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脱皮
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CMの撮影は以前にテレビ番組の収録をしたのと同じスタジオだった。
クリスが代表を務める会社と懇意なのか、ややこしい演者の説明を省けると踏んだ黒江の手配なのか、そこは知らない。
そんな事はどうでもよかった。
やるべき事をやるだけだ。
CMに使う楽曲はやる気の無さを反映したように酷くチグハグだったが特に注文や変更も無くあっさりとOKが出ていた。
全然知らなかったが、普通なら絵と音は別撮りするのが定石なのだそうだ。
音に合わせて絵を撮り、場合によっては絵に合わせて音を取り直す。
しかし、どちらも上手くいかないのは先に渡したデモ録音が証明していた。
その為に、豪勢な音楽機材が持ち込まれ、そこに特殊な照明とアーム台を含めた5台のカメラ、そしてトランスフォームでもしそうな物々しい機械はスーパースローのカメラらしい。
「こちらは万全です、いつどんなタイミングで始まっても撮り逃したりはしませんよ」
バラバラと不揃いに生えた髭面がにっと笑って親指を立てた。
しかし、準備など要らないのだ。
今回カメラが捕らえるのは1人だけだ。
異例だと言われた生演奏での一発撮りは黒江と日暮の2人だけが担当しているのだから遠慮などする必要は無い。
おまけにCMで使われるフレーズはAメロのサビだけなのだから、バラけても外れても「及第点」でいいなら帳尻を合わせるのは2人とも得意だろう。
真っ暗なスタジオの中、服も顔も指先まで赤紫に染める天井のライトと強烈な白のバックライトの前に立つと雨を模した水がサラサラと降ってきた。
何が蓮を変えたのか。
元々、公園で出会った頃から歌唱力や歌の完成度に不安など無かったのだが、いつの間にか一皮剥けたようだ。
脱皮とはよく言ったものだ。
薄皮と粘膜に手足を取られてもがいていたのに、粘液を滴らせてヌルリと頭を出した様は冷めた目付きも相まって生臭さを感じる程の凄みがあった。
さすがに曲の途中でカットが掛かる撮影ではライブで見せる程のキレたオーラは無いが15秒、もしくは30秒だけ切り取る中にそんなものは必要ない。
拾い上げた音符より高く伸び上がる声、乗ってきた時に見せる薄笑い。カメラがどんな風に捉えているかはわからないが誰にも文句は言わせない。
全てのイメージを背負う蓮の年齢に合わせ、RENの楽曲は挑戦的な旋律と世の中を斜め横から見つめるような尖った歌詞を特徴としているが、今回は商品に当て書きをした為に若者を鼓舞するような内容となっている。
メインのキャッチとして歌詞に入っていた「立て」が「跳べ!」に変わっていたが、撮影に立ち合ったエデンの社長がいたく気に入り、そのまま採用になった。
撮影は驚く程順調に進んだが、蓮の心配よりも自分達の心配をしなければならなかった。
バック演奏は後から撮り直せるとは言え、蓮のマイクが拾う音は消せないのだ。
何が何でも蓮の足を引っ張るような真似はすまいと、気を張り、ボーカルの声に集中するあまりに冷や汗をかいたのは久しぶりだった。
結局、蓮がスタジオにいたのは2時間余りだった。
水の演出があった為、2回の着替えを経て3回目の着替えをしている最中に出たOKの声を聞くと、用意された衣装のまま誰にも挨拶をせずに1人で消えてしまった。
関係者にお詫びを入れ、フォローをする役目に異存など無い、CMの制作会社のプロデューサーとエデンの社長を交えた接待絡みの飲み会もキッチリと付き合い、愛想笑いを振り撒いてきた。
クリスが代表を務める会社と懇意なのか、ややこしい演者の説明を省けると踏んだ黒江の手配なのか、そこは知らない。
そんな事はどうでもよかった。
やるべき事をやるだけだ。
CMに使う楽曲はやる気の無さを反映したように酷くチグハグだったが特に注文や変更も無くあっさりとOKが出ていた。
全然知らなかったが、普通なら絵と音は別撮りするのが定石なのだそうだ。
音に合わせて絵を撮り、場合によっては絵に合わせて音を取り直す。
しかし、どちらも上手くいかないのは先に渡したデモ録音が証明していた。
その為に、豪勢な音楽機材が持ち込まれ、そこに特殊な照明とアーム台を含めた5台のカメラ、そしてトランスフォームでもしそうな物々しい機械はスーパースローのカメラらしい。
「こちらは万全です、いつどんなタイミングで始まっても撮り逃したりはしませんよ」
バラバラと不揃いに生えた髭面がにっと笑って親指を立てた。
しかし、準備など要らないのだ。
今回カメラが捕らえるのは1人だけだ。
異例だと言われた生演奏での一発撮りは黒江と日暮の2人だけが担当しているのだから遠慮などする必要は無い。
おまけにCMで使われるフレーズはAメロのサビだけなのだから、バラけても外れても「及第点」でいいなら帳尻を合わせるのは2人とも得意だろう。
真っ暗なスタジオの中、服も顔も指先まで赤紫に染める天井のライトと強烈な白のバックライトの前に立つと雨を模した水がサラサラと降ってきた。
何が蓮を変えたのか。
元々、公園で出会った頃から歌唱力や歌の完成度に不安など無かったのだが、いつの間にか一皮剥けたようだ。
脱皮とはよく言ったものだ。
薄皮と粘膜に手足を取られてもがいていたのに、粘液を滴らせてヌルリと頭を出した様は冷めた目付きも相まって生臭さを感じる程の凄みがあった。
さすがに曲の途中でカットが掛かる撮影ではライブで見せる程のキレたオーラは無いが15秒、もしくは30秒だけ切り取る中にそんなものは必要ない。
拾い上げた音符より高く伸び上がる声、乗ってきた時に見せる薄笑い。カメラがどんな風に捉えているかはわからないが誰にも文句は言わせない。
全てのイメージを背負う蓮の年齢に合わせ、RENの楽曲は挑戦的な旋律と世の中を斜め横から見つめるような尖った歌詞を特徴としているが、今回は商品に当て書きをした為に若者を鼓舞するような内容となっている。
メインのキャッチとして歌詞に入っていた「立て」が「跳べ!」に変わっていたが、撮影に立ち合ったエデンの社長がいたく気に入り、そのまま採用になった。
撮影は驚く程順調に進んだが、蓮の心配よりも自分達の心配をしなければならなかった。
バック演奏は後から撮り直せるとは言え、蓮のマイクが拾う音は消せないのだ。
何が何でも蓮の足を引っ張るような真似はすまいと、気を張り、ボーカルの声に集中するあまりに冷や汗をかいたのは久しぶりだった。
結局、蓮がスタジオにいたのは2時間余りだった。
水の演出があった為、2回の着替えを経て3回目の着替えをしている最中に出たOKの声を聞くと、用意された衣装のまま誰にも挨拶をせずに1人で消えてしまった。
関係者にお詫びを入れ、フォローをする役目に異存など無い、CMの制作会社のプロデューサーとエデンの社長を交えた接待絡みの飲み会もキッチリと付き合い、愛想笑いを振り撒いてきた。
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