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IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー
IF早過ぎたラグナロク8話 3級神消失事件4
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正直なところ、楽勝だとは思わなかった。
しかし、こんな最悪の事態になるとは、さすがに想定していなかった。
部下たちがエリカの家を包囲し、戦いの火ぶたが切って落とされようとした、その瞬間。
エリカの姿が、まるで夜の闇に溶けるように、何の前触れもなく消え失せたのだ。
「……消えたのか?」
あっという間の出来事に、私も部下たちも唖然とする。高速移動とか飛び上がったのではなく、本当に“消失”したように見えた。その不気味な沈黙に息を呑んだ、その刹那。
まるで死神が舞い降りたかのように、辺りに黄色い閃光が走る。
瞬きをする間もなく、私の部下たちが次々と地面に崩れ落ちていく。最初は何が起きたのかわからなかった――気づけば、部下たちの首が斬られ、体から大量の血液が噴き出していた。
「なんだ!?」
「どういうことだ!?」
動揺と恐怖に声が震える生き残った部下たち。見えない相手の凶刃によって、仲間が次々と倒れていくのを見せつけられれば、無理もない。私自身も心が砕けそうになるが、隊長として踏ん張らなければ。
「落ち着け! 隊列を組みなおせ。固まるんだ!」
必死に声を張り上げて指揮をとる。部下たちも悲鳴を抑えこみ、円陣を組むように身を寄せ合う。これで全方位に対応できるはず――そう思いたい。
だが、それすら儚い希望でしかなかった。
円陣を組んだはずの仲間が、またしても首を落とされ、あっという間に倒れ伏していく。血の臭いが夜風に乗り、息苦しさを増すばかりだ。
「ひっ! 助けてくれー!」
絶望し、悲鳴を上げながら逃げ出そうとした部下も、わずか数歩走っただけで首を斬られてしまった。その首が宙を舞い、血が散る光景はあまりに非情で、私の瞳にも涙が滲む。
この首だけを的確に狙う技――エリカの必殺の一つだ。
「エリカ、やめてくれ! こんなことはやめるんだ!」
必死に叫ぶが、聞こえるのは仲間たちの絶叫と、命を落とす際のうめき声だけ。
気づけば私の周囲にはもう誰も立っていない。夜の闇に沈む家の前で、血溜まりと倒れ伏す屍の山――。私の部下は20柱いたのに、全員倒されてしまった。
「ふう、これでヴェルザンディ以外は片付いたわね」
突如として、闇の空間からエリカが姿を現す。辺り一面、かつては私と苦楽をともにしてきた仲間たちの無残な死体。その光景を前にしても、エリカの顔に罪の意識のかけらも見えない。むしろ、雑事を処理し終えたかのような淡々とした口調が、私の怒りと悲しみをさらに掻き立てる。
「エリカ! この者たちは私にとって大切な仲間だったんだ。長年苦楽を共にした。死ねば、悲しむ者だっている。それをおまえは!」
声が震える。仲間たちが無残に倒れているのを見て、もう二度と彼らと言葉を交わすことができない現実が、胸に鋭い痛みを与える。まるで花でも摘むかのように、あっさりと命を奪うエリカの冷酷さが憎たらしくて堪らない。
「そうなの? 私には関係ないわ。ねえ、ヴェルザンディ。死体はきちんと始末しておくから、私のことを見逃してくれないかしら」
残虐行為の直後にもかかわらず、世間話のように微笑むエリカ。血に染まった現場を前にして、まるで何事もなかったかのように振る舞う姿が恐ろしく、吐き気さえ覚える。
「そんなこと、できるわけがないだろう!」
怒号が自然と口を突いて出る。心の中では部下たちの仇を討ちたい気持ちが燃え上がる。こんな邪悪な存在をこのまま放置すれば、神界にさらなる災いが訪れるだろう。
そのとき、脳裏にユーミルの言葉が蘇る。
「災厄の魔神が現れたのです」
まさかと思っていたが、今やそれが事実だと痛感する。ユーミルは誰からも信用されず、自分の手で何とかしようとして、返り討ちにあった。
彼女の警告は正しかった。その無念を晴らすためにも、私はエリカを止めなければならない。
「見逃してくれたら、痛い目に遭わずに済むわよ。手を引く気はないの?」
つまらなそうに肩をすくめるエリカ。自分の勝利を確信しているのだろう、言葉から余裕さえ感じる。私はそんな彼女に剣を突きつけた。
「そんな事はできん! 私の中の正義がそれを許さない!」
仲間を殺した罪を不問にするなど、考えるまでもなく論外だ。エリカは気だるそうに刀を抜き、こちらに向ける。戦いは、もう避けられない。
---
接近戦では勝ち目がない。彼女の人智を超えた速度と殺傷能力を考えれば、距離を取らざるを得ない。短く息を整え、私は声高らかに呼びかけた。
「来たれ! 私のエインフェリアたちよ!」
光の残滓とともに出現したのは、選び抜かれた10人の英雄。優れた剣技を誇る者、屈強な大男――いずれも男の戦士たちだ。スクルドは女性の英雄を好むが、私はやはり男の力強さこそ英雄に相応しいと考える。それだけの戦力があれば、悪しき女神でも倒せると思いたかった。
白い羽を広げ、私は上空へと飛翔する。遠距離からの神術で援護し、彼らが前衛として戦う。最善策とは言い難いが、今の状況で考えうる唯一の手段だ。
だが、それも甘かった。
エリカは先ほどのように姿を消すわけでもなく、しかしこちらの攻撃は一切当たらない。私の放つ神術を優雅な動きで避けながら、地上でエインフェリアたちを次々に斬り捨てる。
「なんという……速さだ……!」
一人、また一人と英雄たちが散っていく。彼女の刀は鎧や盾を容易く斬り裂き、その動きは私の想像を軽く凌駕するレベル。避けなければ首が飛び、攻撃しても武器ごと斬られるという悪夢の連鎖だ。大男の豪快なハンマーさえも空振りし、次の瞬間には両腕を切り落とされ、首を斬り落とされて消える。
「みんなっ!」
私は上空から火球を乱発するが、全く当たらない。技量が姉・ウルドほどではないことも大きいが、エリカの圧倒的な身体能力と戦闘センスがそれを上回るのだ。
やがて、私のエインフェリアたちは全て斬られ、光の粒子となって消えていった。
「……見失った?」
エリカの姿がまたしても夜の闇に紛れて見えなくなる。探ろうと目を凝らすが、見つからない。
もしかして逃げたのだろうか――そう思って油断しかけた、その瞬間。
背後から強烈な衝撃が走り、私は地面に叩き落とされた。
激痛が走る身体を無理やり動かし、顔を上げると、そこにはエリカが静かに立っている。彼女の背には黒い羽――まるで魔族のような羽が生えていた。
「あなたの真似をして、羽を生やしてみたのだけれど、似合うかしら?」
エリカは楽しげな笑みを浮かべる。
神術であれ何であれ、羽を生やす行為は簡単ではないはず。なのに彼女は、私の白い羽を見て自分も“ああしてみよう”とやってのけたというのか。この得体の知れない力に恐怖するしかない。
「くっ! 殺せ!」
もしエリカが本気で私を殺すつもりなら、とっくに命を奪われていたはず。私は、その事実に無力感を覚えつつも、絶対に屈してはいけないと意地を張る。
「私はあなたを殺すつもりはないのだけれど……いい加減あきらめてくれないかしら」
エリカはどこか面倒そうに息を吐く。だが、私は決して譲らない。歯を食いしばって宣言する。
「だが、断る! お前のような邪悪な存在を許すわけにはいかない!」
熱い正義感が胸を燃やす。彼女は視線を私に据え、うんざりした表情を見せる。
「縛ってどこかに監禁するしかないわね……」
戦意がないように見えるが、油断してはならない。
「どうして、お前はそうなってしまったんだ? 小鳥の死に涙する優しい心があったのに、どうしてそれを他の者に向けてやれないんだ?」
私は7日前の出来事を思い出す。エリカがスザクという小鳥をとても大切にしていて、必死にその命を助けようとしていた光景を。その彼女が、今は何のためらいもなく虐殺に手を染めている。
エリカは少し視線を落とすようにして、“スクルドを守るため”だと短く答えた。
「スクルドを守るため? こんな非道な手段でなくても、他にいくらでも方法はあったはずだ!」
私は思わず涙がこぼれた。誰かを守りたいという気持ち自体は尊いものなのに、どうして彼女はこんな形で暴走してしまったのか。正しく導かれていれば、こんな惨劇を回避できたかもしれないのに。
「他になかったのよ、どう考えてもね。それでも、守れるかどうかはまだわからない。綺麗事じゃ、誰も守れないのよ」
吐き捨てるような言葉。エリカの瞳には深い苦悩の影が宿っている。
だが、そんな理由で、部下たちの虐殺を許せるわけがない。
「皆で協力すれば、乗り越えられたはずだ!」
エリカは私を“愚かな者を見る目”で見つめる。何も信じられない、自分のやり方が絶対だと頑なに信じているようだ。
しかし、だからこそ、私が止めなければならない。スクルドやウルド姉様のためにも、神界にこれ以上の被害を出さないためにも。
---
軋む体を鞭打ち、私はゆっくりと立ち上がる。思うように手足が動かず、視界が歪むが、それでも走らなければ。
深呼吸をして、最後の力を振り絞り、エリカへ向けて突進する。手に剣を握る力は残っていない。だから、彼女の首に噛みつき、殺す――それ以外に彼女を止める方法が思いつかない。
走る足の感触がほとんどない。時間がゆっくり流れているように感じられる。エリカがこちらを見る。私は歯を食いしばり、目をそらさない。
今までの思い出が頭をよぎる
姉妹で過ごした日々、オーディン様に仕えて共に戦った仲間たち。嬉しいことも、悲しいことも――そのすべてが私の原動力となっている。
命を賭してでも、私は“正義”を貫かなくては!
私は走った。力の限り。この一撃に全てをかけるために。
そして、あともう少しでエリカの首に歯が届く――と思った瞬間、彼女の声が冷たく響いた。
「本当に残念だわ。あなたも、私の守りたい日常の一部だったのに」
その言葉がどこか哀しそうで、私の胸を締めつける。だが、それを認識する間もなく、私の視界は暗転し、地面へ叩きつけられるような衝撃が走る。
苦痛とともに意識が遠のいていくなか、血の味が口の中に広がる。私は最期の力で叫ぼうとするが、声にならなかった。仲間たちの顔が走馬灯のように浮かび上がり、そして消えていく。
(……すまない、みんな。ウルド姉様、あとのことは頼みます)
最後に浮かんだのは、スクルドの笑顔だった。結局、何もできなかった自分への悔しさが溢れる。
こうして、暗い闇が、私を容赦なく飲み込んでいった。
---
現在のエリカのステータス
神力……52万
特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、超再生、予知夢、変身、遠見、エインフェリア召喚
しかし、こんな最悪の事態になるとは、さすがに想定していなかった。
部下たちがエリカの家を包囲し、戦いの火ぶたが切って落とされようとした、その瞬間。
エリカの姿が、まるで夜の闇に溶けるように、何の前触れもなく消え失せたのだ。
「……消えたのか?」
あっという間の出来事に、私も部下たちも唖然とする。高速移動とか飛び上がったのではなく、本当に“消失”したように見えた。その不気味な沈黙に息を呑んだ、その刹那。
まるで死神が舞い降りたかのように、辺りに黄色い閃光が走る。
瞬きをする間もなく、私の部下たちが次々と地面に崩れ落ちていく。最初は何が起きたのかわからなかった――気づけば、部下たちの首が斬られ、体から大量の血液が噴き出していた。
「なんだ!?」
「どういうことだ!?」
動揺と恐怖に声が震える生き残った部下たち。見えない相手の凶刃によって、仲間が次々と倒れていくのを見せつけられれば、無理もない。私自身も心が砕けそうになるが、隊長として踏ん張らなければ。
「落ち着け! 隊列を組みなおせ。固まるんだ!」
必死に声を張り上げて指揮をとる。部下たちも悲鳴を抑えこみ、円陣を組むように身を寄せ合う。これで全方位に対応できるはず――そう思いたい。
だが、それすら儚い希望でしかなかった。
円陣を組んだはずの仲間が、またしても首を落とされ、あっという間に倒れ伏していく。血の臭いが夜風に乗り、息苦しさを増すばかりだ。
「ひっ! 助けてくれー!」
絶望し、悲鳴を上げながら逃げ出そうとした部下も、わずか数歩走っただけで首を斬られてしまった。その首が宙を舞い、血が散る光景はあまりに非情で、私の瞳にも涙が滲む。
この首だけを的確に狙う技――エリカの必殺の一つだ。
「エリカ、やめてくれ! こんなことはやめるんだ!」
必死に叫ぶが、聞こえるのは仲間たちの絶叫と、命を落とす際のうめき声だけ。
気づけば私の周囲にはもう誰も立っていない。夜の闇に沈む家の前で、血溜まりと倒れ伏す屍の山――。私の部下は20柱いたのに、全員倒されてしまった。
「ふう、これでヴェルザンディ以外は片付いたわね」
突如として、闇の空間からエリカが姿を現す。辺り一面、かつては私と苦楽をともにしてきた仲間たちの無残な死体。その光景を前にしても、エリカの顔に罪の意識のかけらも見えない。むしろ、雑事を処理し終えたかのような淡々とした口調が、私の怒りと悲しみをさらに掻き立てる。
「エリカ! この者たちは私にとって大切な仲間だったんだ。長年苦楽を共にした。死ねば、悲しむ者だっている。それをおまえは!」
声が震える。仲間たちが無残に倒れているのを見て、もう二度と彼らと言葉を交わすことができない現実が、胸に鋭い痛みを与える。まるで花でも摘むかのように、あっさりと命を奪うエリカの冷酷さが憎たらしくて堪らない。
「そうなの? 私には関係ないわ。ねえ、ヴェルザンディ。死体はきちんと始末しておくから、私のことを見逃してくれないかしら」
残虐行為の直後にもかかわらず、世間話のように微笑むエリカ。血に染まった現場を前にして、まるで何事もなかったかのように振る舞う姿が恐ろしく、吐き気さえ覚える。
「そんなこと、できるわけがないだろう!」
怒号が自然と口を突いて出る。心の中では部下たちの仇を討ちたい気持ちが燃え上がる。こんな邪悪な存在をこのまま放置すれば、神界にさらなる災いが訪れるだろう。
そのとき、脳裏にユーミルの言葉が蘇る。
「災厄の魔神が現れたのです」
まさかと思っていたが、今やそれが事実だと痛感する。ユーミルは誰からも信用されず、自分の手で何とかしようとして、返り討ちにあった。
彼女の警告は正しかった。その無念を晴らすためにも、私はエリカを止めなければならない。
「見逃してくれたら、痛い目に遭わずに済むわよ。手を引く気はないの?」
つまらなそうに肩をすくめるエリカ。自分の勝利を確信しているのだろう、言葉から余裕さえ感じる。私はそんな彼女に剣を突きつけた。
「そんな事はできん! 私の中の正義がそれを許さない!」
仲間を殺した罪を不問にするなど、考えるまでもなく論外だ。エリカは気だるそうに刀を抜き、こちらに向ける。戦いは、もう避けられない。
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接近戦では勝ち目がない。彼女の人智を超えた速度と殺傷能力を考えれば、距離を取らざるを得ない。短く息を整え、私は声高らかに呼びかけた。
「来たれ! 私のエインフェリアたちよ!」
光の残滓とともに出現したのは、選び抜かれた10人の英雄。優れた剣技を誇る者、屈強な大男――いずれも男の戦士たちだ。スクルドは女性の英雄を好むが、私はやはり男の力強さこそ英雄に相応しいと考える。それだけの戦力があれば、悪しき女神でも倒せると思いたかった。
白い羽を広げ、私は上空へと飛翔する。遠距離からの神術で援護し、彼らが前衛として戦う。最善策とは言い難いが、今の状況で考えうる唯一の手段だ。
だが、それも甘かった。
エリカは先ほどのように姿を消すわけでもなく、しかしこちらの攻撃は一切当たらない。私の放つ神術を優雅な動きで避けながら、地上でエインフェリアたちを次々に斬り捨てる。
「なんという……速さだ……!」
一人、また一人と英雄たちが散っていく。彼女の刀は鎧や盾を容易く斬り裂き、その動きは私の想像を軽く凌駕するレベル。避けなければ首が飛び、攻撃しても武器ごと斬られるという悪夢の連鎖だ。大男の豪快なハンマーさえも空振りし、次の瞬間には両腕を切り落とされ、首を斬り落とされて消える。
「みんなっ!」
私は上空から火球を乱発するが、全く当たらない。技量が姉・ウルドほどではないことも大きいが、エリカの圧倒的な身体能力と戦闘センスがそれを上回るのだ。
やがて、私のエインフェリアたちは全て斬られ、光の粒子となって消えていった。
「……見失った?」
エリカの姿がまたしても夜の闇に紛れて見えなくなる。探ろうと目を凝らすが、見つからない。
もしかして逃げたのだろうか――そう思って油断しかけた、その瞬間。
背後から強烈な衝撃が走り、私は地面に叩き落とされた。
激痛が走る身体を無理やり動かし、顔を上げると、そこにはエリカが静かに立っている。彼女の背には黒い羽――まるで魔族のような羽が生えていた。
「あなたの真似をして、羽を生やしてみたのだけれど、似合うかしら?」
エリカは楽しげな笑みを浮かべる。
神術であれ何であれ、羽を生やす行為は簡単ではないはず。なのに彼女は、私の白い羽を見て自分も“ああしてみよう”とやってのけたというのか。この得体の知れない力に恐怖するしかない。
「くっ! 殺せ!」
もしエリカが本気で私を殺すつもりなら、とっくに命を奪われていたはず。私は、その事実に無力感を覚えつつも、絶対に屈してはいけないと意地を張る。
「私はあなたを殺すつもりはないのだけれど……いい加減あきらめてくれないかしら」
エリカはどこか面倒そうに息を吐く。だが、私は決して譲らない。歯を食いしばって宣言する。
「だが、断る! お前のような邪悪な存在を許すわけにはいかない!」
熱い正義感が胸を燃やす。彼女は視線を私に据え、うんざりした表情を見せる。
「縛ってどこかに監禁するしかないわね……」
戦意がないように見えるが、油断してはならない。
「どうして、お前はそうなってしまったんだ? 小鳥の死に涙する優しい心があったのに、どうしてそれを他の者に向けてやれないんだ?」
私は7日前の出来事を思い出す。エリカがスザクという小鳥をとても大切にしていて、必死にその命を助けようとしていた光景を。その彼女が、今は何のためらいもなく虐殺に手を染めている。
エリカは少し視線を落とすようにして、“スクルドを守るため”だと短く答えた。
「スクルドを守るため? こんな非道な手段でなくても、他にいくらでも方法はあったはずだ!」
私は思わず涙がこぼれた。誰かを守りたいという気持ち自体は尊いものなのに、どうして彼女はこんな形で暴走してしまったのか。正しく導かれていれば、こんな惨劇を回避できたかもしれないのに。
「他になかったのよ、どう考えてもね。それでも、守れるかどうかはまだわからない。綺麗事じゃ、誰も守れないのよ」
吐き捨てるような言葉。エリカの瞳には深い苦悩の影が宿っている。
だが、そんな理由で、部下たちの虐殺を許せるわけがない。
「皆で協力すれば、乗り越えられたはずだ!」
エリカは私を“愚かな者を見る目”で見つめる。何も信じられない、自分のやり方が絶対だと頑なに信じているようだ。
しかし、だからこそ、私が止めなければならない。スクルドやウルド姉様のためにも、神界にこれ以上の被害を出さないためにも。
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軋む体を鞭打ち、私はゆっくりと立ち上がる。思うように手足が動かず、視界が歪むが、それでも走らなければ。
深呼吸をして、最後の力を振り絞り、エリカへ向けて突進する。手に剣を握る力は残っていない。だから、彼女の首に噛みつき、殺す――それ以外に彼女を止める方法が思いつかない。
走る足の感触がほとんどない。時間がゆっくり流れているように感じられる。エリカがこちらを見る。私は歯を食いしばり、目をそらさない。
今までの思い出が頭をよぎる
姉妹で過ごした日々、オーディン様に仕えて共に戦った仲間たち。嬉しいことも、悲しいことも――そのすべてが私の原動力となっている。
命を賭してでも、私は“正義”を貫かなくては!
私は走った。力の限り。この一撃に全てをかけるために。
そして、あともう少しでエリカの首に歯が届く――と思った瞬間、彼女の声が冷たく響いた。
「本当に残念だわ。あなたも、私の守りたい日常の一部だったのに」
その言葉がどこか哀しそうで、私の胸を締めつける。だが、それを認識する間もなく、私の視界は暗転し、地面へ叩きつけられるような衝撃が走る。
苦痛とともに意識が遠のいていくなか、血の味が口の中に広がる。私は最期の力で叫ぼうとするが、声にならなかった。仲間たちの顔が走馬灯のように浮かび上がり、そして消えていく。
(……すまない、みんな。ウルド姉様、あとのことは頼みます)
最後に浮かんだのは、スクルドの笑顔だった。結局、何もできなかった自分への悔しさが溢れる。
こうして、暗い闇が、私を容赦なく飲み込んでいった。
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