ストーキング ティップ

ろくろくろく

文字の大きさ
50 / 68

延焼

しおりを挟む
おんがくのもりが放映されると燻っていた火が街に燃え広がり大火となった瞬間だった。

近代ではヒット曲というものはいとも簡単に生まれる。地道なプロモーションも大金を掛けた宣伝も何もいらないのだ。
自らの判断や好みよりも勢いのある新しい顔に目が無い多くのSNS信者は流行に遅れまいと飛び付いてくる。ファンであると公言する事がトレンディだと思い込む風潮があるのだ。
降って湧いて出たように突然現れ、あの手この手で足掻く数多のミュージシャンを横目に見ながらスルスルと登っていくニューフェイスなど珍しくも無い。

蓮の場合は歌う姿以外の情報が間接的にしか出てこない上、素早く動いた大学側が個人を特定する画像や情報をネットに上げることを禁止したせいで神秘性も加味された。

そして、一般の聴衆よりも2手も3手も遅い愚鈍な公共メディアが新しい顔の存在に気付きだすと突然ステージが上がるのはよくある事だ。
お友達文化が蔓延る芸能界に割って入るのはかなりの労力がいるのだが、話題を先取りしたい輩が我先にと美味しそうな餌を投げて来る。

蓮の見た目や態度、楽曲のイメージからは本人を知らない世間から見ると他人には興味が無さそうな超然とした人物を想像するらしい。
ギガックスの営業がドラマに出ないかと聞いてきた時には笑ってしまった。

蓮が芸能界になど通用する訳は無いのはわかっている、例え出来たとしてしてもそんな話には乗るつもりなんか無い。
しかし、俗な話をすると公共メディアに乗ると認知度が跳ね上がる上に発生するギャランティの桁が違って来る。
その気のない蓮を引っ張り込んだ以上この波を逃す選択肢などなかった。

「テレビCM……とはね…」

若者に人気のある腕時計メーカーの「エデン」からRENの歌と蓮本人をブランドイメージにしたいとの打診を受けていた。

「いいじゃん」と日暮は笑う。

助っ人のレギュラーをしていた日暮には楽曲の著作権やギャラの問題がある為、正式にRENのメンバーとして契約して貰っていた。

「無理な要望を出されても……な…」
「ジュースを飲んで美味しいって爽やかに笑うとか?」
「馬鹿を言え、例え立ってるだけでいいと言われても無理だろ、シナリオは無しって条件は絶対だ。適当に歌わせて……いいところだけを切り取るぐらいがせいぜいだ。
「蓮はビジュアルがいいからね」

「………そうだな」

目鼻立ちよりも下を向きがちなイメージが勝っていたが、テレビ映りはかなり良かった。
まだ少年の面影を残したユニセックスな顔で世界の全てを見下し、踏み付けるような迫力を出して来るのだ。そこもメディアが食い付いた要因でもある。

「本人を知ればみんなびっくりだろうけどな」
「ほぼ前には出ないから独り歩きするイメージのままでいいと思いますけどね、蓮の承諾無しに全部黒江さんが決めていいんですか?」

「………迷いに迷っているよ」

手に持ったままだったテイクアウトのコーヒーを一口飲むとすっかり冷めてしまい酷く苦く感じた。

本人にそれなりの覚悟があると言うのならそれでいいのだ。成功しようと失敗しようと出来る限りの力になると胸をはれる。
しかし、良くも悪くも蓮には強い自己主張が無い。どうしたいかを聞くと必ずというほど一旦は嫌だとは言うが、何だかんだと言いなりになってしまうから始末が悪い。
才能はあっても資質はゼロという状態で、まだまだ未来への選択肢が幾らでもある20歳の子供に足元が酷く不安定な険しい道を押し付けていいものかと考えると………答えが出ないままだ。

「怖いな…」
「かなりの見切り発射ですからね、伸びても、伸びなくても楽な道では無いって事は……」

「よくわかる」と声が揃い、一頻り笑い合った。

この一連の流れが蓮に取って幸運だったと言えるかどうかはわからないが、聞く耳がありスキルがありコネもネットワークもある暇人と出会ったのはこのまま進めという神様の啓示なのか。

「びっくりさせないでくださいよ、黒江さんからスピリチュアルな方面を聞かされると嘘寒い」
「まあ、悩んでももう走り出してる、CMの話を受けるぞ、いいか?」
「願っても無い僥倖です」

一杯やりますか、と日暮が缶ビールを出してきた。数だけはある蓮の「鼻歌」の中から15秒に収まる印象的なメロディをチョイスして楽曲に仕上げていかなければならない。
新しい曲を作れと言っても出来ないし、また作るなと言っても出来ないのだからそこに蓮の意思が介入する事は無いのだ。
アタリメの袋を縦に開けて、タブレットに保存したボイスメモのフォルダーを日暮と2人で吟味していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...