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プロローグ

蛮勇者、少女の身の上話を聞く5

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ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が跳ねる。
早く、この場所から逃げたい。
その思いが、鼓動を加速させる。
それを気づかれないように、元来た廊下を引き返す。音を立てずに歩いて、丁度角を曲がった時、張り詰めた緊迫感が解けて、一気に走り出す。
しかし、走り出したものの、自分が道に迷っているということは、変わらない。
とにかくあの二人から遠ざかるように、走る。
角を曲がって進んで、また曲がって進んで・・・・それを繰り返していると、見覚えのある所に出た。
第二食堂だ。
よかった。戻ってこれたみたいだ。
本来なら、おとなしく自分の部屋に戻るだけなのだが、今は、やることができてしまった。
私がここから逃げるために必要なことがある。まずは、それを果たしに行かねばならない。








「っ・・・・・ここでもない」

焦りから声が漏れる。
私は、スキル「諜報」を使ってある部屋を探す。
早く見つけなければならないのに・・・・・この城は部屋が多すぎる。
大きな焦燥が私を襲う。

「ここでもない。ここでもない。ここでも・・・・・・ここだ!!」
ドアを開けて中に入る。
中に誰もいないことは、スキルによって確認済みである。
そこには、おびただしい数の本があった。
そう、ここは図書室である。
逃げるためには、地図が必要だった。
たくさんの本の中から、地図の載った本を探すのは、骨が折れると思ったのだが、本たちは分野に分けられておかれていた。その中から地理に関する本を見つけるには、朝飯前だった。

『旅のお供~各国の歩き方~』
と書かれた本を見つけた。これなら地図も載ってるし大丈夫だ。
その本を手に取って、図書室を後にした。


それから、一度部屋に戻った。
そして、脱出に向けて身支度を済ませる。
後は、決行の時まで備えるだけだ。
9時を過ぎて巡回を行う者が部屋を訪ねる。

「・・・御守夕花いるか?」

「はっはい、います。」

すると彼は「良い夜を。」言い残し去っていく。
それから、3時間を過ぎた午前0時。
私は、そっとドアを開ける。鞄を肩にかけ部屋を後にした。
そして、親友が寝ていると思われる部屋を目指す。部屋の前に着いたので、まず、みゆを呼ぼうとドアノブに手をかけると、
ガチャッ
ドアが開いた。
みゆよ。女子高生としてそれは、無防備すぎるでしょ・・・
まぁ今は、みゆの無防備のおかげで音を立てずにすむ。
ゆっくり部屋に入り、寝ている夕花の肩を揺らして、小さな声で名を呼ぶ。

「みゆ、みゆ、みゆ。」

「・・・・・・ん・・・ん?・・・えっ、なんd」

「ごめん、大きな声を出さないで。理由は詳しく話すから。」

とっさにみゆの口を塞いでそう言うと、みゆは、こくっと頷いた。
そして、これまでのことを洗いざらいじゃべった。見たこと、聞いたこと、これからどうしたいのかも、それにはなにが必要なのかを。
しばらくの間、みゆは俯いて沈黙した。冨山君のことは、悲しんでいるんだろう。
長い沈黙を切ってみゆは口を開いた。


「冨山君は、まだ死んでいないんだよね・・・・」

「うん。」

「ここから、逃げるには私のスキル「転移魔法」がいるんだよね。」

「うん。」

「・・・私に魔力の実感のコツを教えて。」

「わかった。じゃあまず、自分の鼓動を聞いて。鼓動を感じたら、自分の血液を魔力だと思って、流れを感じて。」

「そうすれば、魔力の流れを感じれるから。」

みゆが目を閉じて、しばらく経つと、体が金色に光る。
魔力の色が、さすが勇者って感じだなあ。

「夕花ちゃん。これが魔力なんだね・・・」

「うん。そして、この状態で対象を決めて、場所をイメージしながら『○○に転移。』と唱えると、転移魔法が使えるはずだよ。」

「そして場所のイメージは、明確であるほうが良いから、地図を持ってきたよ。」

何で、こんなに転移魔法に詳しいのかというと、図書室で転移魔法についての文献を読んだからだ。その文献によると、転移魔法を使える人は、世界に10人もいないらしい。流石勇者だと思う。その勇者に、図書室から持ってきた本を開いて地図を見せる。

「夕花ちゃんは、この死の森に行こうと思ってるんだよね。」
地図の王国から東の森を指して言う。王都からの距離はざっと200キロだ。

「うん。私が聞いた話なら、人は寄り付かないらしいから、逃げるときに身を隠すのに、最適だと思う。」

「私もそう思うよ。もしかしたら、冨山君に会えるかもしれないしね。」

「じゃあ、みゆ準備をして。今から脱出するから。」

「ううん。・・・・・それは、できないよ。」

「・・・・・えっ?」



みゆは静かな声で私の誘いを蹴った。
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