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1話 裏の世界
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裏社会、それは人間社会に置ける外道、悪党、行き場無きもの達の掃き溜めである。しかし掃き溜めには掃き溜めなりに、その秩序を保とうとする者たちがいた。各国に蔓延る彼ら彼女らは、様々な名で呼ばれる。マフィア、カルテル、ヤクザ、そしてそれらを全てひっくるめて、ギャングと呼ぶ。間違えちゃいけないのは、マフィアには特定のルーツがある者のみが名乗っていいという掟があること。それと、一般人が関われば地獄を見るということ…
☆☆☆
アメリカ大陸北部に位置する合衆国。その南部地域の一州の街、セイルシティ。首都とは比べると断然見劣りするが、人が犇めき、列車は轟音を立てて運行し、何時でも賑やかな都市である。そのオフィス街の一角に、彼らの本拠地があった。
「さて、どうしたもんですかね」
書斎用の上等な椅子に腰掛け、スーツ風のセットアップを着て髪をポニーテールにした細身の男、アルフォンスがため息をついた。
「どうしたもこうしたもねぇよ、金欠なんだから」
会議スペースのソファにだらんと寝転びながらスナック菓子を貪っている、茶髪にオレンジの繋ぎを着た男、エドがそう答えた。
「全部分かってるって、ほんと…。物理的に痛いぐらいに。個人資産はあるんだけどね?組織資産は…」
「そ、1万ドルあるかないかだろ?アルフォンスさんよ、テメーの資金管理がヘッタクソだからそうなんだろうが。肌身離さず持ち歩いてるそのチェックボードは何のためだァ??」
「あのねエド、本気で考えてよ。大体、君のアドバイスが適当だから…。変な契約掴まされて、詐欺だって知らずに8割持ってかれちゃったんだから…。ああもう、最悪!なんで評議会のおじい様方は『いとこのよしみだろ』って君の事組織に正式加入させちゃったのかな…父さんも父さんで最悪!元ボスだってのに、『うん、いいでしょ』って!!軽いよ、かるすぎるんだよぉぉ!!」
「サルヴァトーレおじさんはそんなもんだろ、いつも」
「んで、困り果ててしょうがないので、今後どうするかを僕や君よりもっと有識者で頭の回る親戚を助けとして呼んだ訳なんです、と」
「んな奴うちの親戚に居たのかぁ??」
「僕ら温室育ちのぬくぬくゆるゆる裏社会教育なんかじゃなくて、現場を見てきた人。南諸島の本家なんか、治安めちゃくちゃ悪いんだから。」
「ふーん、南部語キツくて何言ってっかわかんなかったら、終わりじゃねぇかよ」
「…その事を忘れてた」
「ったく大学上から3番目の成績で出てるくせに肝心なとこでアタマゆるゆるなのがなぁ、ウチの従兄弟は」
「はぁぁぁ…もうやだ。僕はボスなんかやりたくなかったのに…。ましてや、3代続くマフィアのボスなんて……」
「辞めてぇなら辞めれば」
「そしたら評議会のおじい様方や他の偉い人達に物理的にコロコロされちゃうから…僕、自分の死因が他殺ってのは嫌」
グダグダと話す2人を他所に、突然扉がノックされた。
「あっ、噂をすれば何とやらってやつだね。」
キィ、と建付けの悪いドアをくぐって入ってきたのは、季節外れな黒のタートルネックセーターとキャメルカラーのライダース、膝下まで覆うブーツを身につけた体格の良い男と、その足元にちょこんと隠れるようにして立つ子供たちだった。
「来てくれてありがとう、……えと、奥さんのお葬式以来、だね。辛かったよね、なんせお腹にいた赤ちゃんまで亡くなった事故だったもん…ごめん、こんな遠い国まで呼び出しちゃって。あっ、みんなも連れてきたんだ、ほら僕アルおじさんだよ、分かるかな?お父さんのいとこの!」
親しげに子供たちに話しかけるアルだが、父親の後ろにサッと隠れてしまう。
「……俺に用があるんじゃなかったのか」
「そ、そう!ごめん、甥っ子くんたちに会うの久しぶりで気を取られちゃってた、ええとね、単刀直入に言うと…」
「アルー、そいつ誰よ」
気まずそうに会話を繋げようとするアルの声を遮って、エドがそう質問した。
「エディは会ったことほぼないのは知ってたけど、その言い方はないでしょ…。僕らの従兄弟だよ、本家の。離れて住んでて、あんまり会えなかったんだけど…」
焦るあまり言葉を詰まらせるアルを横目に、来訪者の男は口を開き、
「……俺たち一族の話は、こいつらがいない時にして貰えないか」
そう言って、足元の子供たちを見やった。慣れない土地で萎縮しているのか、父親から離れようとしない。息子の頭を軽く撫でてやり、末っ子を抱き抱えると深く彼はため息をついた。
「確かに、教育に悪い内容ではあるもんね」
「なーだからそいつ誰って」
「黙っててエド!!今深刻な話してんの!!……ごめん、神経質になってるのに…子どもの前でこんな話するべきじゃないよね、他の人に見ててもらおっか」
子供たちが席を外すと、改めて3人は向き合って話を始めた。
「…で、僕だけじゃどうにもならないからって、現場のリアルを知ってる人を呼んだ訳です」
「それが本家のお坊ちゃん、と」
「ウチはそんなんじゃねぇ、親はクソで俺はただの死に損ないだ。」
「んで、ミスター死に損ないさんよ、アンタ名前は?」
「トリスターノ・“ルドガー“=スクアーリア。アンタらセラチェラータ家とジョバンニ家の本家に当たる…そういう訳で、アンタらの従兄弟って事だ。見ての通りドイツ系のシチリア人、腐っても共和国本土のアホ共とは違ぇからな」
「ふぅん。歳、幾つよオッサン」
「ちょっとエド、その言い方ないでしょ」
「29、まぁそう言われてもそろそろしょうがねぇ歳だわな。子持ちだと余計老けて見えるだろ」
「は?俺と3個しか変わんねぇ訳??それで子持ち?てめぇ若いうちに相当ヤったのか??嫁さんも大変だなぁオイ」
「…うるせぇ奴だな、大体子供らは実子だが、そういうコト自体嫌いなんだよ、下世話な話しやがって」
「……歳に関してはそもそも僕ら年齢差丁度3個づつ違うから…ってどうでもいい話置いといて!!」
「あぁ気にすんな、このお喋り産業廃棄物野郎が悪ぃのさ」
「それにいちいち返答しちゃう君もね…あーもういいや、本題行きます。僕ら一族は、3代に渡りこの組織を運営してきました。でもこの通り、軍資金はなし、基盤もよわよわ、人も居なくなって乗っ取られたり壊滅させられたりするのは時間の問題。そこで、立て直そうってことになったんだけど…」
「弱くてちっせぇカスマフィアにはスポンサーなんか着きやしねぇ訳」
「ってことで、他国組織との同盟を…と考えた訳ですよっと」
「例えば、何処とだ」
「今考えてるのは、お互いの問題を補えそうな連邦と…フランス。あの辺りなら僕らの抱えてる問題と、相手側の問題双方解決できるからね。僕らにはお金、相手にはビジネスと取引を。全部まーるく収まるって訳!!」
「バカかお前??」
「馬鹿、だな」
「え?!」
「だいたいそんなデケェとこと組むなんて聞いてねぇよ、同じような規模のとことやんのかと思ってたわ」
「失敗した場合を考えてないのか。連邦人と欧州人は商魂逞しく図太いドブネズミ共がワラワラいやがる。リスク管理が出来てねぇ、俺ならまずやらねぇな」
「えぇ……」
「んだよ、やましいことでもあんのか??」
「商談企画書、先方にもう送っちゃった…」
「「は?」」
空気が凍りつく。視線を泳がせるアル、驚きのあまり口が空きっぱなしのエド、着火前のタバコを落とすトリィ…会議室の空気は、小春日和だった空気を、真冬の凍てつくものへと変えてしまった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!何やってんだこのド畜生!!馬鹿!この人でなし!!んなとこと商談つけちまったら俺ら殺されんぞ!!」
「Lascia stari…tu testa di minchia,Alphonse…」
「ええいうっさい!!やっちゃったからにはしょうがないんです!!文句ナシ!僕がボス!!はい黙って従う!!なんか質問は?!」
「…おぅ」
「はいエド」
「それって、会合いつやるんだ」
「明後日だよ?」
「は?」
「明後日。2日後。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
大声を上げて全力の抗議を示すエドは、そのまま天井を仰ぎ何か悟った顔で啜り泣いた。ああもうダメだ、この考え無しの従兄弟のせいで、俺は死ぬんだ。こんな事になるならもっと美味いもん食って良い男とヤッて面白いことを沢山しておけばよかった。彼の頭の中には後悔の念が溢れ、走馬灯さえ見えていた。
「俺…死ぬ…享年26…うっうっうぅ、こんなのってねェぜ…」
「そんな話になるんなら、俺ァ共和国に帰るぜ。危険なギャンブル同然の交渉に巻き込まれて可愛いガキ共を孤児にするわけには行かねぇ、ただでさえ母親が居ねぇんだ、俺がくたばったら誰が世話する」
「待って、失敗するって決まった訳じゃないでしょ?!3日いや5日!会合含めて5日間だけ、僕を信じて。上手くいったら、事前に立てといた方針通りに進める。もし、失敗したら…僕が責任取って、どうにでもする。だから、お願い、1回だけ、信じて欲しい。」
「信じろったって、どうすんだよッ!!失敗しやがったら俺テメーのことぶち殺すからな!!覚悟しとけボケフォンスアホマヌーケ!!」
「…自分から信じろって言い出すやつは、大抵信用するに値しねぇ。そんなに協力して欲しかったら、メリットの一つや二つ言ってみろ。」
「おう、そうだそうだ!!トリスの言う通りだぜ!!説得してみろやアホンダラ!」
「わかった、説明すりゃいいんでしょ…。まず、成功する前提で言うけど、お金、地位…これが戻ってくる。そしたら、僕らはもう肩身の狭いビジネスを脱却できる。そして、君たちへの最大のメリット、お金がたくさん手に入る。エドは買いたいもの沢山買える。欲しいものリスト5枚目突入してるのは知ってるからね。んで、トリィは子供たちの養育費、学費その他もろもろの心配しなくてよくなる。大学まで賄える取り分はあるよ。それに2人ともなんの心配もなく生活出来る。組織の権威が戻れば、狙われたり他の組織に絡まれなくて良くなるし。ほら、中々好条件でしょ?それに君たちの仕事って言ったら、会合の時僕の後ろに立って警備するだけ。ま、もしかしたら仕事増えるかもだけど…」
「…俺、アルがシバかれるのに100ドル賭ける」
「殺されるに180ドル、植物人間状態に90ドル50セント」
「人の話聞きなさいって!!」
「わーったよ、5日だけな!」
頭をボリボリ掻きむしりながら呆れたようにエドがそう返す。
「しくじれば、後は分かるな」
厳しい目つきで、トリィが首を刎ねるジェスチャーをして警告する。
「よし、この話終わり!んじゃ、腹が減ってはなんとやらって事で、ご飯でも食べに行こうかね!」
「お前の奢りだぞたわけ野郎」
「もちろんそのつもりだよ最初っから…」
「付き合ってらんねぇ、一応言っとくが馴れ合うつもりは無いからな」
「付き合い悪ぃなぁ本家の奴は。あの顰めっ面ブ男め」
「しょうがないよ、僕らと違って彼はお父さんだからね…」
そうしてパッとしない空気の中、その日は解散となった。
☆☆☆
アメリカ大陸北部に位置する合衆国。その南部地域の一州の街、セイルシティ。首都とは比べると断然見劣りするが、人が犇めき、列車は轟音を立てて運行し、何時でも賑やかな都市である。そのオフィス街の一角に、彼らの本拠地があった。
「さて、どうしたもんですかね」
書斎用の上等な椅子に腰掛け、スーツ風のセットアップを着て髪をポニーテールにした細身の男、アルフォンスがため息をついた。
「どうしたもこうしたもねぇよ、金欠なんだから」
会議スペースのソファにだらんと寝転びながらスナック菓子を貪っている、茶髪にオレンジの繋ぎを着た男、エドがそう答えた。
「全部分かってるって、ほんと…。物理的に痛いぐらいに。個人資産はあるんだけどね?組織資産は…」
「そ、1万ドルあるかないかだろ?アルフォンスさんよ、テメーの資金管理がヘッタクソだからそうなんだろうが。肌身離さず持ち歩いてるそのチェックボードは何のためだァ??」
「あのねエド、本気で考えてよ。大体、君のアドバイスが適当だから…。変な契約掴まされて、詐欺だって知らずに8割持ってかれちゃったんだから…。ああもう、最悪!なんで評議会のおじい様方は『いとこのよしみだろ』って君の事組織に正式加入させちゃったのかな…父さんも父さんで最悪!元ボスだってのに、『うん、いいでしょ』って!!軽いよ、かるすぎるんだよぉぉ!!」
「サルヴァトーレおじさんはそんなもんだろ、いつも」
「んで、困り果ててしょうがないので、今後どうするかを僕や君よりもっと有識者で頭の回る親戚を助けとして呼んだ訳なんです、と」
「んな奴うちの親戚に居たのかぁ??」
「僕ら温室育ちのぬくぬくゆるゆる裏社会教育なんかじゃなくて、現場を見てきた人。南諸島の本家なんか、治安めちゃくちゃ悪いんだから。」
「ふーん、南部語キツくて何言ってっかわかんなかったら、終わりじゃねぇかよ」
「…その事を忘れてた」
「ったく大学上から3番目の成績で出てるくせに肝心なとこでアタマゆるゆるなのがなぁ、ウチの従兄弟は」
「はぁぁぁ…もうやだ。僕はボスなんかやりたくなかったのに…。ましてや、3代続くマフィアのボスなんて……」
「辞めてぇなら辞めれば」
「そしたら評議会のおじい様方や他の偉い人達に物理的にコロコロされちゃうから…僕、自分の死因が他殺ってのは嫌」
グダグダと話す2人を他所に、突然扉がノックされた。
「あっ、噂をすれば何とやらってやつだね。」
キィ、と建付けの悪いドアをくぐって入ってきたのは、季節外れな黒のタートルネックセーターとキャメルカラーのライダース、膝下まで覆うブーツを身につけた体格の良い男と、その足元にちょこんと隠れるようにして立つ子供たちだった。
「来てくれてありがとう、……えと、奥さんのお葬式以来、だね。辛かったよね、なんせお腹にいた赤ちゃんまで亡くなった事故だったもん…ごめん、こんな遠い国まで呼び出しちゃって。あっ、みんなも連れてきたんだ、ほら僕アルおじさんだよ、分かるかな?お父さんのいとこの!」
親しげに子供たちに話しかけるアルだが、父親の後ろにサッと隠れてしまう。
「……俺に用があるんじゃなかったのか」
「そ、そう!ごめん、甥っ子くんたちに会うの久しぶりで気を取られちゃってた、ええとね、単刀直入に言うと…」
「アルー、そいつ誰よ」
気まずそうに会話を繋げようとするアルの声を遮って、エドがそう質問した。
「エディは会ったことほぼないのは知ってたけど、その言い方はないでしょ…。僕らの従兄弟だよ、本家の。離れて住んでて、あんまり会えなかったんだけど…」
焦るあまり言葉を詰まらせるアルを横目に、来訪者の男は口を開き、
「……俺たち一族の話は、こいつらがいない時にして貰えないか」
そう言って、足元の子供たちを見やった。慣れない土地で萎縮しているのか、父親から離れようとしない。息子の頭を軽く撫でてやり、末っ子を抱き抱えると深く彼はため息をついた。
「確かに、教育に悪い内容ではあるもんね」
「なーだからそいつ誰って」
「黙っててエド!!今深刻な話してんの!!……ごめん、神経質になってるのに…子どもの前でこんな話するべきじゃないよね、他の人に見ててもらおっか」
子供たちが席を外すと、改めて3人は向き合って話を始めた。
「…で、僕だけじゃどうにもならないからって、現場のリアルを知ってる人を呼んだ訳です」
「それが本家のお坊ちゃん、と」
「ウチはそんなんじゃねぇ、親はクソで俺はただの死に損ないだ。」
「んで、ミスター死に損ないさんよ、アンタ名前は?」
「トリスターノ・“ルドガー“=スクアーリア。アンタらセラチェラータ家とジョバンニ家の本家に当たる…そういう訳で、アンタらの従兄弟って事だ。見ての通りドイツ系のシチリア人、腐っても共和国本土のアホ共とは違ぇからな」
「ふぅん。歳、幾つよオッサン」
「ちょっとエド、その言い方ないでしょ」
「29、まぁそう言われてもそろそろしょうがねぇ歳だわな。子持ちだと余計老けて見えるだろ」
「は?俺と3個しか変わんねぇ訳??それで子持ち?てめぇ若いうちに相当ヤったのか??嫁さんも大変だなぁオイ」
「…うるせぇ奴だな、大体子供らは実子だが、そういうコト自体嫌いなんだよ、下世話な話しやがって」
「……歳に関してはそもそも僕ら年齢差丁度3個づつ違うから…ってどうでもいい話置いといて!!」
「あぁ気にすんな、このお喋り産業廃棄物野郎が悪ぃのさ」
「それにいちいち返答しちゃう君もね…あーもういいや、本題行きます。僕ら一族は、3代に渡りこの組織を運営してきました。でもこの通り、軍資金はなし、基盤もよわよわ、人も居なくなって乗っ取られたり壊滅させられたりするのは時間の問題。そこで、立て直そうってことになったんだけど…」
「弱くてちっせぇカスマフィアにはスポンサーなんか着きやしねぇ訳」
「ってことで、他国組織との同盟を…と考えた訳ですよっと」
「例えば、何処とだ」
「今考えてるのは、お互いの問題を補えそうな連邦と…フランス。あの辺りなら僕らの抱えてる問題と、相手側の問題双方解決できるからね。僕らにはお金、相手にはビジネスと取引を。全部まーるく収まるって訳!!」
「バカかお前??」
「馬鹿、だな」
「え?!」
「だいたいそんなデケェとこと組むなんて聞いてねぇよ、同じような規模のとことやんのかと思ってたわ」
「失敗した場合を考えてないのか。連邦人と欧州人は商魂逞しく図太いドブネズミ共がワラワラいやがる。リスク管理が出来てねぇ、俺ならまずやらねぇな」
「えぇ……」
「んだよ、やましいことでもあんのか??」
「商談企画書、先方にもう送っちゃった…」
「「は?」」
空気が凍りつく。視線を泳がせるアル、驚きのあまり口が空きっぱなしのエド、着火前のタバコを落とすトリィ…会議室の空気は、小春日和だった空気を、真冬の凍てつくものへと変えてしまった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!何やってんだこのド畜生!!馬鹿!この人でなし!!んなとこと商談つけちまったら俺ら殺されんぞ!!」
「Lascia stari…tu testa di minchia,Alphonse…」
「ええいうっさい!!やっちゃったからにはしょうがないんです!!文句ナシ!僕がボス!!はい黙って従う!!なんか質問は?!」
「…おぅ」
「はいエド」
「それって、会合いつやるんだ」
「明後日だよ?」
「は?」
「明後日。2日後。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
大声を上げて全力の抗議を示すエドは、そのまま天井を仰ぎ何か悟った顔で啜り泣いた。ああもうダメだ、この考え無しの従兄弟のせいで、俺は死ぬんだ。こんな事になるならもっと美味いもん食って良い男とヤッて面白いことを沢山しておけばよかった。彼の頭の中には後悔の念が溢れ、走馬灯さえ見えていた。
「俺…死ぬ…享年26…うっうっうぅ、こんなのってねェぜ…」
「そんな話になるんなら、俺ァ共和国に帰るぜ。危険なギャンブル同然の交渉に巻き込まれて可愛いガキ共を孤児にするわけには行かねぇ、ただでさえ母親が居ねぇんだ、俺がくたばったら誰が世話する」
「待って、失敗するって決まった訳じゃないでしょ?!3日いや5日!会合含めて5日間だけ、僕を信じて。上手くいったら、事前に立てといた方針通りに進める。もし、失敗したら…僕が責任取って、どうにでもする。だから、お願い、1回だけ、信じて欲しい。」
「信じろったって、どうすんだよッ!!失敗しやがったら俺テメーのことぶち殺すからな!!覚悟しとけボケフォンスアホマヌーケ!!」
「…自分から信じろって言い出すやつは、大抵信用するに値しねぇ。そんなに協力して欲しかったら、メリットの一つや二つ言ってみろ。」
「おう、そうだそうだ!!トリスの言う通りだぜ!!説得してみろやアホンダラ!」
「わかった、説明すりゃいいんでしょ…。まず、成功する前提で言うけど、お金、地位…これが戻ってくる。そしたら、僕らはもう肩身の狭いビジネスを脱却できる。そして、君たちへの最大のメリット、お金がたくさん手に入る。エドは買いたいもの沢山買える。欲しいものリスト5枚目突入してるのは知ってるからね。んで、トリィは子供たちの養育費、学費その他もろもろの心配しなくてよくなる。大学まで賄える取り分はあるよ。それに2人ともなんの心配もなく生活出来る。組織の権威が戻れば、狙われたり他の組織に絡まれなくて良くなるし。ほら、中々好条件でしょ?それに君たちの仕事って言ったら、会合の時僕の後ろに立って警備するだけ。ま、もしかしたら仕事増えるかもだけど…」
「…俺、アルがシバかれるのに100ドル賭ける」
「殺されるに180ドル、植物人間状態に90ドル50セント」
「人の話聞きなさいって!!」
「わーったよ、5日だけな!」
頭をボリボリ掻きむしりながら呆れたようにエドがそう返す。
「しくじれば、後は分かるな」
厳しい目つきで、トリィが首を刎ねるジェスチャーをして警告する。
「よし、この話終わり!んじゃ、腹が減ってはなんとやらって事で、ご飯でも食べに行こうかね!」
「お前の奢りだぞたわけ野郎」
「もちろんそのつもりだよ最初っから…」
「付き合ってらんねぇ、一応言っとくが馴れ合うつもりは無いからな」
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