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第6話 そして彼女は、リンとして生きる。
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「リンー。これ、干場に持っていって」
「はーい」
青空の下、十一歳になったカメリアが、たくさんの洗濯物を抱えて運んでいた。
散切り頭だった髪は、綺麗にベリーショートへと揃えられ、リンと名乗り男の子として過ごしていた。
『親に売られそうになって、逃げてきた』
家出をしたあの日。国境の山奥で数日間、カメリアは衣服を泥水につけたり、髪を汚したり平民に見えるよう不衛生に装った。
そして、隣国の教会へと身を寄せたのだった。
あれから一年。リンとして呼ばれることにも慣れ、生活に馴染んだと思う。
治安の良いところを選んだからか、リンが愛想良く過ごせば、生活面では一通りなんでもこなせるようになった。
教会を卒業する時には、リンは市井で普通に暮らしていけそうだ。
「――新しい国王様、どうしちゃったのかしら」
「冷酷王、でしょう? 少し前まではとても良い方だったのに」
「また、何かあったの?」
洗濯場のシスターたちが、噂話をしていた。
王に関する噂を聞くのは何も初めてではない、教会の外でもリンは時々耳にするからだ。
新王の戴冠式も、教会の子どもたちと一緒に、遠目に見ていた。
「おや、リン。アンタ男なのに、本当に噂話が好きだねぇ」
「そう? 教会を出たら自立しなきゃだし、時勢は大事でしょ?」
「まぁ……それだけ賢いからこそ、親元から逃げて来れたんでしょうね。普通は荷物だけ置いたら、男の子はさっさとどっか行くものよ」
とぼけて答えたリンは、いつもこうして噂話の話に混じっていく。情報収集は外交の基礎、前世からの癖のようなものだった。
――死ぬ前は、隣国の王が替わるなんてなかったのに。
死に戻る少し前、外交先で会った王は病に侵されてはいたが、まだ現場に立っておられた。
六年前の今なら、病は発症していないか、もっと後のはず。
現時点で、王位を譲ったなど起きていなかった。
「どうして変わったんだろ?」
「ん? どうした。リン?」
ボソリとしたリンの呟きは、シスターたちには聞こえなかったらしい。
「王様が、どうかしたのかなって」
「ああ、今回はどうやら、徴兵を大々的にかけるらしいよ」
「即位してから、人事をごっそり変えたっていうしねぇ。人手不足かねぇ」
「それがなんでも、どっかの同盟を止めて、宣戦布告するんじゃないかって言われてるよ。商人が言ってたからさ」
「ええ、内だけじゃなく、次は外に向かうの?」
「戦争なんて、もうずっとなかったのに、どうなるのかしら」
シスターが口々に言いながら、洗濯の手を止めて話に夢中になっている。
リンは洗濯物を干しながら、聞き耳を立てていた。
その頭の中では、周辺国家の地図が広がっていた。
――どこ、どこの国との同盟を、破棄するの? いいや、攻めるとは決まってない。まだ、噂だ。
母国を含め、周辺国は同盟を組んで交易を行っている。
過去、カメリアとして各国とはそれなりに知り合いもいた。どこに攻めこもうと、他人事とは思えない。
――お父様、お母様。
もし、生家が戦争に巻き込まれたら。カメリアが家出して、死を回避した意味がなくなってしまう。
握りしめた洗濯物に、皺が刻まれた。
「ねえ。その徴兵、僕も志願出来るかな?」
リンの口から出たのは、生存とは逆の行為、家族を守りたい一心の決意の現れだった。
「はーい」
青空の下、十一歳になったカメリアが、たくさんの洗濯物を抱えて運んでいた。
散切り頭だった髪は、綺麗にベリーショートへと揃えられ、リンと名乗り男の子として過ごしていた。
『親に売られそうになって、逃げてきた』
家出をしたあの日。国境の山奥で数日間、カメリアは衣服を泥水につけたり、髪を汚したり平民に見えるよう不衛生に装った。
そして、隣国の教会へと身を寄せたのだった。
あれから一年。リンとして呼ばれることにも慣れ、生活に馴染んだと思う。
治安の良いところを選んだからか、リンが愛想良く過ごせば、生活面では一通りなんでもこなせるようになった。
教会を卒業する時には、リンは市井で普通に暮らしていけそうだ。
「――新しい国王様、どうしちゃったのかしら」
「冷酷王、でしょう? 少し前まではとても良い方だったのに」
「また、何かあったの?」
洗濯場のシスターたちが、噂話をしていた。
王に関する噂を聞くのは何も初めてではない、教会の外でもリンは時々耳にするからだ。
新王の戴冠式も、教会の子どもたちと一緒に、遠目に見ていた。
「おや、リン。アンタ男なのに、本当に噂話が好きだねぇ」
「そう? 教会を出たら自立しなきゃだし、時勢は大事でしょ?」
「まぁ……それだけ賢いからこそ、親元から逃げて来れたんでしょうね。普通は荷物だけ置いたら、男の子はさっさとどっか行くものよ」
とぼけて答えたリンは、いつもこうして噂話の話に混じっていく。情報収集は外交の基礎、前世からの癖のようなものだった。
――死ぬ前は、隣国の王が替わるなんてなかったのに。
死に戻る少し前、外交先で会った王は病に侵されてはいたが、まだ現場に立っておられた。
六年前の今なら、病は発症していないか、もっと後のはず。
現時点で、王位を譲ったなど起きていなかった。
「どうして変わったんだろ?」
「ん? どうした。リン?」
ボソリとしたリンの呟きは、シスターたちには聞こえなかったらしい。
「王様が、どうかしたのかなって」
「ああ、今回はどうやら、徴兵を大々的にかけるらしいよ」
「即位してから、人事をごっそり変えたっていうしねぇ。人手不足かねぇ」
「それがなんでも、どっかの同盟を止めて、宣戦布告するんじゃないかって言われてるよ。商人が言ってたからさ」
「ええ、内だけじゃなく、次は外に向かうの?」
「戦争なんて、もうずっとなかったのに、どうなるのかしら」
シスターが口々に言いながら、洗濯の手を止めて話に夢中になっている。
リンは洗濯物を干しながら、聞き耳を立てていた。
その頭の中では、周辺国家の地図が広がっていた。
――どこ、どこの国との同盟を、破棄するの? いいや、攻めるとは決まってない。まだ、噂だ。
母国を含め、周辺国は同盟を組んで交易を行っている。
過去、カメリアとして各国とはそれなりに知り合いもいた。どこに攻めこもうと、他人事とは思えない。
――お父様、お母様。
もし、生家が戦争に巻き込まれたら。カメリアが家出して、死を回避した意味がなくなってしまう。
握りしめた洗濯物に、皺が刻まれた。
「ねえ。その徴兵、僕も志願出来るかな?」
リンの口から出たのは、生存とは逆の行為、家族を守りたい一心の決意の現れだった。
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