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正史ルート
第8話 予言の女神とレベルアップ1
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ある日の昼頃、家にスクルドがやって来て、いつものように雑談をしていた。
すると、玄関のほうで物音がする。何事かと思って振り向くと、よろよろとふらつきながら一柱の女神が入ってきた。
紫色の長い髪にやせ細った身体。神官が着るような服をまとっている。足元がおぼつかず、目を閉じたまま手探りのように歩を進める姿は、見ていて危なっかしいほどだ。
「ユーミル? なんでここにいるのよ」
スクルドが思わず眉をひそめる。口ぶりからして、知り合いらしい。相手――ユーミルは肩を震わせると、スクルドの方へ顔を向けた。目は閉じたままだ。
「ああ、その声はスクルド様。ユーミルは『破滅の獣』の出現を告げて回っているのです」
ユーミルの声はか細く震えていた。恐怖に表情が歪んでいるようだが、ずっと目を閉じているところを見ると、目が見えないのかもしれない。私は思わずスクルドと顔を見合わせる。
「また、あんたは……変な事を触れ回って。いいから早く城に帰りなさい」
スクルドは腕を組んで、面倒事を避けるかのようにユーミルを追い返そうとする。
「放っておくと、大変な事になるのです……!」
ユーミルは必死に訴えるが、スクルドはまったく取り合おうとしない。まるで厄介者扱いだ。
「はいはい、そう言う事は城に帰ってオーディン様にでも言いなさい」
「ちょっと、スクルド。可哀想じゃない。話ぐらい聞いてあげてもいいでしょう?」
自分でも理由はよくわからないが、ユーミルの痛々しい姿が目に入ると、つい擁護したくなる。スクルドは私を横目で見やって、嘆息するように口を開いた。
「あんたはこいつのことを知らないのね……。こいつは2級神ユーミル、予言の女神。でも、その予言も半分くらいしか当たらないし、変な事を触れて回るから厄介者扱いされてるのよ」
「スクルド様、ひどいのです……」
ユーミルが抗議するが、スクルドの態度は変わらない。
「だって、本当のことじゃない」
スクルドは悪びれない。
破滅の獣。その名が示すとおり、やばい存在という予感はある。けれど、これをもし私が討伐できたら、神々を見返すいいチャンスになるかもしれない。
「じゃあ、私がその『破滅の獣』を討伐してあげるわ」
思わず口に出していた。私のその言葉を受けて、ユーミルは感激したように声を震わせる。
「ああ、勇者様……!」
勇者様……いい響きだ。
すごく気分がいい。
「なんであんたは喜んでるのよ? あんたは女神なんだから、勇者を任命する側でしょうが!」
スクルドがすかさずツッコミを入れてくる。せっかく気分が盛り上がっていたのに、水を差されたかたちだ。
「まあ、いいじゃない。冒険みたいで楽しそうだし」
実際、家にこもっているのにも飽きていた。強い奴に会いに行くと思うと、胸が高鳴る。ワクワクしてきた。
「こいつの言う事なんて信じても、どうせハズレよ。もし本当に危険なら、とっくにオーディン様が動いてるはずでしょ。何もないってことはハズレということよ」
スクルドは憮然としてそう言い切る。確かにその通りかもしれないが、当たったら当たったで面白いし、ハズレでも冒険気分を味わえる。どう転んでも損はないだろう。
「それで、場所はどこなの?」
私はスクルドを無視してユーミルに問いかけると、ユーミルは少し戸惑いながら答えた。
「えっと……世界樹に続く森なのです」
「すぐ近所じゃないの!」
思わず大声を上げてしまった。
---
「壮大な冒険に出れると思ったのに……」
私は文句をこぼしながら森の中を歩いている。家からたった3千歩ほどの距離しかない。もはや冒険というよりは散歩に近い。
「だったら、無視すれば良かったでしょ」
なぜかスクルドまでついてきている。
「だって、半分くらいは当たる予言なんでしょう? 当たったら強い相手に会えるし、賭ける価値は十分あるわ」
私は肩をすくめながら答える。スクルドはふうっと息を吐いて首を振った。
「でも、あたしはハズレだと思うんだけど」
私たちは軽い会話をしながら、うっそうと茂る森の奥へと入っていく。かなり広範囲にわたって木々が生い茂っていた。
「そういえば、この森って結構広いのよね?」
「そうね。世界樹を中心に、たぶん1万歩くらいはあると思うわ」
スクルドの言葉に、私は思わず足を止める。そんなに広いのなら、ただの獣一匹を見つけるだけでも大変そうだ。
私がどうしたものかと考え始めた矢先、白い狼の群れが姿を現した。
森の茂みのあちこちから、十数匹、いや数十匹の白い毛並みを持つ狼が現れ、私たちを取り囲むように配置する。殺気を帯びた瞳がギラギラと光っていた。
「……私たちを狙ってる、みたいね」
スクルドが私の方にちらりと視線を送る。私も全斬丸の柄に手をかけ、わずかに身を低くした。相手は狼とはいえ、これだけの数で同時に襲われたら厄介だ。だが、私とスクルドなら問題ないだろう。
「さっさと片付けましょう」
私が刀を抜いたのと同じタイミングで、狼たちが一斉に襲い掛かってきた。吼え声が辺りにこだまする。素早い動きで私たちを取り囲むように走り回り、死角から牙を突き立てようとする。
スクルドは斧を構え、間合いを詰めてきた狼を力任せに叩き潰していた。体格は私より小柄だが、腕力は強い。私のほうも全斬丸を自在に操り、一匹一匹を確実に斬り捨てていった。
「数は多いけど、しょせんはただの狼ね」
そう呟いた直後、さらに追加の狼の群れが森の奥から続々と現れてくる。一体どれだけいるのか。血の匂いに誘われて、仲間の仇を取ろうと集まってきたのかもしれない。
私は刀をひるがえし、こちらに飛び掛かってきた狼の胴を横一文字に斬り裂く。血飛沫が辺りに散り、鋭い臭いが鼻をつく。スクルドは背後から来た狼を斧で縦に叩き割った。
「はぁ……結構骨が折れるわね。スクルド、そっちは大丈夫?」
「まだいけるわよ。でも、なんで狼がこんなに攻撃的なのよ、まったく……」
スクルドも疑問を口にしながら、素早く斧を振り回す。その音は重々しく、近づく狼の頭を粉砕していた。
やがて、ほとんどの狼が倒れ、森には狼の死骸と血の匂いが立ちこめる。かつては真っ白だった毛皮も、今や血まみれで赤黒く染まっていた。
「なんとか片付いたみたいね」
私は刀を振り、血を振り払う。スクルドも斧を下ろし、肩で息をしている。最初は余裕そうだったが、これだけの数を相手にすればさすがに疲労も溜まるだろう。
「こいつら、食べちゃおう。もったいないし」
私は狼を食べてみたくなった。
「ええー! 嫌よ、気持ち悪い」
甘いもの好きのスクルドは嫌悪感をあらわにするが、私は構わず焚火の準備を始めた。全斬丸で狼の死体をバラす。刀身が長く、料理には不向きだが、切れ味は申し分ない。
食べてみると、臭みが強くてあまり美味しくはなかった。私が食べている間、スクルドは渋い顔で一口だけ口にしてそれきりだった。
「やっぱり動物なんて食べるもんじゃないわね……。それにしても、動物は神を襲わないはずなのに、何で襲ってきたんだろう?」
スクルドは辺りに転がる狼の死骸を見ながら首をすくめる。私も血まみれの現場を見渡して、同じ疑問を抱く。神を見て逃げるどころか、集団で襲ってくるなんて尋常ではない。
「こいつらが、もしかして『破滅の獣』とか……?」
「ただの狼でしょ、どう考えても」
スクルドが即座に否定する。納得いかないが、確かにこんなに大量の狼が『破滅の獣』だとは思えない。
食べ終わると、すっかり日は暮れていた。薄暗い森がさらに闇に包まれ、わずかな月明かりが木々の隙間から漏れるだけだ。疲れたし、結局ここで野宿することに決めた。
「見張りは交代でしましょう。……あんたが先に寝てもいいわよ」
スクルドが私に声をかけてくれる。
「そう? じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
私は大きな木の根元に腰を下ろし、刀を枕代わりにゆっくり目を閉じた。むせ返る血の匂いが気にはなるが、疲労には勝てない。いつの間にか意識が遠のいていった。
---
「ワオーン!」
闇を裂くような狼の雄叫びが耳元で響き、私は飛び起きた。すぐそばでスクルドの声がする。
「近いわよ、かなり……」
スクルドは斧を構え、視線を森の奥へ向けている。私はまだ寝ぼけ眼のまま刀を抜き、立ち上がった。
次の瞬間、何かが左の視界をかすめた。私はとっさに刀を正面に向けるが、その一瞬の隙を突かれた格好で、巨大な力に体ごと吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ……!」
背中が木の幹に叩きつけられ、肺から息が漏れる。体中が痛い。こんな衝撃、味わったことがない。
視界が揺れる中、なんとか立ち上がり、スクルドが戦っている何かに目を凝らした。
「エリカ、大丈夫?」
スクルドがこちらを気にかけて叫ぶが、私は痛みを我慢してうなずいた。私たちの前には巨大な白い狼がそびえ立っている。大きさは普通の狼の10倍以上だろうか。その圧倒的な威圧感に鳥肌が立つ。
「こいつが……『破滅の獣』?」
スクルドも斧を構えながら、白い巨狼を睨む。あの群れの中にはこんな化け物はいなかったはずだ。まさか後から姿を現したのか……?
私は呼吸を整えると、刀をきつく握り直した。
「まったく……痛いじゃない。私を吹き飛ばすなんて、生意気ね」
その巨狼は高い唸り声を上げ、目を血走らせている。毛並みは月光を反射して青白く輝き、口元からは涎が滴っていた。かなりの殺意を感じる。
スクルドが先に飛び込み、斧を振り下ろす。巨狼は一瞬で間合いを詰めて、前足の爪で斧を弾き飛ばそうとする。スパークが散るような衝撃音が森に響いた。火花が舞うように見えるのは気のせいだろうか。
スクルドの筋力でも、押し負けそうになっているのがわかる。あれほど力の強い彼女が、こうも苦戦するなんて……。
「このままだとまずい!」
私も横から斬りかかろうと走り出す。だが、巨狼は私の存在に気づいたか、スクルドを軽く突き放してこちらに体を向けてきた。
鋭い眼光。先ほどの一撃で、こいつのパワーは身をもって知った。下手に正面から受ければ再度吹き飛ばされかねない。私は動きを鈍らせるため、神力銃を放つことにした。
「これでどう?」
6発の弾丸を立て続けに撃ち込む。相手は狼だから多少効果があるはず…… 巨体ゆえに避けきれなかったのか、全弾が命中した。
「ワオーン!」
巨狼が叫び声を上げ、苦しそうに身をよじる。神力銃でも致命傷にはならなかったようだが、動きを止めることはできたみたいだ。
「今よ、スクルド!」
私はそう叫んでスクルドに合図を送りつつ、自分も刀を構え直して走り出す。狙うは後ろ足の付け根。あそこを切断すれば、巨体が支えられなくなるはず。
だが、巨狼も苦痛に耐えながら、私を目で捉えているのがわかる。数十メートルの距離を詰める間に、奴は前足を高々と振りかぶり、私めがけて振り下ろしてきた。まるで巨大な鎌のような鋭い爪が視界を埋める。
「くっ……!」
私はとっさに刀を横に振り、前足を斬りつけるが、分厚い毛皮と筋肉に阻まれて切り口は浅い。血は出たが、止めを刺すにはほど遠い。体勢を崩した私に、さらに追撃が来る。
「エリカ、下がりなさい!」
スクルドが斧を投げるように巨狼の首元めがけて突き刺し、奴の注意を逸らす。私はその間に体勢を立て直した。スクルドの斧も深くは刺さらなかったが、奴は一瞬苦痛で動きを止めた。
今だ――私は再び走り、後ろ足の付け根を斬り上げる。狙いは的中。ゴリッと嫌な感触とともに、一部の筋肉や腱が断たれたのがわかる。
「ワオーン……!」
巨狼が激しくのたうち、バランスを崩して横向きに倒れ込む。私の攻撃だけでなく、神力銃のダメージも蓄積しているのだろう。
「あと少しね……」
私は呼吸を整え、今度はもう片方の後ろ足の付け根を目指す。巨狼は必死に抵抗して前足で私を引き裂こうとするが、スクルドが正面から斧を叩き込んで阻止する。
「はっ!」
斬りつけた感触が確かな手応えを伴い、後ろ足がほぼ使えなくなった巨狼は、地面に沈むように崩れ落ちた。体勢を維持できず、ずるりと横に倒れる。これで終わりだ。
「トドメよ……」
私は大きくジャンプし、刀を高々と掲げる。奴の頭を一突きすれば、完全に息の根を止められるだろう――そう思った瞬間、何かが私の体に体当たりしてきた。
「いたっ!」
刀が空を切り、そのまま着地に失敗して地面に転がる。何事かと目を凝らした。
すると、何者かの姿が見えてくる。
「もう、何なのよ……男?」
すると、玄関のほうで物音がする。何事かと思って振り向くと、よろよろとふらつきながら一柱の女神が入ってきた。
紫色の長い髪にやせ細った身体。神官が着るような服をまとっている。足元がおぼつかず、目を閉じたまま手探りのように歩を進める姿は、見ていて危なっかしいほどだ。
「ユーミル? なんでここにいるのよ」
スクルドが思わず眉をひそめる。口ぶりからして、知り合いらしい。相手――ユーミルは肩を震わせると、スクルドの方へ顔を向けた。目は閉じたままだ。
「ああ、その声はスクルド様。ユーミルは『破滅の獣』の出現を告げて回っているのです」
ユーミルの声はか細く震えていた。恐怖に表情が歪んでいるようだが、ずっと目を閉じているところを見ると、目が見えないのかもしれない。私は思わずスクルドと顔を見合わせる。
「また、あんたは……変な事を触れ回って。いいから早く城に帰りなさい」
スクルドは腕を組んで、面倒事を避けるかのようにユーミルを追い返そうとする。
「放っておくと、大変な事になるのです……!」
ユーミルは必死に訴えるが、スクルドはまったく取り合おうとしない。まるで厄介者扱いだ。
「はいはい、そう言う事は城に帰ってオーディン様にでも言いなさい」
「ちょっと、スクルド。可哀想じゃない。話ぐらい聞いてあげてもいいでしょう?」
自分でも理由はよくわからないが、ユーミルの痛々しい姿が目に入ると、つい擁護したくなる。スクルドは私を横目で見やって、嘆息するように口を開いた。
「あんたはこいつのことを知らないのね……。こいつは2級神ユーミル、予言の女神。でも、その予言も半分くらいしか当たらないし、変な事を触れて回るから厄介者扱いされてるのよ」
「スクルド様、ひどいのです……」
ユーミルが抗議するが、スクルドの態度は変わらない。
「だって、本当のことじゃない」
スクルドは悪びれない。
破滅の獣。その名が示すとおり、やばい存在という予感はある。けれど、これをもし私が討伐できたら、神々を見返すいいチャンスになるかもしれない。
「じゃあ、私がその『破滅の獣』を討伐してあげるわ」
思わず口に出していた。私のその言葉を受けて、ユーミルは感激したように声を震わせる。
「ああ、勇者様……!」
勇者様……いい響きだ。
すごく気分がいい。
「なんであんたは喜んでるのよ? あんたは女神なんだから、勇者を任命する側でしょうが!」
スクルドがすかさずツッコミを入れてくる。せっかく気分が盛り上がっていたのに、水を差されたかたちだ。
「まあ、いいじゃない。冒険みたいで楽しそうだし」
実際、家にこもっているのにも飽きていた。強い奴に会いに行くと思うと、胸が高鳴る。ワクワクしてきた。
「こいつの言う事なんて信じても、どうせハズレよ。もし本当に危険なら、とっくにオーディン様が動いてるはずでしょ。何もないってことはハズレということよ」
スクルドは憮然としてそう言い切る。確かにその通りかもしれないが、当たったら当たったで面白いし、ハズレでも冒険気分を味わえる。どう転んでも損はないだろう。
「それで、場所はどこなの?」
私はスクルドを無視してユーミルに問いかけると、ユーミルは少し戸惑いながら答えた。
「えっと……世界樹に続く森なのです」
「すぐ近所じゃないの!」
思わず大声を上げてしまった。
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「壮大な冒険に出れると思ったのに……」
私は文句をこぼしながら森の中を歩いている。家からたった3千歩ほどの距離しかない。もはや冒険というよりは散歩に近い。
「だったら、無視すれば良かったでしょ」
なぜかスクルドまでついてきている。
「だって、半分くらいは当たる予言なんでしょう? 当たったら強い相手に会えるし、賭ける価値は十分あるわ」
私は肩をすくめながら答える。スクルドはふうっと息を吐いて首を振った。
「でも、あたしはハズレだと思うんだけど」
私たちは軽い会話をしながら、うっそうと茂る森の奥へと入っていく。かなり広範囲にわたって木々が生い茂っていた。
「そういえば、この森って結構広いのよね?」
「そうね。世界樹を中心に、たぶん1万歩くらいはあると思うわ」
スクルドの言葉に、私は思わず足を止める。そんなに広いのなら、ただの獣一匹を見つけるだけでも大変そうだ。
私がどうしたものかと考え始めた矢先、白い狼の群れが姿を現した。
森の茂みのあちこちから、十数匹、いや数十匹の白い毛並みを持つ狼が現れ、私たちを取り囲むように配置する。殺気を帯びた瞳がギラギラと光っていた。
「……私たちを狙ってる、みたいね」
スクルドが私の方にちらりと視線を送る。私も全斬丸の柄に手をかけ、わずかに身を低くした。相手は狼とはいえ、これだけの数で同時に襲われたら厄介だ。だが、私とスクルドなら問題ないだろう。
「さっさと片付けましょう」
私が刀を抜いたのと同じタイミングで、狼たちが一斉に襲い掛かってきた。吼え声が辺りにこだまする。素早い動きで私たちを取り囲むように走り回り、死角から牙を突き立てようとする。
スクルドは斧を構え、間合いを詰めてきた狼を力任せに叩き潰していた。体格は私より小柄だが、腕力は強い。私のほうも全斬丸を自在に操り、一匹一匹を確実に斬り捨てていった。
「数は多いけど、しょせんはただの狼ね」
そう呟いた直後、さらに追加の狼の群れが森の奥から続々と現れてくる。一体どれだけいるのか。血の匂いに誘われて、仲間の仇を取ろうと集まってきたのかもしれない。
私は刀をひるがえし、こちらに飛び掛かってきた狼の胴を横一文字に斬り裂く。血飛沫が辺りに散り、鋭い臭いが鼻をつく。スクルドは背後から来た狼を斧で縦に叩き割った。
「はぁ……結構骨が折れるわね。スクルド、そっちは大丈夫?」
「まだいけるわよ。でも、なんで狼がこんなに攻撃的なのよ、まったく……」
スクルドも疑問を口にしながら、素早く斧を振り回す。その音は重々しく、近づく狼の頭を粉砕していた。
やがて、ほとんどの狼が倒れ、森には狼の死骸と血の匂いが立ちこめる。かつては真っ白だった毛皮も、今や血まみれで赤黒く染まっていた。
「なんとか片付いたみたいね」
私は刀を振り、血を振り払う。スクルドも斧を下ろし、肩で息をしている。最初は余裕そうだったが、これだけの数を相手にすればさすがに疲労も溜まるだろう。
「こいつら、食べちゃおう。もったいないし」
私は狼を食べてみたくなった。
「ええー! 嫌よ、気持ち悪い」
甘いもの好きのスクルドは嫌悪感をあらわにするが、私は構わず焚火の準備を始めた。全斬丸で狼の死体をバラす。刀身が長く、料理には不向きだが、切れ味は申し分ない。
食べてみると、臭みが強くてあまり美味しくはなかった。私が食べている間、スクルドは渋い顔で一口だけ口にしてそれきりだった。
「やっぱり動物なんて食べるもんじゃないわね……。それにしても、動物は神を襲わないはずなのに、何で襲ってきたんだろう?」
スクルドは辺りに転がる狼の死骸を見ながら首をすくめる。私も血まみれの現場を見渡して、同じ疑問を抱く。神を見て逃げるどころか、集団で襲ってくるなんて尋常ではない。
「こいつらが、もしかして『破滅の獣』とか……?」
「ただの狼でしょ、どう考えても」
スクルドが即座に否定する。納得いかないが、確かにこんなに大量の狼が『破滅の獣』だとは思えない。
食べ終わると、すっかり日は暮れていた。薄暗い森がさらに闇に包まれ、わずかな月明かりが木々の隙間から漏れるだけだ。疲れたし、結局ここで野宿することに決めた。
「見張りは交代でしましょう。……あんたが先に寝てもいいわよ」
スクルドが私に声をかけてくれる。
「そう? じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
私は大きな木の根元に腰を下ろし、刀を枕代わりにゆっくり目を閉じた。むせ返る血の匂いが気にはなるが、疲労には勝てない。いつの間にか意識が遠のいていった。
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「ワオーン!」
闇を裂くような狼の雄叫びが耳元で響き、私は飛び起きた。すぐそばでスクルドの声がする。
「近いわよ、かなり……」
スクルドは斧を構え、視線を森の奥へ向けている。私はまだ寝ぼけ眼のまま刀を抜き、立ち上がった。
次の瞬間、何かが左の視界をかすめた。私はとっさに刀を正面に向けるが、その一瞬の隙を突かれた格好で、巨大な力に体ごと吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ……!」
背中が木の幹に叩きつけられ、肺から息が漏れる。体中が痛い。こんな衝撃、味わったことがない。
視界が揺れる中、なんとか立ち上がり、スクルドが戦っている何かに目を凝らした。
「エリカ、大丈夫?」
スクルドがこちらを気にかけて叫ぶが、私は痛みを我慢してうなずいた。私たちの前には巨大な白い狼がそびえ立っている。大きさは普通の狼の10倍以上だろうか。その圧倒的な威圧感に鳥肌が立つ。
「こいつが……『破滅の獣』?」
スクルドも斧を構えながら、白い巨狼を睨む。あの群れの中にはこんな化け物はいなかったはずだ。まさか後から姿を現したのか……?
私は呼吸を整えると、刀をきつく握り直した。
「まったく……痛いじゃない。私を吹き飛ばすなんて、生意気ね」
その巨狼は高い唸り声を上げ、目を血走らせている。毛並みは月光を反射して青白く輝き、口元からは涎が滴っていた。かなりの殺意を感じる。
スクルドが先に飛び込み、斧を振り下ろす。巨狼は一瞬で間合いを詰めて、前足の爪で斧を弾き飛ばそうとする。スパークが散るような衝撃音が森に響いた。火花が舞うように見えるのは気のせいだろうか。
スクルドの筋力でも、押し負けそうになっているのがわかる。あれほど力の強い彼女が、こうも苦戦するなんて……。
「このままだとまずい!」
私も横から斬りかかろうと走り出す。だが、巨狼は私の存在に気づいたか、スクルドを軽く突き放してこちらに体を向けてきた。
鋭い眼光。先ほどの一撃で、こいつのパワーは身をもって知った。下手に正面から受ければ再度吹き飛ばされかねない。私は動きを鈍らせるため、神力銃を放つことにした。
「これでどう?」
6発の弾丸を立て続けに撃ち込む。相手は狼だから多少効果があるはず…… 巨体ゆえに避けきれなかったのか、全弾が命中した。
「ワオーン!」
巨狼が叫び声を上げ、苦しそうに身をよじる。神力銃でも致命傷にはならなかったようだが、動きを止めることはできたみたいだ。
「今よ、スクルド!」
私はそう叫んでスクルドに合図を送りつつ、自分も刀を構え直して走り出す。狙うは後ろ足の付け根。あそこを切断すれば、巨体が支えられなくなるはず。
だが、巨狼も苦痛に耐えながら、私を目で捉えているのがわかる。数十メートルの距離を詰める間に、奴は前足を高々と振りかぶり、私めがけて振り下ろしてきた。まるで巨大な鎌のような鋭い爪が視界を埋める。
「くっ……!」
私はとっさに刀を横に振り、前足を斬りつけるが、分厚い毛皮と筋肉に阻まれて切り口は浅い。血は出たが、止めを刺すにはほど遠い。体勢を崩した私に、さらに追撃が来る。
「エリカ、下がりなさい!」
スクルドが斧を投げるように巨狼の首元めがけて突き刺し、奴の注意を逸らす。私はその間に体勢を立て直した。スクルドの斧も深くは刺さらなかったが、奴は一瞬苦痛で動きを止めた。
今だ――私は再び走り、後ろ足の付け根を斬り上げる。狙いは的中。ゴリッと嫌な感触とともに、一部の筋肉や腱が断たれたのがわかる。
「ワオーン……!」
巨狼が激しくのたうち、バランスを崩して横向きに倒れ込む。私の攻撃だけでなく、神力銃のダメージも蓄積しているのだろう。
「あと少しね……」
私は呼吸を整え、今度はもう片方の後ろ足の付け根を目指す。巨狼は必死に抵抗して前足で私を引き裂こうとするが、スクルドが正面から斧を叩き込んで阻止する。
「はっ!」
斬りつけた感触が確かな手応えを伴い、後ろ足がほぼ使えなくなった巨狼は、地面に沈むように崩れ落ちた。体勢を維持できず、ずるりと横に倒れる。これで終わりだ。
「トドメよ……」
私は大きくジャンプし、刀を高々と掲げる。奴の頭を一突きすれば、完全に息の根を止められるだろう――そう思った瞬間、何かが私の体に体当たりしてきた。
「いたっ!」
刀が空を切り、そのまま着地に失敗して地面に転がる。何事かと目を凝らした。
すると、何者かの姿が見えてくる。
「もう、何なのよ……男?」
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大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
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しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
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不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
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スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
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母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
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