前世ではなかった戦争を止めるため、私は男装して敵国の騎士になります

松平ちこ

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そして彼女が始めた身辺整理

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「……よいしょ」

 外は晴れやかに青空が広がっていた。
 カメリアはここ数日、屋敷の書庫に籠っていた。
 背表紙のタイトルを読み中身を確かめるために、彼女は本を手に取る。
 十歳の身体には本は重く、一冊、一冊運ぶのでも重労働だった。

 ――家から出たとして、先ずは教会かしら?

 書庫の机に地図を広げ、本を広げる。カメリアは必要な知識を復習して、再度頭に叩き込んでいく。
 家を出れば、本はまず二度と読めないと思っていい。今のうちに、しっかりと見ておかなければ。

 修道院を頼れば、すぐに連れ戻されてしまうだろう。それは国内の教会でも同じだろう。
 カメリアは、自分の容姿が目立つことも分かっている。

 そして、もう一つの理由。
 カメリアは、国内の貴族の中でも一部の者だけが使える魔法を扱えた。
 処刑された日に、魔女と罵られた所以でもあった。
 それに気づいたのは、カメリアが十二歳の二次成長期の時。

 そしてそれが、王太子の婚約者に抜擢された一番の理由とも言える。
 今なら、気づく者はいない。でも、国内にいれば、すぐにカメリアの噂が広まって城へと召されることになるだろう。

 ――可能なら他国。それに十歳なら、しばらくの間は、男として生きましょう。

 性別を偽るだけで、捜索の難易度は跳ね上がることだろう。家族には申し訳ないがなりふり構っていては、婚約の打診が来てしまう。
 そうなってはどのみち、家族に迷惑をかけてしまう。

 子どもの間なら、性別を偽るのは容易だろう。

「お金がいるわね」

 他国に渡るとなれば、子どもの足では日数がそれなりにかかる分、路銀がいる。

 劣悪な地下牢生活で、カメリア自身は泥水も雑草も抵抗はないが、十歳の子どもの身体で腹を壊しては、旅に支障が出てしまう。

 ――もう辛いのは、嫌よ。

 先ずは教会でお世話になる。その後のことは、またその時に考えよう。カメリアは、そう心に決めた。



「お父様」

「どうした。カメリア」

「……あの、この前お勉強で学んで、お父様にお願いがあって」

 アイリスに頼んで、父とのアポを取ってもらい、約束の時間。
 カメリアは扉を開けて、手をもじもじと交差させ、父にお願い事をしに執務室へと足を踏み入れた。

「硬貨について、実際のものを見て覚えたいの。幾つか貰うことって出来る?」

「勉強熱心だね、いいよ。執事に言付けておこう。そうだ、今度市井にも買い物をしに行こうか。実際に見て触れるのは学びになるからね」

「ありがとう。お父様!」

 すんなりと手に入った硬貨に、カメリアは父に抱きつき、感謝の意を伝えた。
 同時に前世でのことを思い出し、カメリアは目頭が熱くなる。顔を父へとぐりぐりと押しつけて、気持ちに蓋をした。

 ――お父様、本当にありがとう。ごめんなさい。

 カメリアは着々と、家出のための準備を進めていった。



「まぁまぁ、カメリアお嬢様。こんなところに来てはいけません」

 ひょこりとカメリアが覗いたそこ。次に向かったのは、洗濯室だ。

「お裁縫の練習がしたいの」

「あらあら、それでしたらこんなところに来ずとも、綺麗な布をご用意いたしますのに」

「新しい布は、針が通りにくいのよ。だからここで、何か良いものはないかしら?」

「そうは言われましてもねぇ……」

 ――古布の入手は難しそうね。

「ごめんなさい。無理を言ったわ。お仕事頑張って、いつもありがとう」

 カメリアは怪しまれる前に、ささっと部屋を後にした。
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