3級神エリカの成り上がり~打倒オーディン! 冤罪で死刑⁉ 最下級の女神エリカの成り上がり物語~

法王院 優希

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IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー

IF早過ぎたラグナロク12話 愛の女神1

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 我は、美と豊穣と戦いと、愛の女神である。1級神。女神の頂点に立つ者じゃ。

 朝はいつも、自分の美しい姿を鏡で確認することから始める。こうして今日も、まぶしいほど輝く己の肢体をじっくりと眺めてうっとりするのだ。


「今日も我は美しいな。これでは男どもも放ってはおくまいの」


 艶やかで長い緑髪、整った顔、張りのある肌――何もかもが完璧。飾り立てた装飾品の数々も、私の美貌をさらに際立たせている。

 完璧なる我であるから、夜に独りで寝ることはめったにない。なぜなら、多くの男に愛されているからだ。オーディン様はもちろん、ロキや城に出入りする大半の男神とは深い仲である。むしろ、こんなにも美しい愛の女神を前に、誘惑を振り切れる者などいるのだろうか。

 そもそも我は全ての男に愛される存在じゃ。他の女神など必要ない。男を誘惑して、我から“可愛い男たち”を奪おうなどという存在は腹立たしいだけだ。


 そういえば、ロキが元人間の女神を始末する良い策がある、などと口走っていたが、あれはどうなったのだろう。最近、ロキを見かけない。まあ、あやつは少々変わり者ゆえ、どこかへひょいと出かけていても不思議ではない。そこがまた魅力でもあるが。



---



「実は、3級神たちに続いて、町の2級神たちも姿を消したのだ。もう残っている神は、城にいる者たちを含めわずかしか……ウルドやヴェルザンディも姿を見せん。どうしたら良いだろうか? ユーミルも見つからぬしな……」


 オーディン様の執務室で、そう深刻な顔をして打ち明けられた。普段は主神らしく威厳に満ちた方なのに、ユーミルの名を出すたびにやけに落ち込み、情緒不安定になる。あの頭のおかしい女神のどこが良いのやら。我としては、オーディン様の口から“ユーミル”という言葉が出るだけで苛立ちを覚える。ここにいるのはこの我なのに――と、考えれば考えるほど面白くない。


「ウルドまでが姿を消すとなると、かなり大物の魔族のようですね。私が討伐しましょう。それで、どのあたりに出没するのです?」


 この問いに対して、オーディン様はさらに眉間の皺を深くして、ぼそりと呟く。


「それが……わからんのだ」


「わからないとは、どういうことです?」


 3級神、2級神が次々と消えているのに、誰もその姿を確認していないなどありえない話だ。


「うむ。ウルドが平原で大規模な戦闘を行ったのはわかっている。その後に彼女を見た者がいないから、おそらく敗北したのだろう。だが、その敵の足取りが全くつかめんのだ。昨日は町の2級神まで忽然と消えた。もう何が何だか……」


 本気で困り果てているらしい。戦いの場ではあれほど堂々としているオーディン様だが、こうした問題に直面すると途端に動揺してしまうのだ。王というのは決断が仕事ではないのか。自分の考えがないのなら、いっそ我に全て任せればいいものを――そう思わずにはいられない。

 けれど、時折見せる弱気な姿が可愛らしくもあるのだから、困ったものだ。我が愛の女神でなければ、きっと容赦なく愛想を尽かしていただろう。


「では、私が外を見回りしてまいりましょう。もし敵と遭遇したら、返り討ちにしてみせます。吉報をお待ちくださいませ」


 意気揚々とその場を立ち去ろうとすると、オーディン様は不安そうな瞳で我を見やる。


「うむ。フレイア……大丈夫だろうな? お前までいなくなったら、俺は……」


 見捨てられた犬のような顔。可愛くもあるが、今はそんな気分ではない。


「私が負けることなどありえません。どうかご安心を」


 そう言ったところで、やはりオーディン様の表情は曇ったままだ。しまいには、


「こんな時にユーミルがおればな……」


 などと言い出す始末。我は思わず奥歯を噛みしめる。


「では、行ってまいります!」


 吐き捨てるように言い残し、執務室を後にした。


「ユーミル、ユーミル……最近はそればかりじゃ! あんな小娘のどこが良いのかわからぬ。頭のおかしい女神ではないか。我というものがおるのに」


 イライラした気分を振り払うように、城の外へと向かう。今回は空を飛ぶのではなく、猫神オッタルに乗って出かけることにした。

 オッタルは我の倍ほどもある大きな黒猫で、愛らしくありながらも戦える神だ。毛並みは柔らかく、乗り心地も悪くない。


「行くぞ、オッタル」


「にゃー」


 明確に嫌がっているのか賛同しているのかはわからない声色だが、まあ気にしない。オッタルの背に腰を落ち着けると、我は指示をだした。地を疾走するオッタルの足取りは楽しげで、先ほどまでの苛立ちが多少は和らぐ。


 


---




 3級神の区画、2級神の区画を順番に見回ってみる。確かに誰もいない。

 元々どうでもいい存在だが、彼らの中には我を愛する男もいた。そう思えば、少しだけ残念な気分になる。せっかく夜を共に楽しめる相手が減るのは、我としても少し退屈だ。


「次に行くのじゃ、オッタル」


「にゃー」


 そうして到着したのは、戦いの爪痕が残る平原だった。見たところ、火の神術を多用した痕跡があちらこちらに散乱している。


「ウルドめ、相当激しくやったようじゃな」


 大地には黒く焦げた跡や爆裂の痕があり、かなりの規模の戦闘が起きたことを物語っている。

 しかし、今は何の気配もない。大物の魔族がいるなら、我がわざわざ一人で出歩いているのだから襲ってきてもよさそうなものだが。


「我が相手をしてやろうというのに、腰抜けめ」


 そう軽く笑うが、オッタルはなにやら不安そうに「にゃー、にゃー」と鳴く。我は手で撫でてやる。


「すまぬ、すまぬ。お前のことを忘れていたわけではないぞ? 安心せい、何が来ても我が叩きのめしてくれるわ」


 オッタルは少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。とはいえ、一向に魔族らしき者は現れない。


「仕方ない。次に行くとするか……」


 我はオッタルに合図を送り、再び走らせる。今度は世界樹の方へ向かい、オッタルの背に乗ったまま空を飛ぶ。今日の空は薄白く、どこか底冷えするような気配がある。途中、巨大なものが暴れた痕跡を感じたが、肝心の魔族は見当たらない。


「誰かおるの……」


 世界樹の泉で、女神らしき者を見つけた。見る限り、魔族ではなさそうだ。


「何をしておるのじゃ?」


 わざわざ地上に降り、声をかける。すると、相手は神妙な面持ちで答えてきた。


「フレイア様、あたしは人間の運命を紡いでおりました」


 確か名をスクルトと言ったか。女神の名など、我にはあまり重要ではないが。


「ふむ、ご苦労じゃ。ところで、最近出現した魔族を知らぬか?」


 魔族という言葉を出すと、スクルトは微かに身をこわばらせる。何か嫌な思い出でもあるのかもしれないが、彼女は首を横に振った。


「ずっと泉にいましたので、見かけていません」


「それならばよい。邪魔したの」


 さっさと立ち去ろうとしたその時、彼女はためらいがちに声をかける。


「あの……姉様たちを知りませんか?」


 我はわかっている範囲で事実を告げる。


「ウルドはおそらく魔族に殺された。ヴェルザンディは行方不明じゃ」


「そんな……」


 彼女は悲痛な表情になるが、女神がどうなろうと、我の知ったことではない。


「さらばじゃ」


 我は素っ気なく言い残し、オッタルに乗って空を舞い、城へ引き返した。



---




 部屋に戻り、ベッドに投げ出されるように横になる。


「結局、魔族は出てこんかったな……」


 言葉にしてみても、何ら答えは返ってこない。部屋の隅にいるオッタルは、まどろむように微睡んでいた。


「我に恐れをなしたか、それとも何か策を巡らせているのか……」


 自嘲気味に独りごちていると、突如としてオッタルが荒々しい声で鳴き出した。何もない空間に向かって牙を剥き、毛を逆立てている。


「うー、にゃあ、にゃあ!」


 まるでそこに敵がいるかのような警戒心。我は体を起こして、そのあたりを睨んだ。


「卑怯な魔族よ。そこにおるなら、出てまいれ!」


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