君の魔法使い〜異世界でオレ、いいように勘違いされてません!?〜

冨士原のもち

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第二部

第二部第一話

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ジュリアン・ヴュイヤールはその麗しい顔に暗いオーラを纏わせてため息をついた。

「おいおいどうした。めでたく長年の想い人と結ばれたにしちゃ不景気な顔してるな。何かあったのか?」

問いかけるのはジュリアンの悪友こと、オラース・リヴィエール。ジュリアンとは王立学院の同期生だ。
ここは王都の人気喫茶店。先日アナクレトがオラースと遭遇して途中退席した例の店だ。
人気店なのにしょっちゅう来店できている理由は貴族がメインターゲットの予約制のお店だが、今は社交シーズンでないため王都に貴族が少なく予約が取りやすいからだ。

「・・・お前には言いたくない。」
「なんだよー。お前、俺に言わなきゃ誰に言うんだよ。恋のお悩みなんてお前のファンクラブの会員に言ってみろ。あの愛らしいお兄さんなんてメタメタにされちまうぞ。」

ジュリアンはオラースを軽く睨むが、言っていることには納得したのか渋々話し始める。

「・・・失敗したんだ。」
「何を?」

ジュリアンはもう一度今度は強めにオラースを睨んでこう言った。

「夜の行為だよ!」



なんでこんなことをこいつに言うハメになってるんだ。
今日はアナクレトと無事結ばれたことを自慢してやろうと思っていたのに・・・

お互いの気持ちを告白しあったあの日、昼過ぎまでアナクレトは目を覚まさなかった。
もちろんアナクレトの顔を見ているだけで幸せだったので、いくら時間が過ぎようと俺は全く気にならなかった。
ただ、ちょっとズルして付き合い始めた自覚があった。だから目が覚めたアナクレトが、やっぱりなかったことにしたいと言い出すのではないかと少しだけ心配していた。

そうなったらどう言いくるめようか。せっかく昨日はいい雰囲気だったのだから脅すようなことはしたくないな。
アナクレトの心を占める一番が俺ならそれがたとえ恨み辛みでも構わないんだけど。・・・いや、それは最終手段だ。相思相愛の仲でいられるならそれがいいに決まっている。

そう、この時俺はアナクレトが交際に消極的、少なくとも恋人らしい雰囲気になるには時間がかかるだろうと覚悟していた。
しかし、アナクレトが目覚めた瞬間からその考えは一瞬で吹っ飛んでいってしまった。

寝起きのアナクレトはすごかった。
いつも身なりのきっちりしているアナクレトが二日酔いで気だるげにしているだけで壮絶な色気が醸し出されていた。
俺はその時ちょうど飲み物を取りに出ていた。帰ってきたらベットで起き上がるところだったアナクレトの姿を見て思わず唾を飲み込んだ。
アナクレトはキョロキョロ辺りを見渡して、俺を見つけた瞬間とろりと溶けるように微笑んだ。

元々昔からアナクレトは色っぽいと言われるタイプだった。だが、その色気を例えるなら凛と咲く百合の花のような清潔感のあるものだ。周囲に与える印象としては、どちらかというと高嶺の花のような、手を触れるのを躊躇する雰囲気があった。アナクレトは自分は根っからの平民なのにと首を傾げていたけど、よく俺の乳兄弟(つまり配下の男爵家か子爵家出身)に勘違いされていたのは納得できる。

俺がベットに近づくと、アナクレトは俺の手を握り婀娜っぽく微笑む。まるで薔薇の花のようなむせかえるほどの色気が醸し出されていた。
たまらず俺から軽く口付けをするとアナクレトは照れ臭そうに笑む。
そして、俺の頬に手を触れ目を覗き込んだかと思うと「すごく綺麗な瞳、俺が一番好きな色。」と言って俺のまぶたに口付けた。

俺たちは昨日お互いに告白して付き合い始めた。そして目の前には艶っぽく微笑む恋人。
ここで手を出さない男はいないだろう。
アナクレトをベットに押し倒して口づけを深める。舌を絡ませながら服の下の体を撫でる。恋人の体から感じる熱に夢中だった。
当初俺の首に優しく手を回していたアナクレトが急に背中を強く叩く。
驚いて体を起こすと顔を真っ赤にしたアナクレトがいた。

「ちょ、ちょっと待ってください。コレってもしかして、アレですか・・・えっと」
「どうしたの?」
「えっと、その、」

色っぽさが薄れ戸惑っているように感じた。だが、先ほどまでの雰囲気に飲まれている俺はそれを気に止めず、

「焦らしてるの?」

そう言って服の下の手を動かしながらもう一度顔を近づける。だが、アナクレトの表情を見て俺は固まってしまった。先ほどまでの艶やかさはかけらも無く、アナクレトは顔の色を失っていたのだ。

「無理です。オレなんかが、ジュリアン様とそんな・・・」

急な態度の変化に戸惑う。アナクレトは少し震えているようだった。
また昨日のように瘴気が内向きに発生したのが見えた。昨日の件で味を占めていた俺はアナクレトの首にかかっている首飾りをギュッと握った。

「どうしたのアナクレト?素直な気持ちを教えてよ。」

すると昨日と同じく泣き出したアナクレトは、昨日と違い俺を拒絶する言葉を吐き出した。

「無理です!もっと大人になってからにしてください!」

愕然とした。俺の能力は感情を移動させたり矛先を変えるだけで、感情自体を変えることはできない。これはアナクレトの本当に素直な気持ちだ。
不安になった俺は首飾りを触ったまま聞いた。

「俺とこういうことするの嫌なの?」
「嫌じゃないです。嫌じゃないけど無理なんです・・・。」

さめざめと泣くアナクレトにこれ以上何かするわけにもいかない。泣いてしまったのは俺が無理に感情の向きを変えてしまったせいでもある。
アナクレトが落ち着くまでそばにいて、そのまま帰宅した。
アナクレトが俺のことを嫌いで拒否するなら無理矢理にでもやっただろうけど、そうでないならどうすればいいのだろう。


「途中まではいい感じだったんだ・・・」
「ほー、それで?」
「・・・俺ってそんなに子供っぽいか?」
「なるほど、ジュリアンが子供だから無理って拒否されたわけか。」

ニヤつくオーラスの顔がムカつくが、ここで怒るのはあまりに大人気ないので黙って目を逸らす。

「まあ、同世代の俺からしたらお前は十分大人顔負けだと思うけどな。
ただ、アナクレトさんと再会してまだちょっとだろ。彼にとってはお前はまだ10歳の頃までの思い出が強いはずだ。だから、幼いお前と大人な行為をする気分になって罪悪感が刺激されたんじゃないか?」
「なるほど。それはあり得る。」

今俺は15歳だがそれはアナクレトが俺と出会った時の年齢と同じだ。
今の俺から見て当時の俺と同い年の7歳児なんて恋愛対象には見れない。
アナクレトからしたらそんな頃から俺を知っているのだから、急にベットに押し倒されたら混乱するだろう。

「しかも、お前から告白して付き合ったんだろ。
アナクレトさんからしたらお前にときめくというよりは、母性愛?父性愛?的な愛情に近いんじゃないか」

それはそうかもしれない。
あの穏やかな村で一緒に過ごしていた頃を思い出す。その頃から俺はアナクレトに恋をしていたが、当時は恋愛感情と兄のように慕う感情が入り混じっていた。今もアナクレトのことは兄のように尊敬している部分はある。
アナクレトの中ではもしかしたら俺のことを弟のように思う割合が俺よりも大きいのかもしれない。

「アナクレトの中の俺はまだ10歳のままなのかもしれないな。」
「そうそう、アナクレトさんがお前のこと立派になったなぁって思えば大丈夫。恋人としてやっていけるさ。」

オーラスの言うことは一理ある。
アナクレトは大人になってから、と言ったのだ。
学院は卒業前だがもう成人している俺に大人になれとはやはり大人っぽい魅力をつけろという意味だろう。

「まあでも、年上の恋人を持つと大変だなぁ。アナクレトさんはもう23歳だろ。いろいろ経験してるだろうし、おっと、そんなモヤっとした顔するな。」

アナクレトの色っぽい雰囲気を思い出す。口づけを深めるまでの甘え慣れた空気感。
俺が知らないだけで"いろいろ"経験しているのだろう。
魅力的な年上の恋人と付き合えば受け入れなければいけない現実だ。
だが、そのことについてはあまり考えないようにしている。じっくり考えると、今までにあんなに艶めいた彼を見ただろう人間を殺して回りたい気分になるからだ。

「分かっているさ。8つも歳の差があるんだから。アナクレトが経験豊富だろうが、それを認められないほどオレは子供じゃない。」

とにかく、オレが十分大人だってところを見せていかなきゃいけないな。

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