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そして彼女は死に戻る
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「これより、大罪人の魔女カメリア・ジェンティアンの処刑を執行する!」
兵に連れてこられたのは、薄汚れた身なりで歩く痩せ細った一人の少女。
唇はカサつき、頬は痩け、その肌は血の気がなく死者のように青白かった。濃い青の髪は艶が失せて色褪せている。
けれども髪から覗く瞳は、血のように赤かった。
「罪状は、王太子の婚約者としてあるまじき愚考の数々。もっとも罪深きは、王太子の新たな婚約者を害したことである!」
手枷を引かれ、覚束ない足取りで歩くその姿に、不気味だと人々は囁きあった。
――どうして、こうなったのかな。
涙はとうに枯れ果てて、考える力も失せていた。
目の前にある処刑台に、むしろカメリアは、やっと終われるのだと安堵した。
『リア、大好き』
跪き、いよいよ終われると思ったその時、遠く幼い日に抱いた、淡い気持ちを思い出した。
どうして今になって思い出すのか、これが走馬灯というものだろうか。けれど、もう彼に会うことは叶わない。
ずっと覚えていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。私は、なにもしていないのに。
――ごめんなさい。ロス。
カメリアは静かに目を閉じて、その生の終わりを受け入れた。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
目が覚めて、天井が飛び込んできた。
――まだ、続くの?
これは死後の世界なのか、それにしては熱っぽく怠い。カメリアは死んだ先にも、不調や思考があることに落胆する。
「あら、お嬢様。お目覚めですか、ご気分はいかかでしょう?」
「……?」
聞こえた声に不思議に思っていると、メイド服姿の女性が、カメリアの視界に映る。
――天使様ではないの?
これでは現世となにも、変わらないではないか、カメリアはさらに陰鬱な気持ちになった。
――私にもまだ、思うことが出来たのね。
カメリアはそう、他人事のように思った。
「まだ熱がありますね。お嬢様、何かお飲みになりますか?」
それにしても、大罪人として処刑されたカメリアに、なんて甲斐甲斐しく接してくれるのだろうか。
投獄されてからの日々は、人として扱われることはなく、カメリアは何度、目覚めたことを後悔したことだろう。
――最後には、そんな気持ちも抱かなかったけれど。
「カメリアお嬢様、大丈夫ですか? アイリスの声が聞こえますか?」
カメリアの返事が無いことを心配したのだろう、メイドがそう訊ねてきた。
――待って。
「……アイリス?」
「はい、お嬢様。アイリスにございます」
メイドがカメリアの声を聞き、安堵したように笑顔を浮かべて、返事をした。
カメリアは、目を見開いて瞠目する。その姿はまさしく、生前カメリアのメイドをしていた女だった。
「お嬢様!」
「私……」
がばりとカメリアが起き上がれば、長く艶めく濃い青の髪が目に入った。見つめた自分の手は、記憶にあるよりもずっと小さい。
――なに、これ。
わなわなと震えるカメリアに、アイリスが寄り添った。
「お嬢様、急に起き上がられると体調が悪化してしまいます。お休みくださいませ」
――だって私、首を切られて死んだはずよ!
カメリアは小さな両の手で首を確かめた。その首は確かに頭と胴を繋いでいる。
その事実が、カメリアにとって、とても気持ち悪いものとなった。
「うぇ……」
「カメリアお嬢様! 誰か。誰か!」
込み上げてきた吐き気に嘔吐し、カメリアはアイリスに抱き抱えられたまま意識を失った。
その頬を、涙が一筋滑り落ちた。
――どうして。
兵に連れてこられたのは、薄汚れた身なりで歩く痩せ細った一人の少女。
唇はカサつき、頬は痩け、その肌は血の気がなく死者のように青白かった。濃い青の髪は艶が失せて色褪せている。
けれども髪から覗く瞳は、血のように赤かった。
「罪状は、王太子の婚約者としてあるまじき愚考の数々。もっとも罪深きは、王太子の新たな婚約者を害したことである!」
手枷を引かれ、覚束ない足取りで歩くその姿に、不気味だと人々は囁きあった。
――どうして、こうなったのかな。
涙はとうに枯れ果てて、考える力も失せていた。
目の前にある処刑台に、むしろカメリアは、やっと終われるのだと安堵した。
『リア、大好き』
跪き、いよいよ終われると思ったその時、遠く幼い日に抱いた、淡い気持ちを思い出した。
どうして今になって思い出すのか、これが走馬灯というものだろうか。けれど、もう彼に会うことは叶わない。
ずっと覚えていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。私は、なにもしていないのに。
――ごめんなさい。ロス。
カメリアは静かに目を閉じて、その生の終わりを受け入れた。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
目が覚めて、天井が飛び込んできた。
――まだ、続くの?
これは死後の世界なのか、それにしては熱っぽく怠い。カメリアは死んだ先にも、不調や思考があることに落胆する。
「あら、お嬢様。お目覚めですか、ご気分はいかかでしょう?」
「……?」
聞こえた声に不思議に思っていると、メイド服姿の女性が、カメリアの視界に映る。
――天使様ではないの?
これでは現世となにも、変わらないではないか、カメリアはさらに陰鬱な気持ちになった。
――私にもまだ、思うことが出来たのね。
カメリアはそう、他人事のように思った。
「まだ熱がありますね。お嬢様、何かお飲みになりますか?」
それにしても、大罪人として処刑されたカメリアに、なんて甲斐甲斐しく接してくれるのだろうか。
投獄されてからの日々は、人として扱われることはなく、カメリアは何度、目覚めたことを後悔したことだろう。
――最後には、そんな気持ちも抱かなかったけれど。
「カメリアお嬢様、大丈夫ですか? アイリスの声が聞こえますか?」
カメリアの返事が無いことを心配したのだろう、メイドがそう訊ねてきた。
――待って。
「……アイリス?」
「はい、お嬢様。アイリスにございます」
メイドがカメリアの声を聞き、安堵したように笑顔を浮かべて、返事をした。
カメリアは、目を見開いて瞠目する。その姿はまさしく、生前カメリアのメイドをしていた女だった。
「お嬢様!」
「私……」
がばりとカメリアが起き上がれば、長く艶めく濃い青の髪が目に入った。見つめた自分の手は、記憶にあるよりもずっと小さい。
――なに、これ。
わなわなと震えるカメリアに、アイリスが寄り添った。
「お嬢様、急に起き上がられると体調が悪化してしまいます。お休みくださいませ」
――だって私、首を切られて死んだはずよ!
カメリアは小さな両の手で首を確かめた。その首は確かに頭と胴を繋いでいる。
その事実が、カメリアにとって、とても気持ち悪いものとなった。
「うぇ……」
「カメリアお嬢様! 誰か。誰か!」
込み上げてきた吐き気に嘔吐し、カメリアはアイリスに抱き抱えられたまま意識を失った。
その頬を、涙が一筋滑り落ちた。
――どうして。
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