[完結]反薄明光線

balsamico

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邦陽

坂の上の屋敷


物心付いた頃には親の姿はなかった。
病に伏せがちな老いた女の人と海辺の街の小さな家で一緒にいた。

その女の人も姿が見えなくなり、幼い頃に親戚の家に引き取られた。その辺のことは幼さゆえか記憶がぼやけていてよく覚えていなかった。

ぼやけた記憶に焦点が合いだしたのはこの家に来てから。
一緒にいたのは祖母。姿が見えなくなったのは亡くなったから。曖昧な記憶にラベルリングできた。
 

坂の上に建つ立派な白い一軒家。
ちょっとした屋敷と呼んでも差し支えないような家の隅に、僕は棲息していた。

目立たずに息を潜めて生活する。
家の住民は僕が同じ屋敷にいることに関心を払っていなかった。

月に何回かは、食事に引っ張りだされ検分される。生育度合いとか容姿とか服装とか。この家に相応しいかどうか。済んだら放置。家人達が話す会話をBGMにテーブルの隅で黙々と食べ物を口に運ぶ。
誰も僕に注意を払わない。

屋敷には、笑みを浮かべていても目は全く笑っていない、僕の一挙一動を観察している小父さん。体面を気にして、本質を看過するきれいな小母さん。僕より3つ年上で小母さんに似たきれいな顔で不機嫌そうな春臣。そして、みなしごの僕の4人で暮らしていた。

他にこの屋敷内には常時何人かのお客が滞在していたり、お手伝いの人が屋敷に出入りをしていた。人の出入りが多い家だったので、僕の存在は余計薄くなっていた。
 

子どもは身近な年上の同性に憧れるという。
僕もその例にもれず、年上の少年の動向が気になっていた。棲息場所からはい出ては、彼がいる場所の側をわざとうろつき、声をかけられるのを待ってみたり。

僕はそれまで大人しか存在しない世界に生活しており、子供の存在自体が珍しかった。
年上の同性である春臣がかっこよくみえた。

僕の消極的アピールに気づいた春臣に時々構ってもらっていた。少しだったけれど、それが嬉しくて楽しくて、余計に付いてまわった。

気まぐれで構ったものの、面白味の少ない年下の子どもと遊んでも楽しくなかったらしい。以後はなかなか相手にしてもらえなかった。

構ってもらいたいあまりに追いかけては無視され、呼ばれたら用事を押し付けられ、約束をすっぽかされ、後々には悪事をなすり付けられたりした。

ゲーム相手が不在の時は別だった。
その時ばかりは相手を頼まれた。
ただ、負かすと怒ってしまうので、稀におとずれそうな勝利の機会にはわざと負けるようにしていた。
僕は何となく春臣を慕う下僕のようなポジションに収まっていた気がする。


両親がいない理由を特に誰からも教えられてはいなかった。それをいいことに春臣は僕の両親のことを借金の返済に困り心中したとか、飛行機事故だとか適当な事をでっち上げて僕に吹き込んでいた。

それを鵜呑みにする僕の反応が面白かったのかもしれない。
両親が無念のあまりゾンビになって迎えにくるんじゃないかとか、ゾンビ以外にも霊や妖怪など、使えそうなことを持ち出して僕を怯えさせ喜んでいた。

写真で見ただけの両親。
迎えに来てくれるのは嬉しいけれど崩壊したゾンビの姿は怖くて厭だ。

いい目にもあえず、ろくな目にしか合わされていなかったけど、背伸びしてでも春臣と一緒に居たいと思っていた。一緒に居る時が楽しくて、なぜかわからないけれどワクワクした。
 
意地悪で暴君でも、やることなすことが格好良く魅力的に見えた。春臣のきれいな顔や立ち姿を見ているのも好きだった。
 

春臣はエスカレーター制の男子校に通っていた。良家の子弟が多く在籍する学校だ。
制服と校帽が独特のデザインで恰好よく、すらりとした体型の春臣にはとても似合っていた。
春臣の学校は路線の関係で、家から通いにくい場所にある。早めに家を出る春臣の制服姿を覗き見ては密かに憧れていた。


春臣の友達は素行が悪いと小母に思われており、よく遊びに来るけれど歓迎はされていなかった。         

素行が悪いといっても繁華街の路地裏をうろついてお店で冷やかしたり、ファーストフード店やコンビニで買い食いする位で、ちょっとしたお行儀の悪さに過ぎなかったけど。

小母さんから見ると友達たちは悪の誘惑者に見えるらしい。彼らの影響で春臣が犯罪の道に誘導されるって思い込んでいるみたいだけど。でもそれは僕から見たら逆で……。


 首謀者が自分の子どもだとはまったく考えもしない所が、都合の悪いことに視力が落ちまくる小母らしくておかしかった。
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