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◇◇◇
50 糾弾
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「解雇?一方的に?まったくひどい話ね」
「ええ。格式高いモンタールド家からこのような仕打ちを受けるなど…」
「あの令嬢は非常識極まりない。だからあのような奇抜な…」
「デル・テスタ家の特殊技術を我々に求められても無理があります。せめて相応の時間と報酬をいただかないと…!」
「あなた方を見過ごしてなんていられないわ。だってわたくしもね、侯爵様にはひどい仕打ちを…」
「なんと…!そうだったんですね。侯爵め、さすが悪魔と呼ばれるだけある!!」
「クロフォード家に手を差し伸べていただけて我々は僥倖です」
興奮して盛り上がる場に、赤い唇が満足そうに笑う。
貴族のように美しく整えられた指先が艶やかな黒髪を耳にかける。色っぽい仕草だ。
「まあまあ、皆様落ち着いてくださいまし。あのレイラ嬢があなた方にどんなドレスを発注したのか、よく聞かせてほしいのよ」
***
「ロイド、あなた一週間って言ってなかった?」
モンタールド侯爵家の馬車の中で、レイラがロイドに問いかける。
「そうなんだけど、あとすこしだけって。バカンスから帰ってきた先生が今度は腰を痛めたらしいわ」
「まったくなにをしているのかしら」
「ねえ」
それで、とロイドが言う。
「新しいお針子たちの初仕事が届いたのよ」
「まあ、どうかしら?」
「素晴らしい出来よ。うまく分担してくれたから仕上がりも早いわ」
「さすがね!…あのいけすかない商人を褒めるのは躊躇われるけど」
「あら。トマ様からはいい男だと聞いているわよ?でも彼を誉めるのが嫌なら、職人たちを誉めればいいのよ」
「そうよね!」
中央学園の前に馬車が停まり、ロイドが先に降りる。ざわりと空気が揺れてロイドは眉を顰めた。
「ロイド、どうしたの?」
「いや、お嬢様…」
同じ馬車からレイラが顔を出した途端、先程とは比べ物にならないざわめきが広がる。
「まあ、一体なにかしら」
首を捻りながらもレイラはロイドに片手を差し出す。
それは無意識ゆえだったのか、それとも自分達の注目など意に介さぬというアピールだったのか。ロイドはレイラの真意がわからぬまま、求められるままに優雅な仕草でエスコートする。
「なにかあったみたいね」
「そうね」
レイラはロイドを見上げて、ちょっとまずかったかもしれない、と思った。
心ない噂では、ロイドはレイラの愛人だと揶揄されている。それにロイドはいま学園の講師だし、レイラは生徒だ。あらぬ想像で疑われかねない。
実際はパピヨンに寄り付かなくなったレイラにロイドが店の打ち合わせを持ちかけただけで、行き先は同じだし、では学園へ行く馬車の中で、とレイラが応じたまで。深い意味などなかったのだが。
―――まあ見られてしまったものは仕方ない。
レイラはロイドと別れて、カフェテリアへ向かう。お茶を飲みながらエマたちと落ち合うのが恒例だった。
そこでレイラは先程よりもっとあからさまな空気を感じた。
「…なにこのアウェー感」
突き刺さる不躾な視線に顔を顰める。
それでもレイラは躊躇わず、貴族の誇りと矜持でもって堂々と足を踏み入れた。
「あら、レイラ・モンタールド嬢」
かつん、とヒールを鳴らして前に出てきたのは、いつかの年上の御令嬢だった。
取り巻きを引き連れて扇子で口許を隠し、レイラを侮蔑の視線で見下ろす。
「わたくし、あなたのブランドのドレスを持ってなくてよかったわ。あんな恐ろしい話を聞いてしまったら、ねぇ?」
彼女は取り巻きたちと視線を交わしクスクスと笑う。
不愉快極まりなかったが、もっとレイラを不安にさせたのは、カフェテリアにいる他の生徒も同じように軽蔑の目を向けてくることだった。
「あんなって、何?なんのこと?」
「やあねぇ、とぼけないでちょうだい。もうみんな知ってるのよ?あなたに楯突いた腹いせに伯爵家を没落させたんでしょう?さすが悪魔と呼ばれるモンタールド侯爵の娘ね!」
「な…っ!!?」
レイラは驚いた。
なんでそのことを――ではない。
「…な、なにをいまさら…?」
父の別称はもはや周知の事実である。
むしろ有能ゆえに『微笑みの』とかオブラートがかけられているが、身内からすれば間違いなくただの悪魔だ。むしろ愉快犯か。
それに伯爵位の没収といえば、ブノワトのことだろう。あれだって何年前のことだと思ってるんだ。いまさら感半端ない。
「え、ええー…?」
ダメージを与えるどころか、レイラにどん引きされて、ご令嬢は「きーっ!」と地団駄を踏んだ。
「なによなによ!事実なんでしょ!」
「ええ、本当のことですけれど…」
そしてレイラは憂い顔。
「それに…そうですか。先輩はもうパピヨンのドレスは必要ないんですね。せっかく生産体制が整って新しい注文をお受けできるところでしたのに…。まあ、お待たせしている方は他にもおりますし、別の方にお声掛けしましょう」
「~~~っ!!?」
「他の方たちも、よろしいでしょうか?」
レイラが美しく小首を傾げると、あちらこちらから声にならない悲鳴が上がる。
「なによ!私だって本当はほしいわー!!」
先輩令嬢の悲鳴が迸り、「はははっ!」と快活な笑い声が響いた。
「私たちの出番もなかったね。さすがレイラ」
「アドリアン殿下!」
カフェテラスに現れたのはアドリアンと、それからルチアーノだった。
「またレイラの噂が流れていたから、ルチアーノを引っ張ってきたよ」
アドリアンはレイラに向けてぱちりと片目を瞑る。
「伯爵の件は、きっかけはモンタールド家だったかもしれないが、王宮の了承もきちんと得ているからね。レイラを非難するなら、それは国王に楯突いていると同義だと心得るように」
そしてにっこりといつもの笑顔で恐ろしいことを宣言する。
…なんかこの人、お父様に似ている気がする。
レイラはがっくりと肩を落とした。
「ええ。格式高いモンタールド家からこのような仕打ちを受けるなど…」
「あの令嬢は非常識極まりない。だからあのような奇抜な…」
「デル・テスタ家の特殊技術を我々に求められても無理があります。せめて相応の時間と報酬をいただかないと…!」
「あなた方を見過ごしてなんていられないわ。だってわたくしもね、侯爵様にはひどい仕打ちを…」
「なんと…!そうだったんですね。侯爵め、さすが悪魔と呼ばれるだけある!!」
「クロフォード家に手を差し伸べていただけて我々は僥倖です」
興奮して盛り上がる場に、赤い唇が満足そうに笑う。
貴族のように美しく整えられた指先が艶やかな黒髪を耳にかける。色っぽい仕草だ。
「まあまあ、皆様落ち着いてくださいまし。あのレイラ嬢があなた方にどんなドレスを発注したのか、よく聞かせてほしいのよ」
***
「ロイド、あなた一週間って言ってなかった?」
モンタールド侯爵家の馬車の中で、レイラがロイドに問いかける。
「そうなんだけど、あとすこしだけって。バカンスから帰ってきた先生が今度は腰を痛めたらしいわ」
「まったくなにをしているのかしら」
「ねえ」
それで、とロイドが言う。
「新しいお針子たちの初仕事が届いたのよ」
「まあ、どうかしら?」
「素晴らしい出来よ。うまく分担してくれたから仕上がりも早いわ」
「さすがね!…あのいけすかない商人を褒めるのは躊躇われるけど」
「あら。トマ様からはいい男だと聞いているわよ?でも彼を誉めるのが嫌なら、職人たちを誉めればいいのよ」
「そうよね!」
中央学園の前に馬車が停まり、ロイドが先に降りる。ざわりと空気が揺れてロイドは眉を顰めた。
「ロイド、どうしたの?」
「いや、お嬢様…」
同じ馬車からレイラが顔を出した途端、先程とは比べ物にならないざわめきが広がる。
「まあ、一体なにかしら」
首を捻りながらもレイラはロイドに片手を差し出す。
それは無意識ゆえだったのか、それとも自分達の注目など意に介さぬというアピールだったのか。ロイドはレイラの真意がわからぬまま、求められるままに優雅な仕草でエスコートする。
「なにかあったみたいね」
「そうね」
レイラはロイドを見上げて、ちょっとまずかったかもしれない、と思った。
心ない噂では、ロイドはレイラの愛人だと揶揄されている。それにロイドはいま学園の講師だし、レイラは生徒だ。あらぬ想像で疑われかねない。
実際はパピヨンに寄り付かなくなったレイラにロイドが店の打ち合わせを持ちかけただけで、行き先は同じだし、では学園へ行く馬車の中で、とレイラが応じたまで。深い意味などなかったのだが。
―――まあ見られてしまったものは仕方ない。
レイラはロイドと別れて、カフェテリアへ向かう。お茶を飲みながらエマたちと落ち合うのが恒例だった。
そこでレイラは先程よりもっとあからさまな空気を感じた。
「…なにこのアウェー感」
突き刺さる不躾な視線に顔を顰める。
それでもレイラは躊躇わず、貴族の誇りと矜持でもって堂々と足を踏み入れた。
「あら、レイラ・モンタールド嬢」
かつん、とヒールを鳴らして前に出てきたのは、いつかの年上の御令嬢だった。
取り巻きを引き連れて扇子で口許を隠し、レイラを侮蔑の視線で見下ろす。
「わたくし、あなたのブランドのドレスを持ってなくてよかったわ。あんな恐ろしい話を聞いてしまったら、ねぇ?」
彼女は取り巻きたちと視線を交わしクスクスと笑う。
不愉快極まりなかったが、もっとレイラを不安にさせたのは、カフェテリアにいる他の生徒も同じように軽蔑の目を向けてくることだった。
「あんなって、何?なんのこと?」
「やあねぇ、とぼけないでちょうだい。もうみんな知ってるのよ?あなたに楯突いた腹いせに伯爵家を没落させたんでしょう?さすが悪魔と呼ばれるモンタールド侯爵の娘ね!」
「な…っ!!?」
レイラは驚いた。
なんでそのことを――ではない。
「…な、なにをいまさら…?」
父の別称はもはや周知の事実である。
むしろ有能ゆえに『微笑みの』とかオブラートがかけられているが、身内からすれば間違いなくただの悪魔だ。むしろ愉快犯か。
それに伯爵位の没収といえば、ブノワトのことだろう。あれだって何年前のことだと思ってるんだ。いまさら感半端ない。
「え、ええー…?」
ダメージを与えるどころか、レイラにどん引きされて、ご令嬢は「きーっ!」と地団駄を踏んだ。
「なによなによ!事実なんでしょ!」
「ええ、本当のことですけれど…」
そしてレイラは憂い顔。
「それに…そうですか。先輩はもうパピヨンのドレスは必要ないんですね。せっかく生産体制が整って新しい注文をお受けできるところでしたのに…。まあ、お待たせしている方は他にもおりますし、別の方にお声掛けしましょう」
「~~~っ!!?」
「他の方たちも、よろしいでしょうか?」
レイラが美しく小首を傾げると、あちらこちらから声にならない悲鳴が上がる。
「なによ!私だって本当はほしいわー!!」
先輩令嬢の悲鳴が迸り、「はははっ!」と快活な笑い声が響いた。
「私たちの出番もなかったね。さすがレイラ」
「アドリアン殿下!」
カフェテラスに現れたのはアドリアンと、それからルチアーノだった。
「またレイラの噂が流れていたから、ルチアーノを引っ張ってきたよ」
アドリアンはレイラに向けてぱちりと片目を瞑る。
「伯爵の件は、きっかけはモンタールド家だったかもしれないが、王宮の了承もきちんと得ているからね。レイラを非難するなら、それは国王に楯突いていると同義だと心得るように」
そしてにっこりといつもの笑顔で恐ろしいことを宣言する。
…なんかこの人、お父様に似ている気がする。
レイラはがっくりと肩を落とした。
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