転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
2 / 31

2

しおりを挟む
―――時は少し遡り。


「これは…?」

黒い商人はレイラパピヨンの資料を手に眉を寄せ。


「んんー?」

モンタールド侯爵は地方領の報告書に目を通しながら顔を顰め。


「陛下、これを…」

王宮ではサルヴァティーニ宰相がある書状を片手に唸り。


「…なんかきな臭いな」

そして、衛兵団の制服を着た紺色の髪のアドリアンが呟いた。



***
結局、授業がはじまるまでにハンナは現れず、レイラたちはこみ入った話ができるところを探して学園を散策していた。

授業さぼっちゃってごめんなさい、お父様。


「それでどうしてついてくるんですか、殿下」

「つれないな。何度も手を取りあった仲じゃないか」

「ええ、ダンスの授業でね?」


アドリアンの軽口にルチアーノがイライラしているのがわかって、レイラは彼の手をそっと繋いだ。

「レ……っ!」

途端にルチアーノの頬が桜色に染まる。

レイラは平然を装いながら内心恥ずかしくて悶えていた。…ああもう、そんなすぐ顔に出さないでよ。こっちが照れるじゃない!


ルチアーノの手をぎゅうぎゅう握りしめながら歩くレイラの後ろ姿をアドリアンがじっと見つめる。


「レイラ」

「なんですか、殿下」

「本当のところ、ルチアーノがあのままだったら、オレに乗り換えてもいいかなって思ってただろ?」

「っ!!?」

「うわっ!」


アドリアンの爆弾発言にレイラは勢いよくつんのめった。きれいな芝生にヒールの穴が開いて、ルチアーノがつられて声を上げる。


「~~っはあ!?」

「あ、やっぱり当たり?」

「そんなわけないじゃない!!例えそうだとしても夜色の殿下が本当の姿だって知った以上、こっちから願い下げよ!」

「もう、当たり強いなあ」


ぶう、と口を尖らせるアドリアンのなんと腹立たしいことか。

レイラはぎろりと殿下を睨んで――そして、うりゅと眉を下げて落ち込むルチアーノに気づいてしまった。


「あ、あの、ルチアーノ様?あれは殿下の冗談ですからね?」

「でも、その可能性もあったってことだよね…」


ルチアーノは儚げに視線を落とす。

ひゅうと吹き抜ける風が彼の天鵞絨色の前髪をさらと揺らして、物憂げさが増す。…なんだこの無駄にアンニュイな演出。心なしかきらきらしている。

ていうか、身から出た錆なのに打たれ弱すぎるでしょ。


「あ、ガゼボあった。はやくおいでよ!」


アドリアンは正面に美しい四阿を見つけるなりさっさと行ってしまう。なんだあいつ自由か。

レイラは仕方なくルチアーノの手を引いて王子を追いかけて。


「ルチアーノとうまくいってるなら、それでいっか」


―――アドリアンの小さな呟きは、誰にも届かず、風にとけて消えた。


「ハンナのことだけれど」


四阿のベンチに腰を下ろしてルチアーノが切り出す。


「ハンナはたぶんなにも知らなかったんだと思う」

「…そうね。わたくしもそう思うわ」


頷きながら、でもレイラは視線がきつくなる。

ハンナのことは友人として信じている。
けれどレイラの婚約者であるルチアーノがハンナを庇うのは違うのだ。


「レイラ、なんか怒ってる…?」

「べつに」


ルチアーノはレイラを怒らせることが怖い。
途端にしゅんと尻尾を丸めてしまうので、レイラはますます眉を吊り上げた。


「まあまあ。オレが訊いたんだよ、あのとき。ハンナはレイラを責めていたけど、そんなに自分の侍女を信頼してるのか?ってね」

「まあ!」

アドリアンの言葉に、王子様も酷なことを訊くわね、とレイラは口を押さえる。

「ハンナは答えられなくて、それだけでブノワトとの関係も推し量れるよね」

「だったらハンナはあのときどうしてあんなに…?」


ハンナは友人たちを振り切ってまでカフェテリアに飛び込んできたのだ。あの勢いはどこからきたというのか。

レイラはアドリアンの紺色の髪をぼんやりと眺めて、その脳裏に乙女ゲームのあの画が浮かぶ。


―――空色の髪の王子様…。

ゲームでもそうだったわ。でもどうして夜色の王子様になっているのかしら。やっぱりゲームとリンクしているなんて現実的ではないわよね。

ああでも、水色の髪の王子様の横にだけネイビーのシルエットがあったわ。そういうデザインだと思ってたけど違ったのかしら。――あ。


「それは」

「ねえ、ハンナには姉がいたりする?」


レイラはルチアーノの言葉を遮って言った。


「え?」

「ほら、よくあるじゃない。ヒロインは養女とか妾腹の子で、実姉にいじめられているとか」

ヒロインが実姉や継姉にいじめられてしまう話は古今東西よくあるものだ。

「え、よくあるのか…?」

「はは、それはないよ。クロフォード家の子供はハンナだけだから」

「そうなのね」


読みが外れたわね、と肩を竦めたレイラに、アドリアンがにやりと笑う。


「でも当たらずとも遠からずかもね。クロフォード卿はブノワトを養女に迎えようとしていたみたいだよ」

「えっ!?」

「そうだよね?ルチアーノ」


アドリアンに振られたルチアーノが「そう」とこっくり首を縦に振る。


「ブノワトのことを調べていてわかったんだ」


ルチアーノはそしてじっとレイラを見る。


「レイラはぼくとの婚約解消を望んでいたようだったけど、ぼくは絶対嫌だったから…。レイラの信用を取り戻すためには、とにかくあの噂を流した大元を突き止めないと、と思って。ブノワトは当事者だし、一番あやしいだろ?」

「ルチアーノ様……!」


レイラは目をキラキラさせてルチアーノを見た。


「ルチアーノ。レイラの根も葉もない噂は以前からあったはずだぜ?どうして今回だけ調べようと思ったんだ?婚約解消がかかっていたからか?」

「ちがっ…!」


アドリアンの厳しい言葉に、ルチアーノは慌てて否定した。そして少し視線を落として。


「だって、ロイドさんが愛人とか、アドリアンに乗り換えようとしてるとか、調べて全部本当だったら立ち直れないだろ…?」

「……このヘタレめ」


アドリアンは額に手を置いて仰ぐ。
レイラのキラキラした目もすぐに光を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...