転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

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「宰相閣下、少しよろしいでしょうか?」

モンタールド外務大臣に声をかけられて、サルヴァティーニ宰相は是と応えて場所を変えた。


「なんだい?」


手近な部屋に入るなり、モンタールド侯爵はきょろきょろと他に人がいないか確かめて相手に食って掛かった。


「なんだい、じゃないよ閣下!レイラとルチアーノくんの婚約が偽装だという噂があるんだ」

「え、ええっ!?」

「あの子達の関係が噂話を大きくしてしまったんだね」

「えっ?」

「それどころか、ルチアーノくんは入学パーティーのときに助けた令嬢にご執心で、レイラは王子殿下と距離を縮めているとか!」


ルチアーノがパーティーでハンナを助けたことは、実はそれほど問題視されていなかった。これまでは。


「まって!まって、侯爵」

「約束が違うじゃないか、閣下。モンタールド家は王家の係累に連なる気はないよ。だから間接的に公爵家と…!」

「ルチアーノとレイラちゃんって不仲だったの!?」


「えっ?」

「…え?」


「え、いまさら?レイラは入学パーティーでもエスコートすらされてないんだけど?」

「その日は王子の護衛があるとかって…。だって、ルチアーノってば、むかしから侯爵邸に通い詰めだったんじゃ!?」

「うん、来てたよ。トマと約束があるって建前で、レイラの様子を見にね。でもそれも最近はめっきりないよ」

「え?レイラちゃんと親睦を深めてたんじゃないのか?」

「深まったのは心の溝かな、主にレイラの」

「そんなまさか……!!」


公爵はがっくりと肩を落とすと、恨めしそうにじとりと侯爵を見上げた。


「ていうか侯爵、ルチアーノを婚約者に了承したのは、レイラちゃんを王家に嫁がせたくなかったから……?」


横を向いて口笛を吹くという古典的なごまかし方をした侯爵に、公爵はこめかみを引き攣らせて詰め寄る。


「おっかしいと思ったんだよね。認めた割にはルチアーノに要求するものが大きいから」

「ちょ、公爵?閣下?…近い」

「君がやらかしたことはそれだけ大事だもんな。だけど…ったく、ルチアーノも一体なにをやってるんだか」

「だからちょっと、近…!?」


がたんっ!


大きな音がして二人は肩を跳ね上げる。

振り向いた先では、続き間から入ってきたのだろう、王宮の女官が顔を赤くして震えている。


「わっ、わたしなにも見てませんから!お邪魔しました!」

「ええ……?」


飛び出していった女官を怪訝そうに見る宰相と、嫌な顔してため息をつく外務大臣。


「明日の噂は私たちかもね」

「だからなにを……っ!?」


おっさんがおっさんを壁ドンしている状態に気づき、慌てて飛び退く宰相。

モンタールド外務大臣はやれやれと身体を起こした。


「まったく…」


こうとなったら周りが見えなくなる癖は、父子揃ってそっくりだ。



***
ロイドが学園に臨時の講師としてやって来ることが伝わると、レイラの噂もますます広がった。

レイラは男三人を手玉にとる女として、好奇の目に晒されている。

幸いにして、レイラが侯爵令嬢であり、アドリアン王子が側にいるということで、直接何かをされるということはなかったが。


「イリス…?あなたどうして……!?」


無惨に破れたパピヨンのドレスと青ざめた顔で立ち尽くすイリスの姿に、レイラは言葉を失った。


「い、いやーーっ!!」


そしてイリスの絶叫が迸る。


「うそ!?うそうそうそ、信じられない!」

「大丈夫よ、イリス。少し破けただけよ。それより…」


レイラはイリスのはち切れそうな胸を見た。いや、事実はち切れた胸だ。


「とんでもない爆乳ね」

「太って見えるのが嫌で押さえてたの。それがこんな…」

「無理な矯正は身体に悪いわ。そんなこともうやめて」

「うう…そうね…」


店の試着室で泣き崩れるイリスの肩に、大きなショールを掛けてやる。


「ドレスならまた作るわ、あなたに似合うデザインで」

「レイラありがとう、大好き…!」

「わたくしもイリスが大好きよ」


レイラはイリスを宥めて、着替えるように促した。

ドレスがきついので見てほしいと頼まれたところだった。まさか無理な矯正をしていただなんて。


さて、あの白くてふわふわのマシュマロボディをもう一度採寸しないといけないわね。


レイラはメジャーを首に掛けて、イリスが出てくるのを待つ。壁に背を預け、足を交差させて立つ彼女は、すらりとしていながらメリハリのある完璧なスタイルだ。

イリスだって決して太っている訳じゃない。
けれど時として、大きすぎる胸はコンプレックスにもなり得る。


けれど、隠そうとするから余計に嫌になるのよね…?むしろオープンにしちゃう?セクシーダイナマイトしちゃう?


レイラは頭をくるくると働かせて新しい装いを考える。

憂鬱や不安でざらざらした気持ちは、新しいお洋服で心機一転してしまえば万事解消だ。…たぶん。


「お嬢様、失礼します」

「あらマリー。どうしたの?」

「ご令嬢がお嬢様を訪ねてご来店です。ほらあの…」


言い辛そうなマリーに連れられて店先に出ると、そこで待っていたのは桃色の髪の少女だった。


「ハンナ」

「レイラ!素敵なお店ね!」


振り返ったハンナは今日もうれしそうに笑って駆け寄ってくる。


「急にごめんなさい。わたしもレイラに特別なお洋服を作ってもらいたくて」

「あら、そうなの?ありがとう。次の予約は、えっと…」

「すぐがいいの、わたしもレイラのドレスが…!」

「そう言われても注文が詰まっていてね」


このときレイラは、特段ハンナの申し出を後回しにしたつもりもなかった。ただ、他の注文と同じように扱っただけだった。


「レイラ?お客さんきたの?」

「イリス」

「……っ!」

「あらハンナ?」

店の奥から顔を覗かせたイリスを見て、さっとハンナの顔色が変わる。

「どうして…」

「ちょうどいまイリスのドレスを直しててね」

「友達だから?わたしは、レイラの友達じゃないの…?」


どきんとレイラの心臓が跳ねた。


「ハンナ、違…!ハンナ!!」


ハンナはそのまま身を翻して店を飛び出してしまった。

レイラは引き留めようと腕を伸ばして、がっくりと肩を落とす。


ちがう?本当に?


例えばそのお願いがエマやリーサだったら、レイラは「ちょっと待ってね」とせめて店の奥に案内していたんじゃないのか。

今日だってイリスが予約を入れていたわけではなくて、少し頼まれただけだ。


「レイラ、仕方がないわ。タイミングが悪かっただけよ」


イリスが先程のレイラのように肩を抱き寄せてくれる。


「イリス…でも、わたくし…」


違く、なかったかもしれない。

ハンナのためにドレスを作りたいと考えなかった。他の注文と同じように扱ってしまった。友達なのに。

レイラの心の拠り所であるゆめかわいいを見せてあげることもしなかった。…友達なのに。
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