転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

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ルチアーノがどうして侯爵邸にやって来たのかと問うと、『報告がある』という答えだった。それを聞くや、モンタールド侯爵とトマの顔色が変わる。


では王子はなぜ来たのかと訊くと、おもしろそうだから後をついてきた、という答えだった。ルチアーノが呼んだわけではないらしい。


「ねえルチアーノ様。アドリアン王子って…」

「うん。むかしから伝えた覚えのないことまでなんでも知ってて、どんな情報網してるのか疑問だったんだけど……」


―――王子様、ストーカー気質だったのね。


レイラとルチアーノはアドリアンを見る目が変わった。



***
その日の中央学園は朝から大騒ぎだった。

まずサルヴァティーニ公爵家の馬車から、ルチアーノとレイラが仲良く手を取り降りてきたことに周囲はひどく驚愕した。

学園では二人の婚約がもはや体面も取り繕えないほど破綻していると思われていたのだから。いままで見たこともないほど楽しそうに笑うルチアーノに、周囲は二度見した。


「どうしてもっと早くからこうしていなかったんだろう」

「それはルチアーノ様がレディのエスコートを放棄するという重罪を犯したからよね」

「大変申し訳ございませんでした、お姫様。この命続く限り償わせていただきます」


仰々しい仕草で膝をついて手を差し出されて、レイラは美しく笑った。――貴族令嬢らしく、艶然と、傲慢に。


「当然よ」


レイラの手の甲にキスする権利は、はじめからルチアーノにしかなかった。それを無碍にした罪は重い。


「一生許さないわよ」


レイラはキスを受けた手で逆にルチアーノの手を引っ張り上げ、二人でくすくす笑った。


ちなみにこのパフォーマンスは、学園の正門付近、一番人通りの多いところで行われている。

公爵家の馬車で二人一緒に登校することを提案したのは、ルチアーノの父である宰相だったが、先日のロイドに対抗してルチアーノは自ら注目を浴びるようなことをしている。


「ムキになっちゃって」

まあ、そこがかわいいところなんだけど。


この件は貴族の子供たちから親世代へ、抜かりなく報告されることだろう。レイラの噂も、ルチアーノの評判も、そうかからず払拭されるはずだ。


いつものようにカフェテラスへ赴くと、ここでもまた視線が集中する。

けれどレイラもルチアーノも意に介さず、ひとりふたりと集まる友人たちに朝の挨拶をする。


そこへいっそう大きなどよめきが起きた。


「――あらあら、まあ」


その姿を見て、レイラは口許を押さえる。

レイラですらこうなのだから、他の生徒たちは信じられないものを見るような眼差しを向けている。


「やってくれたね、ルチアーノ」

「なんのことかな?アドリアン」


ずかずかと歩み寄る王子殿下は、いつもの柔和な空色の彼ではなく、渋い顔をして凄味を増した夜色の彼だった。


「王家の妙薬を取り上げられてしまったよ。誰かさんに王宮を抜け出していることを告げ口されてね」

「まあ、秘伝のスープを?」

「…スープって言わないでほしいな」


紺色の長い髪を高いところで結い、短く刈り上げたうなじ部分がすっきりと露になっている。
苦い表情のアドリアンを見上げて、だからいつもなんか毛量が少なかったのね、とレイラは納得する。


「…なんだかいま不名誉な気配を感じたぞ」

「気のせいだろ?」


このスタイルのアドリアンも見慣れているルチアーノは平然と澄まし顔だ。


ルチアーノはレイラのゆめかわドールパーティーの後、父とトマとそれからアドリアンを引き連れて、国王陛下と宰相閣下がいる王宮に向かった。

(レイラの母に脅された)ルチアーノは、そこでアドリアンの悪癖をも報告したのだ。

国王は公の場に姿を偽って出席している息子のことは知っていたが、本当の色で衛兵団に紛れているとは知らなかったようで、大変に嘆かれた。それはそうだろう。

彼が出入りしていた衛兵団にも、今後一切紺色の髪の少年に関わってはいけません、とお触れが出されたのである。


行儀悪く頬杖をついたアドリアンは、テーブルの下でルチアーノの足を蹴る。横柄に椅子に背を預けたルチアーノも負けじとアドリアンの足を蹴り返す。


「ちょっと二人ともやめて」


ああもう、なにこの似た者同士。…あ、従兄弟だからか。

レイラに窘められて二人は姿勢を正す。

まだむっとした顔のままアドリアンが言った。


「それで、ハンナ嬢は?」

「まだよ。今日も来ないかもしれないわね」


レイラたちはハンナを探していた。

けれどあのカフェテリアでの一件以来、ハンナは学園に来ていない。あのとき責め立てられたのはこちらだったのに、なぜ?とレイラは首を傾げる。


「あの後なにかあったの?」

「うーん、それは」

「ここでその話はやめよう」


言い淀むアドリアンをルチアーノが遮った。

苦い横顔のルチアーノは人前でハンナの話題を出したくないようだった。
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