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捕獲成功
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だからって諦める訳にはいかない。
しかし核心に触れる訳にもいかない。
今は愛も恋も通じないのだ、まずは葵の居場所を確認する事が大事だ。
「葵は汚くない、今は臭いけど洗ったら落ちるよ、その為にはガメラがいる風呂を掃除しなきゃな」
「無駄だよ、染み付いてるから落ちないよ、俺は知ってる、健二さんだって知ってる」
「じゃあそれでいい、葵が臭くて汚いならそれでいい、葵は葵だ、そんな葵にいて欲しいから迎えに来たんだ、ガメラの世話だってあるのに葵がさぼるから忙しくて大変なんだぞ」
「え?新しい仕事?仕事があるの?」
「あったけどな、葵が迷子になった日に依頼が来たけど無理だから断った」
「はあ?」と驚いて目を丸めた葵から「寂しい」と「怖い」と「儚い」が消し飛んだ。
ギュウだと顎を押されてのけぞったけど、それでこそ葵だと思う。
「ちょっと健二さん退けよ、断ったって何ですか、滅多にない貴重な仕事でしょう、断る余裕なんか俺達には無いはずです」
「……うん、「俺達」には無いな」
「じゃあ何で断ったりするですか、馬鹿なの?ああ、すいません、健二さんが馬鹿だってわかってたけど怠け者だとは思ってませんでした」
「1人では無理だろ」
「無理……なんですか?俺のせい?」
「そうだけど違うよ、いいんだよ、どうせ椎名さんからの依頼だから大丈夫」
「………椎名さん?何だ、仕事の依頼までロンダリングするんですね…さすがヤクザだ」
「そうだな…」
……ちょっと小憎たらしい口調はいかにも葵らしい。ああ…捕まえたんだなと思うと、大いなる安堵が込み上げて何だかまた泣きそうになる。
「仕事の話は落ち着いてからしよう、帰るだろう?」
それは是非を問う為に言ったのでは無い。
やはりと言うか必然と言うか葵は返事を口籠もり、「ん……」と迷いのあるあやふやな相槌を打った。
答えなんか必要ないのだ。
もう一度「帰ろう」と言って手を出すと、葵らしくない、怯えるような仕草でおずおずと手を握りかえしてくる。
立ち上がって引っ張り上げると下を向いたまま腰を上げた。手を引いたまま歩き出すと素直について来る。
もう葵は逃げ出したりしないとわかっているのに、早く安心出来る場所に葵を連れて行きたくて繋いだ手に力が篭る。
この数日の間どこでどうしていたのか聞きたい。
何度も言った「チューしていいか」をどう思ってきたのか聞きたい。
「好き」をどう受け取っていたのかを聞きたい。
抱き合った事を……どう思っていたのか聞きたい。
しかし今はまず事務所に帰るのが先だ。風呂に入れて何か食べさせてあげないといけないのだ。
焦るなと、落ち着けと自分に言い聞かせ、早足になりそうな足を諌めて殊更ゆっくりと歩いた。
「月が綺麗だな」
月は見えないけどいい。
「風が気持ちいいな」
切れるくらい寒いけどそれもいい。
葵は照れたように顔を伏せ、何も答えてくれない。だけどそれでいいのだ。
ゆるゆると歩き、転けたバイクの前まで帰ってくると吐き出す息が真っ白い事に気が付いた。
寒く無いか聞こうと思ったけど寒いに決まってる。その代わりに、繋いだ手にキュッと力を込めると葵の足がバイクの手前でピタリと止まった。
強く引くわけにはいかないが振り返る事はしない。今は葵の顔を見てはいけないような気がしていた。葵には時間が必要なのだ。
「俺……」
ポツリと話を始めた葵の声は弱く、風の小さなざわめきに攫われそうだった。
ここは何も言わずにただ聞くだけでいい。
小さく「うん」と答えると、迷うように意志の無かった葵の手がキュッと握り返してきた。
「葵……急がなくていいからな」
「でも、俺は……どこででも、どんな場所でも1人で生きていけると思ってた」
「うん」
「一人でいいと思ってた」
「うん」
「ねえ……俺を売る?」
「え?」
どこに飛んだのか、葵が何を言っているのか意味がわからなかった。
馬鹿みたいに間抜けな声が出て振り返ると、下を向いた葵の伸びた前髪の隙間から笑っているような形の唇だけが見える。
「今、何て言った?」
「いいよ、それでもいい、俺……考えたんだ、どっちがいいか考えた、ずっと考えていたんだ、売られるのは嫌だけどそれでも一人よりはいい……俺はきっと稼ぐから…利用価はあるよ」
「葵?何の事?何を言ってるんだ」
硬く穿っていた脆い岩が崩れ落ち、漸く保っていた心のダムが溢れて決壊したようだった。
命乞いをする様に繋いだ手にぶら下がり、しがみ付いてくる。
「離さない」からと強く握っても、「もうやめろ」と止めても、何を言っても葵の耳には届いて無い。
「落着け、大丈夫だから落ち着け」
「一人は嫌だ……一人は嫌だった、さっき健二さんに見つかって困ったけど、放っとけなんて嘘だ。誰もいない、誰もいないんだ、一人は嫌だ」
「葵、わかってる、わかってるから、売ったりしない、違うから」
止まらない。
どうしても止まらない。
葵の懇願はただの言葉なのに身を切り、心を切り葵自身を傷付ける。
腕を引いて抱き締めるとビクッと体を縮めた葵に泣きそうになった。
何という事だろう。
葵は売られると思ってる。
ロクデナシの父親のように俺達が金づるにすると怯えてる。
それは取り様に寄っては侮辱と言えるくらいの酷い誤解だが、まさか事務所を出て行った本当の理由がこんな所にあるなんて思いもよらなかった。
その話は葵と話をするまでは触れてはいけないと思っていた。しかしその誤解はとんでもない方向に捻じ曲がって、葵はこの上なく辛い決意をしている。
「葵……どうして俺達がお前を売るなんて思うんだ、違うからな、利用価値なんて必要ない、みんな……俺も椎名も銀二さん……は知らないけど、葵が大事だから、葵が好きだからいて欲しいだけだ」
「いいよ……健二さん、取り繕うなんてしなくていい、俺はわかってる、わかってるから、借金だってまだあるんでしょう?600万だって俺にそんな価値は無いって知ってるからいいんです」
「違うから、本当に違うから、もう言っちゃうけど葵の借金は最初から嘘なんだよ、借金なんて無い、あれは葵にいて欲しいから、落ち着いて欲しいから椎名がついた嘘なんだ」
椎名は全部わかった上で葵を騙していたのだ。
借金をチラつかせてでも、非道なフリをしてでも落ち着いて信頼を得るまではと本当の事を言うなと釘を刺した。
信頼を得ていると思っていた。
もっと言えば好きなのだと伝わっていると思い込んでいた。
もうこの際だ。
恋人で無くてもいい。
無償で愛する者が近くにいるのだと伝わればいい。
「心配するな葵、臭くてもいい、汚れててもいい、勿論売ったりしない、腎臓も角膜も……体を売ったらしなくていい、だからこれからは俺が……」
泣いてるから鼻水に邪魔をされた。
息を整え、深呼吸をして言い直す。
「俺が……これからは俺が葵のお父さんになってやる、だから安心しろ」
「結構です」
「…………即答かよ」
キリッと言うな。
真面目に断るな。
「酷いな」
「酷くないです、お父さんって役柄は俺にとって鬼門です」
「じゃあ仕方ないからお母……」
「お母さんは女がいいです」
うん。葵復活。
ハハッと笑い声が聞こえて顔を上げると椎名と銀二がいた。後ろには窓が真っ黒いベンツが停まってる。銀二は花柄のエプロンをつけたままだ。
「椎名さん、来てたんですか」
「健二がお父さんなら俺はカッコいいお兄さんってとこか?」
「……何でだよ」
「じゃあ私は通りすがりに時たま会う近所のおじさんで」って……銀二さん。無理に参加しなくてもいいと思います。
じゃあ俺はお父さんで恋人だって言おうとしたけど、それは構図的にかなりまずい。
言い澱んで唸り声を上げると、葵がグッと胸を押した。
「変なお父さんは死んだあいつ1人で十分です、親父だけでも持て余してます、カッコいいお兄さんも通りがかりのおじさんも俺には必要ない、売るんなら売ればいい」
「だから…」
それは誤解だと言おうとすると椎名が待てと手で制した。
「葵くん、俺が何故葵くんを連れてきたか本当の理由を知りたいだろ?教えてあげるから帰ろ?」
椎名の言葉にハッと顔を上げた葵は「本当の理由?」と訝しげな顔をした。警戒するのは当たり前だと思うけど椎名はそんな事には気付かない振りをしていつもの笑顔を浮かべた。
「うん、だからまずは事務所に帰ってお風呂に入ろう?銀二がパンケーキを作ってくれてるよ」
「椎名さん、銀二さんが作ったのはハンバーグだけですよ」
「苺と生クリームの乗ったパンケーキだ」
振り返りもせず、強く言い切った椎名に銀二は「わかりました」と頭を下げた。花柄のエプロンが妙に浮いているがよく躾られた犬だと思う。
こんな時間に苺と生クリームの乗ったパンケーキを用意しろ言われても困るだろうに、一切の感情が外に出ないって凄い。
そして椎名は勝手で暴君で隠し事が多過ぎる。
「さあ」と手を出した椎名の腕に葵が呆然と手を伸ばそうとしたから奪ってやった。
「葵、帰るぞ」
「健二、葵くんは冷え切ってるだろ、バイクは可哀想じゃないか?」
「わかってるよ、椎名さんの車に乗れって言ったんだ」
嘘つけと笑う椎名。
触るなと手を振り払う葵。
いつもの光景が戻ったような気がしてホッとしていると、椎名が特上の笑顔で「おかえり」と葵の頭をなでた。
しかし核心に触れる訳にもいかない。
今は愛も恋も通じないのだ、まずは葵の居場所を確認する事が大事だ。
「葵は汚くない、今は臭いけど洗ったら落ちるよ、その為にはガメラがいる風呂を掃除しなきゃな」
「無駄だよ、染み付いてるから落ちないよ、俺は知ってる、健二さんだって知ってる」
「じゃあそれでいい、葵が臭くて汚いならそれでいい、葵は葵だ、そんな葵にいて欲しいから迎えに来たんだ、ガメラの世話だってあるのに葵がさぼるから忙しくて大変なんだぞ」
「え?新しい仕事?仕事があるの?」
「あったけどな、葵が迷子になった日に依頼が来たけど無理だから断った」
「はあ?」と驚いて目を丸めた葵から「寂しい」と「怖い」と「儚い」が消し飛んだ。
ギュウだと顎を押されてのけぞったけど、それでこそ葵だと思う。
「ちょっと健二さん退けよ、断ったって何ですか、滅多にない貴重な仕事でしょう、断る余裕なんか俺達には無いはずです」
「……うん、「俺達」には無いな」
「じゃあ何で断ったりするですか、馬鹿なの?ああ、すいません、健二さんが馬鹿だってわかってたけど怠け者だとは思ってませんでした」
「1人では無理だろ」
「無理……なんですか?俺のせい?」
「そうだけど違うよ、いいんだよ、どうせ椎名さんからの依頼だから大丈夫」
「………椎名さん?何だ、仕事の依頼までロンダリングするんですね…さすがヤクザだ」
「そうだな…」
……ちょっと小憎たらしい口調はいかにも葵らしい。ああ…捕まえたんだなと思うと、大いなる安堵が込み上げて何だかまた泣きそうになる。
「仕事の話は落ち着いてからしよう、帰るだろう?」
それは是非を問う為に言ったのでは無い。
やはりと言うか必然と言うか葵は返事を口籠もり、「ん……」と迷いのあるあやふやな相槌を打った。
答えなんか必要ないのだ。
もう一度「帰ろう」と言って手を出すと、葵らしくない、怯えるような仕草でおずおずと手を握りかえしてくる。
立ち上がって引っ張り上げると下を向いたまま腰を上げた。手を引いたまま歩き出すと素直について来る。
もう葵は逃げ出したりしないとわかっているのに、早く安心出来る場所に葵を連れて行きたくて繋いだ手に力が篭る。
この数日の間どこでどうしていたのか聞きたい。
何度も言った「チューしていいか」をどう思ってきたのか聞きたい。
「好き」をどう受け取っていたのかを聞きたい。
抱き合った事を……どう思っていたのか聞きたい。
しかし今はまず事務所に帰るのが先だ。風呂に入れて何か食べさせてあげないといけないのだ。
焦るなと、落ち着けと自分に言い聞かせ、早足になりそうな足を諌めて殊更ゆっくりと歩いた。
「月が綺麗だな」
月は見えないけどいい。
「風が気持ちいいな」
切れるくらい寒いけどそれもいい。
葵は照れたように顔を伏せ、何も答えてくれない。だけどそれでいいのだ。
ゆるゆると歩き、転けたバイクの前まで帰ってくると吐き出す息が真っ白い事に気が付いた。
寒く無いか聞こうと思ったけど寒いに決まってる。その代わりに、繋いだ手にキュッと力を込めると葵の足がバイクの手前でピタリと止まった。
強く引くわけにはいかないが振り返る事はしない。今は葵の顔を見てはいけないような気がしていた。葵には時間が必要なのだ。
「俺……」
ポツリと話を始めた葵の声は弱く、風の小さなざわめきに攫われそうだった。
ここは何も言わずにただ聞くだけでいい。
小さく「うん」と答えると、迷うように意志の無かった葵の手がキュッと握り返してきた。
「葵……急がなくていいからな」
「でも、俺は……どこででも、どんな場所でも1人で生きていけると思ってた」
「うん」
「一人でいいと思ってた」
「うん」
「ねえ……俺を売る?」
「え?」
どこに飛んだのか、葵が何を言っているのか意味がわからなかった。
馬鹿みたいに間抜けな声が出て振り返ると、下を向いた葵の伸びた前髪の隙間から笑っているような形の唇だけが見える。
「今、何て言った?」
「いいよ、それでもいい、俺……考えたんだ、どっちがいいか考えた、ずっと考えていたんだ、売られるのは嫌だけどそれでも一人よりはいい……俺はきっと稼ぐから…利用価はあるよ」
「葵?何の事?何を言ってるんだ」
硬く穿っていた脆い岩が崩れ落ち、漸く保っていた心のダムが溢れて決壊したようだった。
命乞いをする様に繋いだ手にぶら下がり、しがみ付いてくる。
「離さない」からと強く握っても、「もうやめろ」と止めても、何を言っても葵の耳には届いて無い。
「落着け、大丈夫だから落ち着け」
「一人は嫌だ……一人は嫌だった、さっき健二さんに見つかって困ったけど、放っとけなんて嘘だ。誰もいない、誰もいないんだ、一人は嫌だ」
「葵、わかってる、わかってるから、売ったりしない、違うから」
止まらない。
どうしても止まらない。
葵の懇願はただの言葉なのに身を切り、心を切り葵自身を傷付ける。
腕を引いて抱き締めるとビクッと体を縮めた葵に泣きそうになった。
何という事だろう。
葵は売られると思ってる。
ロクデナシの父親のように俺達が金づるにすると怯えてる。
それは取り様に寄っては侮辱と言えるくらいの酷い誤解だが、まさか事務所を出て行った本当の理由がこんな所にあるなんて思いもよらなかった。
その話は葵と話をするまでは触れてはいけないと思っていた。しかしその誤解はとんでもない方向に捻じ曲がって、葵はこの上なく辛い決意をしている。
「葵……どうして俺達がお前を売るなんて思うんだ、違うからな、利用価値なんて必要ない、みんな……俺も椎名も銀二さん……は知らないけど、葵が大事だから、葵が好きだからいて欲しいだけだ」
「いいよ……健二さん、取り繕うなんてしなくていい、俺はわかってる、わかってるから、借金だってまだあるんでしょう?600万だって俺にそんな価値は無いって知ってるからいいんです」
「違うから、本当に違うから、もう言っちゃうけど葵の借金は最初から嘘なんだよ、借金なんて無い、あれは葵にいて欲しいから、落ち着いて欲しいから椎名がついた嘘なんだ」
椎名は全部わかった上で葵を騙していたのだ。
借金をチラつかせてでも、非道なフリをしてでも落ち着いて信頼を得るまではと本当の事を言うなと釘を刺した。
信頼を得ていると思っていた。
もっと言えば好きなのだと伝わっていると思い込んでいた。
もうこの際だ。
恋人で無くてもいい。
無償で愛する者が近くにいるのだと伝わればいい。
「心配するな葵、臭くてもいい、汚れててもいい、勿論売ったりしない、腎臓も角膜も……体を売ったらしなくていい、だからこれからは俺が……」
泣いてるから鼻水に邪魔をされた。
息を整え、深呼吸をして言い直す。
「俺が……これからは俺が葵のお父さんになってやる、だから安心しろ」
「結構です」
「…………即答かよ」
キリッと言うな。
真面目に断るな。
「酷いな」
「酷くないです、お父さんって役柄は俺にとって鬼門です」
「じゃあ仕方ないからお母……」
「お母さんは女がいいです」
うん。葵復活。
ハハッと笑い声が聞こえて顔を上げると椎名と銀二がいた。後ろには窓が真っ黒いベンツが停まってる。銀二は花柄のエプロンをつけたままだ。
「椎名さん、来てたんですか」
「健二がお父さんなら俺はカッコいいお兄さんってとこか?」
「……何でだよ」
「じゃあ私は通りすがりに時たま会う近所のおじさんで」って……銀二さん。無理に参加しなくてもいいと思います。
じゃあ俺はお父さんで恋人だって言おうとしたけど、それは構図的にかなりまずい。
言い澱んで唸り声を上げると、葵がグッと胸を押した。
「変なお父さんは死んだあいつ1人で十分です、親父だけでも持て余してます、カッコいいお兄さんも通りがかりのおじさんも俺には必要ない、売るんなら売ればいい」
「だから…」
それは誤解だと言おうとすると椎名が待てと手で制した。
「葵くん、俺が何故葵くんを連れてきたか本当の理由を知りたいだろ?教えてあげるから帰ろ?」
椎名の言葉にハッと顔を上げた葵は「本当の理由?」と訝しげな顔をした。警戒するのは当たり前だと思うけど椎名はそんな事には気付かない振りをしていつもの笑顔を浮かべた。
「うん、だからまずは事務所に帰ってお風呂に入ろう?銀二がパンケーキを作ってくれてるよ」
「椎名さん、銀二さんが作ったのはハンバーグだけですよ」
「苺と生クリームの乗ったパンケーキだ」
振り返りもせず、強く言い切った椎名に銀二は「わかりました」と頭を下げた。花柄のエプロンが妙に浮いているがよく躾られた犬だと思う。
こんな時間に苺と生クリームの乗ったパンケーキを用意しろ言われても困るだろうに、一切の感情が外に出ないって凄い。
そして椎名は勝手で暴君で隠し事が多過ぎる。
「さあ」と手を出した椎名の腕に葵が呆然と手を伸ばそうとしたから奪ってやった。
「葵、帰るぞ」
「健二、葵くんは冷え切ってるだろ、バイクは可哀想じゃないか?」
「わかってるよ、椎名さんの車に乗れって言ったんだ」
嘘つけと笑う椎名。
触るなと手を振り払う葵。
いつもの光景が戻ったような気がしてホッとしていると、椎名が特上の笑顔で「おかえり」と葵の頭をなでた。
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