ストーキング ティップ

ろくろくろく

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「クリスさんて……悪趣味ですね」
「何でだよ、蓮が好きなんだ」
「好きって…好きって…何で俺なんか」

「は?………俺なんかって何だよ」

「だから、何故そこでムッとするんですか、変な所でキレるのやめてください」
「蓮を馬鹿にしただろう」

蓮がな。

「……もういいから…まず「それ」を何とかしてください、目のやりどころが無いんです」
「これは……」

蓮が触ってくれたらすぐに治ると思うけど…って。

「馬鹿!!」

手に触れる物を掴んで投げた。
全部投げた。
もしベッドに触ってたらベッドを投げたと思う。
しかし、狭い部屋で手の届く範囲にあった物は怒ってたって投げちゃ駄目な物だった。
パンッと弾けた硬く鋭利な音にハッとして手を止めた。

「あっ……わっ!!」

丁度手に当たったから投げた物、それはクリスが持ち込んだコーヒーメーカーのポットだった。
クリスの頭上で弾けた破片が跳ねて飛び、朝に淹れたコーヒーが残ってたのだろう、ひどい事になってる。

「ごめん!ごめんなさい!大丈夫ですか?!タオル!!その前に…きゅ、救急箱…ごめんなさい、ごめんなさい」

救急箱なんて無いけど、家を出る時に母が薬を纏めた箱を用意してくれた。どこにしまったか覚えてないがどこかにはある筈だった。

「蓮、そんなに慌てなくても大丈夫だから」
「でも、でも、ちょっと待ってください」

「大丈夫だから落ち着いて」

それはさっきまでハイテンションなんか忘れたような静かな声だった。一気に抜けた毒気に我に帰ると小銭を入れたチョコの空き缶を開けようとしている。
変な物を見たくないからまともにクリスを目に入れる事は出来ない。しかし、顔だけはと頑張って振り向いた。

「怪我を……して…ない?」
「いいから、俺は大丈夫」
「服も……」

クリスが着ているからなのか、それとも本当に上質なのか、多分両方なのだろうがとても高そうな服に茶色いシミが点々と飛び散っている。

「ごめんなさい」
「今日は記念日だね」
「は?」

何を言ってるのかと思わずクリスを見ると、キラキラと光りながら悠然と微笑んでいる。

「記念日って何ですか?」
「初めての喧嘩記念日」
「ケンカ……きねんび……」

……女子か、と突っ込みそうになった。
クリスがとても嬉しそうなのは良かったけど、これ以上の戯言には付き合っていられない。

「お風呂に入りますよね?着替えは……何かあるかな…」
「このまんまでもいいよ」
「そんな訳にはいかないでしょう」

クリスの頭上で砕けたガラスの破片を頭からかぶっているのだからきっと服にも刺さってる。
何か着替えを出さなければならないがUNIQLOで揃えた服は全部Mサイズだ。

「まともな服は無いけど何か出します、あ、破片に気を付けてください」
「服はいいけど…お風呂……」

何やら顎に指を掛けて考え込んだクリスは、またよからぬことを考えていそうだった。
そしたら案の定「一緒に入る?」と手招きをする。

「入りません」
「いいじゃん男同士だし」

「………本当に怒りますよ」

膨らんだ股間など絶対に見たく無い。
さっさとお風呂に入って「それ」もついでに処理してこいと言いたかったが口に出すのも嫌だ。「立てないから引っ張って」と伸ばして来た腕を背負い投げの勢いで引いて風呂場に押し込んだ。
お互いに靴を履いたままだったから出来た事だが、汚物をゴミ箱に放り込む感覚と同じだ。
風呂場のドアを叩き閉めたら急に力が抜けて倒れそうになった。

「何で……こんな事に……」

クリスが本気だなんて信じていなかった。
………まだ信じられないけど、冗談か比喩だと思っていた。しかし、笑って済ますには問題が多過ぎる。

「キス…しちゃったよ」

唇を触ってみると、こんなに柔らかいものだったのかと驚いてしまう。
「あの」クリスが、どこを切り取っても上級国民に分類される「あの」クリスが好きだと言ってキスをしてくるなんて、何かの間違いではあって欲しい。

「本を預かったあの時に戻ってリセットしたい…」

破れた耐熱ガラスの破片はビックリする程細かく、拾うとチクチクと指に刺さった。
おまけにコーヒーの汁にまみれてるから掃除機では何ともならない。雑巾か何かでざっと纏めてから袋にでも詰めてやろうと掃除用具を纏めた廊下のミニ納戸を見に来ると………
何故か洗濯機がゴウンゴウンと揺れている事に気付いて唖然とした。

「…え?……えっ?!!」

慌てて中身を確かめると回っている。
昨日と一昨日に着てたTシャツとかパンツとかと一緒にクリスの服が水に濡れてるグルグルと回ってた。

お風呂が終わったら帰って貰らおうと思っていた。そして、もう2度と関わらないようにしようと心に誓ったのに何て事をしてくれるのだ。

間が悪い事に丁度風呂から上がったのだろう、脱衣所の中から着替えを欲しがる腕が出てきた。
相変わらず形が良くてムダ毛の無いすべすべの白い腕だ。

その先には綺麗な胸があり、締まった腹があり、腰の真ん中には「あいつ」がいるのだろう。野太い棍棒に「やあ」などと挨拶されてはたまったものではない。
慌てて着替えを取りに行った。
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