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顔合わせの日から二日後、事前の知らせもなく、突然ルチアーノがモンタールド邸を訪れた。
「まあルチアーノ様!どうされたのですか?」
その日のレイラは、布をたっぷりと使った生成色のAラインワンピースを着ており、玄関ホールで待つルチアーノの側までスカートの裾をふわふわと広げながら駆け寄った。
「っ、…っ!」
レイラを前にするなり、ルチアーノは顔を赤くして固まってしまい、あらかわいい、と心の中で呟く。
それにしてもどこかおかしかったかしら?
同じ生成色のリボンで高く結い上げた髪や、ワンピースの裾を手で確かめる。
もう一度見やったルチアーノはやはり顔が赤くて、そして、レイラの方が少しばかり目線が高かった。この間は気づかなかったことだ。
「お嬢様、どうぞ」
追いかけてきたマリーが同系色のショールをかけてくれて、少し納得する。袖のないタイプだったので肩が出ていたのだ。ルチアーノもどこかほっとしていた。
「ありがとうマリー」
「いいえ。お茶の用意をいたしますのでこちらにどうぞ」
子供同士だからか、応接間ではなく、中庭が望めるサンルームに誘導された。
マリーや他のメイドたちが茶の用意をしている間も、ルチアーノは貝のように口をつぐんでいた。
「今日はどうされたんですか?やはりわたくしたちの縁談は…?」
「ちがう!」
急に大きな声を出されて、目を丸くする。
「あ…、その、すまない。先日も…」
もごもごと言葉をつまらせたルチアーノは、意を決したように背を伸ばした。
「せっかく屋敷まで来ていただいたのに、失礼な態度ばかり取ってしまって、申し訳なかった。これはそのお詫び…です…」
一抱えほどある包みがレイラの前に取り出される。
「これは、鉢植え…?」
リボンを解いて包み紙を開くと、小振りの鉢になにか植物が植えられている。
「ラズベリーの木だ。育てると実がなる、と思う」
「楽しみですわね」
「あの、受け取ってくれるだろうか…?」
サルヴァティーニ公爵に多分に言い含められたのだろうけれど、レイラの反応をじりじりと待つ様子に彼もきちんと悔いていることが窺える。
「もちろんですわ」
大きく頷くと、あからさまにほっとした表情を浮かべた。
「ぼくたちの話だけれど、」
「ルチアーノ様がよろしければ、わたくしはこのまま婚約者としてお付き合いいただきたいと思っていますの」
「い、いいのか?」
いいもなにも、認めないと先に啖呵を切ったのはルチアーノの方だ。
ルチアーノが構わないのならレイラとしては断る理由は微塵もないし、彼が一人で侯爵家を訪れているということは、サルヴァティーニ公爵もやはりこの婚約を取り消す意がないのだろう。
こっくりと縦に首を振るレイラを見て、ルチアーノは「よかった」と表情を緩める。
冷たく突き放すような顔か、緊張に強張った顔しか目にしていなかったレイラにはその笑顔は衝撃だった。
長いまつげを伏せ、白い頬をバラ色に染めて、ルチアーノの背後にキラキラと花が散る。
「…………」
そこいらの女の子、例えば目の前のラズベリー色の髪の令嬢などより、よっぽど可憐な笑顔だった。もはや言葉が出ない。
この胸の高鳴りはときめきなんかじゃない、恐慌による混乱のそれだ。
レイラは乱れた心を落ち着けるためにティーカップに口をつける。ああ、おいしい。
「あの、レイラ嬢、」
「なんでしょう?」
呼び掛けられて視線を上げると――ルチアーノは顔を青くしてぷるぷると震えていた。
え、なぜ。この一瞬で何があった。
レイラは混乱する。それでもなんとか笑顔を取り繕ってルチアーノを促す。
「あの」
ルチアーノはぽっと頬をピンクに染める。
「はい」
レイラは笑顔を浮かべる。
「えっと、その……」
ルチアーノはずぅんっと顔に陰を落とす。
「ええ」
レイラは笑顔を…。
「レイラ嬢、それで、あの、」
ルチアーノは耳まで真っ赤になる。
「はい」
レイラは……。
この美少年は思っていたより感情豊かなようだ。そして貴族としては少々心配になるくらい、素直に感情が顔に出る。誰だ、クールイケメンなんて言ったやつ。
一方、レイラ・モンタールドは本来気が短い。
なんだどうした、催したのか、トイレは向こうだ。と茶に口をつけてもいない相手に捲し立てそうになる。
「あああ、あのっ!」
「はいぃっ!?」
勢いづいた二人は思わずテーブルに手をついて立ち上がった。侍女のマリーが緊張にごくりと喉をならす。
「~~~っ、トマ!!」
最高潮に顔を赤くしたルチアーノは、何を血迷ったか、サンルームの外に空気も読まずふらふらと現れたトマの名を呼んだ。
「お前、トマだろう?レイラ嬢の弟の!」
「うえええっ!?」
ルチアーノは中庭に繋がる扉を開けるやトマを追いかけはじめ、いきなり知らない男の子に追いかけられたトマは情けない声をあげて逃げ出した。…すぐに捕まったけれど。
「…深緑色のネコがオレンジのネズミを捕まえたわ」
「さすがお嬢様。的確な表現です。」
唖然とするレイラの頭に、懐かしいネコとネズミの有名なアニメが思い浮かぶ。マリーにはわからないはずなのに、すぐに同意してくれて、いつも通りでひどく安心した。
―――それにしても結局なんだったわけ?トマのことが聞きたかったの?あんなにもったいぶって?
レイラは首を捻りながら、お茶うけのクッキーを自棄食いする。なにこれサックサクでおいしすぎる。
「レイラ!!」
弾かれたように振り返った先で、トマに絡むルチアーノが眩しい笑顔を浮かべている。
「あのラズベリーの木、ちゃんと育てろよ!たまに見に来るからな!」
「えっ?ちょ、ええ…っ!?」
なにそれどういうこと?
ていうか、いま呼び捨てだったわよね!?
それからルチアーノは定期的にモンタールド邸を訪れるようになる。主にトマを遊び相手として。……一体なにしに来ているのかしら。
「まあルチアーノ様!どうされたのですか?」
その日のレイラは、布をたっぷりと使った生成色のAラインワンピースを着ており、玄関ホールで待つルチアーノの側までスカートの裾をふわふわと広げながら駆け寄った。
「っ、…っ!」
レイラを前にするなり、ルチアーノは顔を赤くして固まってしまい、あらかわいい、と心の中で呟く。
それにしてもどこかおかしかったかしら?
同じ生成色のリボンで高く結い上げた髪や、ワンピースの裾を手で確かめる。
もう一度見やったルチアーノはやはり顔が赤くて、そして、レイラの方が少しばかり目線が高かった。この間は気づかなかったことだ。
「お嬢様、どうぞ」
追いかけてきたマリーが同系色のショールをかけてくれて、少し納得する。袖のないタイプだったので肩が出ていたのだ。ルチアーノもどこかほっとしていた。
「ありがとうマリー」
「いいえ。お茶の用意をいたしますのでこちらにどうぞ」
子供同士だからか、応接間ではなく、中庭が望めるサンルームに誘導された。
マリーや他のメイドたちが茶の用意をしている間も、ルチアーノは貝のように口をつぐんでいた。
「今日はどうされたんですか?やはりわたくしたちの縁談は…?」
「ちがう!」
急に大きな声を出されて、目を丸くする。
「あ…、その、すまない。先日も…」
もごもごと言葉をつまらせたルチアーノは、意を決したように背を伸ばした。
「せっかく屋敷まで来ていただいたのに、失礼な態度ばかり取ってしまって、申し訳なかった。これはそのお詫び…です…」
一抱えほどある包みがレイラの前に取り出される。
「これは、鉢植え…?」
リボンを解いて包み紙を開くと、小振りの鉢になにか植物が植えられている。
「ラズベリーの木だ。育てると実がなる、と思う」
「楽しみですわね」
「あの、受け取ってくれるだろうか…?」
サルヴァティーニ公爵に多分に言い含められたのだろうけれど、レイラの反応をじりじりと待つ様子に彼もきちんと悔いていることが窺える。
「もちろんですわ」
大きく頷くと、あからさまにほっとした表情を浮かべた。
「ぼくたちの話だけれど、」
「ルチアーノ様がよろしければ、わたくしはこのまま婚約者としてお付き合いいただきたいと思っていますの」
「い、いいのか?」
いいもなにも、認めないと先に啖呵を切ったのはルチアーノの方だ。
ルチアーノが構わないのならレイラとしては断る理由は微塵もないし、彼が一人で侯爵家を訪れているということは、サルヴァティーニ公爵もやはりこの婚約を取り消す意がないのだろう。
こっくりと縦に首を振るレイラを見て、ルチアーノは「よかった」と表情を緩める。
冷たく突き放すような顔か、緊張に強張った顔しか目にしていなかったレイラにはその笑顔は衝撃だった。
長いまつげを伏せ、白い頬をバラ色に染めて、ルチアーノの背後にキラキラと花が散る。
「…………」
そこいらの女の子、例えば目の前のラズベリー色の髪の令嬢などより、よっぽど可憐な笑顔だった。もはや言葉が出ない。
この胸の高鳴りはときめきなんかじゃない、恐慌による混乱のそれだ。
レイラは乱れた心を落ち着けるためにティーカップに口をつける。ああ、おいしい。
「あの、レイラ嬢、」
「なんでしょう?」
呼び掛けられて視線を上げると――ルチアーノは顔を青くしてぷるぷると震えていた。
え、なぜ。この一瞬で何があった。
レイラは混乱する。それでもなんとか笑顔を取り繕ってルチアーノを促す。
「あの」
ルチアーノはぽっと頬をピンクに染める。
「はい」
レイラは笑顔を浮かべる。
「えっと、その……」
ルチアーノはずぅんっと顔に陰を落とす。
「ええ」
レイラは笑顔を…。
「レイラ嬢、それで、あの、」
ルチアーノは耳まで真っ赤になる。
「はい」
レイラは……。
この美少年は思っていたより感情豊かなようだ。そして貴族としては少々心配になるくらい、素直に感情が顔に出る。誰だ、クールイケメンなんて言ったやつ。
一方、レイラ・モンタールドは本来気が短い。
なんだどうした、催したのか、トイレは向こうだ。と茶に口をつけてもいない相手に捲し立てそうになる。
「あああ、あのっ!」
「はいぃっ!?」
勢いづいた二人は思わずテーブルに手をついて立ち上がった。侍女のマリーが緊張にごくりと喉をならす。
「~~~っ、トマ!!」
最高潮に顔を赤くしたルチアーノは、何を血迷ったか、サンルームの外に空気も読まずふらふらと現れたトマの名を呼んだ。
「お前、トマだろう?レイラ嬢の弟の!」
「うえええっ!?」
ルチアーノは中庭に繋がる扉を開けるやトマを追いかけはじめ、いきなり知らない男の子に追いかけられたトマは情けない声をあげて逃げ出した。…すぐに捕まったけれど。
「…深緑色のネコがオレンジのネズミを捕まえたわ」
「さすがお嬢様。的確な表現です。」
唖然とするレイラの頭に、懐かしいネコとネズミの有名なアニメが思い浮かぶ。マリーにはわからないはずなのに、すぐに同意してくれて、いつも通りでひどく安心した。
―――それにしても結局なんだったわけ?トマのことが聞きたかったの?あんなにもったいぶって?
レイラは首を捻りながら、お茶うけのクッキーを自棄食いする。なにこれサックサクでおいしすぎる。
「レイラ!!」
弾かれたように振り返った先で、トマに絡むルチアーノが眩しい笑顔を浮かべている。
「あのラズベリーの木、ちゃんと育てろよ!たまに見に来るからな!」
「えっ?ちょ、ええ…っ!?」
なにそれどういうこと?
ていうか、いま呼び捨てだったわよね!?
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