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あんたは誰?
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「外が気になる?」
「え?…ああ……いや」
凄く長い間、何も考えずにただ呆けていたように思う。間延びした時間は熱を帯びた体を冷やし汗が引いている。
知らない間に隣に立ってた遥果さんは少し皮肉な顔をして「年寄りばっかだろ?」とプチな毒を吐き珈琲カップと汗をかいた大きな硝子のコップが乗ったお盆を置いた。
テーブルも椅子も全部本物の木の一枚板で出来てる。二つ並んだ節が人の顔に見えた。
珈琲からは芳しい湯気が上がっている。
ニコニコと微笑む遥果は「どうぞ」と、水の入ったコップを前に出して、そのまま前の席に座った。
「大人しいね、疲れた?」
「いや、いい天気だなって思ってただけですよ」
「ありがとう」と礼を言ってからコップに口を付けた。氷が欲しいな……なんて思いながら一口飲んでみると酷く美味い。
口から入る水の行き着く先は胃の筈なのに、まるで血管に流れ込み、四肢の隅々まで染み込んで行くようだ。
いったん飲み出したら止まらなくなってゴクゴクと最後の一滴まで飲み干してしまった。
「うわあ、美味しい」
「間に合った………かな?」
「はい?」
「うん、間に合ったみたいだね」
「まあ…間に合いました」
ハハッと笑ったら、ハハッと笑い返してくる。
記憶が無いと笑って言える遥果はちょっと変わり者みたいだ。
ちょっと世話になったりはするだろうが、どうせ生活圏が違う、今は適当に合わせて笑っておいたらいいと思う。「もう一杯水を飲む?」と聞くから「お願いします」と答えたのに、「もう大丈夫だから珈琲を飲みなさい」って何だそれ。
まあ、つまり会話はテキトーでいいって事だ。
「遥果さんはこの店で働いてるんですか?」
「働いてるってってか…まあ、囚われていると言ってもいいかな、俺はね、もうずっと長い事ここから動けないんだよ」
「でも暇そうでいいじゃ無いですか」
「暇じゃ無いよ、結構忙しいけど……まあ退屈ではある」
「退屈なんですか?」
「うん、退屈」
忙しくても、退屈でもおれには関係無いからどっちでもいいけど、のしっと手に乗った手は何だ。気を悪くしないようにそーっと手を引こうとすると、拾い上げられ両手に包まれる。
店を手伝って行けとか、草むしりをしろとか、何か頼み事をされる気配に警戒を強めると、握られた手が遥果の口元に運ばれチュッ。
ガタンと傾いた椅子から落ちそうになった。
「そんなに驚く?」
「何?…何ですか?」
「いや、ちょっと遊んで行かないかな~……なんてね」
「遊ぶって?!ばどみんとん?びーちばれー?!海水浴にはまだ早いし、その俺はマラソン走ってたからあんまり体力を使う遊びは…」
「体力は……まあ使うかもしれないけど気持ちいいかもしれないよ?」
「何が?!」
「だって君は可愛いから」って。
ああ、不細工だと思った事は無いよ、彼女ができた事ないけどな。
昔から可愛いってよく言われるよ、彼女ができた事ないけどな。
可愛いって言われたらそれなりに嬉しいよ、何の役にも立たないけどな!
でもそれが遊びと何の関係がある?
気持ちいいって何?!
そして何故隣の椅子に映ってくる。
肩に回った腕が顎をこちょこちょって何だ。
しかも顔が近い。
「あの?!遥果さん?!」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「減るよっ!!」
メンタルが減る。
男としての估券が減る。
遥果が何を所望しているのかは聞かなくてもわかった。
この人はホモなのだ。
何でそんな話になったのかは忘れたけど「ホモに気を付けろ」って揶揄いに乗って、手を挙げる喧嘩したのは確か高2の頃だ。
でもそれは身近に無いからこその悪口だ。
そんな事は絶対に無いって思ってた。男に迫られるなんてこの世に存在しないって思ってた。
ここは、殴って押し倒して逃げたらいいんだけど、最低限のお金だけは借りたいって一瞬迷ったせいで逃げ遅れてる。
「初対面ですよ?!初めて会ってからまだ10分も経ってませんよ?!」
「いいからいいから」
「何がいいんですか!」
「まあまあ」
「まあまあじゃない!」
窓際に座っていたのが運の尽きだ。地味な抵抗は虚しく、肩を抱いた手が耳を覆い、引き寄せられて遥果の口が頬にムチュッとくっ付いた。
「ひい」
頬とは言え……ファーストキスの相手が男。
しかも見ず知らず、会って間もない知らない男だ。
しかしまだ頬にチューされただけだ、今逃げれば冗談の範囲で済むと必死で顔を背けて暴れると、何と、遥果の腕が腰に巻き付いた。
これ強姦じゃん!
浜で俺を拾ったのって親切じゃ無いの?!
まさか俺は甘い言葉に乗って連れ込まれたの?
これが噂の「家まで付いてきたんだから今更文句を言うな」ってやつ?
無いよ!
「ちょっと!!何何何?!遥果さん!」
「達也はやっぱり可愛いな」
「呼び捨てにすんな!友達じゃ無い!可愛くない!気持ち悪い!俺はホモじゃない!」
「この際性別なんてどうでもいいでしょ」
「俺は良くない!」
店の外には誰彼いる筈なのだ。
窓は大きいしガラスは薄い。
悲鳴が聞こえて助けが来ないかと声の限り叫んでみたが遥果は動じない。
顔と顔が近くて頭と腰を絡め取られてもう駄目だって泣きそうになった瞬間だった。
俺の悲鳴を上回る大声が店の入り口から聞こえた。
「何であんたなのよ!!」
「そっちこそ今更文句を言うな!!」
この店は常設の連れ込み宿なのか?って思った。
だって窓が揺れるくらいの悲鳴をあげてたのにコメント無し、誰もいない店の中で男が男と抱き合って喚いているのにこっちを見もしないでひたすら喧嘩をしてる。
それでも遥果は「ああ~残念」と腕を緩めて離してくれたのだ、口の悪いカップルさん。危ない所を助けてくれてありがとう。
礼は言うけど心の中でだけだ。
だって取りつく島も無い。
「一人で死ね!」「お前が死ね」お互いに「死ね」「死ね」を連発しているカップルは「いらっしゃい」と挨拶をした遥果を綺麗に無視して席に着こうともしない。
だから遥果は注文も取れないでいる。
これは逃げ出すチャンスと言えばそうなのだが、人目を憚らない生の大喧嘩はちょっと面白かった。困り果てている遥果も面白いし、いい気味だって笑える。
しかし、遥果は酷く荒々しく言い合いを止めに入るかと思えばそうしなかった。
腕組みをした手を顎に当てて黙って見ているだけだ。カップルの喧嘩は益々ヒートアップしてそのうちに刃物でも持ち出しそうな雰囲気になってる。
「あの、遥果さん、そろそろ止めに入った方が良くないですか?」
「いや、どうせ今生の別れなんだから言いたい事を吐き出した方がいいと思うよ?」
「そんな冷たい……大体別れると決まったわけじゃないでしょう、今止めないと、それこそもう別れるしか無くなりますよ」
喧嘩の内容はもう出会いから否定しているのだ。
そして、お前がああした、あんたがこう言ったを超えて、ブスとか短足とかオナラが臭いなど身体的な特徴にまで及んでいる。
今は酷い形相をしているが女は若く一般的に見てもかなり綺麗な方だと思う。
男も男でイケメンって程では無いが背が高く真面目そうないい男に見える。
その中で、とても少ない相手の粗を探しての罵倒だ。
何であんたなんかと。
お前よりマシないい女が他にいた。
あんたのセックスは単調で退屈。
お前のアソコはガバガバ。
それは短小フニャチンのあんたが悪い、感じる演技は大変。
……うん、人として言ってはいけない領域に入ってる。
「あのっ!」
思わず出た叫び声は思ったよりも大きくて、ピタリと止まった怒号が消えて無くなると、冷や汗をかく程の静寂が店の中を覆った。
こうなると普段は煩い街の喧騒が懐かしい。
「……あの……ですね……一回落ち着いて……何か飲んだ方がいいのでは無いかと思います」
そう。
看板は無いし、店守をしているらしい遥果は仕事への熱意はゼロだけど、一応営業している(らしい)ここは喫茶店なのだ。
喧嘩をするにしてもまずは注文するのが筋だろう。
「こ……珈琲が…ですね、とても…ですね…いい匂いがしますよ」
まだ飲んで無いから匂いしか語れないって所が酷く貧弱だったけど、聞くに耐えない言い合いは一応止められたらしい。
座ってくださいと椅子を勧めると、素直に座ってくれた。それはいいけど……
最悪最低な事に、座った途端に女の人がさめざめと泣き出してしまった。
「珈琲で……いいですか」
女は顔を覆ったままコクンと頷き、男はすまなさそうに珈琲をお願いします、と頭を下げた。
「遥果さん、珈琲を二つお願いします」
「うん、飛びっきり美味しい珈琲を淹れるよ」
パチンと飛んで来たウィンクは今しがた男が男を強姦しようとした悪事の片鱗も見えない。それどころか、カウンターに入り、豆を挽く遥果を落ち着いて見てみると、目鼻立ちの整ったとても綺麗な顔をしている事に気付いてしまったりする。
別に顔が良くても「じゃあいいや」とはならないから、今逃げ出すべきなのだろう。しかし図らずも人のプラベートに余計な介入をしてしまったのだ。「じゃあ俺はこれで」って帰る訳にもいかずに、カップルから離れた元の席に戻り、熱さの抜けた珈琲を口にした。
暫くは静かに泣きさざめく女性の声しか音が無かった。海は余程凪いでいるのかすぐ側なのに波音もしない。
こうなると「音」に慣れた耳が寂しい。
小学生の時に訪れた深い山でのキャンプでは、リーリーコロコロと煩かった虫の声が一斉にピタリと止んで、静かだなって思っていると何の予兆も無く突然の豪雨に襲われた。
普通の街に住む俺達に取って「静寂」とは何か重大な異変の象徴なのだ。電車が止まる程の大雪が降ったら静かだよね、停電したら静かだよね。
誰かが激ギレしたら静かになるよね。
今は、そんな状態な筈なのだけど、何故か店の中は優しい空気に包まれていた。
突如訪れた静寂の旋律は激しい口論の末のやり切った感なんだと思う。
そこで、「聞いてくれますか?」と口火を切ったのはカップルの男だ。
見てはいけないと思い、背中を向けていた方を振り返ると、それは誰に対しての問いかけでは無いらしい。天井を見つめる目は自嘲に溢れて宙に浮いていた。
しかしこの店の中には当事者の女性を除けば知らん顔を決め込んだ遥果と俺しかいない。
ラフなスポーツウェアに5079と番号の入ったゼッケンを付けた変な奴で良ければと、椅子の向きを変えた。
「俺達は……」
ポツリと始まった2人の物語は、良くある安い小説か、あんまり練られてないドラマの脚本みたいだった。
要するに、彼女は深窓のお嬢様で(大病院を経営する親の元に産まれた1人娘なんですと)とある有望な医師との婚約が決まっていた。そんな折に出逢ってしまったのが高卒で飲食店の見習いだからと、バイト以下の給料で働く彼だった。
折れたヒールに困っていた所を助けたんだって。そして、2人は当たり前に恋に落ち、それが親にバレると当たり前に反対された。
彼女の婚約には愛だの恋だの心が入る隙間なんて無いのだ。
沢山の従業員、沢山の患者、政治を含む沢山の付き合い、その全てが彼女の肩に掛かっていた。
小さい頃からその為の教育を受けてきたのだ。
勿論彼女はその重責を理解していた。
しかし心は別物だ。
強権を持つ彼女の父親はありとあらゆる手段を使い、恋に落ちた2人の邪魔をした。
しかし、それは逆効果だったのだろう、恋に溺れる二人の間に優美な吊り橋効果を生み、わかりやすい逆境は許されない恋のテンションを益々上げた。
そこで2人が出した結論は心中だった。
「え?!うそ?心中?!死ぬの?2人で?何で?!」
我ながら空気を読まない素っ頓狂な声が出たって驚いたけど、この現代に心中なんて古臭いワードが出た方に驚いた。
大病院の経営って、そりゃ想像も付かないくらい大変だろうけど、いざとなったら他に変わりがいる。
そして、いくらお父さんが強権だったとしても一市民だろう、その権力が及ぶ範囲は限られているのだ。
何も死ななくても、どこかに……何なら外国にでも逃げたら追っては来れない。そのうちに孫でも連れて帰れば頑なな親とだって和解出来ると思う。もし出来なきゃ離れて暮らせばいいだけだ。
「愚かでしょう?」
「はあ……まあ…」
「で……今ちょっと後悔してて……ついこんな事に……お恥ずかしい」
どう返事していいか迷う。
しかし、そこで「どうぞ」と遥果が珈琲を運んで来た。長い話だったけど、腰を折りたく無かったのだろう、珈琲を淹れるには十分過ぎる時間が経っていた。
もう泣き止んでいた彼女さんはペコリと頭を下げ、カップの取手を楚々と指先で摘む。
その仕草はとても品が良く「深窓のお嬢様」が本当なのだと知れた。
だって「ガバガバが嫌なら鶏にでも突っ込んどけ」って喚いてたんだよ?信じられない。
カップに口を付ける彼女を焦がれたような目で見つめる彼氏も、今しがた酷い罵詈雑言を投げていた男と同じ人間だとは思えない。
ホッとしたように「美味しい…」と呟いた彼女を見て、同じくホッとしたようだ。珈琲に口を付けて「美味しいね」と笑い合ってる。
何だこれ。
副題かコピーライトをしたら…
「芳醇な香りがもたらす幸せ?」
「一杯の珈琲が2人を繋ぐ?」
え?才能無い?じゃあ止める。
殺し合いをしかねないと冷や汗を掻き、相手を傷付ける為だけの無遠慮な罵倒に疲弊したのは何だったんだ。
所詮人の色恋は他人が見てもわからないってこの事だ。こんな事なら放っておいても2人は仲直りしたと思う。何もTシャツに半ズボンで汗臭い若造が口出しするなんて余計な真似だった。
しゅんと項垂れて、もうすっかり冷めてしまった珈琲に口を付けるとポンっと肩に手が乗った。
そして遥果は新しいカップと取り替えてくれる。
「ありがと…」
「どういたしまして」
穏やかに微笑む遥果は落ち込む俺を慰めているんだと思う。最初から全部わかっていたんだ。
そして椅子には座らず店のドアを開けた。
「もう……行けますか?」
「はい」と穏やかな2人の笑み。
2人はしっかりと手を繋ぎ、話を聞いてくれてありがとう…と、言葉を残して店を出て行った。
俺達は手を振って2人のお見送りをしたけど、姿が見えなくなってからある重大な見落としに気が付いた。
「あれ?……あれ?…あの…今のカップル…お金を払いました?」
「ああ、いいんだよ」
「いいの?!いや、良く無いでしょう?!」
「いいんだったら」
「駄目ですよ!人情は人情、商売は商売、そこは別だと思います」
「達也は?お金払う?」
ゴイーンと言葉に殴られた。
「………今すぐは払えないけど…後で返します」
「お金はいいったら」
「いいの?本当に?」
「うん、いい」
「いいのか……」
いいならいいんだけど、実は………、俺の中では有らぬ疑いが生まれていた。
ビーチに最適な先の見えない広く美しい間海岸線。平たい草地は店でも駐車場でも存分に作れるくらい広い。
なのに、開店している店は一軒きりで、他には建物すら無い。
いつだったかネットで見たのだ。
スマホサイズの日本地図で人差し指の太さはある沿岸線一帯に異様な空白があるとか無いとか。
地図にも載ってない、殆どの人がその存在を知らない、下手をすると治外法権で日本ですら無い。
そんな土地があると。
マラソン大会からコースアウトして知らない間に立ち入り禁止に入ってしまうなんて、危ないとこには見張りでも立てとけって思うけど、ここは日本にもあると噂になってる完全なる私有地なのかもしれない。
だって、いくら考えてもおかしいのだ。
例えば天の橋立って聞いたら、行った事無いし行く予定も無いし行きたいともまだ思ってないのに、海岸線の美しい風景が頭に浮かぶよな?
富良野だ美英だって聞いたら広大な景色が頭に浮かぶ、それは国内に留まらず、アンコールワットと聞いたら石造りの遺跡が思い浮かぶし、どこか名前は知らないけど見た事あるって風景は山程ある。
それはいつかどこかで意識もしないで目にしているからで、何が言いたいって、今…そこのドアを潜れば目に入る、日本には稀な広大な景色を知らないなんておかしい。
例え、有名でなくても、酷く青い海と白い砂の広い海岸線なんて誰かが写真を上げたりしている筈だ。そしてそれは絶対に1人じゃ無い。
そして、2時間余りの間、この店に来た客は俺を入れても3人きりだ。そのうちの誰からもお金を払って貰えないのに笑っている遥果には商売をする気が無いと思う。
もしかしたらとんでもない富豪のお坊ちゃんだったりするかもしれない。
説明するとややこしいから「記憶が無い」って設定を作り、浴びせられる質問から回避してるのかもしれない。
だって、店の中でいきなりチューだぞ?誰も来ないって前提じゃん。
珈琲一杯4、500円だとして、10人来ても5000円だ。そのうちの三杯分、いやおかわり貰ったから4杯だ、つまり2000円分なのに「お金はいらない」っておかし過ぎる。
広大な秘密の土地を持つお父さんは(ガウンを着て葉巻を吸ってる)ホモで働かないふんわりとした息子の為に擬似で仮の喫茶店を与え、「働く厳しさを学んできなさい」とか言いつつ生活の面倒は見ている……。
そりゃ、収入が無くても、勝手気儘に振る舞っても、誰も何も言わないよな。
そして俺は彼の領地に無防備なランニングウェアのまま誘い込まれている訳だ。
これは非常に危ない。
逃げるが勝ちだ。
逃げないと色々危ない。
「では……俺はこの辺で……」
「え?…ああ……いや」
凄く長い間、何も考えずにただ呆けていたように思う。間延びした時間は熱を帯びた体を冷やし汗が引いている。
知らない間に隣に立ってた遥果さんは少し皮肉な顔をして「年寄りばっかだろ?」とプチな毒を吐き珈琲カップと汗をかいた大きな硝子のコップが乗ったお盆を置いた。
テーブルも椅子も全部本物の木の一枚板で出来てる。二つ並んだ節が人の顔に見えた。
珈琲からは芳しい湯気が上がっている。
ニコニコと微笑む遥果は「どうぞ」と、水の入ったコップを前に出して、そのまま前の席に座った。
「大人しいね、疲れた?」
「いや、いい天気だなって思ってただけですよ」
「ありがとう」と礼を言ってからコップに口を付けた。氷が欲しいな……なんて思いながら一口飲んでみると酷く美味い。
口から入る水の行き着く先は胃の筈なのに、まるで血管に流れ込み、四肢の隅々まで染み込んで行くようだ。
いったん飲み出したら止まらなくなってゴクゴクと最後の一滴まで飲み干してしまった。
「うわあ、美味しい」
「間に合った………かな?」
「はい?」
「うん、間に合ったみたいだね」
「まあ…間に合いました」
ハハッと笑ったら、ハハッと笑い返してくる。
記憶が無いと笑って言える遥果はちょっと変わり者みたいだ。
ちょっと世話になったりはするだろうが、どうせ生活圏が違う、今は適当に合わせて笑っておいたらいいと思う。「もう一杯水を飲む?」と聞くから「お願いします」と答えたのに、「もう大丈夫だから珈琲を飲みなさい」って何だそれ。
まあ、つまり会話はテキトーでいいって事だ。
「遥果さんはこの店で働いてるんですか?」
「働いてるってってか…まあ、囚われていると言ってもいいかな、俺はね、もうずっと長い事ここから動けないんだよ」
「でも暇そうでいいじゃ無いですか」
「暇じゃ無いよ、結構忙しいけど……まあ退屈ではある」
「退屈なんですか?」
「うん、退屈」
忙しくても、退屈でもおれには関係無いからどっちでもいいけど、のしっと手に乗った手は何だ。気を悪くしないようにそーっと手を引こうとすると、拾い上げられ両手に包まれる。
店を手伝って行けとか、草むしりをしろとか、何か頼み事をされる気配に警戒を強めると、握られた手が遥果の口元に運ばれチュッ。
ガタンと傾いた椅子から落ちそうになった。
「そんなに驚く?」
「何?…何ですか?」
「いや、ちょっと遊んで行かないかな~……なんてね」
「遊ぶって?!ばどみんとん?びーちばれー?!海水浴にはまだ早いし、その俺はマラソン走ってたからあんまり体力を使う遊びは…」
「体力は……まあ使うかもしれないけど気持ちいいかもしれないよ?」
「何が?!」
「だって君は可愛いから」って。
ああ、不細工だと思った事は無いよ、彼女ができた事ないけどな。
昔から可愛いってよく言われるよ、彼女ができた事ないけどな。
可愛いって言われたらそれなりに嬉しいよ、何の役にも立たないけどな!
でもそれが遊びと何の関係がある?
気持ちいいって何?!
そして何故隣の椅子に映ってくる。
肩に回った腕が顎をこちょこちょって何だ。
しかも顔が近い。
「あの?!遥果さん?!」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「減るよっ!!」
メンタルが減る。
男としての估券が減る。
遥果が何を所望しているのかは聞かなくてもわかった。
この人はホモなのだ。
何でそんな話になったのかは忘れたけど「ホモに気を付けろ」って揶揄いに乗って、手を挙げる喧嘩したのは確か高2の頃だ。
でもそれは身近に無いからこその悪口だ。
そんな事は絶対に無いって思ってた。男に迫られるなんてこの世に存在しないって思ってた。
ここは、殴って押し倒して逃げたらいいんだけど、最低限のお金だけは借りたいって一瞬迷ったせいで逃げ遅れてる。
「初対面ですよ?!初めて会ってからまだ10分も経ってませんよ?!」
「いいからいいから」
「何がいいんですか!」
「まあまあ」
「まあまあじゃない!」
窓際に座っていたのが運の尽きだ。地味な抵抗は虚しく、肩を抱いた手が耳を覆い、引き寄せられて遥果の口が頬にムチュッとくっ付いた。
「ひい」
頬とは言え……ファーストキスの相手が男。
しかも見ず知らず、会って間もない知らない男だ。
しかしまだ頬にチューされただけだ、今逃げれば冗談の範囲で済むと必死で顔を背けて暴れると、何と、遥果の腕が腰に巻き付いた。
これ強姦じゃん!
浜で俺を拾ったのって親切じゃ無いの?!
まさか俺は甘い言葉に乗って連れ込まれたの?
これが噂の「家まで付いてきたんだから今更文句を言うな」ってやつ?
無いよ!
「ちょっと!!何何何?!遥果さん!」
「達也はやっぱり可愛いな」
「呼び捨てにすんな!友達じゃ無い!可愛くない!気持ち悪い!俺はホモじゃない!」
「この際性別なんてどうでもいいでしょ」
「俺は良くない!」
店の外には誰彼いる筈なのだ。
窓は大きいしガラスは薄い。
悲鳴が聞こえて助けが来ないかと声の限り叫んでみたが遥果は動じない。
顔と顔が近くて頭と腰を絡め取られてもう駄目だって泣きそうになった瞬間だった。
俺の悲鳴を上回る大声が店の入り口から聞こえた。
「何であんたなのよ!!」
「そっちこそ今更文句を言うな!!」
この店は常設の連れ込み宿なのか?って思った。
だって窓が揺れるくらいの悲鳴をあげてたのにコメント無し、誰もいない店の中で男が男と抱き合って喚いているのにこっちを見もしないでひたすら喧嘩をしてる。
それでも遥果は「ああ~残念」と腕を緩めて離してくれたのだ、口の悪いカップルさん。危ない所を助けてくれてありがとう。
礼は言うけど心の中でだけだ。
だって取りつく島も無い。
「一人で死ね!」「お前が死ね」お互いに「死ね」「死ね」を連発しているカップルは「いらっしゃい」と挨拶をした遥果を綺麗に無視して席に着こうともしない。
だから遥果は注文も取れないでいる。
これは逃げ出すチャンスと言えばそうなのだが、人目を憚らない生の大喧嘩はちょっと面白かった。困り果てている遥果も面白いし、いい気味だって笑える。
しかし、遥果は酷く荒々しく言い合いを止めに入るかと思えばそうしなかった。
腕組みをした手を顎に当てて黙って見ているだけだ。カップルの喧嘩は益々ヒートアップしてそのうちに刃物でも持ち出しそうな雰囲気になってる。
「あの、遥果さん、そろそろ止めに入った方が良くないですか?」
「いや、どうせ今生の別れなんだから言いたい事を吐き出した方がいいと思うよ?」
「そんな冷たい……大体別れると決まったわけじゃないでしょう、今止めないと、それこそもう別れるしか無くなりますよ」
喧嘩の内容はもう出会いから否定しているのだ。
そして、お前がああした、あんたがこう言ったを超えて、ブスとか短足とかオナラが臭いなど身体的な特徴にまで及んでいる。
今は酷い形相をしているが女は若く一般的に見てもかなり綺麗な方だと思う。
男も男でイケメンって程では無いが背が高く真面目そうないい男に見える。
その中で、とても少ない相手の粗を探しての罵倒だ。
何であんたなんかと。
お前よりマシないい女が他にいた。
あんたのセックスは単調で退屈。
お前のアソコはガバガバ。
それは短小フニャチンのあんたが悪い、感じる演技は大変。
……うん、人として言ってはいけない領域に入ってる。
「あのっ!」
思わず出た叫び声は思ったよりも大きくて、ピタリと止まった怒号が消えて無くなると、冷や汗をかく程の静寂が店の中を覆った。
こうなると普段は煩い街の喧騒が懐かしい。
「……あの……ですね……一回落ち着いて……何か飲んだ方がいいのでは無いかと思います」
そう。
看板は無いし、店守をしているらしい遥果は仕事への熱意はゼロだけど、一応営業している(らしい)ここは喫茶店なのだ。
喧嘩をするにしてもまずは注文するのが筋だろう。
「こ……珈琲が…ですね、とても…ですね…いい匂いがしますよ」
まだ飲んで無いから匂いしか語れないって所が酷く貧弱だったけど、聞くに耐えない言い合いは一応止められたらしい。
座ってくださいと椅子を勧めると、素直に座ってくれた。それはいいけど……
最悪最低な事に、座った途端に女の人がさめざめと泣き出してしまった。
「珈琲で……いいですか」
女は顔を覆ったままコクンと頷き、男はすまなさそうに珈琲をお願いします、と頭を下げた。
「遥果さん、珈琲を二つお願いします」
「うん、飛びっきり美味しい珈琲を淹れるよ」
パチンと飛んで来たウィンクは今しがた男が男を強姦しようとした悪事の片鱗も見えない。それどころか、カウンターに入り、豆を挽く遥果を落ち着いて見てみると、目鼻立ちの整ったとても綺麗な顔をしている事に気付いてしまったりする。
別に顔が良くても「じゃあいいや」とはならないから、今逃げ出すべきなのだろう。しかし図らずも人のプラベートに余計な介入をしてしまったのだ。「じゃあ俺はこれで」って帰る訳にもいかずに、カップルから離れた元の席に戻り、熱さの抜けた珈琲を口にした。
暫くは静かに泣きさざめく女性の声しか音が無かった。海は余程凪いでいるのかすぐ側なのに波音もしない。
こうなると「音」に慣れた耳が寂しい。
小学生の時に訪れた深い山でのキャンプでは、リーリーコロコロと煩かった虫の声が一斉にピタリと止んで、静かだなって思っていると何の予兆も無く突然の豪雨に襲われた。
普通の街に住む俺達に取って「静寂」とは何か重大な異変の象徴なのだ。電車が止まる程の大雪が降ったら静かだよね、停電したら静かだよね。
誰かが激ギレしたら静かになるよね。
今は、そんな状態な筈なのだけど、何故か店の中は優しい空気に包まれていた。
突如訪れた静寂の旋律は激しい口論の末のやり切った感なんだと思う。
そこで、「聞いてくれますか?」と口火を切ったのはカップルの男だ。
見てはいけないと思い、背中を向けていた方を振り返ると、それは誰に対しての問いかけでは無いらしい。天井を見つめる目は自嘲に溢れて宙に浮いていた。
しかしこの店の中には当事者の女性を除けば知らん顔を決め込んだ遥果と俺しかいない。
ラフなスポーツウェアに5079と番号の入ったゼッケンを付けた変な奴で良ければと、椅子の向きを変えた。
「俺達は……」
ポツリと始まった2人の物語は、良くある安い小説か、あんまり練られてないドラマの脚本みたいだった。
要するに、彼女は深窓のお嬢様で(大病院を経営する親の元に産まれた1人娘なんですと)とある有望な医師との婚約が決まっていた。そんな折に出逢ってしまったのが高卒で飲食店の見習いだからと、バイト以下の給料で働く彼だった。
折れたヒールに困っていた所を助けたんだって。そして、2人は当たり前に恋に落ち、それが親にバレると当たり前に反対された。
彼女の婚約には愛だの恋だの心が入る隙間なんて無いのだ。
沢山の従業員、沢山の患者、政治を含む沢山の付き合い、その全てが彼女の肩に掛かっていた。
小さい頃からその為の教育を受けてきたのだ。
勿論彼女はその重責を理解していた。
しかし心は別物だ。
強権を持つ彼女の父親はありとあらゆる手段を使い、恋に落ちた2人の邪魔をした。
しかし、それは逆効果だったのだろう、恋に溺れる二人の間に優美な吊り橋効果を生み、わかりやすい逆境は許されない恋のテンションを益々上げた。
そこで2人が出した結論は心中だった。
「え?!うそ?心中?!死ぬの?2人で?何で?!」
我ながら空気を読まない素っ頓狂な声が出たって驚いたけど、この現代に心中なんて古臭いワードが出た方に驚いた。
大病院の経営って、そりゃ想像も付かないくらい大変だろうけど、いざとなったら他に変わりがいる。
そして、いくらお父さんが強権だったとしても一市民だろう、その権力が及ぶ範囲は限られているのだ。
何も死ななくても、どこかに……何なら外国にでも逃げたら追っては来れない。そのうちに孫でも連れて帰れば頑なな親とだって和解出来ると思う。もし出来なきゃ離れて暮らせばいいだけだ。
「愚かでしょう?」
「はあ……まあ…」
「で……今ちょっと後悔してて……ついこんな事に……お恥ずかしい」
どう返事していいか迷う。
しかし、そこで「どうぞ」と遥果が珈琲を運んで来た。長い話だったけど、腰を折りたく無かったのだろう、珈琲を淹れるには十分過ぎる時間が経っていた。
もう泣き止んでいた彼女さんはペコリと頭を下げ、カップの取手を楚々と指先で摘む。
その仕草はとても品が良く「深窓のお嬢様」が本当なのだと知れた。
だって「ガバガバが嫌なら鶏にでも突っ込んどけ」って喚いてたんだよ?信じられない。
カップに口を付ける彼女を焦がれたような目で見つめる彼氏も、今しがた酷い罵詈雑言を投げていた男と同じ人間だとは思えない。
ホッとしたように「美味しい…」と呟いた彼女を見て、同じくホッとしたようだ。珈琲に口を付けて「美味しいね」と笑い合ってる。
何だこれ。
副題かコピーライトをしたら…
「芳醇な香りがもたらす幸せ?」
「一杯の珈琲が2人を繋ぐ?」
え?才能無い?じゃあ止める。
殺し合いをしかねないと冷や汗を掻き、相手を傷付ける為だけの無遠慮な罵倒に疲弊したのは何だったんだ。
所詮人の色恋は他人が見てもわからないってこの事だ。こんな事なら放っておいても2人は仲直りしたと思う。何もTシャツに半ズボンで汗臭い若造が口出しするなんて余計な真似だった。
しゅんと項垂れて、もうすっかり冷めてしまった珈琲に口を付けるとポンっと肩に手が乗った。
そして遥果は新しいカップと取り替えてくれる。
「ありがと…」
「どういたしまして」
穏やかに微笑む遥果は落ち込む俺を慰めているんだと思う。最初から全部わかっていたんだ。
そして椅子には座らず店のドアを開けた。
「もう……行けますか?」
「はい」と穏やかな2人の笑み。
2人はしっかりと手を繋ぎ、話を聞いてくれてありがとう…と、言葉を残して店を出て行った。
俺達は手を振って2人のお見送りをしたけど、姿が見えなくなってからある重大な見落としに気が付いた。
「あれ?……あれ?…あの…今のカップル…お金を払いました?」
「ああ、いいんだよ」
「いいの?!いや、良く無いでしょう?!」
「いいんだったら」
「駄目ですよ!人情は人情、商売は商売、そこは別だと思います」
「達也は?お金払う?」
ゴイーンと言葉に殴られた。
「………今すぐは払えないけど…後で返します」
「お金はいいったら」
「いいの?本当に?」
「うん、いい」
「いいのか……」
いいならいいんだけど、実は………、俺の中では有らぬ疑いが生まれていた。
ビーチに最適な先の見えない広く美しい間海岸線。平たい草地は店でも駐車場でも存分に作れるくらい広い。
なのに、開店している店は一軒きりで、他には建物すら無い。
いつだったかネットで見たのだ。
スマホサイズの日本地図で人差し指の太さはある沿岸線一帯に異様な空白があるとか無いとか。
地図にも載ってない、殆どの人がその存在を知らない、下手をすると治外法権で日本ですら無い。
そんな土地があると。
マラソン大会からコースアウトして知らない間に立ち入り禁止に入ってしまうなんて、危ないとこには見張りでも立てとけって思うけど、ここは日本にもあると噂になってる完全なる私有地なのかもしれない。
だって、いくら考えてもおかしいのだ。
例えば天の橋立って聞いたら、行った事無いし行く予定も無いし行きたいともまだ思ってないのに、海岸線の美しい風景が頭に浮かぶよな?
富良野だ美英だって聞いたら広大な景色が頭に浮かぶ、それは国内に留まらず、アンコールワットと聞いたら石造りの遺跡が思い浮かぶし、どこか名前は知らないけど見た事あるって風景は山程ある。
それはいつかどこかで意識もしないで目にしているからで、何が言いたいって、今…そこのドアを潜れば目に入る、日本には稀な広大な景色を知らないなんておかしい。
例え、有名でなくても、酷く青い海と白い砂の広い海岸線なんて誰かが写真を上げたりしている筈だ。そしてそれは絶対に1人じゃ無い。
そして、2時間余りの間、この店に来た客は俺を入れても3人きりだ。そのうちの誰からもお金を払って貰えないのに笑っている遥果には商売をする気が無いと思う。
もしかしたらとんでもない富豪のお坊ちゃんだったりするかもしれない。
説明するとややこしいから「記憶が無い」って設定を作り、浴びせられる質問から回避してるのかもしれない。
だって、店の中でいきなりチューだぞ?誰も来ないって前提じゃん。
珈琲一杯4、500円だとして、10人来ても5000円だ。そのうちの三杯分、いやおかわり貰ったから4杯だ、つまり2000円分なのに「お金はいらない」っておかし過ぎる。
広大な秘密の土地を持つお父さんは(ガウンを着て葉巻を吸ってる)ホモで働かないふんわりとした息子の為に擬似で仮の喫茶店を与え、「働く厳しさを学んできなさい」とか言いつつ生活の面倒は見ている……。
そりゃ、収入が無くても、勝手気儘に振る舞っても、誰も何も言わないよな。
そして俺は彼の領地に無防備なランニングウェアのまま誘い込まれている訳だ。
これは非常に危ない。
逃げるが勝ちだ。
逃げないと色々危ない。
「では……俺はこの辺で……」
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