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正史ルート
第9話 予言の女神とレベルアップ2
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私に体当たりしたのは、貴族めいた服装をした小柄な男だった。きらびやかな装飾、短い銀髪。
「やあ、始めましてかな、エリカ」
飄々とした声で挨拶をしてくるこの男は、どうやら神らしい。私は身構えながら問いかける。
「……あなた、誰よ?」
「ははは、僕も結構有名な神なんだけどね。ロキ、2級神で知識の神さ」
ロキ、と名乗った男はにこやかに微笑むが、どこか胡散臭い雰囲気が漂う。私が問い詰めようとすると、ロキは巨狼のほうへ視線を向ける。
「フェンリル……大丈夫かい?」
そう呟いて、手で合図を送るようにしている。その大きな狼はフェンリルと呼ばれているらしい。ロキは私の邪魔をした張本人だとわかって、苛立ちが募る。
「邪魔しないでよ。トドメを刺すところなんだから」
「いやはや、女神にあるまじき台詞だね……スクルド?」
ロキはスクルドのほうを見つめる。スクルドは斧を構えたまま、険しい表情でロキを睨み返している。
「ロキ、どうして邪魔をするの?」
「ははは、君までそんなことを言うのかい? 女神の心得を思い出したまえ」
ロキは楽しそうに笑いながら、私たちを値踏みするように眺める。
「すまないね。この狼はフェンリルといって、僕のペットなんだ。あまりイジメないでくれないかい?」
「こいつから襲ってきたのよ!」
私が抗議の声を上げるが、ロキは肩をすくめるだけ。
「おやおや、それは申し訳ないね。フェンリルには言い聞かせておくから、今回は目をつむってくれたまえ」
あまりにあっけらかんとした態度に、思わず唖然とする。スクルドが斧を持つ手を少し下げて、私に顔を向ける。
「エリカ、引き下がりましょう。……ロキはオーディン様やフレイア様のお気に入りなの。機嫌を損ねない方がいいわ」
ロキの神力は……20万か。ん?……フェンリルの神力が5千!
なんてことだ……私の神力は狼以下だった。
さすがに、この状態で私とスクルドがロキと戦うのは分が悪い。
「……わかったわ。見逃してあげる」
渋々そう答えると、ロキはニヤリと笑った。
「君は上級神に対する言葉遣いがなっていないね。スクルド、あとでちゃんと教育しておいてくれたまえ」
そう言い残すと、ロキは巨狼――フェンリルを連れてどこかへ立ち去っていった。森の暗がりに紛れて姿が消えるまで、私は呆然と見送るしかなかった。
「……なんなのよ、あいつ」
肩を落としていると、スクルドが私のほうを見て声をかける。
「疲れたし、あたしたちも仮眠をとって、朝になったら帰りましょう」
フェンリルはただのロキのペットだった。ユーミルの予言は結局ハズレだったのだろう。
---
あれから数日後。神力計で自分を計測してみると、数値が増加していた。10→50へ、ありえないほどの上昇だ。
「ふふふ、エリカはレベルアップした!」
ゲームではないのだから、そんな事はありえない。でも、どこかで嬉しさが込み上げてくる。返り血を浴びた時にフェンリルの血が口に入ったからか、あるいは狼の肉を食べたからなのか。その原因はわからない。
私は可能性を確かめるため、再び森へ向かって狼を狩ることにした。ところが、どれだけ狩っても神力はまったく増えない。となると、フェンリルの血こそが特別だったのかもしれない。
そうとわかれば、さらに力を得たいという欲がでてくる。私は7日間、ひたすら森を駆け回り、フェンリルを探した。片っ端から狼を狩っても、フェンリルは姿を見せない。これではただの動物虐待でしかない……。私自身も焦りはじめていた。
そして、ようやくフェンリルが姿を現す。昼間の森で見ると、銀色の毛並みが陽光を浴びて美しく輝いている。大きさもあの時と変わらない。私を見るなり、低く唸り声をあげる。
「何よ、やるって言うの?」
私は全斬丸を抜いて構えるが、フェンリルは微動だにしない。ただこちらを睨み、威嚇してくるだけ。ロキの言いつけを守っているのかもしれない。
「戦う気がないなら、首を振りなさい」
私がそう言うと、フェンリルは首をわずかに横に振る。攻撃するつもりがないようだ。だけど同族の狼たちを私が狩り続けたことへの怒りはあるのかもしれない――毛を逆立てて、今にも吠えてきそうな形相だ。
「じゃあ、ちょっとお願いがあるのよ」
私は怪しい笑みを浮かべながら、懐から小瓶を取り出す。いかにも“実験道具”といった代物だ。
「これ、気持ちを和らげる香水。……動物にも効くか試してみたいの。嗅ぐだけでいいわよ。悪いようにはしないから」
もちろんウソだ。中身は超強力な睡眠薬。フェンリルは私の動きに警戒しながらも、一応言葉は理解しているのか、首をかしげている。
私は瓶の蓋を開けると、息を止めたまま地面に置き、そっと後方へ下がった。フェンリルはしばし逡巡していたが、やがて瓶の匂いを恐る恐る嗅ぎはじめる。
「さあ、どうかしら?」
数秒もしないうちに、フェンリルの巨大な身体がぐらりと傾き、地面へ崩れ落ちた。ごとり、と鈍い音がする。
「超強力睡眠薬が効いたようね」
私は瓶を回収し、悪い笑みを浮かべながらフェンリルに近づく。そして“全自動巨大注射器”を突き立て、血液を抜き取っていく。黄金色の血液が見る見るうちに採取されていくのを見て、私は悦に浸った。重い荷車を引いてきた甲斐があるというものだ。
「どうせなら肉も欲しいわね……尻尾を少しもらおうかしら」
優しい私なりの気遣いで、尻尾を半分だけ切断するだけにとどめる。数回斬りつけただけで、フェンリルの大きな尻尾から血が噴き出し、私は返り血を浴びた
「……これだけ斬っても、目を覚まさないのね。さすがは私の超強力睡眠薬」
私は採取を終えると、尻尾を引きずって移動した。なるべく早くここから立ち去りたい。フェンリルが目覚める前に姿を消してしまえば、奴も追ってこられないだろう。
---
家に直接持ち帰るのはまずいと思い、森の外れで血液の結晶化作業を行うことにした。血液をそのまま飲むのはキツイので、自作の血液結晶化装置でフェンリルの血を結晶化する。その間に尻尾の肉を焼いて食べた。
「まずいわね……。臭みが強いし筋が固い」
文句を言いながらも飲み込むと、少し後に体中に力が湧いてくるような感覚があった。神力計を取り出して測ってみると、数値は100へ上昇している。結晶化された血は黄金色に輝いていた。
「血液の結晶でも神力が上がるか試してみましょう」
さっそく口にした。味はしないが、飲み込んでしばらくすると、胸の奥から熱がこみ上げるような感覚に襲われる。夜空を見上げると、いつの間にか辺りは真っ暗。見上げた月がいつもより眩しく見えるのは錯覚かもしれない。
再度計測すると、神力は500まで上昇していた。どうやら私の仮説は正しかったようだ。神力を持つ生物を食べたり血を飲んだりすると、私自身の神力が増える。これは大発見だ。
「ふふふ、エリカはレベルアップした!」
思わず笑みが漏れる。私は爽快な気分のまま帰路についた。遠くから狼の遠吠えが聞こえるが、それは負け狼の嘆きにしか思えなかった。
数日後、再びフェンリルを狙って森へ入ったが、まったく姿を見せなかった。あれだけのことをされたから、さすがに私の前に姿を現したくないのかもしれない。
---
さらに数日経ったある日、スクルドが家を訪ねてきた。青髪をポニーテールにまとめ、いつもの装いでやって来る。私は顔を合わせるなり、なぜか衝動に突き動かされ、スクルドに抱きついてしまう。
「どうしたのよ? エリカ。こんないきなり。まだ心の準備が……って、痛っ、痛いわよ!」
スクルドが悲鳴を上げる。私が彼女の首筋に歯を立て、血を吸っていた。甘い味が口内に広がる。自分でも何をしているのかわからないが、衝動を止められない。
しばらくして我に返り、慌ててスクルドから離れた。首筋から黄金色の血が流れ、スクルドは痛みに顔をしかめている。
「……ごめんなさい」
私がうなだれて謝罪すると、スクルドは困惑の表情を浮かべながら首筋を押さえた。その血の匂いが私をさらに誘惑するが、必死にこらえる。
『何か悪いものでも食べたの?』
――と、スクルドが言ったかと思うと、少し遅れてもう一度同じ声が響いた。
「何か悪いものでも食べたの?」
まるで二重の声。私の視界がぐらりと揺れ、スクルドの姿が二重に見える。これは……スクルドの未来視の能力? 血を飲んだことで獲得したのかもしれない。
「フェンリルの肉を食べたくらいかしら」
『あんた、あたしに隠れてそんな事をしていたの? 自業自得よ』
「あんた、あたしに隠れてそんな事をしていたの? 自業自得よ」
衝動に負けてスクルドの血を飲んだことで、新たな発見をしてしまった。これを利用すれば、私は最強の存在になれるかもしれない。
『何にやにやしてるの? 気持ち悪いわね。本当にどうかしてるわよ』
「何にやにやしてるの? 気持ち悪いわね。本当にどうかしてるわよ」
つい笑みを浮かべていたようだ。スクルドから見れば、さぞ奇妙だろう。
同じ言葉が時間差でもう一度耳に響き、頭の中がぐちゃぐちゃになる。私は両手でこめかみを押さえた。未来視の能力が制御できていないようだ。
「ごめんなさい……今日はちょっと調子が悪いみたい……」
スクルドの顔がダブって見える。彼女は痛みに耐えながら、私の前に立ちはだかった。
『……そうみたいね。今日は何もせずに寝ていなさい』
「……そうみたいね。今日は何もせずに寝ていなさい」
また同じ声が二重に聞こえる。スクルドは私の腕を引いてベッドへ連れて行った。首筋から血がまだ滲んでいるのを見ると、申し訳なさと罪悪感で胸がいっぱいになる。
「ごめんね、スクルド。痛かった?」
『痛かったわよ。でも、あんたがおかしな行動に出るのは今に始まったことじゃないしね』
「痛かったわよ。でも、あんたがおかしな行動に出るのは今に始まったことじゃないしね」
スクルドは呆れたような口調を取りながらも、私の額に手を当ててくれる。
『まったく、子供みたいね。今日はゆっくり休みなさい。もう変な物を食べてはダメよ』
「まったく、子供みたいね。今日はゆっくり休みなさい。もう変な物を食べてはダメよ」
スクルドはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれる。私は安心感に包まれながら意識を失った。
---
現在のエリカのステータス
神力……550
特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視
「やあ、始めましてかな、エリカ」
飄々とした声で挨拶をしてくるこの男は、どうやら神らしい。私は身構えながら問いかける。
「……あなた、誰よ?」
「ははは、僕も結構有名な神なんだけどね。ロキ、2級神で知識の神さ」
ロキ、と名乗った男はにこやかに微笑むが、どこか胡散臭い雰囲気が漂う。私が問い詰めようとすると、ロキは巨狼のほうへ視線を向ける。
「フェンリル……大丈夫かい?」
そう呟いて、手で合図を送るようにしている。その大きな狼はフェンリルと呼ばれているらしい。ロキは私の邪魔をした張本人だとわかって、苛立ちが募る。
「邪魔しないでよ。トドメを刺すところなんだから」
「いやはや、女神にあるまじき台詞だね……スクルド?」
ロキはスクルドのほうを見つめる。スクルドは斧を構えたまま、険しい表情でロキを睨み返している。
「ロキ、どうして邪魔をするの?」
「ははは、君までそんなことを言うのかい? 女神の心得を思い出したまえ」
ロキは楽しそうに笑いながら、私たちを値踏みするように眺める。
「すまないね。この狼はフェンリルといって、僕のペットなんだ。あまりイジメないでくれないかい?」
「こいつから襲ってきたのよ!」
私が抗議の声を上げるが、ロキは肩をすくめるだけ。
「おやおや、それは申し訳ないね。フェンリルには言い聞かせておくから、今回は目をつむってくれたまえ」
あまりにあっけらかんとした態度に、思わず唖然とする。スクルドが斧を持つ手を少し下げて、私に顔を向ける。
「エリカ、引き下がりましょう。……ロキはオーディン様やフレイア様のお気に入りなの。機嫌を損ねない方がいいわ」
ロキの神力は……20万か。ん?……フェンリルの神力が5千!
なんてことだ……私の神力は狼以下だった。
さすがに、この状態で私とスクルドがロキと戦うのは分が悪い。
「……わかったわ。見逃してあげる」
渋々そう答えると、ロキはニヤリと笑った。
「君は上級神に対する言葉遣いがなっていないね。スクルド、あとでちゃんと教育しておいてくれたまえ」
そう言い残すと、ロキは巨狼――フェンリルを連れてどこかへ立ち去っていった。森の暗がりに紛れて姿が消えるまで、私は呆然と見送るしかなかった。
「……なんなのよ、あいつ」
肩を落としていると、スクルドが私のほうを見て声をかける。
「疲れたし、あたしたちも仮眠をとって、朝になったら帰りましょう」
フェンリルはただのロキのペットだった。ユーミルの予言は結局ハズレだったのだろう。
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あれから数日後。神力計で自分を計測してみると、数値が増加していた。10→50へ、ありえないほどの上昇だ。
「ふふふ、エリカはレベルアップした!」
ゲームではないのだから、そんな事はありえない。でも、どこかで嬉しさが込み上げてくる。返り血を浴びた時にフェンリルの血が口に入ったからか、あるいは狼の肉を食べたからなのか。その原因はわからない。
私は可能性を確かめるため、再び森へ向かって狼を狩ることにした。ところが、どれだけ狩っても神力はまったく増えない。となると、フェンリルの血こそが特別だったのかもしれない。
そうとわかれば、さらに力を得たいという欲がでてくる。私は7日間、ひたすら森を駆け回り、フェンリルを探した。片っ端から狼を狩っても、フェンリルは姿を見せない。これではただの動物虐待でしかない……。私自身も焦りはじめていた。
そして、ようやくフェンリルが姿を現す。昼間の森で見ると、銀色の毛並みが陽光を浴びて美しく輝いている。大きさもあの時と変わらない。私を見るなり、低く唸り声をあげる。
「何よ、やるって言うの?」
私は全斬丸を抜いて構えるが、フェンリルは微動だにしない。ただこちらを睨み、威嚇してくるだけ。ロキの言いつけを守っているのかもしれない。
「戦う気がないなら、首を振りなさい」
私がそう言うと、フェンリルは首をわずかに横に振る。攻撃するつもりがないようだ。だけど同族の狼たちを私が狩り続けたことへの怒りはあるのかもしれない――毛を逆立てて、今にも吠えてきそうな形相だ。
「じゃあ、ちょっとお願いがあるのよ」
私は怪しい笑みを浮かべながら、懐から小瓶を取り出す。いかにも“実験道具”といった代物だ。
「これ、気持ちを和らげる香水。……動物にも効くか試してみたいの。嗅ぐだけでいいわよ。悪いようにはしないから」
もちろんウソだ。中身は超強力な睡眠薬。フェンリルは私の動きに警戒しながらも、一応言葉は理解しているのか、首をかしげている。
私は瓶の蓋を開けると、息を止めたまま地面に置き、そっと後方へ下がった。フェンリルはしばし逡巡していたが、やがて瓶の匂いを恐る恐る嗅ぎはじめる。
「さあ、どうかしら?」
数秒もしないうちに、フェンリルの巨大な身体がぐらりと傾き、地面へ崩れ落ちた。ごとり、と鈍い音がする。
「超強力睡眠薬が効いたようね」
私は瓶を回収し、悪い笑みを浮かべながらフェンリルに近づく。そして“全自動巨大注射器”を突き立て、血液を抜き取っていく。黄金色の血液が見る見るうちに採取されていくのを見て、私は悦に浸った。重い荷車を引いてきた甲斐があるというものだ。
「どうせなら肉も欲しいわね……尻尾を少しもらおうかしら」
優しい私なりの気遣いで、尻尾を半分だけ切断するだけにとどめる。数回斬りつけただけで、フェンリルの大きな尻尾から血が噴き出し、私は返り血を浴びた
「……これだけ斬っても、目を覚まさないのね。さすがは私の超強力睡眠薬」
私は採取を終えると、尻尾を引きずって移動した。なるべく早くここから立ち去りたい。フェンリルが目覚める前に姿を消してしまえば、奴も追ってこられないだろう。
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家に直接持ち帰るのはまずいと思い、森の外れで血液の結晶化作業を行うことにした。血液をそのまま飲むのはキツイので、自作の血液結晶化装置でフェンリルの血を結晶化する。その間に尻尾の肉を焼いて食べた。
「まずいわね……。臭みが強いし筋が固い」
文句を言いながらも飲み込むと、少し後に体中に力が湧いてくるような感覚があった。神力計を取り出して測ってみると、数値は100へ上昇している。結晶化された血は黄金色に輝いていた。
「血液の結晶でも神力が上がるか試してみましょう」
さっそく口にした。味はしないが、飲み込んでしばらくすると、胸の奥から熱がこみ上げるような感覚に襲われる。夜空を見上げると、いつの間にか辺りは真っ暗。見上げた月がいつもより眩しく見えるのは錯覚かもしれない。
再度計測すると、神力は500まで上昇していた。どうやら私の仮説は正しかったようだ。神力を持つ生物を食べたり血を飲んだりすると、私自身の神力が増える。これは大発見だ。
「ふふふ、エリカはレベルアップした!」
思わず笑みが漏れる。私は爽快な気分のまま帰路についた。遠くから狼の遠吠えが聞こえるが、それは負け狼の嘆きにしか思えなかった。
数日後、再びフェンリルを狙って森へ入ったが、まったく姿を見せなかった。あれだけのことをされたから、さすがに私の前に姿を現したくないのかもしれない。
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さらに数日経ったある日、スクルドが家を訪ねてきた。青髪をポニーテールにまとめ、いつもの装いでやって来る。私は顔を合わせるなり、なぜか衝動に突き動かされ、スクルドに抱きついてしまう。
「どうしたのよ? エリカ。こんないきなり。まだ心の準備が……って、痛っ、痛いわよ!」
スクルドが悲鳴を上げる。私が彼女の首筋に歯を立て、血を吸っていた。甘い味が口内に広がる。自分でも何をしているのかわからないが、衝動を止められない。
しばらくして我に返り、慌ててスクルドから離れた。首筋から黄金色の血が流れ、スクルドは痛みに顔をしかめている。
「……ごめんなさい」
私がうなだれて謝罪すると、スクルドは困惑の表情を浮かべながら首筋を押さえた。その血の匂いが私をさらに誘惑するが、必死にこらえる。
『何か悪いものでも食べたの?』
――と、スクルドが言ったかと思うと、少し遅れてもう一度同じ声が響いた。
「何か悪いものでも食べたの?」
まるで二重の声。私の視界がぐらりと揺れ、スクルドの姿が二重に見える。これは……スクルドの未来視の能力? 血を飲んだことで獲得したのかもしれない。
「フェンリルの肉を食べたくらいかしら」
『あんた、あたしに隠れてそんな事をしていたの? 自業自得よ』
「あんた、あたしに隠れてそんな事をしていたの? 自業自得よ」
衝動に負けてスクルドの血を飲んだことで、新たな発見をしてしまった。これを利用すれば、私は最強の存在になれるかもしれない。
『何にやにやしてるの? 気持ち悪いわね。本当にどうかしてるわよ』
「何にやにやしてるの? 気持ち悪いわね。本当にどうかしてるわよ」
つい笑みを浮かべていたようだ。スクルドから見れば、さぞ奇妙だろう。
同じ言葉が時間差でもう一度耳に響き、頭の中がぐちゃぐちゃになる。私は両手でこめかみを押さえた。未来視の能力が制御できていないようだ。
「ごめんなさい……今日はちょっと調子が悪いみたい……」
スクルドの顔がダブって見える。彼女は痛みに耐えながら、私の前に立ちはだかった。
『……そうみたいね。今日は何もせずに寝ていなさい』
「……そうみたいね。今日は何もせずに寝ていなさい」
また同じ声が二重に聞こえる。スクルドは私の腕を引いてベッドへ連れて行った。首筋から血がまだ滲んでいるのを見ると、申し訳なさと罪悪感で胸がいっぱいになる。
「ごめんね、スクルド。痛かった?」
『痛かったわよ。でも、あんたがおかしな行動に出るのは今に始まったことじゃないしね』
「痛かったわよ。でも、あんたがおかしな行動に出るのは今に始まったことじゃないしね」
スクルドは呆れたような口調を取りながらも、私の額に手を当ててくれる。
『まったく、子供みたいね。今日はゆっくり休みなさい。もう変な物を食べてはダメよ』
「まったく、子供みたいね。今日はゆっくり休みなさい。もう変な物を食べてはダメよ」
スクルドはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれる。私は安心感に包まれながら意識を失った。
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