転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
8 / 59
◇◇◇

8 変化

しおりを挟む
「お嬢様、いつも申し上げていますが、これは御令嬢にお出しするようなものではないんですよ」

「いいじゃない。わたくし好きよ、料理長お手製のフルーツティー」


ピッチャーに並々と注がれた紅茶に、色とりどりのフルーツが浸かっている。

果物の香りを引き立たせるため安い茶葉を使っているらしく、それにもともと使用人たちのために作り置いているものであって、料理長はいつもいい顔をしない。

だがレイラは、おいしいものを独占するなんてずるいと思っている。頻繁にレイラがおねだりするので、フルーツもいいものを使っていると知っている。


「ね?おねがい」


上目使いで両手を合わせると、料理長はやれやれと溜め息をついた。


「敵わないな。小さな頃からお嬢様のお願いに勝てた試しがないよ」


そして、はじめから用意していたのであろう、オレンジの飾り切りが添えられたグラスを手渡してくれる。


「わーい、ありがとう!」


料理長のフルーツティーを楽しんでいると、侍女のマリーが現れた。


「お嬢様、こちらでしたか。家庭教師の先生がいらしていますよ」

「え、もう?」

「お勉強の後にロイド様がご来訪予定です。時間通りにお願いしますね」

「ええ。わかってるわ、マリー」


『私』の記憶を思い出して数年。
この年、レイラ・モンタールドは11歳になる。


読み書き計算の他に、国史や令嬢としての嗜みなど、学ぶことが一気に増えた。一日の半分以上を家庭教師たちと過ごしている。

残ったわずかな時間で、ロイドやマリー、トマとゆめかわお茶会をするのがもっぱらの楽しみだ。


レイラのゆめかわいい探求は、本人も預かり知らぬところで意外な恩恵をもたらしていた。


以前にモンタールド侯爵夫人が夜会でビジューをあしらったドレスを披露すれば、国中の貴族がこぞって真似をした。
同時期に、侯爵が隣国の商人を介してガラス職人に発注したビーズという微細なガラス細工は、いまでは庶民にも裾野を広げて大流行している。

それはモンタールド領に専用の倉庫を作るほどの盛況ぶりで、ビーズを用いたアクセサリーやドレス、服飾品は国内消費だけでなく、国外へも輸出されはじめた。国の経済は活性化され、モンタールド外務大臣の発言力はいっそう強くなった。


ちなみにこの材料を輸入して製品を輸出するという方法を提案したのもレイラだ。
本人はそこまで深く考えていなかっただろうが、「大変なら素材だけ外注したら?それで出来たものをまた売ればいいじゃない」と言った娘の慧眼に侯爵は脱帽した。


そのおかげか、侯爵はいっそう娘に甘くなり、レイラは遠慮なくゆめかわいいを追い求め続けている。


「レイラ」


マリーに導かれ家庭教師の待つ自室へ向かう途中で、弟のトマに声をかけられた。

近くにはレイラの婚約者であるルチアーノの姿もある。


「これからルチアーノ様と遠駆けに行くんだ。よかったらレイラもどう?」


成長した彼らは馬術や剣術に勤しむようになった。それでもルチアーノがトマを誘うのは変わらない。


「ごめんなさい、お勉強の時間なの。それに後からロイドが来るわ」

「そっか。無理しないで。レイラも今度私たちと一緒に馬に乗ろう」


穏やかに目を細めてルチアーノが言う。

少し前まで利かん坊だった彼も、すっかり紳士然りとしてきている。
それはまるで以前のロイドのようで、はじめてルチアーノが自分のことを私と言った日にはレイラは熱が出るかと思った。


「楽しみにしていますわ、ルチアーノ様」


淑女の微笑みで見送るレイラに、紳士的に手を上げて離れるルチアーノ。
そんな二人にトマはどこか不満そうな視線を投げる。レイラは時々向けられるその表情の意味がいつもわからなかった。


変わったことは他にもある。
むしろこれが一番大きな変化かもしれない――。


「はあい、お嬢様。またかわいいものができたわよ!」


その日の授業が終わった後、予定通りロイドが大きな包みを持って訪れる。

この数年で彼の口調はすっかり様変わりしてしまった。オネエ方向に。

レイラが変な趣向のお茶会に付き合わせるから彼までおかしくなった、とトマに言われたことがある。やっぱりわたくしのせいかしら?とレイラは少し良心が痛んだ…りはしない。


芸術家筋のデル・テスタ家では、過去にもっと大きな奇癖を抱えた者が数多いたようで、ロイドの女性ような喋り方などかわいいものだと受け止められている。……ロイドとはじめて出会う貴族たちはそうもいかないだろうが。


「ほら、新作のテディベアよ」

「わあかわいい!」


ロイドはラッピングを解くと、両手で抱えるほどの大きなテディベアのぬいぐるみを取り出す。淡い黄色のチェック柄でいかにもレイラ好みだ。光沢のある緑のリボンが首に巻かれている。
そしてそれより二回りほど小さい同柄の赤っぽいテディベアをマリーに差し出した。同じく光沢のある青いリボンが巻かれている。

「はい、こっちはマリーに」

「私もですか?ありがとうございます」

マリーは「お嬢様とお揃いですね」とにっこり笑う。


「学校の課題で作ったの。お題は自由だったから、二人が喜びそうなものにしたわ」


ロイドはこの春から王立の服飾学校へ通っている。
この国では、いや近隣諸国も含めて、貴族も平民も15になる年から3年間通学するのが習わしとなっている。大抵の貴族たちは中央にある学園に通うが、専門に特化した学校もいくつかある。
ロイドは美術学校と服飾学校を天秤にかけ、悩んだ結果、服飾学校へと進学した。

貴族ばかりの中央学園や伝統を重んじる美術学校より、個性が活かせる服飾学校はロイドに合っていると思う。なにより彼自身とても楽しそうだ。


「はやく一人前になりたいわね。そしてお嬢様のドレスを仕立てるのよ」

「あら、いまでもロイドはいろいろ作ってくれているじゃない」


ロイドの手はなんでも作れる魔法の手だ。

これまでもレイラの求めに応じて、テディベアなどぬいぐるみだけでなく、帽子やアクセサリー、普段着るようなワンピースまで仕上げてくれた。

ロイドが一度形にしてくれるから、職人たちもレイラの斬新なアイディアを取り込みやすいらしく、『私』の回りにあったものがいくつか再現できている。それはもちろんレイラ・モンタールド特注品として。


「それとこれとは別よ、お嬢様。社交界用のドレスを仕立てることは職人の夢だわ」

「ロイドはドレス職人になりたいの?」

「そうと決めたわけじゃないけど…」

ロイドは丁寧な手つきでカップに口をつける。

「なるほど」

レイラは頷いた。


「わかったわ。今年のわたくしのお誕生会パーティーのドレスを一緒に仕立てましょう」

「え、ほんとに?いいの?」

「もちろんよ。ロイドとならきっと素敵なドレスが出来上がるわ」


そうよね?とマリーを見上げると、彼女もうれしそうに笑って同意した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ
恋愛
ーーーグランロッド国に召喚されてしまった|心音《ことね》と|友愛《ゆあ》。 イケメン王子カイザーに見初められた友愛は王宮で贅沢三昧。 一方心音は、一人寂しく部屋に閉じ込められる!? 天と地ほどの差の扱い。無下にされ笑われ蔑まれた心音はなんと精霊王シェイドの加護を受けていると判明。 だがしかし。カイザーは美しく可憐な友愛こそが本物の聖女だと言い張る。 心音は聖女の座に興味はなくシェイドの力をフル活用して、異世界で始まるのはぐうたら生活。 ぽっちゃり女子×イケメン多数 悪女×クズ男 物語が今……始まる

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...