相川光彦は「キラキラ」がわからない ~無人島、持っていくなら何にする?番外編 ~

林崎さこ

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その2

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 そんな悩める青少年・相川光彦に転機が訪れたのは去年、高校1年の秋のことだった。

 光彦の通う高校は、偏差値がそれほど高くなく、部活動も特に強くないという平凡を地で行くような地方校だが、何故かイベント関係だけは異様に張り切る。春の体育祭も盛り上がるが、何といってもメインは秋の文化祭。1年は教室展示、2年は物販、3年が飲食と割り振られ、準備期間ともなれば各クラスが勉強そっちのけで作業に取り組む。
 教室展示といっても、早い話がお化け屋敷やカジノと銘打ったカードもしくはボードゲーム大会などである。光彦のクラスは一番人気のお化け屋敷権をゲットし、早いうちから企画立案にかかっていた。
 光彦の役割は真っ先に決められた。教室前で道行く生徒や外部客を勧誘する「呼び込み」である。女性を集客するのにこれほど適した人材があろうか。満場一致の人選であった。
(コンニャクを首にペタってする役、やりたかったな……)
 心の中でそう思っても言わない。流されるままに生きる、これが光彦の在り方なのだ。

 そして迎えた文化祭。
 土曜・日曜の2日間にわたって開催されるこのイベントは、地域住民はもちろん、他校の生徒や入学を検討する中学生などが押し寄せ、ちょっとしたカオスになる。
 飲食ブースが長蛇の列になるのはいつものことだが、今回はお化け屋敷の人気が凄い。長身美麗のヴァンパイア(に扮した光彦)目当てに女子やら保護者のお母さま方が殺到したからだ。たまに休憩するとガタッと客足が落ちるので、ろくに休ませてもらえない上、「入場したら最後に相川君と記念撮影ができる」なんて噂も出回り、初日の集客数は教室展示系で過去最高を記録したという。
 そして2日目の午後、さすがに長時間の呼び込みに疲れた光彦は、ちょっと校舎を回って宣伝してくると嘘をつき、バックレることに成功した。飲食物はクラスの女子が差し入れしてくれたが、他の教室展示や文化部の発表はまるで見れなかったのが悲しい。しかしそれよりも、今はとにかく人目につかないところに行きたい。でも、文化祭の空気は味わいたい。
 そんな空間を求めてさまよい歩くうちに、渡り廊下の手前にあるホワイトボードに気がついた。

 < 生徒会主催・個人演芸会 2時よりこの先、講堂にて>

 案内文の下には、渡り廊下の先を示す太い矢印。
(そういえば、一発芸か何かで優勝すれば景品が出るとか言ってたアレかな……)
 容姿以外、特に誇れるもののない光彦には関係なさそうな催しなので気にもしていなかったが、休憩がてら覗いてみるのもいいかと思い、吸い込まれるように講堂に入った。

 照明を落とした薄暗い会場の最後列にすべり込む。入学式などの式典関係や講演会、吹奏楽部の定期演奏会などに使われる講堂は席数400強のなかなか立派な建物だが、この時間は体育館でダンス部やチアリーディング部の発表があり、そちらに多く流れているのだろう、客の入りは半分ちょいというところで空席が目立つ。ちょうど、誰かの芸が終わったところで、まばらな拍手が鳴った。
 
 <出演者1人当たりの持ちネタは3分・グループでの参加は可だが、カラオケ・政治的発言及び破壊行為不可>

 入口に貼ってあるポスターにそう書かれていた。カラオケはともかく、破壊行為って過去に何があったのだろう。
 最奥の椅子にだらしなく座り込み、そんなことをぼんやりと考えていると、アナウンスが流れた。

 「次は、1年3組 遠藤朋希えんどうともきくん。演目は創作落語<高校入試>です」

 場内に出囃子でばやし三味線が鳴り響く中、舞台袖から小脇に座布団を抱えた着物姿の男子生徒が登場し、舞台の前寄り中央に座布団を敷いた。その上に座り、一礼する。

 (へぇ、落語だって!)

 違うクラスの聞いたことのない名前の生徒だが、笑点ラヴァ―として、これは見逃せない。光彦は、このスマホ全盛時代にありえないと言われる、裸眼視力2.0の両眼をかっぴらいて身を乗り出した。

  (つづく)

 






 
 
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