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6話

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勇者としてあるまじきことだが、ディエゴが魔王であることをオレは喜んだ。
ディエゴが心からオレのことだけを見てくれている。オレのことを本当に愛してくれている。
そう思えば初めての痛みも快感もなにもかも超越する喜びが胸を締め付けていた。

その時はいっぱいいっぱいでこの気持ちを伝えることができなかった。
だけど、それで良かったのだ。
ディエゴはオレのことを好きだったのではない。オレの勇者としての力を手に入れることが目的だったのだ。
それはそうか、好きな相手の痛がるそぶりや苦しむ様子を楽しむことはないだろう。

勇者の力とは光の力、光が強ければその分闇は濃くなる。
オレが彼に勇者の力を与え続ける限り、彼は魔王として最強の闇の力を振るうことができるのだ。

勇者の力を分け与える神殿での儀式後の告白は、オレの心を捕らえて力を供給し続けるようにするための嘘だったのだろう。
嘘だとしても受け入れて仕舞えばよかった。
そうすれば、彼に愛されているという夢を見ていることが出来たかもしれない。


「何か召しあがりたいものがあればご用意しますよ。」

考え事をしていて全く食の進まないオレに気を遣ったのかサキュバスがオレに聞いてきた。

「・・・それじゃあ、ナットウを。」
「勇者らしいお好みですね。承知しました。お待ちします。」

ナットウは初代勇者が食べたいと言って作らせたと言われている食べ物だ。オレはこれが本当に好きなのだが、周囲の人間は勇者らしいと言って喜ぶ。
魔界にもナットウがあるのだな。不思議な感じだ。
サキュバスが持ってきてくれたナットウをかき混ぜていると扉が開いた。

「フリアン、ちゃんと食べているか?
っと、また出直す。」

ディエゴが入ってきたと思ったら一瞬で出ていってしまった。
その理由に想像がついて、オレは思わず笑い出してしまった。

「魔王様はどうされたのでしょう?」

ディエゴの不審な行動と急に笑い出したオレに不思議そうな顔をするサキュバス。
彼女には想像がつかないだろうが、オレにはすぐに分かった。

ディエゴはナットウが苦手なのだ。
以前、オレが好物はナットウだと言った時に心底嫌そうな表情で教えてくれた。
「俺はアレの匂いを嗅ぐのも嫌だ。俺の前では食べないでくれ。」
先ほどの顔はその時の表情と全く同じだった。

なんだか泣きそうだ。
オレは笑いながら滲んでくる目尻の水滴を拭った。
ディエゴはオレのことを利用したかっただけなのだろう。
だけど、オレが彼と過ごした日々、楽しかった思い出は嘘ではない。

ディエゴとちゃんと話そう。
交渉してある程度の自由は貰えたらいいな。
ずっと部屋に閉じ込められて澱んだ空しか見えないから気分も沈むのだ。
彼が人類の敵にならずに魔界を統治するというなら協力してもいいのだから。



だが、思った通りにいかないのが人生なのだ。

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