4 / 6
そして彼女が失くした忘れ物
しおりを挟む
今日は安息日。ここ数日、カメリアが屋敷の中を忙しなく動き回っていたせいで、メイド達の目が厳しくなったように感じたのだ。
子どもらしく過ごす日も必要だろう。カメリアは庭に出て、花を見て回っていた。
「……りんどう」
ジェンティアンの家名と同じ植物を、カメリアは見つける。今は春の終わり。咲くのはまだまだ先で、今は蕾もなかった。
『ジェンティアン嬢っていうんだ。可愛い花の名前だね。僕の国では、竜胆って言うんだよ』
カメリアは、母に連れられた王城のお茶会で、ロスに出会ったことを思い出した。
彼はそんなに年も変わらないだろうに、植物の造形にとても詳しかった。それに言葉遣いも。
――どうして、忘れていたんだろう。
カメリアは、竜胆の葉に手を添えて、そっと目を伏せた。
他国の来賓を招いてのお茶会で、他国の子どもだという彼と過ごした時は、とても楽しいものだったのに。
「……あ」
気持ちを切り替えて歩いた先、小さな池を見つけた。
そこには、水面にまっすぐ伸びた蕾がなっていた。
「なんだっけ?」
これも彼に教えてもらった気がする。大切な記憶だったはずなのに、カメリアはうまく思い出せないでいた。
「ありゃ蓮ですね。お嬢様」
「ありがとう。蓮っていうの、そっか」
教えてくれた庭師に礼を述べて、カメリアは繰り返す。けれどもちょっと、違和感が残ったままだ。
――腑に落ちないのはなぜだろう?
「今年も、立派な花を咲かせますよ。楽しみでしょう、お嬢様?」
「あら、どうして?」
その言い方だと、カメリアが蓮に、思い入れがあるように聞こえた。
きょとんと子どもらしく聞き返してみれば、庭師はしまったという顔をする。
「野暮なこと言っちまったみてぇですな。忘れてくだせぇ」
「まぁ、気になって夜も寝れなくなってしまうわ。ねぇ教えてよ」
「参ったなぁ。お嬢様が三年ほど前に、蓮を植えたいって旦那様にお願いして、この池が出来たんでさぁ。
昨年は楽しみにしてらしたので、つい。気を悪くしたなら、すんませんねぇ」
「ううん。教えてくれてありがとう」
カメリアにとって、大切なものだったらしい。
――でも、ならどうして忘れているの?
ロスのこともそうだ。カメリアはきゅっと胸の前で手を握った。
「ねぇ。この蓮はいつ咲くの?」
「夏の前ですから、まだ先になりますなぁ」
「そう。ありがとう」
咲いているところを見れば、何か思い出せるかもしれない。
カメリアは期待して庭師に訊ねたが、どうやらそれは叶わないらしい。
――暑い中の旅は危険だもの。夏より前に出なくちゃ。
カメリアはしばらくの間、蕾を見つめていた。
それからも数日をかけて、カメリアは準備を整えていった。
「……使えるのね」
夜、皆が寝静まった頃。布団を頭からすっぽりとかぶって、カメリアは両の手を見つめていた。
手の中で、小さな竜巻がくるくると回っている。確かめてみなければ分からないが、前世での発現と比べるまでもないレベルだった。
カメリアは、口許を弧に描いた。
使用人達の動きや流れを注視していたが、人知れず抜け出すのは、ネックだったのだ。誰も巻き込みたくないだけに、なおさら。
けれど、それもたった今解消された。魔法が使えるのなら、カメリアが抜け出すのはとても簡単になる。
ある日カメリアは、字の練習がしたいとねだって、たくさんの便箋とペンなどを用意してもらった。
夜な夜なの魔法の練習と合わせて、こっそり皆へと宛てた手紙をしたためていく。
バレないように、日中は父や母を始めとして使用人たちにもカモフラージュのための手紙を書いて、感謝の言葉として渡していた。
――悩んだけれど、本当のことを書いた方が、お父様は探さないでいてくれるかもしれないもの。
ぽたり。雫が落ちて、便箋に染みを作る。
いけないと、カメリアは手を止めて涙を拭った。せっかく書いた手紙が、渡せなくなってしまう。
子どもらしく過ごす日も必要だろう。カメリアは庭に出て、花を見て回っていた。
「……りんどう」
ジェンティアンの家名と同じ植物を、カメリアは見つける。今は春の終わり。咲くのはまだまだ先で、今は蕾もなかった。
『ジェンティアン嬢っていうんだ。可愛い花の名前だね。僕の国では、竜胆って言うんだよ』
カメリアは、母に連れられた王城のお茶会で、ロスに出会ったことを思い出した。
彼はそんなに年も変わらないだろうに、植物の造形にとても詳しかった。それに言葉遣いも。
――どうして、忘れていたんだろう。
カメリアは、竜胆の葉に手を添えて、そっと目を伏せた。
他国の来賓を招いてのお茶会で、他国の子どもだという彼と過ごした時は、とても楽しいものだったのに。
「……あ」
気持ちを切り替えて歩いた先、小さな池を見つけた。
そこには、水面にまっすぐ伸びた蕾がなっていた。
「なんだっけ?」
これも彼に教えてもらった気がする。大切な記憶だったはずなのに、カメリアはうまく思い出せないでいた。
「ありゃ蓮ですね。お嬢様」
「ありがとう。蓮っていうの、そっか」
教えてくれた庭師に礼を述べて、カメリアは繰り返す。けれどもちょっと、違和感が残ったままだ。
――腑に落ちないのはなぜだろう?
「今年も、立派な花を咲かせますよ。楽しみでしょう、お嬢様?」
「あら、どうして?」
その言い方だと、カメリアが蓮に、思い入れがあるように聞こえた。
きょとんと子どもらしく聞き返してみれば、庭師はしまったという顔をする。
「野暮なこと言っちまったみてぇですな。忘れてくだせぇ」
「まぁ、気になって夜も寝れなくなってしまうわ。ねぇ教えてよ」
「参ったなぁ。お嬢様が三年ほど前に、蓮を植えたいって旦那様にお願いして、この池が出来たんでさぁ。
昨年は楽しみにしてらしたので、つい。気を悪くしたなら、すんませんねぇ」
「ううん。教えてくれてありがとう」
カメリアにとって、大切なものだったらしい。
――でも、ならどうして忘れているの?
ロスのこともそうだ。カメリアはきゅっと胸の前で手を握った。
「ねぇ。この蓮はいつ咲くの?」
「夏の前ですから、まだ先になりますなぁ」
「そう。ありがとう」
咲いているところを見れば、何か思い出せるかもしれない。
カメリアは期待して庭師に訊ねたが、どうやらそれは叶わないらしい。
――暑い中の旅は危険だもの。夏より前に出なくちゃ。
カメリアはしばらくの間、蕾を見つめていた。
それからも数日をかけて、カメリアは準備を整えていった。
「……使えるのね」
夜、皆が寝静まった頃。布団を頭からすっぽりとかぶって、カメリアは両の手を見つめていた。
手の中で、小さな竜巻がくるくると回っている。確かめてみなければ分からないが、前世での発現と比べるまでもないレベルだった。
カメリアは、口許を弧に描いた。
使用人達の動きや流れを注視していたが、人知れず抜け出すのは、ネックだったのだ。誰も巻き込みたくないだけに、なおさら。
けれど、それもたった今解消された。魔法が使えるのなら、カメリアが抜け出すのはとても簡単になる。
ある日カメリアは、字の練習がしたいとねだって、たくさんの便箋とペンなどを用意してもらった。
夜な夜なの魔法の練習と合わせて、こっそり皆へと宛てた手紙をしたためていく。
バレないように、日中は父や母を始めとして使用人たちにもカモフラージュのための手紙を書いて、感謝の言葉として渡していた。
――悩んだけれど、本当のことを書いた方が、お父様は探さないでいてくれるかもしれないもの。
ぽたり。雫が落ちて、便箋に染みを作る。
いけないと、カメリアは手を止めて涙を拭った。せっかく書いた手紙が、渡せなくなってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる