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めずらしい青い花茶が手に入ったので、レイラはさっそくゆめかわメンバーへお披露目会をした。
トマ、ロイド、マリーに、エマ、イリス、リーサ、そしてマルセルだ。
マルセルはイリスの婚約者になると同時に、無事にゆめかわお茶会の正規メンバーに迎え入れられた。レイラの独断であり、本人も預かり知らぬことだが。
「バタフライピーっていうのよ」
「わあ、ほんとに青い!」
「ふしぎねえ」
「ゆめかわいいって意味がわかるわ」
「えっ、リーサ嬢ほんとに?」
「なによトマ様」
リーサはちらりとトマを横目で見遣る。
場所はモンタールド侯爵邸のサンルームだ。
以前は頻繁にここでお茶会を催していたが、最近ではもっぱら第二会場になっていた。しかしそれもまた挽回されるかもしれない。
レイラはあの日以来、レイラパピヨンの店から足が遠退いている。
…またあの侵入者とはち合わせたりしたら、なんて恐ろしい。
「本当にお菓子まで青い…」
「よくこんな色が出るよなぁ」
「ええ。芸術作品みたい。ね、マリー?」
「お嬢様のアイディアは素晴らしいですから」
マリーはロイドの言葉を一刀両断する。
なんだか一部でギスギスしているけれど、レイラはにこにこと彼らの反応を眺めていた。
…別のなにかに夢中になっていないと、あの日の記憶が甦ってくる。驚愕に屈辱、それから恐怖。
ひとりでいたら叫び出したくなる。
「レイラ嬢、自分までお招きいただいてありがとうございます」
「イリスの婚約者だもの、当然よ。それよりとても素敵なタイね」
レイラはバタフライピーをつかったお茶会を開くにあたり、ドレスコードを『青』に指定した。
青いドレスや青いシャツ、青いアクセサリーなど、各々青色のアイテムを身に付けている。
マルセルももちろん、青いシャツに青いアスコットタイという、なかなか洒落た『青』を身につけていた。衛兵団の制服のときとはまた印象が違う。
「レイラ嬢のお茶会に招いていただいたのですから、恥ずかしい格好はできません…」
「あら」
マルセルがもじもじと照れながら言うので、レイラは思わず頬を押さえた。
―――いやだ、なんてかわいらしい。
マルセルは一度懐に入ってしまうと、まるで大きなわんこのようだった。
年上だし、軍人になるべくよく鍛えられた大きな体躯をしているのに、なんだか撫で繰り回して棒切れでも投げたくなる。
以前の眠そうな顔で王子の後ろに控えていたときだって、ご主人様以外には愛想を振り向かないようよく躾けられていたのかもしれない。
これなら安心してイリスを任せることができる。
「うふふ。楽しみにしてくれたならうれしいわ」
レイラは大きなわんこに、いやマルセルに、青いおやつをひとつ手渡した。いい子にはご褒美よ。
「それであの、マルセル様、ちょっと聞きたいことがあるのですけど…」
「なんですか?」
マルセルは口をもぐもぐさせながら耳を傾ける。
「いや、マルセル様がはじめて店を訪れたあの日、あなたの他にも衛兵団の方が残っていたのかしら?」
「え?いや、自分が連れてきた者はレイラ嬢がすべて帰してしまいましたけど…」
「そ、そうよね?」
「???」
マルセルは口をもぐもぐさせながら、思案するレイラに首を傾げた。
***
イリスはなにやらレイラと話をしているマルセルを、離れたところからじっと見つめていた。
マルセルは現将軍の嫡男で、アドリアン王子とも親交が厚く、宰相の息子であるルチアーノと並んで王子の未来の側近候補だ。
イリスの指輪を見てその背景を覚るほどには知識も洞察力も優れている。
けれどイリスはそんな政治的な理由でマルセルを婚約者にしたわけではなかった。
―――前から思っていたけれど、大きな背中。あの漲る筋肉が堪らないの。
単純にマルセルはイリスの好みのタイプなのだ。筋肉フェチである。
軍人らしく無骨な彼は、華やかではないが男らしくすっきりと整った顔立ちをしていて好ましい。性格も真面目で忠誠心があり、いざ味方になれば裏切ることはないだろう。…けれど。
レイラと話していたマルセルが、お菓子の乗ったトレーを持ってイリスの元へとやってくる。
「あの、イリス殿下」
―――ほら、これだ。
イリスはにこりと笑う。
「マルセル様。何度も言いますが、殿下なんて呼ばないでくださいませ」
「だが…」
「あら、それはなんですか?」
イリスは意図的に話を逸らす。
マルセルの持ってきた白いトレーには青い宝石のようなお菓子が乗っていた。
「琥珀糖というそうだ」
「へえ、きれいですね。ほんとに宝石みたい」
イリスはひとつ摘まみあげて、マルセルに微笑みかける。
マルセルはうろうろと視線を右に左に泳がせ、助けを求めるようにレイラを振り返った。
イリスは青い琥珀糖を一口噛る。じゃり、と大粒の砂糖が音を立てた。
「……甘い」
「イリス殿…、姫?」
「なんでもないわ」
イリスはたしかに隣国の王族の傍系で、その身分を盾にマルセルと婚約を結んだ。それもロッソ家側に断る隙も与えないほど、性急に。
イリスにとってはメリットしかない婚約だけど、マルセルにとってはどうだろう。
それを考えると憂鬱になる。
それに王族といえど、父は亡命した身だ。
ややこしくなるだけなのだからあまり恭しく接してほしくない。ただの令嬢として扱ってほしいのに。
―――でも、身分を笠に強引な婚約を結んだのだから、多くを求めてはいけないわね…。
マルセルを見上げても、彼は視線を落としていて目が合わない。マルセルが見つめるのはイリスの魅惑の谷間だ。
やれやれ、と肩を竦める。
「イリス姫?」
「お茶をいただくわ。それから姫もやめてほしいの」
こちらを気にするレイラに笑顔で手を振ってテーブルへと戻る。イリスの好みもすっかり熟知しているマリーが、苦笑いで濃い紅茶を渡してくれる。
イリスは口の中の甘さを紅茶で流して、一息ついた。
残されたマルセルはうろうろと狼狽えて、そしてレイラの元へ戻って行く。
―――たしかにレイラは素敵だけど、あの子の気持ちはなんだかんだルチアーノ様にしかないんだから。懸想しても無駄なのよ、マルセル様。
イリスの瞳がきつく絞られる。
だからあなたは、わたしだけを見ていればいいわ。
トマ、ロイド、マリーに、エマ、イリス、リーサ、そしてマルセルだ。
マルセルはイリスの婚約者になると同時に、無事にゆめかわお茶会の正規メンバーに迎え入れられた。レイラの独断であり、本人も預かり知らぬことだが。
「バタフライピーっていうのよ」
「わあ、ほんとに青い!」
「ふしぎねえ」
「ゆめかわいいって意味がわかるわ」
「えっ、リーサ嬢ほんとに?」
「なによトマ様」
リーサはちらりとトマを横目で見遣る。
場所はモンタールド侯爵邸のサンルームだ。
以前は頻繁にここでお茶会を催していたが、最近ではもっぱら第二会場になっていた。しかしそれもまた挽回されるかもしれない。
レイラはあの日以来、レイラパピヨンの店から足が遠退いている。
…またあの侵入者とはち合わせたりしたら、なんて恐ろしい。
「本当にお菓子まで青い…」
「よくこんな色が出るよなぁ」
「ええ。芸術作品みたい。ね、マリー?」
「お嬢様のアイディアは素晴らしいですから」
マリーはロイドの言葉を一刀両断する。
なんだか一部でギスギスしているけれど、レイラはにこにこと彼らの反応を眺めていた。
…別のなにかに夢中になっていないと、あの日の記憶が甦ってくる。驚愕に屈辱、それから恐怖。
ひとりでいたら叫び出したくなる。
「レイラ嬢、自分までお招きいただいてありがとうございます」
「イリスの婚約者だもの、当然よ。それよりとても素敵なタイね」
レイラはバタフライピーをつかったお茶会を開くにあたり、ドレスコードを『青』に指定した。
青いドレスや青いシャツ、青いアクセサリーなど、各々青色のアイテムを身に付けている。
マルセルももちろん、青いシャツに青いアスコットタイという、なかなか洒落た『青』を身につけていた。衛兵団の制服のときとはまた印象が違う。
「レイラ嬢のお茶会に招いていただいたのですから、恥ずかしい格好はできません…」
「あら」
マルセルがもじもじと照れながら言うので、レイラは思わず頬を押さえた。
―――いやだ、なんてかわいらしい。
マルセルは一度懐に入ってしまうと、まるで大きなわんこのようだった。
年上だし、軍人になるべくよく鍛えられた大きな体躯をしているのに、なんだか撫で繰り回して棒切れでも投げたくなる。
以前の眠そうな顔で王子の後ろに控えていたときだって、ご主人様以外には愛想を振り向かないようよく躾けられていたのかもしれない。
これなら安心してイリスを任せることができる。
「うふふ。楽しみにしてくれたならうれしいわ」
レイラは大きなわんこに、いやマルセルに、青いおやつをひとつ手渡した。いい子にはご褒美よ。
「それであの、マルセル様、ちょっと聞きたいことがあるのですけど…」
「なんですか?」
マルセルは口をもぐもぐさせながら耳を傾ける。
「いや、マルセル様がはじめて店を訪れたあの日、あなたの他にも衛兵団の方が残っていたのかしら?」
「え?いや、自分が連れてきた者はレイラ嬢がすべて帰してしまいましたけど…」
「そ、そうよね?」
「???」
マルセルは口をもぐもぐさせながら、思案するレイラに首を傾げた。
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イリスはなにやらレイラと話をしているマルセルを、離れたところからじっと見つめていた。
マルセルは現将軍の嫡男で、アドリアン王子とも親交が厚く、宰相の息子であるルチアーノと並んで王子の未来の側近候補だ。
イリスの指輪を見てその背景を覚るほどには知識も洞察力も優れている。
けれどイリスはそんな政治的な理由でマルセルを婚約者にしたわけではなかった。
―――前から思っていたけれど、大きな背中。あの漲る筋肉が堪らないの。
単純にマルセルはイリスの好みのタイプなのだ。筋肉フェチである。
軍人らしく無骨な彼は、華やかではないが男らしくすっきりと整った顔立ちをしていて好ましい。性格も真面目で忠誠心があり、いざ味方になれば裏切ることはないだろう。…けれど。
レイラと話していたマルセルが、お菓子の乗ったトレーを持ってイリスの元へとやってくる。
「あの、イリス殿下」
―――ほら、これだ。
イリスはにこりと笑う。
「マルセル様。何度も言いますが、殿下なんて呼ばないでくださいませ」
「だが…」
「あら、それはなんですか?」
イリスは意図的に話を逸らす。
マルセルの持ってきた白いトレーには青い宝石のようなお菓子が乗っていた。
「琥珀糖というそうだ」
「へえ、きれいですね。ほんとに宝石みたい」
イリスはひとつ摘まみあげて、マルセルに微笑みかける。
マルセルはうろうろと視線を右に左に泳がせ、助けを求めるようにレイラを振り返った。
イリスは青い琥珀糖を一口噛る。じゃり、と大粒の砂糖が音を立てた。
「……甘い」
「イリス殿…、姫?」
「なんでもないわ」
イリスはたしかに隣国の王族の傍系で、その身分を盾にマルセルと婚約を結んだ。それもロッソ家側に断る隙も与えないほど、性急に。
イリスにとってはメリットしかない婚約だけど、マルセルにとってはどうだろう。
それを考えると憂鬱になる。
それに王族といえど、父は亡命した身だ。
ややこしくなるだけなのだからあまり恭しく接してほしくない。ただの令嬢として扱ってほしいのに。
―――でも、身分を笠に強引な婚約を結んだのだから、多くを求めてはいけないわね…。
マルセルを見上げても、彼は視線を落としていて目が合わない。マルセルが見つめるのはイリスの魅惑の谷間だ。
やれやれ、と肩を竦める。
「イリス姫?」
「お茶をいただくわ。それから姫もやめてほしいの」
こちらを気にするレイラに笑顔で手を振ってテーブルへと戻る。イリスの好みもすっかり熟知しているマリーが、苦笑いで濃い紅茶を渡してくれる。
イリスは口の中の甘さを紅茶で流して、一息ついた。
残されたマルセルはうろうろと狼狽えて、そしてレイラの元へ戻って行く。
―――たしかにレイラは素敵だけど、あの子の気持ちはなんだかんだルチアーノ様にしかないんだから。懸想しても無駄なのよ、マルセル様。
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