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ろくろくろく

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プロダクションと打算

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黒江様と書かれた封筒を仇のように見つめていた。もう3本もチェーンスモークしている煙草のせいで喉が痛かった。

蓮を表に出せば売れるというのは予想ではなく、最初から……それこそ蓮を初めて見つけた時からの確信だった。

それでも現代の様々な媒体は全ての計画が覆る程性急だった。
学祭の動画をアップしてから間も無く、3つの大きなプロダクションから声が掛かり、キャスティングのプロモーターからも様々な打診を貰っていた。メディアや企業とのタイアップ、投票で出演枠が決まる音楽フェス、嘘みたいだが深夜番組への出演まである。

既存のプロと比べてもポテンシャルや実力が劣るとは思ってないが話題が先行している事は否めない。

本当なら出来うる限り受けていければいいのだが、蓮の特性を考えれば選択肢はほぼ無いのが現状でもある。

売る事より大事なのは何があってもあの才能を守らなければならない事だと思っている。

蓮に対しては責任がある。
蓮を見つけたのは自分だという自負もある。

例え、あのお綺麗な顔をした奴がなんと言おうと、何をしようと蓮は自分のものであるという思いは譲れない。恩を売るつもりは無いがあのややこしい才能は単体ではどうにもならないのだ。
表にも裏にもツテがあり、山程の貸しを溜め込んで来た実績を考えると、この日本の狭い音楽業界の中で自分程の適任者はいないと言い切れる。
媒介が必要なのだ。

だからこそ、業界を手広く知っているからこそ、ボーカルが絶対的な指揮者である特異な蓮に合うリードギターとキーボードを探し尽くした今、自分では見つけられないとわかっていた。


「ギガックスって何だよ、名前から気にいらねえ」

「はあ」と困ったように眉を下げたギガックスの営業マンは蓮と同い年かと思うくらい若かった。
例のライブが拡散するよりいち早く「うちのサイト」にとライジングスターを勧めて来たのもこの男だ。
何やら倒産した老舗のプロダクションを取り込んでいるらしく、新しい割にネットワークは広いと思われるが上手く売り込まれたものだと思う。

今目の前にある彼が持って来た書類は正式な契約書とテレビ出演のオファーだ。

一旦は渋る振りをして見せているが、実はテレビ局からの出演申し込みは受けようと思っている
深夜の枠なのだが本格的なライブしか受け付けないという強固なコンセプトを有し、出演者は厳選されているいい番組だった。

15分間から20分間しか実績の無い今はまだまともなライブは望めない。
或いは練習を重ねればと思っていたが、破滅していく蓮を無理矢理に矯正すれば1番いいところが消えてしまうというジレンマは根深い。

そうなると、アルバムを売り、配信を売るしか手はない為、取ってつけたようなものでも箔付が必要なのだ。

例え本意であってもプロダクションの申し出は打ってつけだと言えた。


「俺達の要望はまず一つ、専属の契約は出来ない、それでもいいか?」
「はい、取り敢えずは単発でも結構です」
「まずはテレビ番組って所だが、これは受けようと思う。条件としては例えどんなお膳立てをしても蓮は本当の力は出せないとわかってもらう事、勿論視聴者にだ」
「その辺りは司会者に任せてもいいと思います、撮影の方はカメラの台数を減らしてスタジオを暗くしてもらう予定です。スタッフも減らして黒い服を着るように申し入れておきました。」
「それでも撮れ高は無いかもな」
「収録時間は普段の倍、それからもう一つ、Liveを信条とする番組としては異例ですが録画の予定です」

ハキハキと答える営業マンは笑顔を崩さない。
プロダクションの意向が全てを動かしていた昔と違って実力さえあればプライベートレーベルでも十分通用する今は腰を低くせざるを得ないのだろう。

「ギタリストは見つかったか?」
「ジャズを専門にしている方からやってみたいという申し出を頂いています、蓮さんのライブを見て爆笑されてましたよ、元々ノンシークエンスの専門家ですから大丈夫だと思います」
「………それなら……話を進めてもいいが問題は…」
「問題は?」
「蓮を説得する事だな」

「まだなんですか?」と驚かれてもそれが1番の問題なのだ。
結局は押し切った学祭のように流されやすくあまり自己主張をしない蓮だがテレビと言えば事情が違う。

「打ち合わせは無し、衣装は自前、まだツルツルの蓮にはメイクなんかもいらないから待ち時間をゼロに出来るか?」
「段取りします」
「最終的にNGになっても賠償はしない」
「承ります」
「何でも言いなりだな」

少し茶化すような言い方に淡々としていた眉の端が少し動いたような気もするが「そちら様の条件は全て飲む」というスタンスは崩さなかった。

「わかった、それでもいいなら契約してもいい」
「ありがとうございます、一応なんですが書面にしてもいいですか?」
「ああ、構わない」

結局は全て蓮次第なのだからこれ以上条件を出しても演ってみなければ前には進めない。

専属契約はしないが、シングルを一曲ギガックスから出すという条件を呑んで契約書にサインした。

残るは・・

蓮の説得なのだが、実はさほど難航するとは思っていなかった。
ギガックスの営業が帰ってすぐに連絡を取って大学まで出かけたのだが、出だしは予想通りだった。


「嫌……かな…」

いじけるように下唇を突き出した蓮が隣で腕組みをしている銀髪をチラリと見てからテレビを否定した。

「何でだよ、出れるもんなら俺も出たいわ、あの「オンガクのモリ」だぜ?何回も紅白を断り続けるビッグアーティストだってノーギャラでもいいから出たいって言う番組だぞ?」

「贅沢を言うな」と蓮を小突いたのは学祭ライブにも出演していた真城という同級生だが彼に蓮の説得を任せたのは正解だったらしい。
普段なら嫌だと言って話も聞かずに逃げていた筈なのに迷うような顔をしている。

「……でもさ…」
「蓮、お前なバイトした事ないって言ってなかってか?」
「……そうだけど」
「将来は?就職は?そんなんで働けると思ってる?お前に歌以外に何かできる事あんのかよ」
「でもライブも出来ないし」
「及第点で歌えるように練習をすればいいだけだろ、スタジオの手配も無し、割り勘もなし、そんな環境が物凄く贅沢だってわかってる?言っとくけどな、実力があっても埋もれている人が星の数ほどいる世界だぞ、一つのチャンスを逃せばもう無いかもしれない、そこでもう一回聞く」

他にできる事があるのか

真城の言葉は蓮にも相当キツい事は間違いないが自分にも当てはまる。
耳が痛くて凹みそうになったが、何も言い返せない蓮は「やる」と言うしか無かったのだから真城には感謝だ。
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