3級神エリカの成り上がり~打倒オーディン! 冤罪で死刑⁉ 最下級の女神エリカの成り上がり物語~

法王院 優希

文字の大きさ
27 / 41
IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー

IF早過ぎたラグナロク9話 復讐1

しおりを挟む
私はウルド。2級神で、過去を司る女神だ。

 昨日は過去視を酷使させられて、疲労が激しい。朝になっても体がだるいし、頭が鈍く痛む。自分の屋敷で迎えるこの朝は、やけに暗い。いつもなら朝の光が差し込むはずなのに、どこか重苦しい空気を感じる。


 今ごろ、ヴェルザンディが詰所でエリカを尋問しているだろうか。すぐに城へ行くとは思えない。運命の三女神で助命を願い出る予定なのだから、スクルドや私にも声をかけてから登城するはずだ。


 もっとも、エリカの奴が大人しく捕まるとは思えない。

 けれど、数の力で押し潰せば大丈夫だろう――そんな考えが、どこかにあった。たとえ接近戦が異常に強くても、遠距離から神術を集中砲火すれば近寄れないはず。実際、以前の訓練で、彼女は私に手も足も出なかった。



 私はエリカが好きになれない。元人間だから差別しているわけじゃない。

 ただ、スクルドもヴェルザンディも、何かとエリカのことばかり口にする。姉としてはあまり面白くないのだ。妹が嬉しそうなのは喜ばしい反面、どこか“取られた”ような気分になるのも事実。まるで妹を取られたみたいで、少しだけ嫉妬してしまう――もっとも相手は女神だから、そういう関係ではないのかもしれないが。


 おそらく午前中のうちに、エリカを城へ連行し、オーディン様の裁きを仰ぐ流れになるだろう。その際、私も呼ばれるに違いない。出かける準備といっても、正装に着替えるぐらいで十分だ。

 くせ毛の長い髪は、いつも通りまとまらない。顔を隠すには都合がいいので、特に直そうとも思わない。私はもともと目立つのが好きじゃないから、これでいい。


「そろそろ使いの者が来る頃だな」と考えていたら、本当に来たようだ。

玄関へ向かう。ところが、予想と違って治安維持部隊の者じゃなく、城からの使いだった。


「な、何の用だ?」


 少し苛立ち気味の口調で尋ねると、使いの者はビクッと身を縮めて答える。


「その……ヴェルザンディ様が詰所にいらっしゃらないので、こちらにおられるのかと……」


「……な、何……だと?」


 嫌な予感が頭をかすめる。まさか、ヴェルザンディが詰所にいない?

 使いの者によれば、治安維持部隊の詰所自体がもぬけの殻らしい。オーディン様の伝言を伝えたいが、行方がわからないというのだ。


「か、帰れ! わ、私が代わりに後で登城する!」


 なんとか追い返すように言い放ち、玄関にへたり込む。

 胸が苦しい。嫌な予感がいよいよ形を取りはじめる。私はすぐさま過去視を使うことにした。昨日から続けて何度も行使していて頭痛が激しいが、やめるわけにはいかない。


 過去視が映し出すのは、昨夜のヴェルザンディと彼女の部隊がエリカの家を包囲している場面。ここまでは何も問題ない。

 だが、その後、戦闘が起きたようだ。部隊の者たちは全員首を斬られ、無残に殺されている。辛うじてヴェルザンディだけが生きていたようだが――彼女は単独でエリカと戦うことになる。エインフェリア召喚と神術による遠距離攻撃を駆使するも、エリカが黒い羽を生やして背後から不意打ちし、ヴェルザンディは地面にたたきつけられていた。

 最後に、ヴェルザンディがエリカの首筋に噛みつこうと特攻し……寸前で斬り伏せられてしまう。そして動かなくなった。


「はあ、はあ……ヴぇ、ヴェルザンディが……エリカに殺された!」


 言葉にしてみても、その事実を受け入れ難い。過去視を何度くりかえしても、結果は同じ。ヴェルザンディが必死の特攻を試み、地に伏せられている映像が頭から離れない。

 私の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。視界が滲んで前が見えない。


「ヴぇ、ヴェルザンディ……」


 原初の時から、私たち三姉妹はいつも一緒だった。

 真面目なヴェルザンディと、優しいスクルド。それぞれ欠点や性格の違いはあっても、ずっと支えあって生きてきた。彼女たちを失う未来など一度も考えたことがなかったのに……。


「か、かわいそうに……き、傷だらけになって。そ、それでも、さ、最後まで……」


 声が震える。ヴェルザンディの姿を思い出すと胸が痛い。真っ直ぐな性格だからこそ、この結果を招いてしまったのかもしれない。生き延びてくれればどれほどよかったか――しかし、それが“彼女の正義”を貫いた結果だとしても、褒めてやる気にはなれない。


 最後に彼女と別れたとき、私は疲れていたこともあって、ついて行かなかった。それが、決定的な失敗だった。

 エリカを甘く見ていた。あの邪悪さ、強さ、そして冷酷さ――まさか治安維持部隊が皆殺しになるなんて、夢にも思わなかった。

 私の判断ミスだ。妹を救えなかった悔しさが胸を締めつける。涙は止めどなく頬を伝い落ち、床に滴る。


(彼女は昔からいつも真面目で――規則に厳しいところもあったが、誰よりも仲間を大切にする妹だったのに……)


 ヴェルザンディの笑った顔や、私たち三姉妹で過ごした遠い昔の光景が次々に浮かんで消える。それが、こんな悲劇で引き裂かれるなんて……。


「え、エリカめ……よ、よくも……!」


 怒りに震える私の喉から、かすれた声が漏れる。

 あいつが私の大切な妹を奪ったのだ。涙を拭って、再び過去視を行使する。少し過去の映像からエリカの現在位置を推定しようと試みた。

 家にはいないようだ。映像には広い平原に立つエリカの姿が映りこんでいる。何やら頭より大きな木の板を両手で掲げていた。そして、そこに何やら文字が書いてあるようだ。よく見てみると、私宛の挑戦状だった。


『ウルド、見ているかしら? ヴェルザンディの仇を討ちたいなら、さっさとかかってきなさい! 私は逃げも隠れもしないわよ?』


 その言葉に、私は心臓が破裂しそうなほど怒りが爆発する。過去視で私が彼女を調べることを知った上での挑発だ。全身の血が煮えたぎり、もう理性などどうでもよくなりそうだ。


「ゆ、許さん! ぜ、絶対に許さんぞー!」


 感情があふれ、玄関の扉を乱暴に開け放つ。私は風の神術を使って空を飛ぶ。目指すはあいつが待つ平原だ。疲労や頭痛など、どうでもいい。これはヴェルザンディの弔い合戦なのだ。


「ま、待っていろ、エリカ! わ、私が、か、必ずおまえを殺してやる!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...