甘い宝石と愛の雨

しおだだ

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「きれいだけど、ミリー、普段から血を石に変えているの?」

「そんなことしないわ!いつもは涙だもの!」

「涙も石に変わるんだ」

「そうなの。でもできるときとできないときがあるの。どうしてかしら」

「じゃあちょっと練習した方がいいのかもね。このことは私の他に誰か知ってる?」

「ううん、知らない。あ、でも、わたしの侍女は、涙の宝石を集めたケースを知ってるわ」

「それはもうこれ以上増やさないように。ミリーの涙や血が宝石に変わることは二人だけの秘密だよ」

「わかった、秘密ね。でもその赤い石はルーファス様にあげる!」


うれしそうな笑顔で言われて、「そう?」とルーファスは首を傾げた。そしてそのまま赤い粒をぱくんと口に入れる。


「ん、なんか甘い」

「まあルーファス様、食べてしまったの!?」


ミリーはとても驚いて、それからきゃあきゃあと腹を抱えて笑った。


―――神は時折、不思議な力を人に与える。それはギフトと呼ばれた。

全員がギフトを得るわけではなく、しかし滅多にいないというほど稀少なものでもない。ギフトの内容も生活にまったく影響のないものから、人生を丸ごと変えてしまうものまで様々だった。
しかし、ミリーのギフトは後者だろう。

ルーファス自身も『慈雨』というギフト持ちである。

前例がなくその意味は誰もよくわからなかったが、『慈悲』や『慈愛』に絡めて、ルーファスは優しい人物なのだろうと評された。間違ってはいない。


ギフトの有無は10歳の誕生日に神殿で調べられる。
貴族の子となればそれは盛大なイベントだ。

それまでにとルーファスはミリーとの婚約を願い出たが、侯爵も大公も『まだ早い』と一笑に付した。

案の定、10歳になって発覚したミリーのギフトは神殿を震撼させ、他言無用のはずが王家が動き出した。大公は以前からルーファスがミリーを求めていたことを知っているため苦渋を浮かべたが、いらぬ火種を生みかねないと兄王に直言すらできない。


その頃すでにルーファスは酷薄な面を有していた。


侯爵はルーファスに睨まれ『まだお互い幼いから』と婚約の返事を保留にし、その間にルーファスは王家にも負けない高位貴族にミリーのギフトの噂を流した。
嫡男以下の子供がいる貴族は目の色を変えた。複数の家が手を上げて、最後に残ったのが歳の近い令息を持つ公爵家と辺境伯家だ。

お互い牽制し合う一方、その子供たちはミリーにいい感情を抱いていなかった。当然だ。ルーファスが甘やかし続けたおかげで、ミリーにはあまりいい話がない。

そして背景を知らない者からは、そんなミリーの傍で長年甘い笑みを浮かべ続けるルーファスこそ婚約者だと思われている。


もちろん本命はルーファスなのだからそれでいい。


いつもミリーの隣にいるルーファスは、彼女の思う理想の結婚生活を大小関わらずすべて聞き集めた。
そのための準備もひとつずつ進めてきた。


―――ルーファスのギフトは『慈雨』。


恵みの雨は、必要なところへ必要な分しか注がれない。彼の愛はただミリーだけに向けられる。
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