ストーキング ティップ

ろくろくろく

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かなり小慣れた変質者っぷり

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考えられる「嫌な状況」の中でダントツに嫌だった。責め立てられるような早口は正に地獄。
信じられないなら信じなければいい。

質問責めになってオロオロしている所で帰ろうと、クリスが手を引いてくれて助かった。
仲良く連んでいるのだと思ってたがやはりクリスは執行部仲間でもちょっと特別らしい、帰ると言ったら誰も何も言わない。

RENの事や歌についてクリスは何も聞いてこなかった。誰もが考える程華々しい訳じゃないのだから話す事は何も無いが、地味なボッチが歌をやってると聞いたら本当かどうかを確かめたくなるのが普通だと思う。
いつも煩い癖してカラオケ屋では一言も話しかけて来なかったし、何なら誰とも話して無かった。
そして、カラオケ屋を出てからも一言も話さない。
アパートに帰る道を当然のように付いてくるのは何でだって言いたいけど、言えないまま電車に乗って、歩いて、下宿まで帰ってきてしまった。

「鍵……」

鞄に手を突っ込むと朝にクリスから取り上げたグッチのストラップ付きが出て来た。
全く何をやってくれてるんだと呆れていたら、スッと鍵を取り上げられてドアを開けてくれた。
 
当然のように部屋に入るクリスを許容している自分にも驚くが、コーヒーメーカーを返さなきゃならないからそこはいい。
でも、何で先に入るのだ。

「……鍵は返してくださいね」

無言が続く気まずさの中、鍵穴から抜いたグッチのストラップをさり気なく、当たり前に自分のポケットに入れようとするから取り返したのに反応は無かった。
初めはカラオケなんかに行きたく無いのに付き合わされて(勝手に参加してたけど)怒っているのかと思っていた。
しかし、それも違うようだ。
不機嫌と言うよりうわの空と言った方がピッタリと来る。
クリスの後に続いて玄関に入ってドアを閉めたけど、クリスは靴を脱ごうとしないで突っ立っていた。
酷く狭い玄関に男2人は要領オーバーで部屋に入ろうにも入れない。

「あの……部屋に入るか帰るかしてくれませんか、そんな所に詰まっていると靴も脱げないんですけど……」
「うん、蓮が疲れてるってわかってる」

クルリと向き直ったクリスには表情が無い。
背中のドアは閉まってるし玄関ポーチは狭いのだ。視界は完全に閉ざされ、正面は胸だし見上げたら顎だ。距離を取ろうとしても、もう背中にドアがくっ付いているから逃げ場なんて無かった。

「クリスさん?近いんだけど」
「ごめん、本当にごめん、でも……ちょっと無理になっちゃった」

そっと肩に乗ったクリスの手は軽かった。
間近で見るクリスはやっぱり綺麗で、遠くから見てるより堀が深いとか、びっくりするほどまつ毛が長いんだとか、呑気に眺めていたらふわっと唇と唇が触れ合った。

「ん?!」

何が起こってるかを考える前に反射で逃げた。しかし、逃げる場所など無いのだ、ドアに後頭部をぶつけただけになった。
柔らかくて生々しい感触に酷く狼狽した。
頭が真っ白になって適切なリアクションを取れる程の余裕は無い。
驚いて固まる様はまるでプラスチックで出来た棒のようになっているのではないかと思う。
多分数秒だったのだろう。
息苦しくなるくらいには長かった、息の吸い方を思い出した頃にスッと離れてコツンと額が合わさった。
近過ぎるからクリスがどんな顔をしているかは見えないが、自分は酷く間抜けな顔をしていたと思う。

「クリス……さん?」
「ごめん、驚かせてごめん、こんなに急ぐつもりは無かったけどどうして我慢出来なかった」
「え……と…」

我慢とは?

「実は……僕が初めて蓮を見たのはライブハウスだったんだよ、ひと目で魅せられて……」

囁くくらいの小さな声は途中で詰まって途絶えてしまった。肩に乗った手がプルプルと震えている。「我慢」とは……まさかトイレかなって思ったら、「もう感激だよ!!」と思い切り抱きつかれた。

「この感動がわかる?わかるよね?震えたよ!痺れたよ!一音も聞き逃したく無いから息も出来なかった!わかる?!僕はカラオケ屋で窒息しそうになってたんだよ?!」

勝手に窒息でも何でもしてくれればいいけど窒息させられては堪らない。首に巻き付いた腕から逃れようと必死で暴れたが玄関は狭いのだ。
逃げたくても逃げられないまま、ギュ~と締められ、離れたと思ったらブチュウと勢いよく唇に吸い付かれた。
生暖かい肉の感触が気持ち悪い。
それはいいけど……いや、よく無いけどそれよりも、それよりも何よりも下腹に当たる硬いものを感じる。

「はな…はな…離して!!」

必死だった。
非力なりに持てる力を振りしぼってクリスの胸を押した。暴れて、座り込んで、長い足を避けながら這ってバタバタとリビングまで逃げた。

「ごめん!!痛かった?」
「痛いとか!痛く無いとか!痛いけど…好きって!付き合いたいってそういう事?!!」
「え?…言葉の通りだけど」
「いいから!!今すぐ後ろを向いて!座って!「それ」を見せないで!」

前チャックの無いスエット生地のスポーツパンツはクリスが履くとカッコいいが、今はちょっとした個性を発揮してる。

形がわかるのだ。
二度見するくらいデカい、長い、太い!!
同じ性なのに寒気がするくらいいかがわしい。

指を差した先を見下ろしたクリスは自覚がなかったのだろう。ギョッと目を剥いてしゃがみ込んだ。

「ちょっと!!後ろを向いってたら!」
「これは……違うからね!そんな意味じゃ無いから!襲うとかしないから!」
「襲う?襲う?襲うの?!」
「違う違う違う、これは欲情したんじゃなくて……してるけどそうじゃなくて気持ちが盛り上がっただけだから!」

「盛り上がってるけど……」

吐き気がした。
好きとは、付き合ってくれとはそういう意味なのかと絶望する。
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