3級神エリカの成り上がり~打倒オーディン! 冤罪で死刑⁉ 最下級の女神エリカの成り上がり物語~

法王院 優希

文字の大きさ
25 / 41
IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー

IF早過ぎたラグナロク7話 3級神消失事件3

しおりを挟む
ウルド姉様の館にある客室で、私は衝撃的な言葉を聞いたまましばし呆然としていた。


「……エリカがユーミルを?」


 驚きすぎて呼吸が詰まるような感覚。自分の耳を疑いたくなる。まさか、エリカとユーミルにどんな因縁があったというのだろう。あのか弱いユーミルがエリカに襲いかかるなど、普通では考えられないし、いざこざを起こす接点も思い当たらない。

 しかし、ウルド姉様が嘘をつくはずがない。何より“過去視”が、それを証明している。


「あ、ああ。ゆ、ユーミルがエリカに襲い掛かって、そ、それに反撃して殺してしまったようだ。し、死体はバラバラにして、に、人間界に投げ捨てたようだ」


 彼女の言葉は、まるで頭上から冷水を浴びせられたような衝撃を伴って突き刺さる。死体をバラバラにして、人間界へ投げ捨てた……。そこまでやるとなれば、もはや不可抗力という言葉では片づかない。

 その非道さは、かつての“人間の頃のエリカ”を想起させる。もし記憶が戻ったのだとしたら、あの恐ろしい冷酷さが蘇っていてもおかしくない。


「ユーミルがなぜそんな事を?」


 声が震える。あの頼りないユーミルが、積極的に誰かを襲うなんて想像できない。それでもウルド姉様の“過去視”が告げるならば、事実なのだろうが……。


「そ、それはわからん。わ、私は映像しか見えないからな」


 姉様の返答は、困惑とも苛立ちとも取れるニュアンスだ。過去視は万能ではない。今わかるのは、ただ“ユーミルがエリカに襲い、エリカが反撃して殺害し、死体を残酷に処理した”――それだけ。


「死体をバラバラにして、人間界に投げ捨てるなんて……」


 私は頭を抱えそうになる。エリカがそんな非道を……と震える一方で、人間の頃に見せた彼女の“残酷さ”が脳裏をよぎった。あるいは、記憶が戻らずとも、潜在的にその性質が消えていないのかもしれない。


「お、オーディン様が知ったら、ゆ、許さないだろうな」


 ウルド姉様は吐息まじりに言う。もし不可抗力であれば、いくらか同情の余地があったはずだ。しかし死体をバラバラにして捨てたとなれば、オーディン様やフレイア様が厳罰を下すのは想像に難くない。


 私は、そのまま呆然と椅子に深く腰かけたまま、しばらく考え込む。

 どうすれば、エリカを救えるのか。彼女がやった行為は重い罪だし、フレイア様は間違いなく見逃さない。


「姉様、私はエリカの助命を願い出るつもりです」


 心に浮かぶのはスクルドの顔。あの妹はエリカをとても大切に思っている。もしエリカが処刑されるようなことになれば、スクルドの嘆きは計り知れないだろう。


「ほ、ほう。そ、それでもオーディン様は許さないかもしれんぞ」


「わかっています。でも、エリカはユーミルを憎くて殺したわけではないはず。襲われて反撃した結果だというなら、まだ同情の余地もあります」


 ウルド姉様の目には、微かな躊躇が混じる。彼女がエリカをよく思ってはいないことを知っているが、だからといって見捨てるほどではないはずだ。私は深く息を吸って説得を試みる。


「そこで、姉様にも一緒に願い出てほしいのです。エリカの処遇を、どうか少しでも軽くできるように」


「ふ、ふむ……あ、あまり気乗りしないが、す、スクルドも悲しむだろうしな。い、いいだろう」


「姉様、ありがとうございます」


 その返事に思わず胸をなでおろした。運命の3女神で嘆願すれば、オーディン様の心を動かせるかもしれない。私は椅子から立ち上がり、エリカを捕らえに向かおうと決意を固める。


「と、捕らえに行くのか?」


 ウルド姉様が疲れた声で問う。過去視の消耗が大きいのだろう。


「はい。エリカには自分の行いをオーディン様の前で説明してもらわないと」


 ここで逃げられるわけにはいかない。できるだけ穏便に捕らえたいが、あのエリカが従ってくれるかどうか……。嫌な予感が頭の片隅をかすめる。


「た、戦うことになるかもしれん。ぶ、部下は多めに連れていけ。あと、せ、接近戦は絶対にさけろ」


 ウルド姉様の声音には、姉としての心配がにじむ。私だって極力戦いたくはない。だが、何が起きるかわからないのがエリカという存在なのだ。


「きっと私がエリカを説得し、投降させてみせます。……万が一の時は、姉様の言う通り、接近戦はさけますね」


 もし彼女が記憶を失ったままなら説得の余地はある。そう信じたい。きっと、隊員をできるだけ多く連れていけばエリカもあきらめるだろう――私はそう自分に言い聞かせる。


「わ、私も行こうか?」


「いえ、姉様は過去視でずいぶん消耗されているでしょう。休んでいてください。私がなんとかします」


 私の言葉に、ウルド姉様は安堵とも不安とも取れる表情で小さくうなずく。


「そ、そうか……ゆ、油断だけはするなよ」


「もちろんです。任せてください」


 私はそれだけ言い残し、館を出た。落ち込みそうな気持ちを押しとどめ、治安維持部隊を率いてエリカの家へ向かう準備を始めた。




---





 月が低く垂れる頃、私たち治安維持部隊は総勢20柱となってエリカの家を取り囲んだ。木造の家は小さく、周囲は薄暗い闇に沈んでいる。

 

 数柱の隊員は以前からエリカに恨みめいた感情を抱いていたらしく、“生意気な女神”に制裁を与えたいという声が小さくささやかれている。もちろん表向きには“隊長を心配してついてきた”という名目だが……。


(これだけの人数で取り囲めば、さすがにエリカも抵抗できないはず)


 私はそう思いたいが、胸の奥に不安な鼓動が鳴り響く。彼女はあのユーミルを殺し、しかも死体をバラバラにした。それほどまでの冷酷さを持つ相手が、本当に大人しく投降するだろうか――疑念が拭えない。


 ドアに向かい、私は意を決して声を上げる。


「エリカ、いるか?」


 夜の静寂に私の呼びかけがこだまする。家の中はうす暗いが、神の気配があるようにも思える。しんとした空気に隊員たちの緊張した呼吸が混じり、やや息苦しいほどだ。

 すると、ドアが開いて、そこにエリカが現れた。


「ヴェルザンディ、またなの? 今度は何の用よ?」


 イライラを隠そうともしない声音。薄暗い灯りに照らされて、エリカの目には怪しげな光が宿っている。ドアの外にいる隊員たちを見渡し、彼女はわずかに驚いたように目を見開く。


「ユーミルを殺した容疑でお前を捕らえにきた。同行してもらえるか?」


 私は治安維持部隊の隊長として、できるだけ冷静に、そして事務的に告げる。周囲の隊員が武器を構え、じりじりと警戒態勢を取るのがわかる。反撃さえしてこなければ、こちらとしては戦闘を避けたいのだが……。


「……ウルドの過去視を使ったのね。それで、隊員全てを連れてきたってわけ?」


 エリカはちらりと周囲を見渡し、口の端に皮肉そうな笑みを浮かべる。その笑顔はまるでこの状況を楽しんでいるかのようで、私には不気味に映る。


「そうだ。抵抗しないでほしい」


 私の声が微かに震えたのを自覚する。エリカがどう応じるか、予断を許さないからだ。しかし彼女は投降どころか、まるで事態を面白がっているかのようだった。


「大人しくしたところで、オデンが私を許すとは思えないけど?」


 唐突に軽口を叩くエリカ。オーディン様を侮蔑するかのような呼び方に、隊員たちが息を呑む。私は眉をひそめながら、かぶりを振る。


「私たち運命の3女神でお前の助命を願い出るつもりだ。安心してくれ」


 説得を試みるが、エリカはまじまじと私の顔に目をやったあと、不敵な笑みを深めるだけ。


「……へえ、優しいのね。私が3級神たちを皆殺しにしたと言っても、同じことをしてくれるのかしら?」


 その一言が胸を刺す。まるで冗談か挑発のようだけれど、嫌な寒気を覚える。隊員たちの何人かがざわめきだし、私に視線を寄こす。


「こんな時に、そんな冗談はやめるんだ」


 喉が渇く。まさか、3級神たちの失踪とエリカが関係しているのか……? 逃げ場のない疑念が頭を巡る。エリカは相変わらず薄暗い笑みを浮かべながら、楽しげに言葉を継ぐ。


「ふふふ、抵抗したらどうするの?」


 背後に隠された凶気が急に膨れ上がる気配がした。私がそれを感じ取った瞬間、彼女の瞳から剣呑な光が滲み出す。囁くような低い声が、戦闘開始を告げるかのように響いた。


「ヴェルザンディ以外、全員殺すしかないようね」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

処理中です...