【完結】天下無双の英雄は糞を漏らして名を隠す

カレーハンバーグ

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本編

エピローグ

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 あれから俺は下着とズボンを履き替え、街を走ってミノタウロスの残党をことごとく始末し、そのまま巨大な穴の中に潜った。穴の中に古の者の眷属であるミノタウロスがまだまだ残っていた。全て倒して地上に戻ると夜が明けていて、空腹で倒れそうな俺に食堂の店主がカレーを振舞ってくれた。
 それから後は復興作業の手伝いの日々である。全ての物を塵に化すことのできる俺は、再利用できない瓦礫の始末を任された。ヘトヘトになって一日を終えると、必ず食堂の店主が現れてカレーを振舞ってくれた。
 王の指揮で復興作業が進んでいたある日、俺とレイラ、セリーナの三人は城に呼ばれ、勲章を授与された。ヴィクターは呼ばれなかった。そもそも彼の行方はあの闘いの後から分からない。レイラとセリーナに与えられたのは鷲の形をした勲章だった。俺の勲章だけ巻貝のような形をしていた。
 瓦礫がなくなり、破壊された大聖堂の再建が始まった時、広場で新たな像のお披露目会が開かれた。巨大な布の下から現れたのは俺の黄金像だった。翌日、その像に「ウンコ」と落書きされていた。

 そして俺は今、船の上にいる。もうあの国に戻ることは二度とないだろう。
 巨大な帆船は陸からの風を受けて大海原を進んでいく。俺は、船尾のデッキに立って小さくなっていく大陸を見ていた。
 あの国に未練が何もないというと嘘になる。
 一つはあの金髪の少年のことだ。あれから暇を見つけては街を歩いてあの少年を探した。俺と握手したと周囲の子供たちに話してイジメられていないかずっと気がかりで、その後どうなったか確認したかったが、再会することはできなかった。だが、あの子は俺なんかよりもずっと強い人間だ。だからきっと大丈夫だ。そう思うことにした。
 もう一つの未練は――。

「また私に何も言わず一人で消えるつもり?」

 聞きなれた声に振り返ると、そこには炎の魔女が立っていた。ちょうど彼女の事を考えていたので俺は驚きを隠せなかった。
 眉間に皺を寄せて睨みつけてくるレイラを見て、ようやく合点がいった。再会してから彼女がずっと不機嫌だった理由がである。

「三年前に黙って旅立ったから、ずっと怒っていたのか。悪かった。あやまるよ」

 そういってあっさり頭を下げた俺に、彼女は拍子抜けしたみたいだった。

「本当にあなたは人の気持ちが分かってないというか何というか」

 不満を口にする彼女だったが、怒りは収まったらしく、口調が柔らかくなった。

「わざわざ別れの挨拶をしに来てくれたのか? でも大陸からもうだいぶ距離がある。すぐにでも飛行魔法で戻ったほうがいい」

 すると彼女は首を横に振って否定した。

「違う違う。別にあんたなんかに別れを言いに来たわけじゃない。なに勘違いしてるの。私も新大陸にいこうとこの船に乗ったのよ。そこでたまたま、あなたと鉢合わせただけ」

「どうして国を離れる? あの国にいたらお前は英雄だ。地位も公爵だし、贅沢三昧だろう?」

「そういうのはもう飽きたのよ。私は新しいものが見たいの」

 そういった彼女は船の手すりに腕をのせて、眩しそうに大海原を見つめた。日の光を浴びた波が銀色に輝いている。

「でもこの先の新大陸は不穏な噂ばかりだぞ。夢の国なんかじゃない。嫌な思いを沢山することになる」

「かまわないわよ、別に」

 迷いなくそう言い切る彼女の横顔を見て、俺は余計なことを言うのをやめた。もうそうすると決めてしまったのだ。

 真っ青の空の下、白い海鳥たちが羽ばたいている。彼女の長く赤い髪が海風にふかれ、まるで炎のようにゆらめいていた。

「本当は違うの」とレイラが呟いた。

「何が違うんだ?」

「私がこの船に乗った理由よ」

 そういって彼女は俺に向き直り、自分を落ち着かせるためか大きく深呼吸した。

「私が船に乗ったのは、あなたが好きだからよ。あなたと一緒にいたいから」

 思いもよらぬ言葉に俺の頭は真っ白になり何も言えなくなった。

「私は、あなたがウンコを漏らした後も、ウンコを漏らす前も、ずっとあなたの事が好きなの。覚えてる? 私たちが出会ったのは田舎街の小さな冒険者ギルドで、駆け出しだった私たちはゴブリンにすら勝てなかった。二人揃ってギルドのみんなに笑われ、馬鹿にされ、それでも目の前の仕事をこなそうと懸命だった。私はね、あの頃からあなたの事が好きなの」

 返事ができない俺を見て、彼女はゆっくりと近づいてきた。そして、不安そうな顔をして「ねえ、聞いてるの?」といい、続けて俺の名前を口にした。
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