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密の秘密
しおりを挟む僕らが15才になる日。
マスター達からの花や贈り物が次々と届く。
皆は贈り物に目を輝かせて喜ぶ。
何故だか僕は、皆ほど喜びを感じない。過去にあれほど楽しみにしていたマスターからのメッセージも、誕生日のプレゼントもなんとも思わなくなってしまった。
海に変なことをされてからマスターに対する思いが変わってしまったのだ。
皆のマスター達の中で、僕のマスターが一番若くて力があり格好いいマスターだと思っていたし、皆にはそう思われていた。羨ましがられていたのに、今の僕は何も感じない。
柔らかそうな栗毛色の髪。
きれいな茶色の目、優しそうな笑顔、長い手指。この人の家族になるのか。
マスターのビジョンをみてもピンとこなかった。
夕食の席で舎監が言った。
「今日から週に2回、2人づつ、夜に特別な訓練を受ける。槙と節には訓練はない。今晩は密と容」
マスター達と暮らす日も近づいている。
今まで夜の訓練など聞いたこともなかったのでどうやら最終段階のようだ。
真っ先に呼ばれた密と容は誇らしげに、呼ばれなかった槙と節は二人を羨ましそうに眺めていた。
翌日、密と容は朝食時に姿を現わさなかった。昼頃に姿を現した密と容は口数が少なくうつむいていた。なんだか動きもぎこちない気がした。
昨晩の特訓がどのようなものだったか、皆で押しても引いても持ち上げても二人とも内容を明かさなかった。
僕は密と特に仲良しだったから、こっそり彼を呼び出し聞いてみた。人目の少ない建物と建物の間の影に身体を潜めて聞く。
普段から密はニコニコしているのに、今日の密から笑顔は見られない。
「……環も今晩、体験したらわかるよ」
大人びた口調。口角を上げただけの意味深な笑み。さらさらとした黒髪と白い肌が余計に際立ち、少し暗い影の中でも印象的だった。
それ以上密から何も聞き出せなくて僕はすっかりあきらめてしまった。どうせ、今晩自分も訓練に呼ばれるからいいや、と。
*
夜になって呼び出しを受けた。舎監室の奥の部屋。その部屋の存在自体を今日初めて知る。
ノックして中に入ると一人の男性がいた。初めて見る顔。30代くらい。唇がぼってりとして鼻筋が通ったやや整った顔。その人は僕に中に入るように促した。
「そこに座ってくれる? はい、これは君の分」
そう言ってテーブルの上のグラスに入った飲み物を渡してきた。
「……それを飲んでから、話を始めよう」
ソファに腰をおろし、飲み物に口を付けた。甘酸っぱいフルーツの味。美味しくて思わず一気に飲み干してしまった。
一度に飲み過ぎて、意地汚く思われたかも。僕の飲みっぷりを見てその人は満足そうに微笑んでいた。
「君は、環くんでいいんだよね」
「はい」
僕の返事を聞くと満足げにうなずいた。怖い人ではなさそうだ。
「マスターの名前を聞かせて? どんな人なの?」
「はい。お名前は櫂さん。20代の若い方で、今は大学院で勉強されています。とても優しくて笑顔が素敵な方です」
男は僕の話をにこにこと聞いていた。面識のない背が高い人だったから少し怖く感じたけど、大丈夫かもしれない。
彼は他にもマスターから贈られた物や印象的なエピソードを聞いてきた。
僕は貰った特殊な集積回路のことや紫色の貴石のこと、マスター所有の大型ヨットの精巧な模型のことなどを一生懸命説明した。その人は熱心に耳を傾けていた。
話をしているうちに何だかやけに部屋が暑いような気がしてきた。頭も重くてぼやっとしてくる。
「この部屋は、暑いですね」
部屋の気温計を見るとそれほど暑い温度ではない。それとも自分の身体が熱いのか。
シャツの喉元をつかんでパタパタと空気を送り込んでいると
「暑いならボタンは外した方がいいね」と男は言う。
僕はボタンを外そうとした。しかし指が滑ってなかなか外せない。あれ、僕はこんなに不器用だったかな。
「……僕が、外してあげよう」
男は僕の隣に座り直すと、ソファに深く腰掛け、長い指で僕の喉元から数個のボタンを外していく。
手入れの行き届いた爪はやすりで磨かれ、丸みを帯びてつややかだ。
男からは嗅いだことのある匂いがした。マスターと同じシダーウッドとベルガモットが強いフレグランスの匂い。
知っている匂いに警戒心がゆるやかにほどけていく。半分ほど開いたところで、男の指が誤ったのか僕の喉元にふれる。
「あっ……」
指がふれた箇所がずきずきと熱をもち、そこだけ違うものに変質したようだった。
「どうした? ここが気持ちいいの?」
首筋を軽くなぞられた。指でなぞられた肌は、触れられた範囲以上にぷつぷつと泡立っていく。指先はさらに首から下へ線を引くように降りてくる。
ボタンが外れたシャツの隙間から指が中に入ってきた。男は僕の胸許の突起に触れた。くすぐったさが首筋の後ろを抜けていく。
触れたか触れないか微妙な位置で這いまわる指先。爪先でくるくると円を描き何回か周回した後、指腹でぐっと押しこまれた。
かすかに触られ押されているだけなのに、腰の奥でじくりと知らない感覚がうごめき始める。
いつの間にか男の下に横たわる体勢になっていた。見上げると男の顔が半開きの目のまま近づいてきた。近すぎる男の顔に焦点を合わせづらくて、目を伏せた。
唇を吸われた。唇の周りをなぞられ、ねっちょりと唇全体を味わうように食まれていた。何回も何回も。
僕はこのまま、この人と一緒にいたらこの厚めの唇に食べられちゃうんじゃないかと思った。ぼうっとする頭で精一杯考えてから、僕は大きく息を吸ってから悲鳴をあげた。
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