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56 アドリアン
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「え、だれ?侵入者?」
「侵入者っていうならルチアーノ様もなんだけど…」
「…………」
「お嬢様!!」
上から順に、エマ、リーサ、イリス、マリーだ。
ルチアーノは怯えるレイラに驚いて、咄嗟に背中に彼女を庇う。
「おい、どういうつもりだ?」
そして続いた言葉にレイラは耳を疑った。
「なんでここにいる?アドリアン」
「え…?」
―――アドリアンって、アドリアン王子殿下!!?
彼の髪は空色だ。けれどいま目の前にいる人物は紺色の髪だし、髪型も違う。
「殿下!!」
レイラがぐるぐる目を回す横で、マルセルまで駆けつけてくる。
「うわあマルセルなにその格好!?似合ってるな、おい」
「いや、その、レイラ嬢に仕立てていただいて…」
イリス嬢とお揃いなんです、とか照れている。
ごめんマルセル様。殴りたい。
「ちょっと、どういうことですの?殿下は空色の髪でしょう?」
「でもあなた髪の色が違うじゃない、本当に殿下なの?」
リーサとエマが問いかけながら近づいてくる。
「うわあ!二人とも色っぽいね!すごい似合ってる!」
「レイラの見立てですもの」
当然よ、と胸を張るエマ。ああん大好き!
「アドリアン殿下ってあんな軟派な性格だったかしら?」
「うーん、その片鱗はありましたけどね……」
ロイドとトマがひそひそと話している。
そうよね、なんか性格が違うわ。
「そう言われても、これが本当のオレなんだよね」
アドリアン殿下と呼ばれたその男が、にっと口角をあげる。でも…。
「そんなことより」
「!!」
レイラの視界がルチアーノの背中で塞がれた。
「おまえ、レイラに、なにをした?」
ルチアーノはぐいぐい詰め寄る。
「ちょ、ルチアーノ!?瞳孔開いてるよ!」
「レイラがこんなに怯えるなんて、なにかあったに決まってるんだ!」
「!」
そのとき、レイラは心の中で大きく開眼した。
―――ああ、なんだ。
途端にレイラの胸に安心感が広がる。
ルチアーノ様はきちんとわたくしを見てくれていた。なんだ。
レイラはつんつんとルチアーノの肘の辺りを引く。
「レ、レイラ……っ」
「この人、パピヨンのお店に不法侵入してきたの。わたくしがひとりのときに、天窓から飛び降りてきて、押し倒されて…」
「「「はあっ!!?」」」
全員の視線が一斉に突き刺さる。
「おまっ、な、はああっ!?」
「レイラが怯えてたのはあんたの仕業か!」
「殿下、それはちょっと……」
「うわぁ、引くわ…」
順にルチアーノ、トマ、マルセル、ロイド。
「信じられない…」
「獣の所業ね」
「ばーか」
「お嬢様の敵は王子殿下でも許すまじ…!!」
リーサ、エマ、イリス、マリーの言葉。
「ほう、なるほどね…」
けれどラスボスは別にいた。
一気に周囲が氷点下まで下がって、全員ぶるりと背筋を戦慄かせる。
「不審者っておまえか、小僧…!!」
「いだだだだだ!」
父であるモンタールド侯爵が超人的な握力でアイアンクローを決める。
「離せ侯爵!オレは王子だぞ!!」
「知るか!国ごと乗っ取ってやろうか!?」
「ぎゃああああああ!」
「悪魔の所業ね…」
誰かの呟きに頷いて答える。
呆然と断末魔の叫びを聞いていると、とんとんと肩を叩かれた。
「レイラちゃん」
「お母様」
「怖い思いをしたのならどうしてきちんと話してくれなかったの?」
「…だって、あの日も衛兵団の制服を着ていたんですもの。話しても無駄って思ってしまって」
「まあ」
「彼がアドリアン王子だというのなら、やっぱり無駄なことだったでしょうし…」
「レイラちゃん…」
レイラの言葉に、ルチアーノも悲しげに眉を下げる。
「ルチアーノさん」
そんな彼に向かって母は声をかけた。
名前を呼ばれて顔を上げたルチアーノは、目が合うなりびくっと背筋を震わせる。
「ねえ…?あなた、わかってるわよね…?」
「は、はい…!」
「ふふ、期待してるわ」
多くを言わず視線で語る女。
それがモンタールド侯爵夫人だ。悪魔の番は悪魔なのである。
紺色の髪の自称王子様は、後ろ手に縛られて椅子に座らされていた。
「なんでこんな目に…」
ぶつぶつ文句を言う彼に、父ははあとため息をつく。
「残念だけど、彼はたしかにアドリアン王子だよ」
「ええっ!」
父にも認められてしまえば、もう疑いようがない。
「でも、髪色が…?」
「これだって空色の髪だよ。夜空の色」
口が減らないわね、とレイラは呆れる。
けれど国王陛下は藍色の髪だったから、血統的にはこれが正しい色なのかもしれない。
「王家に伝わる秘伝の薬があってね、それで髪の色を変えられるんだ」
「えっ、なにその秘伝のスープみたいな薬!ラーメンみたい」
「ラーメン?なんだそれ!」
はははっ!と夜色のアドリアンが楽しそうに笑う。
その笑い方が学園でよく聞いていたものと同じで、レイラはちょっと胸が痛かった。
「無色透明の、水と見紛うような薬だよ。歴代の王族はお忍びのときに使ってたらしいけど、オレは公務の度に使ってたんだよね。貴重な薬らしくて、おかげで公式な場にはあまりでなくてよくて助かったな!」
「アドリアン殿下って、なんだか…」
「クズだろ?昔からそうなんだ、あいつは」
ルチアーノの言葉に頷きながら、レイラは自身の髪を一房手に取る。
そんな薬があるのなら、このラズベリー色の髪も…。
「使ってみたい?試してみないとどんな色になるかわからないんだ。でもそのためには王家の一員にならないとね?」
「え……」
「アドリアン!」
ぱちんとウインクされて、ルチアーノの怒声が響く。
「なんでよ。ルチアーノとの婚約が破棄されたなら、サルヴァティーニ公爵家以上の家柄じゃないとレイラの経歴に傷がつくよ。そうなったら、あとはガルディーニ王家しかないじゃないか。つまりオレのところだ」
「しない!婚約破棄は、しない!!」
レイラははっとルチアーノを見上げる。
ルチアーノはぎりぎりとアドリアンを睨みつけていた。悔しそうに、歯を食いしばって、昂った感情に目を潤ませて。
ばかね、とレイラはすこし微笑う。
「ルチアーノ様」
「…っ!?」
きつく握り締められたルチアーノの手に触れると驚いた視線が降ってきた。
「そうね。婚約破棄は、しないわね」
「っ、レイラ!!」
感極まったルチアーノがぎゅうっときつく抱きついてくる。
あの頃より大きくなってしまった背中に腕を回して、レイラはふふと笑った。
「侵入者っていうならルチアーノ様もなんだけど…」
「…………」
「お嬢様!!」
上から順に、エマ、リーサ、イリス、マリーだ。
ルチアーノは怯えるレイラに驚いて、咄嗟に背中に彼女を庇う。
「おい、どういうつもりだ?」
そして続いた言葉にレイラは耳を疑った。
「なんでここにいる?アドリアン」
「え…?」
―――アドリアンって、アドリアン王子殿下!!?
彼の髪は空色だ。けれどいま目の前にいる人物は紺色の髪だし、髪型も違う。
「殿下!!」
レイラがぐるぐる目を回す横で、マルセルまで駆けつけてくる。
「うわあマルセルなにその格好!?似合ってるな、おい」
「いや、その、レイラ嬢に仕立てていただいて…」
イリス嬢とお揃いなんです、とか照れている。
ごめんマルセル様。殴りたい。
「ちょっと、どういうことですの?殿下は空色の髪でしょう?」
「でもあなた髪の色が違うじゃない、本当に殿下なの?」
リーサとエマが問いかけながら近づいてくる。
「うわあ!二人とも色っぽいね!すごい似合ってる!」
「レイラの見立てですもの」
当然よ、と胸を張るエマ。ああん大好き!
「アドリアン殿下ってあんな軟派な性格だったかしら?」
「うーん、その片鱗はありましたけどね……」
ロイドとトマがひそひそと話している。
そうよね、なんか性格が違うわ。
「そう言われても、これが本当のオレなんだよね」
アドリアン殿下と呼ばれたその男が、にっと口角をあげる。でも…。
「そんなことより」
「!!」
レイラの視界がルチアーノの背中で塞がれた。
「おまえ、レイラに、なにをした?」
ルチアーノはぐいぐい詰め寄る。
「ちょ、ルチアーノ!?瞳孔開いてるよ!」
「レイラがこんなに怯えるなんて、なにかあったに決まってるんだ!」
「!」
そのとき、レイラは心の中で大きく開眼した。
―――ああ、なんだ。
途端にレイラの胸に安心感が広がる。
ルチアーノ様はきちんとわたくしを見てくれていた。なんだ。
レイラはつんつんとルチアーノの肘の辺りを引く。
「レ、レイラ……っ」
「この人、パピヨンのお店に不法侵入してきたの。わたくしがひとりのときに、天窓から飛び降りてきて、押し倒されて…」
「「「はあっ!!?」」」
全員の視線が一斉に突き刺さる。
「おまっ、な、はああっ!?」
「レイラが怯えてたのはあんたの仕業か!」
「殿下、それはちょっと……」
「うわぁ、引くわ…」
順にルチアーノ、トマ、マルセル、ロイド。
「信じられない…」
「獣の所業ね」
「ばーか」
「お嬢様の敵は王子殿下でも許すまじ…!!」
リーサ、エマ、イリス、マリーの言葉。
「ほう、なるほどね…」
けれどラスボスは別にいた。
一気に周囲が氷点下まで下がって、全員ぶるりと背筋を戦慄かせる。
「不審者っておまえか、小僧…!!」
「いだだだだだ!」
父であるモンタールド侯爵が超人的な握力でアイアンクローを決める。
「離せ侯爵!オレは王子だぞ!!」
「知るか!国ごと乗っ取ってやろうか!?」
「ぎゃああああああ!」
「悪魔の所業ね…」
誰かの呟きに頷いて答える。
呆然と断末魔の叫びを聞いていると、とんとんと肩を叩かれた。
「レイラちゃん」
「お母様」
「怖い思いをしたのならどうしてきちんと話してくれなかったの?」
「…だって、あの日も衛兵団の制服を着ていたんですもの。話しても無駄って思ってしまって」
「まあ」
「彼がアドリアン王子だというのなら、やっぱり無駄なことだったでしょうし…」
「レイラちゃん…」
レイラの言葉に、ルチアーノも悲しげに眉を下げる。
「ルチアーノさん」
そんな彼に向かって母は声をかけた。
名前を呼ばれて顔を上げたルチアーノは、目が合うなりびくっと背筋を震わせる。
「ねえ…?あなた、わかってるわよね…?」
「は、はい…!」
「ふふ、期待してるわ」
多くを言わず視線で語る女。
それがモンタールド侯爵夫人だ。悪魔の番は悪魔なのである。
紺色の髪の自称王子様は、後ろ手に縛られて椅子に座らされていた。
「なんでこんな目に…」
ぶつぶつ文句を言う彼に、父ははあとため息をつく。
「残念だけど、彼はたしかにアドリアン王子だよ」
「ええっ!」
父にも認められてしまえば、もう疑いようがない。
「でも、髪色が…?」
「これだって空色の髪だよ。夜空の色」
口が減らないわね、とレイラは呆れる。
けれど国王陛下は藍色の髪だったから、血統的にはこれが正しい色なのかもしれない。
「王家に伝わる秘伝の薬があってね、それで髪の色を変えられるんだ」
「えっ、なにその秘伝のスープみたいな薬!ラーメンみたい」
「ラーメン?なんだそれ!」
はははっ!と夜色のアドリアンが楽しそうに笑う。
その笑い方が学園でよく聞いていたものと同じで、レイラはちょっと胸が痛かった。
「無色透明の、水と見紛うような薬だよ。歴代の王族はお忍びのときに使ってたらしいけど、オレは公務の度に使ってたんだよね。貴重な薬らしくて、おかげで公式な場にはあまりでなくてよくて助かったな!」
「アドリアン殿下って、なんだか…」
「クズだろ?昔からそうなんだ、あいつは」
ルチアーノの言葉に頷きながら、レイラは自身の髪を一房手に取る。
そんな薬があるのなら、このラズベリー色の髪も…。
「使ってみたい?試してみないとどんな色になるかわからないんだ。でもそのためには王家の一員にならないとね?」
「え……」
「アドリアン!」
ぱちんとウインクされて、ルチアーノの怒声が響く。
「なんでよ。ルチアーノとの婚約が破棄されたなら、サルヴァティーニ公爵家以上の家柄じゃないとレイラの経歴に傷がつくよ。そうなったら、あとはガルディーニ王家しかないじゃないか。つまりオレのところだ」
「しない!婚約破棄は、しない!!」
レイラははっとルチアーノを見上げる。
ルチアーノはぎりぎりとアドリアンを睨みつけていた。悔しそうに、歯を食いしばって、昂った感情に目を潤ませて。
ばかね、とレイラはすこし微笑う。
「ルチアーノ様」
「…っ!?」
きつく握り締められたルチアーノの手に触れると驚いた視線が降ってきた。
「そうね。婚約破棄は、しないわね」
「っ、レイラ!!」
感極まったルチアーノがぎゅうっときつく抱きついてくる。
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