【短編集】エアコンと人類進化

多来間 和士(おおらいま かずし)

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エアコンと人類進化

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 人類は愚かだという現実と、僕は向き合っていた。

「んあー」

 外は猛暑。およそ人類が活動する気温ではないと言ってもいい暑さだ。恐らく砂漠のように、大気がゆらゆらと歪んで見えるに違いない。
 しかし、そんな真夏の昼間、

「へくしょん!!」

 勢いよく口から粘液が飛ぶ。
 僕は寒気を感じていた。
 エアコンだ。外が暑いからと温度を下げすぎたのだ。

 キンキンに冷えた部屋はもはや寒い。
 この加減調節ができない点を指して、僕は人類が愚かだと思ったのだ。
 暑さから逃れ快適に過ごすために、エアコンという技術は生まれた。だが、技術を進歩させることはできても、正しい扱いができなければ意味がない。
 そう、今の僕のように。

 調子に乗って温度を下げすぎて、風邪を引きそうになっている。
 豚に真珠とは、このことを指すのではないだろうか。

 つまり、技術の進歩に、扱う側がついていけていない。
 "進歩"に、"進化"が追いついていないのだ。

 それがとてつもなく、ひょっとしたらどうしようもないくらい、愚かなことに思えた。

「ひー、これはたまらんな」

 僕は急いでリモコンを探し出して、エアコンの温度設定を40度から42度に上げる。
付けっ放しのPCから、気象庁から送信されてきた明日の予報映像が垂れ流されている。

『2079年8月3日。今日は本当に暑い日ですが、明日は打って変わって、夏にしては過ごしやすい一日となります。最高気温は55度で、今日と比べて5度下がっております』

 映っているのは20代前半、地球温暖化による急激な気候変動への適合手術をきちんと受けた女性だ。耳や鼻の数が正しく、限りなく人に近い形を保っている。

「こういうのは、あんまりタイプじゃないんだよなあ」

 僕は批評家気取りで女子アナウンサーを一瞥して、出掛ける支度をすることにした。
 かかりつけのお医者様のところに行くのだ。
 ゼリー状の全身をぷるんと跳ねさせて、僕は椅子から降りた。弾力性が売りの肌に紫外線用クリームを塗りたくる。
 玄関口でシャボン玉状の保護被膜を纏い、さあ出発。

「そろそろ人型になりたいなあ」

 気候変動へ適合する為に人類が辿った進化とはいえ、生まれつきの体が僕は好きじゃなかった。
 ぶよぶよしていてスマートじゃない。
 でも、今そんなことを言ってもしょうがない。

 歩くための足など、生まれつき無いのだから。

 ごろごろと道路を転がって僕は進む。道行く人型とゼリー状の住人たちをかき分けて、目的地を目指す。
しかしふと気付いて、踵を返すことにした。

「しまった!エアコンを切ってない!」

 急いで帰宅すべく僕はごろごろごろごろと転がった。
 夏がどれだけ暑くなろうと、それに適応すべく体がゼリー状の定型を持たない種族になろうと。

 人類は、しょうもない過ちから逃れられずにいる。

 進化、できずにいる。
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