僕の分断面、その欠片と

balsamico

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僕の分断面

僕の欠片 5

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目が覚めると昼近い朝でカーテンの隙間から光が漏れ出ていた。


関係が明確じゃないのに、また行為をしてしまった。
昔と違うのは、今回はいもじゃが主導だということ。


いもじゃに散々泣かされる。
行為が手慣れていて、経験の差を認識させられた。


いもじゃはまだ寝ていたので、トイレに行こうとした。
喉も乾いて痛むし、タバコも吸いたい。


起き上がると腰が痛い。
腰というか腹の中、内臓が痛い。ツキンと奥が痛み、一瞬呼吸ができなかった。


覚悟を決めてベッドから立ち上がろうとすると

「帰るなよ」

いもじゃに見つかり、腕をつかまれベッドに引きずり込まれた。

「水飲んでくる。トイレも。風呂も借りたい」

身体中がべたついている。陰毛も精液でかぴかぴだ。


2人で起き上がって、いもじゃが買ってあったパンや菓子を食べた。


風呂も一緒に入った。キスをしたり、洗いっこをしたり、ずっと触りあっていた。昔できなかっことを、今やり直ししてるみたいだ。


湯で温んだ身体をすり寄せ合う。滑らかな肌に触れると石鹸の匂いがする。


身体を下側にひっくり返され、くちゃくちゃと口内を嬲られる。
自分の舌か、いもじゃの舌かわからなくなる。口の中はもうぐちゃぐちゃだ。


手は絶えず胸や脇、首、背中を這い回り刺激が与えられ続けた。
すぐに性器が頭をもたげる。


穴周りを舌で舐められた。
もどかしくて切ない。もっと奥への刺激が欲しい。


昨日は昼から寝落ちするまで、ずっと盛っていた。
僕の穴はとろとろのままで、ジェルを含んだいもじゃの指も性器も、ぬぷりと節操もなく簡単に飲み込んだ。


指で乳首を押しつぶされ、腰を持ち上げられ背後から突かれた。


いもじゃが腰をねばつくように動かすと、そり気味の性器が前後に動き、時折いいところをかすめる。
僕はじんとした電気が走るような刺激が気持ちが良くて手足の力が抜けてしまう。


突かれながら性器や胸をいじられて、気がつくと僕は女の子みたいな嬌声を上げていた。


ぎりぎりまで引かれ一気に奥へ突き刺された。僕は衝撃で悲鳴のような嬌声を上げながら耐える。
小刻みに入り口を抜き差しされ排泄感に近い快楽と向きあう。


数日したら、いもじゃはここじゃない場所へ帰って行く。
つい懐かしくて、僕に手を出してしまったんだろう。


こんなすぐ傍にいるのに伝えたいことは全く伝えられていない。
いもじゃはもうすぐ帰ってしまうのに。


熱くなって熱くなって、自身のこみ上げる衝動に身を任せた。
大きな衝動から解放され、中のいもじゃをぎゅっと締め付けた感触がした。


僕の中で、いもじゃが大きくふるえている。その振動も切なくて、愛しかった。


いつの間にか僕は泣いていた。

「何で泣いてるんだ」

いもじゃが唇で目元をふさいだ。




僕の中には、いもじゃのかけらがあった。他はなだらかなのに割れ口の一辺だけが、鋭利な刃物のようだ。
そこにはずみで触れるたびに、僕は血と涙を流す。


時間の経過ともに、いろんな人のかけらは小さくなっていくのに、いもじゃのかけらは、まだ大きい。


今のいもじゃが、従来のかけらに足されて大きくなる。
でも、分断面は鋭利なままだ。


僕は触れては、また見えない血を流す。
見えないから、いや見たくないからこそ目をそらし、僕は痛みに向き合わなかった。
無視していたけど本当は痛かったんだ。
 

痛いんだ。心の奥が痛い。
やっぱりこのまま放置は嫌だった。



天井の木目の天板に目をやる。
天板と僕の間にいもじゃの顔が割り込んできた。

「昔から好きだった」

寝転びながら、いもじゃの目を捉えて続ける。

「親がいもじゃを一方的に責めた時、何も言えなかった。かばえなかった。僕が、いもじゃを、引きずり込んだのに」

胸が勝手に熱くなり、目元が急激に潤んだ。

「本当に、ごめんな」

僕を見下ろすいもじゃは驚いていた。
傲慢だった僕が、素直に気持ちを吐露することに。


僕はあの事件から傲慢じゃなくなったし、また今日、自分の気持ちを見ないふりをするのは止めたんだ。

「俺こそ、親父の葬式の後、会いに来てくれたのに。素っ気なくしてしまって。あれで嫌われたかなって思ってた」

「なんとも思ってないよ。嫌われてるのは僕だと思ってた」


それから僕達はいろいろ話をした。


あれからのことを、本当に話したいことを、これからのことも、欠けていたピースを埋めるように話した。


セミナーで誠人に会ったらしい。そこで僕の近況を聞いたそうだ。


いもじゃは最近会社を辞めたばかりだった。新しい会社の入社まで時間があって、今回は家の整理は口実だったそうだ。


でも実家の取り壊しはやるようで、片づけは本当に必要らしい。




タバコによる緩慢自殺の目論見について話したら、笑われた。

「まだ死にたい?」

「そうでもない」

「なら、もうこれ、要らないな」

持っているタバコをゴミ袋に放られそうになった。

「待て待て、せめて残り位は、お別れさせろ」

慌てて、いもじゃから奪い取る。
タバコを吸っているとき睨んでいたのは、タバコ自体が嫌いなのと他の男の影響を勝手に感じたらしい。意外と嫉妬深くて勝手だ。





ほとんど見放されてはいたが、この地域でまた息づいている、古びた家父長制では自分はまだ長男だった。


逃げ出したら、探され、連れ戻されるかもしれない。
それなら。


いもじゃと関係している肌色場面の最小値をプリントアウトをして、封筒に入れ三軒隣の家の郵便受けに投函した。


親族で一番口が軽いおばさん。
明日には情報は親戚一同にまわっているだろう。


気位の高さだけは立派な一族だから、一族外には漏らさないだろうし。


これで僕のことは諦めるだろう。
もしダメだったらそのとき考えたらいい。


悪いな、誠人。
後はよろしくな。


これから巻き起こるであろう騒動と、都会から地元に連れ戻されるであろう、かわいい弟に思いをはせながら、僕はいもじゃの所に向かう上り電車に乗り込んだのだった。

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