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そして彼女は決意する
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「お嬢様。少しだけでも召し上がりませんか?」
「……ごめんなさい。食欲がないの」
アイリスが訊ねくれるが、カメリアは首を横に振った。アイリスは頭を下げ、食事を持って退席する。
扉が閉まるのを見届けて、カメリアは息をついた。
――どうして、なの。
数日寝込み、ようやく熱が下がったカメリアは未だ、現実を受け入れられないでいた。
アイリスに、それとなく年齢を聞いて驚いた。現在、死に戻ったカメリアは十歳だったのだ。
――死んだ時は十七歳。七年も前だなんて。
熱が下がったはずなのに、ゾクリとカメリアは背筋が寒くなり両腕を重ねた。
七年後、また恐ろしいことになってしまうのか。
「それは、もう嫌……」
前世枯れ果てた涙は、今世でまた流れるようになった。カメリアにとって、それがとても辛い。
「カメリア、怖い夢でも見たのかい?」
「……お、父様っ」
アイリスが呼んだのか、様子を見に来たのか、父が部屋に入ってきた。
カメリアは再び、嗚咽と共に涙がこぼれ落ちた。それを手で覆って隠す。
「ずいぶんと怖い夢を見たんだね。父に話してみるかい? 楽になるかもしれないよ」
――楽に?
カメリアはそう考えて、しかし父の提案に首を横に振った。
これまでのことを打ち明けるのは、カメリアにとって口に出すのもおぞましいことだった。
「いいえ、お父様。怖すぎて覚えていないの。でもとても怖かったの」
「そうかい、そうかい。怖かったんだね。カメリア」
そう。カメリアは怖かった。前世、カメリアが投獄されてから、身の潔白を主張した父は家族もろともに連座となった。
そして、カメリアが最後の刑に処される際、彼らの首は晒し首として広場へ飾られていたのだ。
――七年後、また家族を巻き込んではダメよ。だから言えないわ。
大好きな父の顔を見て、カメリアは安堵と共に決意を固めた。
泣いてばかりのこのままでは、ダメだ。同じことの繰り返しになってしまう。
きっと避けられない運命なのだ。ならば私は、選ばなければならない。
カメリアは嵌められたのだ。
何をどう嵌められたのか、外交に王太子妃教育、貴族学校とを行き来していたカメリアには、その背景が分からない。
その背景が分からなければ、同じことの繰り返しだろう。
けれども十歳に死に戻った今なら、王太子は立太子しておらず、婚約者の選定もまだなのだ。
――家を出なくちゃ。
愚鈍なカメリアには、それしか思いつかなかった。
それに命を落とす前に、思い出したのだ。もう他の男と婚約などしたくない。捨てられると分かっていて、そんなことは出来ない。
そのためには、先ずは体力をつけなければいけない。前世十七歳だったカメリアが思考を巡らせる。
「……ありがとう、お父様。お父様に撫でてもらったら、怖い気持ちがどこかに行ったわ」
「それは良かった」
父はそういって、しばらくの間、カメリアの頭を何度も撫でてくれた。
カメリアはきゅっと唇を噛んで、その愛を享受する。
今は今だけはまだ、この温もりに触れていたい。
――親不孝な娘でごめんなさい。でも、許してお父様、お母様。
「……ごめんなさい。食欲がないの」
アイリスが訊ねくれるが、カメリアは首を横に振った。アイリスは頭を下げ、食事を持って退席する。
扉が閉まるのを見届けて、カメリアは息をついた。
――どうして、なの。
数日寝込み、ようやく熱が下がったカメリアは未だ、現実を受け入れられないでいた。
アイリスに、それとなく年齢を聞いて驚いた。現在、死に戻ったカメリアは十歳だったのだ。
――死んだ時は十七歳。七年も前だなんて。
熱が下がったはずなのに、ゾクリとカメリアは背筋が寒くなり両腕を重ねた。
七年後、また恐ろしいことになってしまうのか。
「それは、もう嫌……」
前世枯れ果てた涙は、今世でまた流れるようになった。カメリアにとって、それがとても辛い。
「カメリア、怖い夢でも見たのかい?」
「……お、父様っ」
アイリスが呼んだのか、様子を見に来たのか、父が部屋に入ってきた。
カメリアは再び、嗚咽と共に涙がこぼれ落ちた。それを手で覆って隠す。
「ずいぶんと怖い夢を見たんだね。父に話してみるかい? 楽になるかもしれないよ」
――楽に?
カメリアはそう考えて、しかし父の提案に首を横に振った。
これまでのことを打ち明けるのは、カメリアにとって口に出すのもおぞましいことだった。
「いいえ、お父様。怖すぎて覚えていないの。でもとても怖かったの」
「そうかい、そうかい。怖かったんだね。カメリア」
そう。カメリアは怖かった。前世、カメリアが投獄されてから、身の潔白を主張した父は家族もろともに連座となった。
そして、カメリアが最後の刑に処される際、彼らの首は晒し首として広場へ飾られていたのだ。
――七年後、また家族を巻き込んではダメよ。だから言えないわ。
大好きな父の顔を見て、カメリアは安堵と共に決意を固めた。
泣いてばかりのこのままでは、ダメだ。同じことの繰り返しになってしまう。
きっと避けられない運命なのだ。ならば私は、選ばなければならない。
カメリアは嵌められたのだ。
何をどう嵌められたのか、外交に王太子妃教育、貴族学校とを行き来していたカメリアには、その背景が分からない。
その背景が分からなければ、同じことの繰り返しだろう。
けれども十歳に死に戻った今なら、王太子は立太子しておらず、婚約者の選定もまだなのだ。
――家を出なくちゃ。
愚鈍なカメリアには、それしか思いつかなかった。
それに命を落とす前に、思い出したのだ。もう他の男と婚約などしたくない。捨てられると分かっていて、そんなことは出来ない。
そのためには、先ずは体力をつけなければいけない。前世十七歳だったカメリアが思考を巡らせる。
「……ありがとう、お父様。お父様に撫でてもらったら、怖い気持ちがどこかに行ったわ」
「それは良かった」
父はそういって、しばらくの間、カメリアの頭を何度も撫でてくれた。
カメリアはきゅっと唇を噛んで、その愛を享受する。
今は今だけはまだ、この温もりに触れていたい。
――親不孝な娘でごめんなさい。でも、許してお父様、お母様。
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