[完結]君は所詮彩り

balsamico

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5 揺らぎの少年

揺らぎの少年 8 至生 (完)

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子どもの時に見あげていた高校生や大学生はやけにでかくて、なんでもできそうな大人に見えた。


彼らは鼻を袖で拭かないし排泄系の下ネタでゲラゲラ笑わない。
ガキの俺からみた彼らは賢そうで、三桁のかけ算を頭の中でばしばしキメてしまうようなキレキレに見えた。


身近にいた聖人は高校生のときから大人達の中にいた。静かに談笑している姿は俺に接するときと別人のようで、遠くに感じられた。大人に対等に相手されていて凄いと思った。



気配りや落ちつき、モチベや実行力などの能力は大人になると本人の意志とは関係なく自動アップデートで実装されるものかと思ってた。


高校で身長が伸び、大学に進むと声も低くなりひげもまばらに生えてくる。骨も少しゴツくなっておっさんじみてきた。
なのに、なのに……俺の基本部分は小学校低学年から変わらない。


大学生ってすげーっと眺めていた彼らの年齢に達しても、俺は管理や責任を果たせずに聖人の手を借りていた。マナーも慎重さも計画性も道具箱ごと小学校の机の中に置き忘れてきたみたいだ。


そんな不変の俺でも子ども時代から明らかに変化した事はある。一つは性欲という新しい興奮と身体活動が付与されたこと。実は昔から、らしきものは存在していた。ただここまで露骨に主張し始めたのは思春期を迎えてからだ。


そいつがいっぱいになると腰辺りがもぞついて落ちつかなくなる。ねばつきもにょついたものが膜をつくり、徐々に俺を覆う。視界も思考も身体も少しづつそいつに侵食されていく。


見るもの全てがエロに結びつき、森を見ても、路上の車を見ても、チョコレートや男子学生のシャツについたケチャップ汚れですらエロく感じる。
今、車が縦に揺れた? とまじまじと確認してしまう。気のせいなんだけど、ほんとそんな時の俺はどうかしてる。


心理描写の表現でザワザワという効果音がつく漫画がある。それと同じように俺の身体周りにもにょもにょという効果音がまとわりつくみたいだ。


日々のルーティンに処理が加わった。どうせなら楽しくやりたい。俺はさまざまな手法や快楽を自分なりに模索する。いくつかの手法を試してたどり着いたのが皮オナ。単純なものだったけれど快楽の加減がちょうどよくて好みだった……。
ヒートや前立腺街道をばく進中の今、そんな素朴な時代には戻れない。俺の性趣向もすっかり変わってしまった。



さて、そんなこんなで、ここ数年。
さらに変わったところが在るとすれば、予定外のヒートで妊娠して子どもを産んでしまった。突然親になっちゃったよ。


子どもを生んだときは麻酔で痛みはなかったけど、意識もなくて前後がよくわからない。気がつくといつの間にか隣のベッドに赤く小さな物体が寝かされていて、お子さんですよと言われ戸惑った。


じっくりと見た顔は赤ん坊時代の不細工な俺の写真の姿に似てた。
赤ん坊がすべて可愛いって言った奴は誰なんだろ。写真の俺はサル顔でちっとも可愛くなかったけど。
見てると全てが小造りになった茶色の顔がふぇっと泣きだし瞬時に赤くなる。赤ちゃんと『赤』の字があてられている理由がよくわかった。


部屋に病院の人が来て授乳のやり方を教わる。起き上がると切られた腹がズキズキと痛む。それでも容赦なく赤ん坊を渡され、促されてはだけた胸にうっすい唇を近づけた。
わなわなしていた唇が乳首に触れるけど唇は簡単に外れてしまう。赤ちゃんも初めてだから、練習なのよ、と助産師さんはいう。


何回かチャレンジしてちゅくりと吸いつかせた。温くちゅるりとした触覚、くすぐったい。引っ張られている感覚があったので弱いながらも吸っているようだった。少し吸ったら離れてしまう。再度乳首に近づけても吸い付かない。赤ん坊は寝てしまったようだ。


うっすい唇に指先が触れると寝ながらでも指にも吸いつく。これが本能と聞いて、へぇと思った。
 




三智の事件の後、直ぐに聖人とやりまくった。残りのヒート期間ずっと聖人としてたからよく分からない。


人類の生殖器は乱交前提の形状になっているという記事をみた。後から挿入された性器が先に注入された精液をかき出し、後者の受精確率をあげる形状上の仕組みがあるらしい。それは膣の話だけど。


ヒート時のα精子の着床率は凄まじく男性Ω性は堕胎が難しく子どもを産むしか方法がないとされていた。少なくない数の赤ん坊たちが親の手から離れ養子にだされていると聞く。


聖人はあの日、俺の負担と責任を一緒に引き受け、担った。
土壇場なるとそいつの真の人間性が表れるというけど、聖人は本物だった。俺の人を見る目はありすぎた。


ヒートの聖人。
抑制剤なしの聖人。
普段冷静さを失わない聖人の熱くて力強い手。俺をがっちり押さえつけて離さない。
口を唇でふさがれ無言で腰を打ち付けられる。
あの時の俺の精神状態はめちゃくちゃで、記憶もうろ覚えであやふやだけど、時折下から見上げた聖人が妙にやらしかった。


俺は聖人に悪いような気がして、あの時のことは極力考えないようにしていた。
身体が自分を一つづつ裏切っていく感じ。意志とは異なる本能に流されていく絶望感。


もう三智はここに来ないし、三智の話も聞かない。誰も話さない。
三智も本能に流されただけで事故だと思うようにするけど、やっぱり近づきたくない。


後々に三智は俺のことが好きだったと言ってきた。あの当時の俺は三智に訳もわからず否定されて哀しかったし、苦しかった。
あと出しじゃんけんのように後からそんなこと言われても、あのときの苦しさが楽になるものじゃない。大事だったらそれ相応に扱えと思った。





赤子が泣いていた。隣の部屋から声が聞こえる。
俺は出産後直ぐに高熱を出した。乳腺炎とかいろいろ疑われたけど、罹患したのはなんとおたふく。予防接種をしていなかったのか今頃に罹ってしまい隔離されてしまった。


吸わせないと出なくなる母乳。
胸はしばらく張って痛く、搾乳器で搾乳して授乳する方法とかあったらしいけど、世話のしやすさで粉ミルクになった。


哺乳瓶でミルクを飲ませる俺を見て、親戚のおばさんが母乳育児は楽だしいいわよって言い放っていくけど、出ないものは出ない。頼んでないのに勝手な助言を押し付けていくなっつーの。そんなに言うならおまえが出せ。


秋田さんは強面をニコニコさせてミルクをあげてくれるし、あのまーちゃんが珍しいものを見るように頻繁に見に来る。しまいにはおむつまで替えてくれるようになった。


しばらくするとふにゃふにゃの赤ん坊はしっかりした赤ん坊になり、乳幼児なった。
俺は休学していた学校に戻った。まーちゃんが手が空いているときは率先して面倒をみてくれていた。

「まーちゃ」

ちびはまーちゃんの姿を見つけると嬉しそうに手を伸ばす。まーちゃんはすぐ抱き上げていた。


ちびは舌足らずのため、ちゃんと名前が呼べない。まーちゃんは寸詰まりに呼ばれるこの呼び名が大好きのようで、目尻はでろでろに下がっている。


子どもを持つと何かが変わると思ったけど俺自身の本質は変わらなかった。ただ、ちびっこをちゃんと見ていないと命に関わる事故につながってしまう。やつらはやたらと動くし異物を口に入れまくるし、油断も隙もない。
危ないので見守るようにしていたら、親らしくなったと秋田さんに大人泣きされてしまった。
俺には聖人がいて必要無かったから、注意してなかったけど、ちゃんとやろうと思えばできるんだよ。やらないけど。



子どもを見る聖人の目は優しい。二人の間を子どもがごろごろと転がってる。
最初は何で俺だけ身体が痛いのとか寝れなくて苦しいとか不満たらたらだった。


しばらくすると周りの環境が大人モードから子ども仕様へシフトし、家中が俺を差し置いて謎の活気に包まれるようになった。


それと子どもはあっという間に成長を遂げていく。目の前で日々成長していく姿を眺めるのは興味深く面白くもあった。
外で見かけるよその子どもも気になったりした。俺自身に親視点という新しいチャンネルが増えた気がする。


子どもが居る生活も悪くないなと思った。それは慣れと周りが助けてくれ余裕ができたからなんだろうな。


以前のヒートは俺も聖人も普通じゃなかった。ヒートだから楽しいなんてものじゃなくて、必死だった。
その後も子どもが生まれて、そんな風には見えないだろうけど、毎日手探りで自分なりに必死に過ごしていた。


最近になりヒートも戻ってきた。
何かゆっくりヒートを楽しめたらいいなと思った。
央生も大きくなったし。
まーちゃんや秋田さんに懐いてるし。


そろそろいいかなと思った。





首筋から立ち上る熱気とふっと聖人の匂いに包まれる。回数を重ねているのに俺の身体は初めてのようにどくんと震え、はやがねをうつ。


手に触れる。
少し湿る指先は眠くもないのに熱い。身体の中にじわじわと小さな熱が蓄積されていく。


肌と肌が触れあう感触に目蓋の裏に谷間で見上げた空の青さがちらついた気がした。


目の前の聖人にもたげた頭をなすりつけた。深く息を吸い込むと聖人の匂いに包まれ身体が熱くなる。


あごをつかまれて唇を甘噛みされる。
唇の濡れた感触にくちゅりと立つ水音。
身体の裏側に隠れていたらしい体温が一気に上がってきた。


今は何も考えずにひたすら快楽に身を委ねるんだ。
俺は体内から湧き上がる熱い奔流にざんぶとのみ込まれていた。



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