14 / 68
かなり小慣れた変質者っぷり
しおりを挟む
考えられる「嫌な状況」の中でダントツに嫌だった。責め立てられるような早口は正に地獄。
信じられないなら信じなければいい。
質問責めになってオロオロしている所で帰ろうと、クリスが手を引いてくれて助かった。
仲良く連んでいるのだと思ってたがやはりクリスは執行部仲間でもちょっと特別らしい、帰ると言ったら誰も何も言わない。
RENの事や歌についてクリスは何も聞いてこなかった。誰もが考える程華々しい訳じゃないのだから話す事は何も無いが、地味なボッチが歌をやってると聞いたら本当かどうかを確かめたくなるのが普通だと思う。
いつも煩い癖してカラオケ屋では一言も話しかけて来なかったし、何なら誰とも話して無かった。
そして、カラオケ屋を出てからも一言も話さない。
アパートに帰る道を当然のように付いてくるのは何でだって言いたいけど、言えないまま電車に乗って、歩いて、下宿まで帰ってきてしまった。
「鍵……」
鞄に手を突っ込むと朝にクリスから取り上げたグッチのストラップ付きが出て来た。
全く何をやってくれてるんだと呆れていたら、スッと鍵を取り上げられてドアを開けてくれた。
当然のように部屋に入るクリスを許容している自分にも驚くが、コーヒーメーカーを返さなきゃならないからそこはいい。
でも、何で先に入るのだ。
「……鍵は返してくださいね」
無言が続く気まずさの中、鍵穴から抜いたグッチのストラップをさり気なく、当たり前に自分のポケットに入れようとするから取り返したのに反応は無かった。
初めはカラオケなんかに行きたく無いのに付き合わされて(勝手に参加してたけど)怒っているのかと思っていた。
しかし、それも違うようだ。
不機嫌と言うよりうわの空と言った方がピッタリと来る。
クリスの後に続いて玄関に入ってドアを閉めたけど、クリスは靴を脱ごうとしないで突っ立っていた。
酷く狭い玄関に男2人は要領オーバーで部屋に入ろうにも入れない。
「あの……部屋に入るか帰るかしてくれませんか、そんな所に詰まっていると靴も脱げないんですけど……」
「うん、蓮が疲れてるってわかってる」
クルリと向き直ったクリスには表情が無い。
背中のドアは閉まってるし玄関ポーチは狭いのだ。視界は完全に閉ざされ、正面は胸だし見上げたら顎だ。距離を取ろうとしても、もう背中にドアがくっ付いているから逃げ場なんて無かった。
「クリスさん?近いんだけど」
「ごめん、本当にごめん、でも……ちょっと無理になっちゃった」
そっと肩に乗ったクリスの手は軽かった。
間近で見るクリスはやっぱり綺麗で、遠くから見てるより堀が深いとか、びっくりするほどまつ毛が長いんだとか、呑気に眺めていたらふわっと唇と唇が触れ合った。
「ん?!」
何が起こってるかを考える前に反射で逃げた。しかし、逃げる場所など無いのだ、ドアに後頭部をぶつけただけになった。
柔らかくて生々しい感触に酷く狼狽した。
頭が真っ白になって適切なリアクションを取れる程の余裕は無い。
驚いて固まる様はまるでプラスチックで出来た棒のようになっているのではないかと思う。
多分数秒だったのだろう。
息苦しくなるくらいには長かった、息の吸い方を思い出した頃にスッと離れてコツンと額が合わさった。
近過ぎるからクリスがどんな顔をしているかは見えないが、自分は酷く間抜けな顔をしていたと思う。
「クリス……さん?」
「ごめん、驚かせてごめん、こんなに急ぐつもりは無かったけどどうして我慢出来なかった」
「え……と…」
我慢とは?
「実は……僕が初めて蓮を見たのはライブハウスだったんだよ、ひと目で魅せられて……」
囁くくらいの小さな声は途中で詰まって途絶えてしまった。肩に乗った手がプルプルと震えている。「我慢」とは……まさかトイレかなって思ったら、「もう感激だよ!!」と思い切り抱きつかれた。
「この感動がわかる?わかるよね?震えたよ!痺れたよ!一音も聞き逃したく無いから息も出来なかった!わかる?!僕はカラオケ屋で窒息しそうになってたんだよ?!」
勝手に窒息でも何でもしてくれればいいけど窒息させられては堪らない。首に巻き付いた腕から逃れようと必死で暴れたが玄関は狭いのだ。
逃げたくても逃げられないまま、ギュ~と締められ、離れたと思ったらブチュウと勢いよく唇に吸い付かれた。
生暖かい肉の感触が気持ち悪い。
それはいいけど……いや、よく無いけどそれよりも、それよりも何よりも下腹に当たる硬いものを感じる。
「はな…はな…離して!!」
必死だった。
非力なりに持てる力を振りしぼってクリスの胸を押した。暴れて、座り込んで、長い足を避けながら這ってバタバタとリビングまで逃げた。
「ごめん!!痛かった?」
「痛いとか!痛く無いとか!痛いけど…好きって!付き合いたいってそういう事?!!」
「え?…言葉の通りだけど」
「いいから!!今すぐ後ろを向いて!座って!「それ」を見せないで!」
前チャックの無いスエット生地のスポーツパンツはクリスが履くとカッコいいが、今はちょっとした個性を発揮してる。
形がわかるのだ。
二度見するくらいデカい、長い、太い!!
同じ性なのに寒気がするくらいいかがわしい。
指を差した先を見下ろしたクリスは自覚がなかったのだろう。ギョッと目を剥いてしゃがみ込んだ。
「ちょっと!!後ろを向いってたら!」
「これは……違うからね!そんな意味じゃ無いから!襲うとかしないから!」
「襲う?襲う?襲うの?!」
「違う違う違う、これは欲情したんじゃなくて……してるけどそうじゃなくて気持ちが盛り上がっただけだから!」
「盛り上がってるけど……」
吐き気がした。
好きとは、付き合ってくれとはそういう意味なのかと絶望する。
信じられないなら信じなければいい。
質問責めになってオロオロしている所で帰ろうと、クリスが手を引いてくれて助かった。
仲良く連んでいるのだと思ってたがやはりクリスは執行部仲間でもちょっと特別らしい、帰ると言ったら誰も何も言わない。
RENの事や歌についてクリスは何も聞いてこなかった。誰もが考える程華々しい訳じゃないのだから話す事は何も無いが、地味なボッチが歌をやってると聞いたら本当かどうかを確かめたくなるのが普通だと思う。
いつも煩い癖してカラオケ屋では一言も話しかけて来なかったし、何なら誰とも話して無かった。
そして、カラオケ屋を出てからも一言も話さない。
アパートに帰る道を当然のように付いてくるのは何でだって言いたいけど、言えないまま電車に乗って、歩いて、下宿まで帰ってきてしまった。
「鍵……」
鞄に手を突っ込むと朝にクリスから取り上げたグッチのストラップ付きが出て来た。
全く何をやってくれてるんだと呆れていたら、スッと鍵を取り上げられてドアを開けてくれた。
当然のように部屋に入るクリスを許容している自分にも驚くが、コーヒーメーカーを返さなきゃならないからそこはいい。
でも、何で先に入るのだ。
「……鍵は返してくださいね」
無言が続く気まずさの中、鍵穴から抜いたグッチのストラップをさり気なく、当たり前に自分のポケットに入れようとするから取り返したのに反応は無かった。
初めはカラオケなんかに行きたく無いのに付き合わされて(勝手に参加してたけど)怒っているのかと思っていた。
しかし、それも違うようだ。
不機嫌と言うよりうわの空と言った方がピッタリと来る。
クリスの後に続いて玄関に入ってドアを閉めたけど、クリスは靴を脱ごうとしないで突っ立っていた。
酷く狭い玄関に男2人は要領オーバーで部屋に入ろうにも入れない。
「あの……部屋に入るか帰るかしてくれませんか、そんな所に詰まっていると靴も脱げないんですけど……」
「うん、蓮が疲れてるってわかってる」
クルリと向き直ったクリスには表情が無い。
背中のドアは閉まってるし玄関ポーチは狭いのだ。視界は完全に閉ざされ、正面は胸だし見上げたら顎だ。距離を取ろうとしても、もう背中にドアがくっ付いているから逃げ場なんて無かった。
「クリスさん?近いんだけど」
「ごめん、本当にごめん、でも……ちょっと無理になっちゃった」
そっと肩に乗ったクリスの手は軽かった。
間近で見るクリスはやっぱり綺麗で、遠くから見てるより堀が深いとか、びっくりするほどまつ毛が長いんだとか、呑気に眺めていたらふわっと唇と唇が触れ合った。
「ん?!」
何が起こってるかを考える前に反射で逃げた。しかし、逃げる場所など無いのだ、ドアに後頭部をぶつけただけになった。
柔らかくて生々しい感触に酷く狼狽した。
頭が真っ白になって適切なリアクションを取れる程の余裕は無い。
驚いて固まる様はまるでプラスチックで出来た棒のようになっているのではないかと思う。
多分数秒だったのだろう。
息苦しくなるくらいには長かった、息の吸い方を思い出した頃にスッと離れてコツンと額が合わさった。
近過ぎるからクリスがどんな顔をしているかは見えないが、自分は酷く間抜けな顔をしていたと思う。
「クリス……さん?」
「ごめん、驚かせてごめん、こんなに急ぐつもりは無かったけどどうして我慢出来なかった」
「え……と…」
我慢とは?
「実は……僕が初めて蓮を見たのはライブハウスだったんだよ、ひと目で魅せられて……」
囁くくらいの小さな声は途中で詰まって途絶えてしまった。肩に乗った手がプルプルと震えている。「我慢」とは……まさかトイレかなって思ったら、「もう感激だよ!!」と思い切り抱きつかれた。
「この感動がわかる?わかるよね?震えたよ!痺れたよ!一音も聞き逃したく無いから息も出来なかった!わかる?!僕はカラオケ屋で窒息しそうになってたんだよ?!」
勝手に窒息でも何でもしてくれればいいけど窒息させられては堪らない。首に巻き付いた腕から逃れようと必死で暴れたが玄関は狭いのだ。
逃げたくても逃げられないまま、ギュ~と締められ、離れたと思ったらブチュウと勢いよく唇に吸い付かれた。
生暖かい肉の感触が気持ち悪い。
それはいいけど……いや、よく無いけどそれよりも、それよりも何よりも下腹に当たる硬いものを感じる。
「はな…はな…離して!!」
必死だった。
非力なりに持てる力を振りしぼってクリスの胸を押した。暴れて、座り込んで、長い足を避けながら這ってバタバタとリビングまで逃げた。
「ごめん!!痛かった?」
「痛いとか!痛く無いとか!痛いけど…好きって!付き合いたいってそういう事?!!」
「え?…言葉の通りだけど」
「いいから!!今すぐ後ろを向いて!座って!「それ」を見せないで!」
前チャックの無いスエット生地のスポーツパンツはクリスが履くとカッコいいが、今はちょっとした個性を発揮してる。
形がわかるのだ。
二度見するくらいデカい、長い、太い!!
同じ性なのに寒気がするくらいいかがわしい。
指を差した先を見下ろしたクリスは自覚がなかったのだろう。ギョッと目を剥いてしゃがみ込んだ。
「ちょっと!!後ろを向いってたら!」
「これは……違うからね!そんな意味じゃ無いから!襲うとかしないから!」
「襲う?襲う?襲うの?!」
「違う違う違う、これは欲情したんじゃなくて……してるけどそうじゃなくて気持ちが盛り上がっただけだから!」
「盛り上がってるけど……」
吐き気がした。
好きとは、付き合ってくれとはそういう意味なのかと絶望する。
1
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる