の階級章とドッグタグだった。


(ドッグタグ…全く、不名誉で皮肉的な俗称だ。随分と風化してしまった。お前たちが死んでもう、もうすぐ80年だ。あれほど酷い戦があったのに、世はまた戦を始めようとしている。兄弟国同士でだぞ?おかしいとは思わないか。元はひとつの連邦国家だったものを…。お前たちは国が殺したといっても過言では無い。だから、私が。こんな馬鹿げた阿呆どもが牛耳るこの国を潰す。だから、それまでは。連邦を再建するその時までは。私は死ぬわけにいかない)

ただ、部屋に聞こえる音は静かな呼吸音だけだった。


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