転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
26 / 59
◇◇◇

26 顛末

しおりを挟む
ブノワトはしばらく部屋で謹慎となり、その間に今回の件は、彼女の実家である伯爵家と王宮に伝えられた。


今回のブノワトの行動は彼女の独断の元で行われたことで、雇用主かつ上位貴族であるモンタールド侯爵家への反意を示している。
さらにそれがサルバティーニ公爵家まで波及したことが問題視された。

学校内でのブノワトの言動やモンタールド侯爵家での働きぶりから省みて、ブノワトの不審な動きは明白だった。


その目的は、主にレイラのブランドの利権やモンタールド邸の財産を狙っていたと考えられる。
その上で、対立したレイラの侍女マリーに危害を加えたこと。なおかつ、サルヴァティーニ公爵家の子息であるルチアーノやデル・テスタ家のロイドを巻き込んでいることを踏まえれば、賠償は相応のものとされる――。


一部脚色が含まれるが、これを事実として、王宮はブノワト本人ではなく伯爵家へ贖罪を求めた。

地方伯爵に信用がなかったこと。宰相であるサルヴァティーニ公爵が同意もしなければ反論もしなかったこと。
そしてなにより『微笑みの悪魔』と呼ばれるモンタールド外務大臣を動かすほど愚かなことをしたのだと受け止められ、伯爵家側の異議は受け付けられなかった。

はたして侯爵の目論見通り、伯爵は位を剥奪され、領地はモンタールド侯爵領となった。
もとより王宮も手を焼くほどの財政難だった伯爵領は、どこかで別の手を使って立て直しをはからないといけないと誰もが思っていたようだ。

悪魔とはいえ有能なモンタールド侯爵の領地となることに、反対の声はどこからも、それこそ領内からすら上がらなかったとか。


「もうちょっと野心的に動いてくれてもよかったんだけどなぁ。場合によっては支援もやぶさかじゃなかったのに」

「まあ、それがレイラの悪口を吹き込んだ理由ですの?」

「いや、ふるいにかけさせてもらっただけだ。従順そうに見えて違う者は一定数いるものだしね」

「ふふ。ブノワトは聡明でしたものね」

「対して伯爵はねぇ…相当無能だったみたいだよ。民からも見捨てられていた」

「それでも領内から追い出したりはなさらないんでしょう?」

「建前でも領主は必要だろう?権利は何一つ与えないけれど」

「それで政を為せますか?」

「レイラがね、なんだかおもしろいことを言っていたんだ」

「あら、あの子が?」

「民の中からリーダーを決めるんだって。民主制っていうらしくて。小さな組織なら試す価値もあるかなと思って」

「あらあら、おもしろいことを考えますね」

「本当レイラは予想もつかないことを考えるよね」

「いえいえ、あなたがですよ」

「ええ、私が?そうかなー?」


モンタールド侯爵とその夫人はにこにこと笑顔で、ちっとも穏やかでない話をする。


「ブノワトは領に帰すよ。さて、あの子はどうするのかな」



***
ブノワトは当然、執事学校を退学することになった。醜聞は大きく広がっていたので、続けたいと思ってもいられなかっただろうが。

噂を広めたのはもちろんレイラとその友人たちだ。


「マリーに危害を加えて許すわけないわ」

「お嬢様…。ありがとうございます」

「いいのよ、マリーのためですもの」


レイラから怪我が治るまで安静を言い渡されているマリーは、ベッドの上から動けない。そのためレイラがマリーの側についていた。


がらがらとモンタールド邸の前に辻馬車が横付けされる。

地方領に向かう長旅のために用意した馬車だ。もちろん代金は到着後、ブノワトの家族に支払ってもらう。だからできるだけシンプルなものを用意した。あまり金額が張らないようにというレイラの心遣いだ。

長く乗っていたら具合が悪くなりそうだけど、そこはクッションでも敷いて我慢してほしい。


やがて大きな荷物を抱えたブノワトが現れる。


レイラはマリーの部屋の窓からその様子を見下ろしていた。


シンプルなドレスを着たブノワトは、やっぱりきれいな子だった。使用人とは思えない。ちょっとした仕草が優雅で、平民とも思えない。結局、彼女は御令嬢なのだ。

馬車に乗り込む直前、ブノワトはちらりと屋敷を見上げる。

そのオレンジ色の瞳が窓辺で見下ろすレイラを映したような気がした。


―――結局、彼女は何をしたかったんだろう?


得たものなんてひとつもない、失ったものの方がよっぽど大きいじゃないか。レイラは眉を寄せた。


ルチアーノ様まで巻き込んで…。


あれからルチアーノはめっきりモンタールド邸を訪れなくなった。トマとは会っているようだから、レイラを避けているのは明白。

かなりきつい言い方をしたから呆れられてしまったのかもしれない。それがブノワトの作戦なら大当たりだ。


レイラは悲しくなって、とても胸が痛んで、一番のお気に入りだったあの青い星のネックレスをアクセサリーケースの最も奥に仕舞い込んでしまった。



ルチアーノからもらったあのネックレスは、もうレイラの首元で輝くことはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ
恋愛
ーーーグランロッド国に召喚されてしまった|心音《ことね》と|友愛《ゆあ》。 イケメン王子カイザーに見初められた友愛は王宮で贅沢三昧。 一方心音は、一人寂しく部屋に閉じ込められる!? 天と地ほどの差の扱い。無下にされ笑われ蔑まれた心音はなんと精霊王シェイドの加護を受けていると判明。 だがしかし。カイザーは美しく可憐な友愛こそが本物の聖女だと言い張る。 心音は聖女の座に興味はなくシェイドの力をフル活用して、異世界で始まるのはぐうたら生活。 ぽっちゃり女子×イケメン多数 悪女×クズ男 物語が今……始まる

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

処理中です...