転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
4 / 31

4 デート

しおりを挟む
庭師や料理長、その他たくさんの使用人に混ざって、レイラもラズベリーの実を摘む。摘む。摘む…。


「あー!!どれだけやっても終わらないじゃない!人力でやるのが間違ってるのよ!」


侯爵令嬢はあっという間に音を上げた。


「お嬢様がやりたいって言い出したんじゃないですか、もう飽きたんですか?」

庭師が朗らかな笑顔で言う。


「お嬢様にはラズベリーを使った新しいお菓子を考えてもらう方が有意義かな。さて、オレもそろそろ…」

よっこいせ、と腰を上げる料理長。


「いいえそれには及びません、シェフ。今年もベリーとショコラの素晴らしい組み合わせをご提案しますよ」

料理長を押し留めて、自分が抜けようとするショコラティエ。


「あーオレもそろそろお迎えの時間かなー」

ちらちらと時計を気にする馬丁に。


「お迎え差し上げるお嬢様は本日後ろにいらっしゃいますけど」

手際よく実を摘みながら、鋭い視線を投げるノアに。


「……あっ」

夢中でラズベリーを摘むトマと。


「トマ様また潰したんですか?シャツに汁つけないでくださいよ」

「落ちないんですからねー」

そんなトマを叱る使用人たち。


「見てマリー、たくさん取れた!」

ロイドは山盛りの籠をマリーに見せ。


「ロイド様の摘んだ実はきれいですね…!」

同じく山盛りの籠を抱えて喜ぶ侍女マリー。


毎年恒例ラズベリー摘みの光景である。
モンタールド邸は今日も平和だ。


「あ、今日ルチアーノ様がレイラのこと誘いに来るって言ってたぜ」


白いシャツをラズベリーでまだらに汚したトマの言葉に、青い花茶を堪能していたレイラは絶叫した。


「え、ええ―――っ!?」

準備してないんですけど!?


訂正。モンタールド邸は今日も賑やかだ。



***
「お待たせいたしました」

「いや。摘ませてもらっていたから大丈夫だよ」


支度を終えたレイラがルチアーノに声をかけると、彼はラズベリーで山になった籠を手に満足そうに笑った。

ただそれは他のものに比べるとずいぶん小さい。侯爵家の使用人の気遣いだった。


「ラズベリーずいぶん大きくなったね、増えたし」

「ええ、ええ本当に」

「はじめはひとつの鉢だったのに」


ルチアーノはそして「大切に育ててくれてありがとう」と微笑んだ。

あまりにきれいなその笑みにレイラはカッと顔が熱くなる。


「いいえそんな。庭師の腕がいいんですよ。わたくしは水をあげていただけですし」

「水やりが日課なんだって聞いたよ」


ルチアーノはますます嬉しそうに笑う。
いたたまれずにレイラが目をそらすと、すっと手を差し出された。


「さあ行こう。馬車が待ってる」


公爵家の馬車に乗り込むと、オールドローズの刺繍が全面にあしらわれた見事なクッションが置かれていた。

「まあ素敵!」

「レイラが好きそうだと思って。気に入った?」

ルチアーノの言葉に頷いて答える。


公爵家の馬車は細かいところまで見事な装飾が施されていた。

馬車は各家の好みがダイレクトに現れる。
モンタールド家は白を貴重とした質感にこだわった馬車だし、デル・テスタ家は逆に黒をメインとしたクールなデザインだ。


「今日はどちらへ?」

「運河に行ってみようと思って」

「まあ運河ですか。…なんです?」


レイラが膝の上にクッションを乗せて訊ねると、向かいに座ったルチアーノがにこにこと答える。あまりに上機嫌なのでレイラは首を捻った。


「ぼくの婚約者が今日もとてもきれいだから」

「!」


ルチアーノの直截な一言に、レイラは言葉を失った。なにか言おうとして結局なにも言えずもごもごと口を噤む。


―――服、かしら。服のことよね…?

今日の装いは、刺繍が入った青いワンピースとコサージュのついたシルバーのパンプス。
どちらもレイラのクローゼットで眠るパピヨンの一点ものだ。


レイラは意味もなくクッションを弄んで、ルチアーノはやはりその様子を嬉しそうに眺めていた。


「わたくし運河は行ったことがないんですの」

「そんなに遠くないから、すぐにつくよ」


運河はこの国の要のひとつである港湾と繋がっており、一帯が水の都として栄えている。

水の都は王都からも程近く、身分関係なくデートスポットとしても人気だ。


「行ったことがあるなら誰と行ったのか問い詰めてしまっていたな」

「まあ!そういう意味じゃないです」


外務大臣であるモンタールド侯爵も諸国外遊のための大きな船を所有していて、運河で管理していた。
トマは何度か視察に同行していたが、レイラは行ったことがなかった。そういうことを言いたかったのに。


「ほら、もうついたよ」


水路の近くで馬車が停まった。

「お手をどうぞ」とルチアーノが肘を曲げて、レイラはするりと白い手を絡める。

「わあ…!」

馬車を降りるとすこし潮の香りがした。

運河にかかる橋も建物もすべて石造りで、もちろん足元も石畳だ。


「すごいわ、素敵!」

「河沿いにすこし歩こうか」


入り組んだ街並みは道も細く、馬車はここまでのようだ。数名の護衛だけを連れてルチアーノは歩き出す。

水路には人や荷物を乗せたゴンドラが行き交い、バルのテラスでは明るいうちから客が酒を楽しんでいる。

歩道は水面とほぼ同じ高さで、子供たちが賑やかに水遊びをしていた。


「わたくしもゴンドラに乗りたい!」

「あとで乗りに行こうか」

「バル賑わってるわね」

「あの店のイチオシはターキーだよ。やみつきになる」

「水路とこんなに近くて危なくないかしら?」

「大丈夫だよ」

「雨とかで水かさが増したら、この道なくなっちゃうの?」

「そう。それも見ものだよ」


「…ルチアーノ様」


レイラの疑問をひとつひとつ答えるルチアーノに疑念が湧く。どうしてこんなに詳しいのかしら。もしかしてルチアーノ様こそ…?


「どうしてそんなに詳しいんですの?まさか……?」

「はは。まさか。ほらあれ見て」


疑惑の眼差しを向けるレイラに笑って、ルチアーノは風に揺れるタペストリーを指差す。

そこには公爵家の紋章が。


「水の都は公爵家の領地なんだ」

「まあ…!」


驚いたレイラは「疑ってごめんなさい」と謝る。


「子供の頃から身近だったから、よく知ってるんだ。それだけだよ」

「よく来ていたんですの?殿下と?」

「そうだね」

「…トマやマルセル様も?」

「…そうだね」


レイラはぷうと頬を膨らませた。
わたくしも連れてきてほしかったわ――そう思って、自分も同じだと思い至る。

ルチアーノもレイラのゆめかわお茶会に呼ばれていなかったことに肩を落としていた。


「レイラ?」


レイラはルチアーノの肘に絡めた手にもう一方の手を添えて、ことんと肩に頭を寄せる。


「これからはわたくしも連れてきてくださいね。いつでも」

「そうだね。いつでも」


ラズベリー色の髪の少女と、天鵞絨色の髪の少年。麗しい二人の姿は水の都においてもよく目立った。仲睦まじい様子がなおさら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

処理中です...