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プロローグ

蛮勇者、少女と等価交換をする。

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「それで、無事に死の森に転送された後、森を歩いているとあなたを見つけたのです。」

「・・・・なるほどな。」
この異世界から来た少女は見た目よりもしたたかなようだ。
この歳の女の子なら、泣いてしまってもしょうがない状態なのに。

「・・・話は変わりますけど、アレンさんは『製魔士』という職業を知ってますか?」

「いや、聞かないな・・・・・」

「そう・・・ですか・・・」

「・・・魔導都市エンドラに行けば、何かわかるかもしれないな・・・・」

とアレンは呟く。夕花はその呟きを聞きのがさなかった。
そして、アレンに提案を持ち掛ける。

「アレンさん、もし良かったら私にこの世界のことを教えてください。その代わりに私は、異世界の話をします。」

「どうですか?」

そうだな・・・・彼女には助けてもらったわけだし、恩を返すとしよう。

「・・・ユーカはアースガルド王国から逃げているから、逃げるならグルニカ王国がいいと思う。あそこは、アースガルド王国と敵対しているから、追手も不用意に手出しできない。」

「ユーカが持ってる本を貸して。」

「はい、どうぞ。」

夕花から本を貸してもらうと、地図のページを開き、グルニカ王国を指す。

「今、俺たちがいるのは死の森の南側だから、ここから南西方向に400キロ進まなければいけない。行くとしたら、10日かかるがどうだ?」

「そうですね・・・・ここから南のハイネ帝国というところはダメなんですか?」

と夕花が尋ねると。アレンの表情が陰る。その顔はなんとも悲痛に満ちた顔だった。

「そこは・・・・・やめておいたほうが良い。」

「わっ分かりました・・・じゃあ・・・・・・グルニカ王国に行こうと思います。」

夕花は、アレンの異変に気付き、ハイネ帝国について聞くのはやめた。

「・・・とりあえず手立てがついたので、今度は異世界のことを私が話しますね。」

「ああ、お願いする。」

私は、とりあえず科学の話をした。それは、この世界は、見たところ中世なくらいの発展段階だと思ったからだ。
地球の進んだ技術について話すのがいいだろうと考えた。
それは予想道理で、アレンさんが話に食いつく。

「ほんとに火は空気を混ぜると火力が上がるのか?・・・・」

「はい、通常の火は赤色ですが、温度が高くなると青白くなります。」

「ほんとに、ユーカの元居たチキュウは色々と進んでいるな。クルマもそうだが、ジョウキキカンというものは凄いな、この世界でそれを再現できれば、ひと財産を築くことなどたやすいぞ。」

アレンは、考え込む。この異世界の知識を使えば、あの憎き祖国に復讐することもできるかもしれない。
それだけチキュウはこの世界よりも進んでいる。商人が大金はたいてでもてにいれたいものだろう。チキュウの知識はそれだけ価値がある。
考え込むアレンの姿を夕花は心配そうに見つめる。夕花は迷う。彼に事情を尋ねるべきだろうか。
思えば、彼が話さないということは、言いたくないということだと思うし、話しずらい内容だろう。
彼を見つけた時の彼は、それは酷い様態だった。手足もボロボロで、肋骨も何本か折れていた。
回復ヒールが無事に効いてよかったと思う。
彼が悪人で、この森に送られたとは考えてみてものの、彼からはそんな雰囲気はしない。
もし彼が、悪人で私をどうこうしようとするならば、それは、私の見る目がなかったということだ。
今の彼から感じるのは、葛藤・・・・・それがどんな内容なのか・・・・・無性に気になった。
あまり聞くべきではないのかも知れないが、好奇心に負け尋ねることにした。

「アレンさんは、どうしてここに来たのですか?」

「聞きたいのか?」

アレンは、落ち着いた声でそう聞き返す。

「・・・・・・はい、聞きたいです。」

「そんなに、大それた話じゃない。端的に言えば、・・・貴族社会の波にのまれたのさ。」

「俺は、そこそこ強かった。その武力によって、一時期、俺の家はとある国で、有力な貴族となった。そして、綺麗な恋人も俺を支えてくれた。その国の王太子は俺のことをよく気にかけてくれていた。俺も彼を兄のように感じていたし、できるならこの国を一生支えていこうとも考えていた。
しかし、急激に成長した俺の家をよく思わなかった者たちもいた。
ある時、他国との戦争にかり出された。その戦争が終わり、家に帰ると兵士の大群が、敷地に駐在していた。
その兵隊が言うには、俺及び、家の皆に、国家反逆罪がかけられていた。
当然抵抗した。しかし、家族と恋人を人質に取られては、術に為す術はなかった。
そして、俺は王宮にて爵位を剥奪された。それから、数日後に町の掲示板に両親と恋人の処刑を知った。
この時、人生で初めて、煮えたくるほどの怒りを覚えた。俺は怒りに任せて剣を取り、その国に一人で挑んだ。
結局、一人では限界があり、俺は取り押さえられた。そして、皇帝のの慈悲によって四肢の自由を奪ってこの森に捨てられた。そこをユーカに救われた。」

そう語るアレンの顔は後悔に満ちていた。
夕花は慄然としていた。夕花とて、アレンにつらい過去があるとはおもっていた。しかし、アレンのその過去は想像を絶していた。かける言葉が見つからない。彼は、慰みを必要としているようには、見えなかったからだ。そして、話を聞いて、アレンが何に迷って、葛藤しているのか分かってしまった。それ故にどうしても聞かねばならなかった。

「・・・アレンさんは・・・・復讐を考えているのですか?・・・・・・」

「・・・・・どうなんだろうな。復讐したくないといえば嘘になる。だけど、復讐したとしても、失ったものは、もう、戻ってこない・・・・・・・・・実際、俺もどうしたいのか分かっていない。」

そういってアレンは空を見上げた。俺は、どうしたいのだろう。もう終わると思った命だ。使い方を決めれない。
俺を貶めた奴らを皆殺しにするか?・・・それは、随分とスカッとするのだろうな。しかし、もうそんな気概も残ってはいない。あるのは、自分だけ生き残てしまったという罪悪感。それが、心を蝕む。
俺は、一体何をしていけばいいのだろうか。身の丈に合わない異世界の知識を手に入れた。その気になれば、この世界の統一さえできるだろう。
故に、分からないのだ。その力をどこに向けるべきか。

「私は、あなたの苦しみが分かるなんて言いません。その苦しみはアレンさんしか分かりません。決して人と分かち合うことなんてできないでしょう。・・・・・・しかし、アレンさんがその苦しみをっ背負ったまま進もうと思うなら、どうか、私を手伝ってくださいませんか?」

「私は、親友と約束しました。一年後までに親友と暮らすための生活基盤をこの世界で作らなければいけません。そのためにわたしにはあなたが必要です。アレンさんがいいなら、私の手を取ってください。」

そう言って、みゆは、アレンに手を差し出す。
この少女は、助けた見返りとして要求するのではなく、俺の心情を察し、俺に提案してきた。
そんなみゆの真摯な態度がアレンの心を動かす。
やりたいことが決まるまで、この少女の手助けをするのも悪くないな・・・・・

「みゆ、俺で良ければ力になろう。」

「ありがとうございます。これから、よろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」

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